俺の名は。   作:a0o

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 科学だなんだと言ってますが作者には、その手の知識は皆無です。
 聞きかじった知識を元に自分の都合よくアレンジしたものですので、その手の批判はご容赦下さい。


失敗の結果

 薄暗い静寂の中――――――――――――――俺はゆっくりと目を開けた。

 

「まだ夜明け前か・・・・まぁ、いいさ。何であれ、いよいよ今日が来たんだ」

 

 彼は起き上がり、寝癖の付いた眉に掛かりそうな黒髪をかきながら洗面台に行く、鏡に映る細い顔立ち、その目はトロンと緩んでいて冷水を掛けて完全に目を覚ますと鋭い(悪い)とまではいかないまでも目付きが引き締まる。

 

「冷た・・・」

 

 そのまま軽い朝食を済ませ、元居た部屋に戻る。タブレットの電源を入れ、ニュースを確認『1200年に一度のティアマト彗星、一ヵ月後に肉眼で』の文字をしっかり目に焼きつけ、様々パーツが組みあがった機械に肌身離さずに持っている鉱石付きのスティック型ストラップを差し込む。

 

「条件は全て整った。第一回、幽体離脱実験を開始する」

 

 深呼吸しながらヘッドホンを被り、スイッチを入れる。

 鉱石が鮮やかな緑色に輝き幻想的な風景を作り出す。数十秒その状態が続くが、輝きは消え、彼は溜息をつきヘッドホンを外す。

 

「失敗か・・・・まぁ、いいさ。チャンスはまだある」

 

 彼は機械の近くにあるノートを手に取りパラパラとめくる。

 

「予定通り、明日は現地に行ってデータを取ろう」

 

 見ているページには『糸守町、1200年前に落ちた隕石』の題名の下でびっしりと文字が埋まっていた。

 しばらく眺めていると窓から光が差し込み、ゆっくりと顔を向け、直後に耳障りな音が聞こえる。

 

「朝か」

 

 アラームを止めて立ち上がり、ストラップを引き抜いて大きく背伸びをする。するとストラップの鉱石に光が灯る。

「?!」

 

 手を下ろしてストラップを見るが光は無くなっており首を傾げる。

 

「なんだ?」

 

 ストラップを周囲に振るが何も起こらず、再び上に向けると鉱石に光が灯り、下に下げると光が消える。

 

「・・・・・・・・・」

 

 ストラップをジッと眺めながら考えを整理する。

 

「・・・・・まさか・・・?」

 

 天井に顔を上げ、上の階に住んでいる二人の父子を思い浮かべると冷や汗が込み上げてきた。

 

 

 ***

 

 

 知らないベルの音で目を覚まし、知らない部屋を見渡して、本来無いはずのモノ(・・)に手を触れて気を失いそうになるのを何とか我慢した。

 

「私じゃない。誰、この男?」

 

 洗面台の鏡の前で頬に張られた絆創膏を触ると痛みがはしるが、それでもこの可笑しな夢は覚めない。

 

「タキ、寝坊か?今日のメシ当番、お前だろう」

 

 リビングからの声に反応して行って見るとスーツ姿のおじさんが食器を片付けていた。

 

「俺、先に出るからな。遅刻でもちゃんと学校に行けよ」

 

 そう言ってあっという間に玄関に向い外に出て行った。

 あらためて部屋を見回すとマンションの一室のようで、スマフォの着信音から〝早く学校に来い ツカサ〟と言うメッセージに男物の制服を手に取る。

 

「・・・・こんな時に」

 

 恥辱に耐えながらトイレに向かい、これでも巫女なのにと思いながらも緊急事態を乗り切り、支度を済ませてマンションのドアを開けた瞬間に目を奪われた。

 

「―――東京だ」

 

「学生なのに重役出勤かな、立花君?」

 

 そう呟いて直ぐに現実に引き戻された。見てみると二十代程の男が待っていたように居た。

 

「えっと・・・」

 

「下の階に住んでいる者です。忘れちゃった?」

 

