俺の名は。   作:a0o

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少々、強引な展開が在ります。




夢に在らず

 一方、糸守高校で手入れもしていないボサボサの髪を垂らしながら瀧(三葉)は机に突っ伏してした。

 

(なんか面倒な事になってなきゃいいけど、そもそも何でこんな事に?)

 

 一応の知り合いである流はこの現象は今日一日で、明日説明すると言っていたが状況がまるで整理できず、その不機嫌な状態は周りまで伝わり見えない壁が形成されていた。

そんな中で後ろから突かれる感覚に顔を上げて立ち上がると古典の女教師が心配そうな目でクラスメイト達がおかしな目で見ていることに今更ながらに気付く。

 

「あ~、えっと」

 

「宮水さん、さっきからずっと呼んでるのに返事しなくて・・・自分の名前が聞こえないほどの悩みが――――」

 

「いえ、単に・・・夢見が悪くて・・・・」

 

 流の機転もあり教室に入るまでは問題なかったが、知らない場所、知らない人々、訳の分からない状況に言い訳するまでも無く憔悴気味になり、いっそこのまま早退を考えたが現実は甘くなかった。

 

「そう、まぁ悩める年頃だし、顔色も其処まで悪くは無い。学校に来た以上は学生の本分を全うしなさい」

 

 言っている事は妥当なものだが、何かしら配慮を感じさせるニュアンスにクラスに一部ではクスクスと笑い声が聞こえ机を蹴り飛ばしたくもなったが、現状は精神的疲労が上回っており大人しく席に着いた。

 

(あ~、なんで俺がこんな目に~~~)

 

 

 ***

 

 

「ハハハハハ、そうか、奥寺の事で男の嫉妬に―――――」

 

 流は運転しながら三葉から昼の顛末を聞いて笑みを浮かべ、当然ながら三葉は膨れながら噛み付く。

 

「笑い事じゃないですよ。そもそも知り合いなら、その辺も教えといて下さいよ」

 

「知り合いには違いないけど強いて言えばって程度だよ。去年、バイト探していたから講義で何度か一緒だった美人の知り合いのバイト先を教えてあげた、只それだけの関係、付き合いって呼べるほどの物は無い」

 

「でも・・・その奥寺さん・・?の話題になった時、凄い勢いで―――――」

 

「ああ、朝の通話で言ってたことも含めて、バイト先ではアイドルやマドンナみたいな扱いなのかな?まぁ、美人だし意外でもないけど」

 

 笑い顔のまま話を続ける流に三葉は面白くない視線を向けるも、その目は直ぐに窓の外に映る東京の景色に奪われて胸を打たれていた。

 

「うわぁ~」

 

 感嘆極まると言った呟きに益々笑みを深めるもゆっくりする訳には行かずに最短ルートでバイト先のレストランに行き、短すぎるドライブに三葉は名残惜しそうに車から降りる。

 

「おや~、珍しい組み合わせだね」

 

 その直後に掛けられた声に振り向くと、緩いウェーブの掛かった長い髪に艶やかなグロスな唇のスタイル抜群の女性が居た。

 

「久しぶりだな、奥寺」

 

「ええ、若茶くん全然大学に来ないから、気になってたけど・・・瀧くんと知り合いなの?」

 

 困惑する三葉を隠すように透かさず流が受け答え、奥寺は近づきながら問いを続ける。

 

「同じマンションに住んでるんだ。此処のバイトも俺が教えてやったんだぞ・・・美人が働いてるって言ったら二つ返事で飛び付いて」

 

「ちょ、ちょっとわわわ、若茶さん!」

 

「へぇー、そうだったんだ~」

 

 面白そうな意地の悪い顔をしながら三葉(瀧)を見る奥寺に困惑が増していき、流に抗議しようとするが、その前に小声で〝これで挙動不審で仕事に支障が出ても誤魔化せるぞ〟と呟かれる。

 

「~~~~」

 

「お~い、早くしないと時間過ぎちゃうよ」

 

