二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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ご無沙汰してます。クラリオンです。一週間以上開いてしまいすみませんでした。

さて、第五十八話です。

防衛戦、なんて名前つけちゃいますがコレ防衛戦になるんですかね?





第五十八話  今代勇者の防衛戦

 

 

 

 

 

いよいよ作戦決行当日。時刻は……恐らく午前三時ってところか。まあ日の出前である。到着から二日、今に至るまで魔族側に動きはほとんど見られなかった。俺の仕事も無かった。まあ無いに越したことは無いが。

 

うーん……思ったより突入時の乱射が働いてたのかな?

 

 

 

魔族の基本的な戦闘スタイルは魔法戦だ。無論近接戦も出来るが最も得意なのは魔法戦である。とりわけ遠距離からの魔力量に任せた広範囲高火力攻撃、つまり物量によるゴリ押しが大得意。

 

ただし誰でもわかると思うが攻撃終了後は魔力が枯渇する。完全に枯渇する。魔力が枯渇してもとりあえず生きる分には問題は無いが、恐ろしい程の倦怠感に襲われる。魔力を回復させれば、体調も戻るので、戦闘に支障はない。

魔力回復さえできれば。

 

 

 

戦場での一般的な魔力回復の方法は二つ。そのうち一つ、魔力回復薬という手段を先の乱射で潰せたのかもしれない。その効果や色から、冒険者達からは青ポーション、マナポーションと呼ばれる魔力回復薬は、服用することで瞬時に魔力を回復できる。

 

 

 

そちらが完全にとはいかないまでも、万全の備蓄とは言えなくなったとしたら、残り一つでは少々不安なのだろう。もしその方法を取り、<勇者>に防がれたら戦線の維持が不可能になってしまうから。

 

 

だから大人しくして、向こう側からは攻撃を仕掛けてこない。向こうは今の状況を無理に崩す必要が無いからな。逆にこちらは攻勢を仕掛ける必要があるが、それをするには住民を守るために手勢を割く必要がある。

 

守るために割く手勢は、まあ当然のことだが基本は守りに特化する。例えば<結界術師>や<騎士>のように防御系スキルを持っていたり、防御値に補正があるような職業だったり。

 

 

 

すると今度は攻勢側の防御が手薄になる。そこに最大火力を放り込めばまだ勝ち目はあると考えているのだろう。だからこそ待ちの姿勢。

 

 

 

 

 

それがまさかたった一人に覆されるとは思わなかっただろうな。

 

住民どころか攻勢に出る<勇者>すらまとめて防衛できる<防衛者>の存在がその想定を全て覆した。

 

これでもし俺が居なかったら、<勇者>に被害が出ていた可能性がある。最悪の場合は死者が、な。来てよかった。

そう思いながら付与を開始する。

 

 

 

「──<絶対障壁(バリア)><防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)神楯(イージス)>」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦第一段階。隠密特化系職業四人による敵陣への侵入が開始された。侵入成功の合図は矢である。<狩人>による弓矢の超長距離射撃。<勇者>が規格外である事を改めて思い知らされる。

 

 

 

 

 

 

 

「──来たか」

 

 

 

<周辺警戒>に高速でこちらへ向かう青の点が写る。

 

そして簡易壁を越えて地面に突き刺さった。紙が結び付けられている。間違いない。

 

 

 

「いつでも行けるらしいぞ。後は勝手に始めてくれ。俺が合わせよう」

 

 

 

作戦第二段階。<勇者>以下、戦闘職前衛組による突撃。既に東の空は白み始めている。奇襲にうってつけの時間だな。

 

 

 

「行ってくる。後はよろしく」

 

「幸運を──<絶対障壁>」

 

 

 

青ポーションを飲みながら魔法を発動。流石に<神楯>最大規模で常時発動しっぱなしだったから魔力が足りない。

物資補給に問題が無くて良かった。

 

 

 

発動した<絶対障壁>は対魔法・精神干渉攻撃に加え、おそらく<操魂魔法>にも対抗できる。対物理は隠密性確保のために後で追加付与。

 

イメージしたのは、外からは何物にも貫かれない楯。これなら<操魂魔法>を知らない、低レベル<防衛者>であっても対抗することは可能になる。

 

……持ってかれた魔力がやたら多いように感じたのはそのせいか、納得。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

続いて例の魔力波吸収型を張る。今の俺だと平常時じゃこれが限界。この後先行部隊にかけた障壁を解かなきゃいけないしな。

 

 

 

さて、見つからないままどこまで行けるかな?一応光属性魔法で迷彩的なのはやってるみたいだし、魔力波吸収型のを外側に張ってあるけど、どうしても微妙に光が歪むからなあ。だからこその薄明突撃なわけだが、相手に<暗視>持ちとか居たら意味は無い。

 

 

 

基本的に全部やらないよりはマシだろうと立てた戦術だから、相手が対策していれば意味が無くなる。ただの保険に過ぎない、とは今代<賢者>の台詞である。それらが全て通らず、最初から発見されることを前提としたうえでの<防衛魔法>だと。

 

 

 

ちゃんと<賢者>やってる。素晴らしい。

 

ちなみに隠密組が配置につく前に見つかった場合は、そのまま強襲を掛ける事になっていた。

 

 

 

色々考えているのは素晴らしい。問題点があるとすれば、<防衛魔法>に頼りすぎである事か。想定されている事態の全ての対処法が<防衛者>であるというのは如何なものかと思うのだが……信頼されているとみるべきか?

