二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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ゴールデンウィークで少し書いておいたため早目に更新できました。

色々伏線敷いたり意味深な表現したりしますが、ご容赦ください。


それでは、どうぞ!


閑話  時を渡る竜・いつか有り得る結末

 

 

 

『──私達の子供のようなものです、どうかよろしく……と言っても貴方なら先が見えているでしょうけど』

 

『先が全てはっきりと見えているわけではない。今のところはまだ、な。とはいえ他ならぬ○○さんの頼みだ。だが……本当にそれで良いのか?』

 

『ええ。貴方方竜種は<管理者>であると同時に、世界の<調整者>でもあるはずです。我々の事情でその役割を放棄させるわけにはいきません。それでは本末転倒です』

 

『……わかった』

 

『ありがとうございます。良かった。ようやく──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……懐かしいな」

 

 

 

南大山脈頂上、<システム>近郊に、()()はあった。

 

虹色の、渦。

 

それは<空間魔法>により作成された異空間への入り口。

そこは時空帝竜の住処。始祖竜が嫡子の中でも最強たる、時間・空間属性魔法の使い手の家。

 

そこに居るのは当然ながらその家主たる時空帝竜(ヨグ・ソトース)であった。

 

 

 

彼は過去を見ていた。主観でもう何万年も前に別れを告げた一人の友と、最後に別れた時の事を。

 

 

 

空間属性と合わせることで、この世界の過去や未来へ行く事、あるいは視る事が出来る彼にとっては、本来その友と会う事は造作もないことではある。

 

 

 

だが彼はそれを自分で厳重に禁じていた。過去は変えられない。変えてはならない。変えられるのは、未来だけだ。

 

未来は、未定である。ささやかな違いにより、世界は全く異なる歴史を辿る。

 

 

 

ゆえに彼は、いくつもの未来を視る。今見えている未来で最悪なものは、<システム>がブラックボックスを除き全て破壊される未来だった。

 

 

 

とはいえ別にそれはどうでもよかった。<システム>にとってフィンランディアの中にある()()なんていつでも再建できる物でしかない。この世界の人々が<システム>に気付きそれを壊そうとするならそれもまた成長であると今は亡き友も言っていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その過程が問題だった。

 

彼の眼に映るのは、<聖剣>を()()両手に持ち、<聖鎧>に身を包み、迫りくる軍勢の前にただ一人で立ちふさがる少年の姿。かつて自分に時空系魔法を極めているからと言って、彼等の世界での神の一柱(ヨグ・ソトース)の名をくれた少年。

 

彼を見つけたのか、軍勢の勢いが弱まり、そこから何人か進み出てきた。彼等は今代の<勇者>達。この世界の異常性に気付いた外界の神によってこの世界に遣わされた、いわば世界の<修正者>。

 

彼等が少年に駆け寄ろうとした所で、少年の背後に瞬時に魔法陣が展開され、光の砲撃が放たれる。話すことは何もないと言わんばかりである。

 

そしてそのまま始まる戦闘。知った顔との戦闘に及び腰の<勇者>に対し、二本の<聖剣>を手に猛然と斬り込む少年──先代<勇者>。それで彼をようやく敵と認識したのか、戦闘が始まる。レベル200を超えた先代<勇者>一人に挑むはレベル150程の今代<勇者>パーティー30人弱。

 

 

 

魔法をほぼ使っていないとはいえ、50近いレベル差はそのままステータスの差へと反映される。ゆえに人数に差があろうと、それは関係ないと言わんばかりに互角の戦いを演じる。結末を知っていたとしても、手に汗握るような戦いを。

 

 

 

 

 

 

 

回復を全て自動発動型スキルに頼り、ひたすら攻撃を行う先代と、何人かで交代を繰り返しながら回復・攻撃を行う今代。後方から魔法攻撃も飛んでくるとなっては、先代がじり貧になるのは目に見えていた。

 

 

 

ダメージと疲労の蓄積についに膝をつき、倒れ伏す先代。<聖鎧>もところどころ罅割れ、防具としての役目を果たせるか疑問である。

 

 

 

 

 

 

しかしこれで終わりではない。

 

 

 

直後、彼の身体を黒い靄のような魔力が包む。そして再び立ち上がる先代。

 

 

 

いや、立ち上が()()()()()先代。驚きに目を見開く今代達の前で、疲労し、ダメージも積み重なり到底もう動けないはずの体が動かされ、再び剣を構える。

 

