二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
精神操作してそれで良いのか聖剣。お前名前<正義>だろ。
ようやく、正当な<勇者>伝説における<勇者>の成長が始まります。
それでは、どうぞ!
「……ここが、そうか」
入り口の門も崩れ、廃墟となっている神殿の前に、俺と篠原、そして<探索者>白井英吾が立っていた。本当は俺と篠原だけの方が良かったのかもしれないが、白井が、
「探索なら<探索者>の俺が居た方が良い」
と主張。
<探索者>は確か、隠密系スキルと罠・生物感知系スキル、それから隠しステータスの素早さと移動速度にプラス補正がある職業。主武器は短刀というかナイフというか、投げる事も可能な軽い刃物と弓矢。
ダンジョンや神殿、洞窟や森の中などで役に立つ職業の一つ。廃墟のような神殿、それも<聖剣>強化系となればまず確実に魔物がやたら湧いてるのは確実である。<探索者>が居れば動きやすくはなるはず。<周辺警戒>を組み合わせれば、良い斥候になるだろう。
彼の提案には一理ある。篠原もそう考えたのか同行を許可。すると桐崎が、
「勇人が行くならアタシも行く。回復役も必要でしょ?」
と言い出した。が、これは流石に勇人も許可できなかったらしい。これは俺としてもあまり良いとは言えなかった。今代の<聖女>は<治癒魔法><回復魔法><再生魔法>全てを扱える回復系特化、言い方は悪いが使える人間だ。何かあったら不味い。足手纏いは少ない方が良いしな。
回復は、低階位なら篠原も使えるし何なら体力回復薬、通称赤ポもあるのでそちらで賄う事にした。
<
という事は、これは魔族によって破壊されたという事だろう。
理由としては、まず人族・亜人族側にこの神殿を破壊する理由が無い事、そして破壊痕である。
推定五メートルほどの石像を一撃でその半分を粉砕できるような鈍器を扱える者はそうそう居ない。よって魔法による破壊だと思われる。
粉々になっている以上は<
さて、<属性魔導>スキルは基本的に下位スキルにあたる<属性魔法>をレベル10まで上げ、全位階スキルをレベル10に上げた状態でさらに魔法を撃ちまくる事で手に入るスキルだ。
元々魔力が少ない人族は、魔力消費の少ない低位階魔法を多数撃つことで、単発威力をカバーする傾向にある。まあ細かな調整を組み込めるので、低階位乱射は使える戦法なのだが、レベル上げの効率は大分低い。だから人族で<属性魔導>スキルを手に入れる奴は少ない。
容易く<属性魔導>スキルに到達できるのはエルフなど魔法特化亜人族か魔族のみ。しかし亜人族には破壊する理由は無い。よって魔族によるものと断定できる。
無論、個人的に何かしらあって破壊に至った亜人族の可能性も考えられるし、魔物系亜人族ならばこのような破壊を行える鈍器も持てるから、一概に魔族の魔法によると断定はできない。
まあ摩耗してるって事はそれなりに昔なので気にする必要は無いか。
え、何で考えたのかって?暇潰しと今代への解説。
「……だから、想定よりかなり前から、それこそ下手すれば千年前からある神殿なのは間違いない。中は魔物が多くいる事は確定だな。下手をすれば弱めの特殊指定魔物が群れを作っている可能性も有り得る。アンデッドなら上位種の軍団が居る可能性もある」
「うへぇ……ゾンビとかか」
「いや、多分スケルトン系だろう。どこかの馬鹿が最近ここに入ってなければの話だが」
ゾンビ系統とスケルトン系統は死体もしくはアンデッドになってからの時間で区別される。ゾンビの肉が全部腐り落ちたらスケルトンだ。「ゾンビ○○」は全て「スケルトン○○」と同じ性能だ。肉がついているのでゾンビの方が戦い難い程度の区別でしかない。
「それにアンデッドとは限らない。まずは入ってからにしよう。<防衛業務委託・周辺警戒><周辺警戒><絶対障壁><神楯>」
「ふむ、やはり見た目通りの廃墟か。しかし魔物の気配すらないのはおかしいな」