 返答に困っていると男はスマフォとタブレットを取り出し、スマフォについていたストラップを向けてきた。

 

「な、なんですか?」

 

 咄嗟に言うが男はタブレットを凝視して憂鬱そうに溜息をついた。

 

「やっぱりか・・・単刀直入に言う。君は立花瀧君じゃないね」

 

 確信めいているその言葉に混乱していた思考は飛びついた。

 

「そ、そうなんです・・あの、これは一体どうなってるんですか?!わ、私・・・昨日まで糸守に―――――」

 

「落ち着いて、とりあえず自己紹介しよう。

 俺の名は若茶流(わかさりゅう)、真下の階に済んでいる大学生で君達(・・)に今起こっている現象の原因だ。まずはこんな事に巻き込んでしまって、すまなかった。

それで君の名前は?」

 

 丁寧に頭を下げる流に縮こまりながら、立花瀧の中の少女がたどたどしく口を開く。

 

「みつは、私の名前は宮水三葉。糸守って町に住んでる女子高生で・・・一応、巫女もやってます」

 

「宮水・・・宮水神社の子か?これもある意味、運命かな」

 

 流の考え込むよう仕草から出た実家の情報に三葉は目を見開く。

 

「な、なんで家の事を?あなた・・何者・・・?」

 

「詳しい事はみんな(・・・)揃ってから説明するから、まずは糸守(あちら)の君の体に居る人に電話してくれないかな」

 

 そう言ってスマフォを差し出し、三葉は〝君の体に居る〟の部分に反応し慌ててスマフォを手に取り番号を押す。

 

(なんで自分の携帯にかける羽目に)

 

 そう思いながら数回のコール音の後に電話が繋がり、信じられない声が耳に響いた。

 

『もしもし・・・・』

 

「私の声なの?」

 

『・・・お前、誰?』

 

(でも私じゃない)

 

 明らかに自分では無い口調に三葉は目頭を押えながら名乗る。

 

「私の名前は宮水三葉、その携帯と体の持ち主です。今は・・・立花瀧君の体から電話してます」

 

『え!俺の体から?で、でも俺の番号じゃないぞ、これ』

 

「え~と・・・」

 

 向うの返答に三葉は流の方を見て助け舟を請い、流もそれに応じて電話を手にとって声を発す。

 

「お電話代わりました、まずはおはよう。立花瀧君」

 

『え?・・・あ・・お、おはようございます。

 あの、なんか聞き覚えのある声ですけど・・・どちら様でしょうか?』

 

「若茶流。下の階に住ん――――――」

 

『あ!あの変人大学生!』

 

「――――どうやら間違いなく立花君のようだな」

 

 流は通話をスピーカー音にして三葉にも聞こえるようにしながら、本題に入る。

 

「まず三葉ちゃんでいいかな?にも言ったが、君達が今ここって居る異常は俺が原因だ。ワザとじゃないが、済まない事をした。

 そして、その状態は取り敢えず(・・・・・)今日一日は続く、だから適当に言い分けでっち上げて学校を休むのが好ましいが、そちらは出来そうか?」

 

『無理、もう家を出て学校に向ってる』

 

「つまり、こちらと同様に服を脱いで着替えたのか」

 

「ちょっとっ、何してくれんのよ!乙女の体を―――――」

 

『そ、そっちこそ、今の発言だと同じ事してんだろうがっ・・・・あいこだろ』

 

「男と女を一緒にするな、変態!」

 

「うほん!おい、ここは歴とした公衆の場だよ」

 

 咳払いした流の言葉に三葉は辺りを見渡すが、周囲に人間の気配はなく胸を撫で下ろす。

 

「脅かさないでよ」

 

「兎に角、休むのは無理そうだ。

 その制服、神宮高校だね。送るから付いてきて、()必要な事は移動中に話そう」

 

 完全に流のペースで流されるまま駐車場に行き助手席に座る。シートベルトをした所で落ち着いて来た三葉や素朴な疑問を口にする。

 

「学生なのに車、持ってるんですか?」

 

「親の金でな」

 

 その返答に三葉は嫌な色を含めた複雑な表情をして窓の外を見る。

 

(キモイとかヤダとか言った野次馬みたいな反応じゃないな、親と上手く行ってないのかな?)