 

 

時空帝竜個人としてはここで止めて欲しかった。しかし<管理者>としてはこの選択はその場で最善であると思う。

 

 

 

自己傀儡人形(マイセルフ・マリオネット)>。

 

職業<傀儡術師>が保持する操作系魔法、<傀儡術>の初期スキルの一つ<傀儡操作>の応用。その名の通り、術者自身の体を傀儡とする事で、術者自身の意識・思考・感覚と身体を切り離しながら術者の思考で術者自身の身体を動かすというスキル。

 

 

 

この世界で恐らく彼だけが扱えるスキル。

 

 

 

<傀儡術師>は基本、後衛職であるために自身の体を操るという発想が無い。操ったところで戦力にはならないから。

 

だからこれは前衛職でありながら称号職業として<傀儡術師>を保持する先代<勇者>にしかできない芸当。そして彼の最後の切り札。

 

 

 

疲労は関係が無い。人形に、傀儡に疲労は存在しないから。同じ理論で痛覚とダメージも無視。消費するのは魔力だけ。代償として魔法・スキルが一切使えなくなるが、今回彼に課せられた役割は時間稼ぎなのだから問題は無い。

自分で直接ではなく、傀儡として動かすために、少々のタイムラグが生まれてしまうが、それでも通用するレベル差がある。

 

 

 

右手が切り裂かれた。戦闘続行に支障なし。代わりに相手の大剣を叩き折ってやった。

 

左足の神経が絶たれた。戦闘続行に支障なし。代わりに相手の短剣を砕いた。

 

左腕が斬り落とされかけたので魔力で覆ってつなぐ。戦闘続行に支障なし。代わりに楯を切り裂いた。

 

魔法で火柱に包まれる。痛みは無いが視界が無くなりそうなので剣を振るって風圧で消す。戦闘続行に支障なし。

 

背中に短剣が刺さる。戦闘続行に支障は無いが邪魔なので抜く。傷口は魔力で覆って防ぐ。戦闘続行。代わりに相手の右足を切り落とした。

 

背中から抜いた短剣を、先ほど魔法が飛んできた方向へ全力で投擲。

 

とうとう右足が持って行かれた。だが構わない。魔力を集め傷口を塞ぐとともに代わりの足を作る。戦闘続行に支障なし。

 

 

 

 

 

軍勢が彼を無視して先行しようとしたら、自分が攻撃されるのもお構いなしにその前に立ちはだかる。HPはもうあまり残ってはいないはずだ。魔力による止血は十分な効果を発揮するとは言い難い。せいぜい応急処置程度だろう。

だがそれで十分だ。彼の役割は終わりつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の背後で、空に赤い火花が散る。

 

 

 

 

 

<システム>のバックアップ及び移動が成功したという報せだ。それはつまり、彼の任務が果たされたという事と同義である。

 

 

 

 

 

それを見て気が緩んだ隙を、今代<勇者>は見逃してはくれなかった。気づけば一本の黒い剣が、前に構えていた<聖剣>二本を砕き、彼の胸──心臓を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<勇者>が<魔王>を殺すための剣が<聖剣>ならば、<勇者>に対抗する<魔王>にもまた、<勇者>を殺すための剣がある。

 

 

 

<魔剣>。

 

 

 

銘は無く、ただ<魔剣>とだけ呼ばれるそれは、まともに<聖剣>を折る唯一の方法。<聖剣>同士を打ち合わせるなどと言うイレギュラーではなく、ある意味正攻法で<聖剣>を折れる唯一の存在。

 

最終決戦で<魔王>と<勇者>で戦う際に<魔王>が用いる魔族側の最終兵器。

 

()()()()()()()()()()()()()()創世の女神が、この世界を去るときに残した剣の中で、唯一の魔族側の剣。

 

<勇者>を殺すための剣。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが既に鎧としての体を成していない<聖鎧>をも砕き、先代<勇者>に突き刺さる。

 

 

 

残りHPも少なく、出血もあってか、先代<勇者>は何かを言うことも無く、ただ空を仰ぎ、何かを掴もうと手を伸ばしたところで、力尽き、息絶えた。

 

 

 

<勇者再生プログラム>は、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 




以上です。

いつか有り得る結末→IFエンドです。

多分本編がこの結末を辿ることは無い……筈です。本編が辿るのはもっとマシな結末……になる予定です。


それでは感想質問批評などお待ちしております。

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