二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
一話に収める予定だったんですが思ったより長くなってしまいまして。
そんな感じでIFエンドのちょっと続きと、時空帝竜の独白です。
※これは本日二話目の更新になります。
術者死亡により<傀儡術>が解かれ、各所の傷から一気に血が噴き出た。全身の魔道具が解除され、<勇者>死亡により<聖剣>が消滅する。
うつ伏せだった遺体を、仰向けに転がし、兜を取る。そこで今代<勇者>達の顔が驚愕に染まるのが見えた。
腕に嵌めていた<偽装腕輪>の効果が解除され、『国崎啓』ではなく『神崎啓斗』に戻ったのだろう。
ほぼ全員が驚愕しているという事は、この状態に至るまで自分を偽り隠し通し切ったという事になる。女子が一人だけ驚いていないが、顔面蒼白である。彼女は知っていたのか。
まあ完璧な『神崎啓斗』は神崎啓斗じゃない別の何かだと本人も言っていたので、バレているのも当然といえば当然か。
……違う。なぜまだこの未来が、『神崎啓斗』が本当に死んでしまう未来が見えている。自分は、自分達はこの未来を避けるために、
なのになぜこの未来がまだ見えている、有り得ている。
これ以上何を変えればいいんだ?変化させ得る条件は全て最善の未来へと向かうよう手を加え、<勇者>関連にまで──元からそういう計画はあったとの事だが──手を出したというのに。
外的要因は可能な限り全て排除した。これで結果が覆らないとなると、考え得る要因は二つ。一つは、さらなる外から、我々では届かない次元からの要因である場合──例えば神の介入など。もう一つは内的要因。つまり本人の気持ちがその方向に向かっている場合。
神の介入はまず考えられない。この時期ならば、<システム>を秘匿するために世界そのものを、時空を歪めることで隔離しているはずだからだ、他ならぬ
ならば本人の気持ちの問題なのだが、これはこれで難しい。誰も、<システム>とその中核管理者を担う自分以外誰も知らない事だが、記録上の初代<勇者>神崎啓斗には、他の<勇者>には無い特性があった。
<勇者>自身の心の動きの中核を成す物を<システム>が診断し、最適の<聖剣>を自動で選択し授ける<勇者召喚>の最重要過程。よって本来<勇者>に授けられる<聖剣>は一つ。当然だ、心の動きの中核は一つしかないのだから。複数あるように見えてもそれはさらに根本的なところで一つにまとまる。
<勇者>神崎啓斗には、それが
面倒事や傷つけられるのを恐れ、他人と一定以上の距離を保とうとする<孤独>。
その一方で身内判定をした相手を助けるためなら例え自分の命であろうと代償に出来る<犠牲>。
当時既に<犠牲>は、人族の記録には残っていない<勇者>橘朱梨が所有していたために<孤独>が授けられたが、この時<犠牲>が残っていたとしたら、どうなっていた事か。
仮契約のような物とはいえ、一時的にでも<犠牲>を保有し、その能力を使用できたのはそれが理由であった。彼には<犠牲>を扱う適正もあるのだ。
つまり今のまま、彼が<犠牲>と<孤独>両方の適正を持ったままでは、過程がどうであれ、未来は彼の死へと繋がるだろう。未来の彼はその二本を持っていたのだから。
せめて彼を繋ぎ止める絆があれば良いのだが……今のところそれは見当たらない。
<勇者>であることから考えれば、一番有力なのは<聖女>だが、彼女は恐らく彼の決断を苦渋の判断として肯定するだろう。彼等の繋がりは
<犠牲の勇者>はどうか。彼女なら彼と一緒に戦場に立ってくれる気がするが、彼が止める。説得材料もいくらでもあるはずだ。彼はそういう事だけはすぐに頭が回る。
では彼が蘇生させた女騎士はどうだろうか。彼女の彼に対する気持ちは、尊敬あるいは憧れ。彼が強く言えば逆らう事は無い。
雷帝竜の末裔、転生者の少女はどうか。いや、<聖女>が恐らく止めるか。<聖女>である彼女が動かないのなら、少女もまた動かないだろうし、動こうとしても<勇者>と<聖女>の二人が行かせないだろう。
「……どうにかしなくてはならんな」
千年前であれば、当時の<防衛者>と<支援者>がストッパーとなっていた。しかし彼等は今いない。呼ぶこともできない。特定の人物だけを<召喚>することは<システム>であっても不可能だ。
誰か、彼を止めるか、あるいはせめて共に戦場に立って、撤退してくれる人が必要だ。
いっそ彼等がここに到着したら、この事を全て……いや、駄目だ。
それによってこの未来が避けられるなら良いが、<システム>が一時的に撤退するのは恐らく確定している。あとはそこに至る過程が問題であるのだが、その時にもし今代<勇者>が<システム>と敵対する道を選んだなら、先代<勇者>は間違いなくこの未来を、1人で戦い時間を稼ぐ未来を選ぶ。
となると残るキーポイントは今代<勇者>か。前例から考えれば<勇者>は<システム>を肯定するはずだ。
今代<勇者>の性格的な問題なのだろうか?だとすれば迂闊に手は出せない。ちょうど今、先代<勇者>が今代のところに潜り込んでいるはず。もし性格的な問題や成り行き上での事なら彼による解決を期待するしかないだろう。
それ以外なら?
「全力で、潰しにかからなくてはな」
それ以外という事はつまり、何者か、<システム>を否定する何者かによって誘導されたという事だろう。元の性格ではなく、何かしら状況に流されたわけでもないなら、<勇者>に<システム>と敵対する理由など無いのだから。
そしてそれはつまりこの世界に<システム>を知り、否定し、その破壊を目論む者が居るという事。そんなことを許せるわけがない。
かつて友から<システム>を託された者としても、<システム>中核管理者としても、世界の<監視者>にして<調整者>として
世界の秩序を乱す者は敵だ。
以上です。
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