 

 その色を見逃さなかった流は目を細めるが、立ち入った事はせずに車を発車させて、まだ通話中の電話から事務的な事を進めるよう口を開く。

 

「それでお互いの学年とクラス、その教室での席、並びに学校が終わった後の予定は?その際に注意して置かなければならない事はないの?時間は有限、早くしないと学校に着いちゃうよ」

 

 その言葉に三葉と瀧は慌ててお互いの事を話そうとするが、お互いに先に言おうと不毛な言い合いをしており、流が一刀両断の仲介をする。

 

「立花瀧君、この場合はレディファーストで三葉ちゃんの方を優先させなさい、全くの勘なんだが目だけでなく、手にも保養を得たんじゃないかい?」

 

『グ・・・・』

 

「どう言うことか聞きたいけど、後にする」

 

 

 押し黙る瀧に三葉は目を引きつらせながらも我慢して話を進める。

 

 高校への道は同じ生徒が行くのを付いていけば問題なく、通学中に選挙運動に出くわす事があるかもしれないが無視を通すこと、途中でテッシーこと『勅使河原克彦』とサヤちんこと『名取早耶香』に声を掛けられ、つるむだろうが体調不良と言って適当に誤魔化して欲しいこと、自分の下駄箱、クラス、席の場所を説明した。

 

「あと学校が終わったらその足で帰ってジッしていること、くれぐれも余計(・・)な事をしないでね」

 

(随分とドスの聞いた声だな。ま、無理も無いけど)

 

 運転しながら話を聞いていた流は、心の中で瀧に手を合わせ自分の発言が早計だったことを詫びた。

 

 そんな流の心中も知らず、今度は瀧が自分の下駄箱、クラス、席を説明し、昼食は屋上で『藤井司』と『高木真太』の二人の同級生と一緒が何時もだから、話されてもお茶を濁して誤魔化して欲しいことを頼んだ。

 

『それと俺、今日の放課後はバイトだから体調不良を使うのはやめてくれ、あとバイト先に奥寺って言う女性の先輩が居るから、先輩には余計な事をしないでくれよな。後で俺が他の先輩達に何されるか分からん』 

 

 そう言ってバイト先であるイタリアンレストラン『IL GIARDINO DELLE PAROLE』の場所を言う。

 

「そのレストランなら俺も知ってる。放課後、連れて行ってあげるから校門近くで待ち合わせしよう」

 

「あ、お願いします。それより今日が終わったら」

 

「分かってる、キチンと説明する。それでなくても明日、糸守に行くつもりだったから現地に行ってから話そう、こっちに居る立花君とも連絡できる用意はしておくから」

 

『絶対だよ。それと俺の事は瀧で構いません』

 

「そうか、分かった瀧君。っと、そろそろ到着だ、また連絡する」

 

 流は車を停めて電話を切る。

 

「じゃあ、学校が終わったら連絡くれ」

 

 三葉にスマフォの番号のメモを渡して降ろし、去って行く車を見ながら思った。

 

(凄く準備が良くてテキパキし取るなぁ、気味が悪いくらいに・・・・)

 

 そして、三葉は瀧が通う高校に足を入れる。世界万博会場かと思わせるお洒落な校舎に圧倒されながら、教えられた事を思い出しながら教室に行き席に着く。

 

「たーきっ!」

 

 背後からの声と肩を叩かれて振り向くと眼鏡で委員長風の男の子が笑いながら話しかけてきた。

 

「ったく、メール無視しやがって、でも完全に遅刻かと思ったけど何とかセーフだったな。

 まさか車で通学してくるなんて、一体誰なんだ、あの兄ちゃん?」

 

(メールってことはこの人が司くんか。ってか誰って言われても、そんなの私が聞きたいよ)

 

「えーと、下の階に住んでる若茶さんって人、困ってたら助けてあげるって言われて・・そのまま・・・・」

 