 流の嫌な意味で計算された行動に言葉を封じられ、奥寺に連れられながら従業員用の勝手口から店に入って行く。

 蝶ネクタイ姿のウェイターの制服に着替え、生まれて始めてのアルバイトに注文や配膳を間違え、怒鳴られ、右往左往していると今度はチンピラ二人からクレームを付けられ萎縮する。

 

「どうすんのかって訊いてるんだけど!?」

 

 膝でテーブルを蹴り上げ怒鳴る様に店中が静まり返り、三葉も固まる。

 

「お客様、どうかなさいました?」

 

 奥寺がフォローに入り、他のスタッフに連れられ場を離されながらも視線を向けると、奥寺がチンピラに頭を下げており、店は元に戻っていく――――かに見えた。

 

「イテッ!」

 

 奥寺は何とか取り成し離れようとしたときチンピラの一人が右手を押えて呻いており、床にはカッターナイフが落ちており近くには若茶流の姿があり、チンピラは睨みつけて再び怒鳴る。

 

「何しやがる!」

 

 しかし流は涼しい顔でカッターを拾い、ぶっきら棒に言う。

 

「今のは傷害未遂に当たる行為だな、女性である事を考慮すると猥褻罪もあるいは・・・」

 

「ふざけんな!!」

 

 流の態度のチンピラは襟首を掴み上げる。

 

「今度は暴行罪、そしてさっきからの怒鳴り声は営業妨害になるな・・・・ここはやはり警察に」

 

「粋がるなガキが!!!」

 

 チンピラが更に詰め寄るが流は動じずに指でストラップを回している。

 

「更には恫喝と侮辱罪・・・慰謝料は幾らになるかな・・・」

 

「~~~~~!!」

 

 呻きながらもチンピラは手を放し、もう一人のチンピラが得意そうな声で流に話し掛ける。

 

「おい、兄ちゃん。あんまり調子に乗ってると痛い目見るぞ、今詫びるんだったら――――」

 

「実さっきから言おう言おうと思ってたんだが、おたくら二人に良く無い相が出てる・・・なにかしら()()()()()方がいいぞ」

 

 流のその発言にチンピラ二人は呆気に取られ直後に爆笑する。

 

「「わっはっはははは!!」」

 

 近くに居た奥寺や騒ぎを注目していた客達も呆れた視線を送る。

 

「何かと思えば、似非占い類のたかりか・・・・?!」

 

「つーか、その言い草、マジでガキ・・・・!?」

 

 流を馬鹿にしていたチンピラたちの様子が余所余所しくなり仕切りに周りを見渡す。よく耳を澄ますと遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 

「てめぇ!」

 

「ほら、良くない事が起こったろ」

 

「グググググ!!!」

 

 厚顔な流にチンピラは悪態をつくも、千円札を数枚置き駆け足で出て行った。

 

「キチンと代金を払っていく。結構なことだ」

 

 札を拾い奥寺に差し出す。

 

「ちょっと、何すんのよ!」

 

 警察沙汰になってしまいそうな事態に奥寺は慌てるが、流はポケットからスマフォを取り出しボタンを押すとサイレンの音が消えた。

 

「本物みたいに聞こえただろ。頭に血が上って、やましい事してる輩には尚更効果的目だ」

 

 流の返しに奥寺は手を額に当て言う。

 

「相変わらず技術(テクノロジー)の無駄使いを・・・・なによりあんまり大騒ぎに――――」

 

「スカート切られて、あられもない姿晒す方がよかった?」

 

「―――― それには感謝する。

 お客様方、お騒がせして大変申し訳ありませんでした」

 

 一歩前に出て深く頭を下げる奥寺に客たちは賞賛を送る。

 

「いや、なかなか面白いもん見せて貰えた」

「カッコ良かったよ、彼氏さん!」

「いよ、憎いねヒーロー」

 

 誤解が生じているようだが、いい雰囲気になっているのを壊すのも気が引けるので、奥寺は苦笑し、流は代金を置いて店を去る。

 それを見ていた三葉は流が回していたストラップから緑色の光が灯っていた事が妙に気になったのだが、今度こそ元に戻った店の賑やかさと慌しさに飲まれ仕事に戻って行った。

 

 そうして店じまいになり業務用掃除機を床にかけていた所にテーブルを拭いている奥寺が目に入るも話すタイミングがつかめずに居ると後ろに居た男性従業員に声を掛けられる。

 