 

 

 

 

 

そんな事を考えているうちに、前衛組は敵陣までの距離の半分を突破したらしい。そろそろ、見つかった時の準備を──

 

 

 

「見つかったか。<絶対障壁>」

 

 

 

やはり<暗視>系統の、見張補助系魔法の使い手が居たか。もしくは職業補正か。まあどちらにしろ見つかったことには変わりない。手筈通りに対物理障壁を展開し、隠密組の<絶対障壁>を消去。

 

 

 

広範囲警戒用の<周辺警戒(レーダーマップ)>、住民・後衛組掩護用の<神楯>、前衛組五人の三重の<絶対障壁>と数だけなら五つの魔法を同時展開。<絶対障壁>はやりっぱなしであとは補給のみで良いが<神楯>はそうもいかない。いや、放置も出来るけど、迎撃距離がぎりぎりになるというか、既に<周辺警戒>との連動が癖になってしまっている。

 

それに五つも展開しているのでいかにぶっ壊れ効率の<防衛魔法>でも魔力の消費が早い。魔力回復薬飲みながらじゃないと……味?サイダーっぽい感じ。

 

なお障壁が壊れたら張りなおす必要は無いとの事。だから無理だってば。

 

おーおー殺ってる殺ってる、多分。肉眼じゃ見えないのが何ともなあ……職業補正、称号補正の大きさを改めて感じる。今の俺で見えるのは障壁と魔法発動時のエフェクト光だけである。

 

魔力供給はまだ量が変化することなく続いているので、前衛組に張った<防衛障壁>はまだ一枚も割られておらず、また足止めされるほどの強敵も居ないのだろう。俺としてはとっとと割れて欲しい。本日三本目のマナポーションを煽る。求む<支援者>。

 

炭酸飲料三本ほぼ一気はマジでシャレにならん。

 

流れ弾(魔法)が来たので<神楯>に魔力を追加。あー……頭痛い……魔力酔いかあ……あ、やべ。

 

 

 

四本目を煽って何か逆流してきた物を押し流す。

 

 

 

魔力酔いとは、魔力の急激な増減に伴う体調不良全般を指す。人によって症状が異なる。

 

 

 

あーたーまーがーいーたーいー…………お酒飲んだ時もこんな感じになるのか?

 

頼むからはよ終わらせて……まさかここまでキツいとは思わなかった。耐えろ耐えろ耐えろぉ!

 

流れ弾捕捉迎撃魔力追加。あ、流れが微妙に軽くなったような気がする。障壁がどれか壊れたか?

 

……違った気のせいだ変わってない。魔力回復薬飲み過ぎ、いや魔力酔いの高揚状態?待ってそれアカン奴。

 

とか思っても止められないんだよね、知ってる。止められない止まらない!

 

どうせこれ終わったらしばらくは多分休めるはずだからきっと恐らく。ここで少々ぶっ壊れても問題ナッスィング!

 

 

 

「<周辺警戒>!」

 

 

 

重ね掛けを行う。一瞬だけ見えた戦場の様子。

 

 

 

「大分減らしてるな」

 

 

 

殺せたのか、敗走したのか。交戦中の現場に残る魔族の反応は数十個のみ。それとも引き付け損ね……いや無いか。だとすれば今頃ここも戦場と化しているはずだ。一瞬だけ見えた村の反対側にも反応は無かった。つまり既にあそこまで削ってるのか。だとすれば。

 

 

 

「アイツ大分容赦無くなってるな」

 

 

 

俺の印象としては、アイツはそう簡単に魔族を殺せるようにはならないと思ったんだが、どんな心境の変化があったのやら?

 

まあ良いか。どんな心境で殺してる?とか聞く事じゃねえしな。

 

何はともあれ第二回・今代<勇者>の防衛戦も既に終わりつつ……ありゃなんだ?

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

一瞬だけ移る巨大な魔力反応。ああ、こりゃ駄目な奴。魔力回復薬をもう一本煽りつつ、送る魔力を増大させる。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

同時に今展開できる最大の頑丈さで最後の敵の魔導師を囲むようにもう一個内向き障壁を展開。あーーー、魔力が吸われる。もう一本ほれ一気、一気!

 

 

 

直後に大爆発、いくつかの障壁への魔力供給が途切れた。流石に耐えきれなかったかあ……多分支援魔法盛った隊長クラスだったんだろうな。二重<絶対障壁>は破れなかったか。

 

どうせ今ので魔法も打ち止めだろ。終わりか、良かった良かった。

 

……何か眠くなって……あ、魔力酔いからの魔力切れかぁ……誰、か、近場に……誰だっけコイツ……確か後衛組の……あ、もう無理だこれ。

 

 

 

「……あとは、頼む」

 

 

 

取り敢えず言えたな……意識が、遠くなっ……て………………

 




魔力の使いすぎで失神する元勇者。

現在ステータスは<防衛者>で固定してあります。HPが0になった場合のみ<勇者>ステータスへ切り替わります。

本来は<支援者>に<魔力増幅><回復補助>及び<魔力消費軽減>などの援護魔法をかけてもらった上で行うべきなのですが、居ないので回復薬で代用したらこうなってしまったというわけです。


ちなみに戦場での魔力回復手段、もうひとつは、味方からの譲渡です。ただし専用スキルを用いても譲渡過程でのロスが発生すること、魔力の枯渇は体調不良を招くことからあまり用いられる方法では無いです。



大学の授業が始まり、今まで同様の頻度での更新は難しいです。おおよそ二週間に一回程度かと思われますが、今後とも本作品を読んでいただければ嬉しいです。


それでは感想批評質問等お待ちしております。

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