 無難かつ嘘のない返答に司は眉を潜めて、更に聞いてくる。

 

「おいおい、新手の詐欺か何かに引っ掛かってるんじゃないだろうな、大丈夫か?」

 

「う~、そう言われると・・・・・・・」

 

 ますます困った顔をする友達に司は溜息をつき語り掛ける。

 

「ま、もう直ぐ授業始まるから、詳しい話は昼飯の時に三人でしよう」

 

 そのまま司は自分の席に戻り、三葉(瀧)は頭を抱えたくなるのを我慢して昼までをやり過ごした。

 

 チャイムが鳴り昼休みに入ると司と大柄の男子が近づいて来た。

 

(えーと、この人が高木くんかなぁ?)

 

「メシにしようぜ」

 

 司がそう言ってサンドイッチを片手に誘ってきて、三葉は気付いた。

 

「・・・弁当忘れた」

 

 それに財布の中身を確認しようとすると流から渡されたメモが目に入り、よく見ると電話番号の他に〝5千円までなら立て替えるから〟と書いてあり、安堵以上に気味悪さが増し複雑な表情をすると様子を覗き込んでいた二人が心配そうに声を掛ける。

 

「メシは俺たちで何とかするから屋上行こうぜ」

 

「で、どう言うことか説明して貰うぞ」

 

 そのまま、屋上に行き司と高木が作った、即席玉子コロッケサンドを頬張りながら流の事を尋ねられ、今朝の事を淀みながら話した。

 

「つまり寝坊して遅刻しそうなところを偶々、あの兄ちゃんに出くわし車に乗せてもらって、何か話しがあるからと携帯の番号を渡され、放課後にバイト先にまで送って貰うと約束されたと?」

 

「つーか、無茶苦茶怪しいじゃん。まぁ相手が可愛い女子ならナンパ目的な話しだけど・・・瀧は男だし危ない趣味があるんじゃ・・・」

 

(か、可愛い・・・)

 

 

 そのフレーズに三葉は頬を赤くし、それを心配そうに見て尋ねてくる。

 

「熱でもあるのか?」

 

「まぁ、兎も角だ。そんな怪しい奴には近づかない方が絶対いい。メモ貸せ、俺が話をつけてやるよ」

 

 司は止める間もなくメモを取り上げて、スマフォを取り出し番号を確認しながら相手が出るのを待つ。

 

「あ、もしもし。俺、瀧の友達です。アナタが善意でやったにせよ、妙な下心があるにせよ、高校生を・・・・・・・・」

 

 挨拶も無く直球で相手を攻め立てる勢いだったが、それも直ぐに出鼻を挫かれたように萎縮して、冷や汗までかいていた。

 

「はい、はい、済みませんでした。事情を知らなかったもので」

 

 電話を切った司は友達を据わった目で見て迫ってくる。

 

「た~き~、どう言う事だよ。相手は奥寺先輩と同じ大学に通ってる人で、バイト先も若茶さん経由で紹介して貰ったって・・・・俺、スゲェ恥ずかしかったぞ」

 

「あ、ひょっとして前に言ってた変人大学生ってあの人の事?なんだよ、だったらもっとちゃんと説明しろよ」

 

 などと言われても瀧でない三葉に出来るはずも無く、たじろぐ事しか出来ない。

 

「と言うかさ・・・電話で奥寺先輩についての話もしてたって聞いたけど・・お前、暗黙の了解を破って奥寺先輩に―――――」

 

「なに!それは聞き捨てならんぞ。俺たちがやった昼飯返せ!」

 

「ご馳走様!この借りはいつか必ず!!」

 

 詰め寄ってくる二人に息を呑み、大慌てで立ち上がり走り去る。背後からは喚き声が聞こえるが全力で無視して階段を駆け下りる。

 

(あ~、なんで私がこんな目に~~~)

 

 

 




 年を13にするか16にするか決めかねてるので、活動報告で意見を聞かせてくれるとありがたいです。

 あと感想も頂けると嬉しいです。

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