中に踏み込んではみたものの、魔物どころか動物にすら遭遇せぬまま二十分近くが経過。雑草が生え荒れ果てた、かつての通路と思しきところを歩きながら部屋を一つずつ確認しているが、何も見つからない。
「こっから先も似た感じだ。<周辺警戒>にも反応が無い。ちなみに罠もないみたいだ」
一人先行していた白井が戻ってきた。
「という事は、どこかに仕掛けがあるな」
「仕掛け?」
「ああ、多分この神殿、地下があるぞ。それも大分深い所に」
「根拠は?」
「さっき重ね掛けした時に、本当に一瞬だけ、俺達と重なるようにそこそこでかい敵性反応があるのが見えた。でも周囲には居なかった。なら普通に考えて下だろう」
「下か……」
「とりあえず一番奥まで行ってみよう。ゲームでもこういう時に仕掛けがあるのは一番奥だっただろう?」
本当はゲームで例えるのは好きじゃないんだが。
「なるほど、そうか確かに!」
こんな感じで説得力はあるので悩む。
「出来るだけ早く一番奥へ行こう。白井はそこで仕掛けを探してくれ。警戒は俺が、もしもの戦闘は篠原がやる」
白井を先頭に走りだす。<周辺警戒>に一切反応は無い。やはりおかしい。入り口は普通に開いていたのだから野良の魔物が居てもおかしくはないと思うのだが、敵味方不明反応すらない。やはり何かしら地下にあるな、魔物が居ないのはそのせいか。
それと多分、動物すら居ないのは、夜に死霊系の魔物が湧くから。もしかしたら肉体を持つアンデッドも湧くかもしれない。
アンデッドは生前、何かしらの恨みを持った魂が、魔力の影響を受けて変じる魔物。肉体が残っていればゾンビ系、残らなければ死霊系へ変化する。魔物への変化の過程で、大抵本人の恨み・憎悪は、生者全体への憎悪へ変質する。まあ感情が強すぎる場合は残ったりするけどもそれは数少ない例外の話なので置いておく。
つまりアンデッドは生者、というか人間に限らず生きてる動物を見れば襲う。だからアンデッドが良く湧く場所に動物は近寄らない。逆に不自然に動物が寄らない場所があればそこは大抵アンデッドが湧く場所である。
つまりこの廃神殿は、高い確率でアンデッドが湧く場所だと推定できる。低レベルアンデッドなら聖属性の権化<勇者>がいるので問題は無いが、数百年放置された神殿である。<
出来れば会敵したくないな。
それから二十分ばかり走ったところで、一番奥の部屋に辿り着いた。恐らく元は神殿長か誰か、お偉いさんの部屋だったのだろう。地下への仕掛けがあるなら一番可能性が高い。
白井が部屋を探査している間、俺も警戒しながら、部屋にあった大きな戸棚を片っ端から調べた。
「何かあったのか?」
当然もう一人手持無沙汰な篠原が寄ってくる。
「ちょっとな。多分ここがまだ神殿だった頃の記録だろう」
見つけたのは日誌である。<時間属性魔法>の<
「見つけたぞ!」
地下への入り口が見つかったようだ。さて、鬼が出るか蛇が出るか。
以上です。続きはまた二週間以内に。
以下魔物の解説
<不死身の賢者>……人族領で見るゾンビ系魔法使いの最高位の魔物。それなりの魔法使いがゾンビになったとき最終的に成り果てるもの。ゾンビには魔法の学習という概念が基本的に存在しないため普通のゾンビが進化することは稀である。
外見は普通の人間に近いが、所々骨が見える。進化するのに時間がかかればかかるほど骨の部位が多くなる。
<死霊竜>……人族領で見る死霊系の中で最高位の魔物であり、大抵一番手こずる相手。見た目は名前の通り死霊の竜。複数の死霊系魔物の集合体。実体が無いのにこちらに攻撃できる。通常は<光属性魔法><聖属性魔導>じゃないとダメージが通らないので注意。<聖剣>や<神授武具>なら通る。
なにげにアンデッド系が一番合理的な説明しにくいんですよね……<不死身の賢者>は、理性が完全に戻っているために魔力を制御可能、よって体の崩壊が止まっている、と考えてください。普通のゾンビは本能程度でしか動いていないので魔力を完全には制御できず、徐々に体が朽ち果てていきます。
それでは感想質問批評などお待ちしております。