「奥寺に彼氏なんて聞いた事ないけど・・・瀧、あの男ってお前の知り合いなんだろ、誰なんだ?」

 

「え・・・あ~、あの人は奥寺さんの――――」

 

「先輩だろうが」

 

 三葉は返答に困り言いよどむと奥寺が近づき割り込むように説明する。

 

「あの人は同じ大学で去年までいくつか講義が一緒だっただけの関係よ、そんなんじゃない。ちなみに私も今日知ったんだけど、瀧くんとは同じマンションなんだって、以上」

 

 そう言って通り過ぎて行く奥寺に男は納得しメニューを揃えて厨房に戻って行く。その直ぐ後で奥寺が振り向き言う。

 

「色んな意味で災難だったね。瀧くん」

 美人に見つめられ思わず頬を染めて目を泳がせ、それに苦笑しながら続ける。

 

「言いがかりを付けて来たのもそうだけど、一歩間違えば本当に警察沙汰だよ。タダにせずに済んだし、助けられたのも確かだけど」

 

「もしかして・・・前にもこんな事が?」

 

「映画や小説が好きな連中とのコンパで、泣ける話で盛り上がった時にリアリティを無駄に煽るBGMを回して無茶苦茶になったんだって・・・参加してた友達が散々な顔して話してた」

 

「あはははは・・・・」

 

「だからさ、決して正義の味方とか誤解しちゃ駄目だよ。

 今期は論文書くとかで大学の方もサッパリだし、妙な事に関わったりしないように注意してね」

 

(う~ん、もしかしてもう関わってるかも・・・)

 

 返答できずに困惑している姿に奥寺は柔らかく目を細めて、自分の左頬を叩く。

 

「でもま喧嘩っぱやい瀧くんも嫌っては無いみたいだし、何か話せることがあったら聞くよ、悪いことも良い(・・)こともね」

 

 絆創膏の理由を察しながら見た、その笑顔は訳が分からない今日一日の中で最高に尊く思えた。

 

 

 仕事を終え、少し歩くと流が待っていて、三葉は助手席に乗り込み溜息混じりに聞いた。

 

「あの、これってよくできた夢・・・じゃないんですよね?」

 

「紛れもない現実だ。詳しい事は明日、君達が元に戻ってから話す。昼過ぎには糸守に着くから、それと無駄になるかもしれないが、瀧君に朝一で訪ねてるからって分かるところにメモでも残しておいてくれ、渡したいものもあるし」

 

 流は疑念の余地も与えずに話を終わらせようとするが、それには乗らず聞ける範囲での質問に切り替える。

 

「あの時といい今といい・・・もしかして今日一日ずっと私を監視でもしていたんですか?」

 

「そんなストーカーじゃあるまいし、今は閉店時間から計算して来ただけだし、あの時は腹が減ったから、どうせならって行ってみたら出くわしただけ、只の偶然さ」

 

「あの時、ストラップ・・緑色に光ってましたけど、あれは?」

 

 その質問に流は目を開き、驚きながらも嬉しそうに言う。

 

「そうか。君には見えたのか・・・ふふふ・・まぁ、考えてみれば不思議じゃないな」

 

「え、えっと・・・」

 

「ああ、ゴメンゴメン。それも明日一緒に話すよ、まぁ、疲れただろ、今はゆっくり休みな」

 

 流の話の打ち切りに三葉は釈然としない気持ちで不満になるが、疲れているのも事実なのでその場は従うことにした。マンションに着くまでに見た東京の風景は、今まで知らないものばかりで心をざわめかせる。

 

「いいなぁ、東京生活」

 

 流と別れ、帰宅してベッドに寝そべり静かに呟く。

 

(やっぱりこれは夢だった、なら自分の想像力に驚愕よね)

 

 そんな事を思いながらスマフォの日記を見て、その中に奥寺の写真があったのに微笑みながら、今日一日の事を自分なりに報告しとこうと日記を綴り、最後に流からの伝言を書き添えて、明日の朝に瀧が目を覚ました時の反応を想像しながら目を閉じた。

 

 

 ***

 

 見慣れた部屋で目を覚ました瀧は皺になっている制服とネクタイを凝視し、スマフォから覚えのない長々とした日記を見ており、途中でチャイムの音に顔を上げる。

 

「誰だよ。朝っぱらから?」

 

 不意に目をスマフォに落とすと最後に若茶流が訪ねてくると記されていた。

 

(もっと分かり易いとこに書け!)

 

 内心で悪態をつきながら大急ぎで玄関に向う。ドアを開けると記憶の中に懐かしい若茶流の姿がそこにあった。

 

「おはよう。一応は久しぶりかな、瀧君?」

 

「あ、おはようございます。その・・立ち話も何ですから――――」

 

「すまないが、直ぐに糸守に行かなきゃ行けないんだ。此処に来たのは、コレを渡す為」

 

 流は提げていた鞄から白色のタブレットを取り出し手渡す。

 

「特別な調整をしておいてあるから、料金や充電にエリアの事も考えずにビデオチャットが出来る。お昼ぐらいには着く予定だから、三葉ちゃんも含めて全部説明するよ。

 それと、昨日は改めてすまなかった」

 

 用件だけを言い、取り付く島のないままに行ってしまう流を見送りながら、釈然としない顔で部屋に戻って行く。

 

「・・・・・・・」

 

 タブレットを凝視しながら画面を触ると『登録完了』の音声が流れ、起動する。使用のアプリはスマフォと大差ないが、弄ってみると接続スピードや内部の要領が格段に違う。

 

(ハイスペックな試作品か?こんなの貰っていいのか?)

 

 得をした気分もあるが、昨日の今日での疑念もある複雑な心境であるが、何時までも家に居るわけにもいかないので、簡単に支度を整えて学校に向った。

 

 ***

 

 

 一方、三葉はいつも通りの平和な朝を向え朝食に向うと祖母『一葉』と妹『四葉』からの奇妙な視線と言葉に翻弄されていた。

 

「悲鳴?・・・私が・・・・・・なんなんそれ・・?」

 

 ある程度の心の準備は済ませたつもりだったが、怪しげな祖母の視線やニヤニヤした妹の顔は想像以上に心地悪かった。

 

(もー、一体何をしてたんよ?・・・あの男!)

 

 そんな心境の中で携帯から着信が入り確認すると『糸守に向っている。昼頃には着くから、若茶流』とあり、後ろから除き見ていた四葉が更にニヤついて聞いてきた。

 

「お姉ちゃん、彼氏いたん?」

 

「断じて違う!」

 

 即答かつ怒鳴り声で否定する姉に対して、祖母の背中に避難し言う。

 

「やっぱり変になっとるな」

 

「ロクデナシを連れて来るんは止めといてや」

 

 祖母の心配半分、不機嫌半分の物言いに、それ以上の会話はなくなり女三人の食事の音だけが鳴っていた。

 

 

 四葉と共に家を出て学校に向う。途中、四葉と別れ直後に背後からテッシーとサヤちんが二人乗り自転車で声を掛けてきた。

 

「み-つーはー」

 

「仲いいなぁ、あんたたち」

 

「「良くないわ!」」

 

 そんないつものやり取りの後で、案の定〝昨日の奇行は何?〟と言う質問をされ途方にくれる。

 

(そんなの私の方が聞きたいよ)

 

 そう思いながら携帯電話を見るが着信はなく溜息をつく。その仕草にサヤちんはニヤリと笑う。

 

「そうか、わかった。三葉、アンタ恋したんでしょ?それ気持ちがハイになってたんだ」

 

「な!狐に憑かれたんじゃないのか!?」

 

「誰があんな男と!大体・・・・・」

 

 三葉は失言に口を押えるが、時既に遅く親友達は詰め寄ってくる。

 

「水臭いなぁ。何処のなんていう人?」

 

「いつ知り合ったんか?」

 

 もう走って逃げようかと思っていたら、近くから町長選挙の演説が響いて一気に気不味い空気になり、更に苦手なグループも近づいてきて、息苦しい気分で学校に向った。

 

 

 




 
 その頃、若茶流は高速を移動中。



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