二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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再びの閑話です。

本編はもう少しお待ちください、お願いします。






閑話  南を目指して

 

 

 

 

 

 

「今頃どうしてるかなあ、我らが初代<勇者>様は」

 

 

 

啓斗が初代<勇者>のところへ向かってから二日が過ぎた。つまりそろそろ人族領・亜人族領に対する魔族の攻撃が始まる。

 

 

そのため、さくら達も既に<周辺警戒(レーダーマップ)>と<神楯(イージス)>、<絶対障壁(バリア)>を絶賛発動中である。魔力量については<魔力増幅(マナブースト)>と<回復補助>で回復量が消費量を上回るという状態なので気にする必要は無い。

 

 

<支援魔法>と<防衛魔法>は元々少数で多数を守り支援する事に特化した魔法。そのための魔力効率ぶっ壊れ。それを元魔法戦メイン<聖女>が全力で稼働させた場合、こうなる。

 

 

職業欄の三番目の選択肢、()()()に気付いたのはファインプレーの一つだと、さくらは思っている。

 

 

 

「まず顔は変えてるでしょうね、下手すれば声帯も。あとはアイツの事だから、<勇者>っぽくピンチのところで助けに入るとか考えてそう。で多分それが良い方向に働く」

 

「良い方向に?」

 

「多分ね、なんて言うか……まあ主人公補正みたいな?多分本人が期待しているのは、恩を売る事で、ある程度手出ししにくいようにするのが目的ね。女神様云々だと現地人はともかく異世界人は抑えきれないから」

 

「でもそれ以外の効果も発揮する?」

 

「多分」

 

「主人公補正って実在するんだ……」

 

 

 

<システム>というご都合主義の塊みたいな機械が存在する世界なので、勿論主人公──<勇者>に何かしら恩恵があっても不思議ではない。

 

 

 

「あとは、まあ勇者のロールプレイもあるかしら、ピンチの時に颯爽と現れる、みたいな。ああ、ちょうど理沙の時みたいにね……左十一時の方向、反応三つ、魔物よ」

 

「了解」

 

 

 

時々エンジン音を聞いてか襲い掛かってくる魔物を退治しつつ、彼女達は南へと進む。

 

 

 

「私の時……確かに、何か王子様っていうか、勇者様って感じはあったね」

 

「でしょ、雰囲気だけだけど」

 

 

 

本人が聞いたら悲しみながらも同意しそうな事を言いながら、街道を装軌車両で突っ走る。

 

 

 

「そういえばこの森ってどこまで続いているの?」

 

「聞いた話だとセラシルの中央部手前までと」

 

「そこから先は平原らしいわ、移動も楽になるかしら」

 

「その代わり発見される確率が上がる」

 

「魔族にも亜人族にも、か」

 

 

 

装甲戦闘車は当然、この世界には存在しないため、どちらに見つかっても敵の新兵器と思われる可能性が高い。可能な限り見つからないように進むが、見つかった場合は。相手を全滅させなくてはならない。

 

 

 

「今更だけど、光属性でどうにかならない?」

 

 

 

「固定された物体ならどうにか出来るんだけど、移動し続ける物体を、全方向から見えなくするのは無理よ、光の進路が不自然過ぎて多分どこか歪むわ」

 

 

 

例えば理沙を助けた後や、セラシル入国直後など、壁を背にした状態で、動かないならば、光を曲げることで、ある物を無いように、あるいはその逆のように見せることは可能だ。ある程度見える物が不自然でも、暗がりであれば誤魔化せる。

 

だが、全周から見える状態で、移動する物体を見えなくするのは不可能に近い。さらに、魔族や獣人族の一種は、空を飛ぶ。上からも見えないようにしなくてはならない。

 

流石に<聖女>と言えど、それら全てを達成するのは無理だった。

 

 

 

「さくらでも無理かあ……」

 

「言っとくけどケイでも無理だからね」

 

 

 

技量だとか魔力量だとかの問題ではなく、物理法則的な問題なので、どうしようもない。

 

 

 

「……ケイでも無理なの?<勇者>だから出来ると思ったんだけど」

 

「いくら<勇者>でもできないことくらいあるわよ、次、右二時方向、三つ」

 

「伝説からだとなんでもできるようにしか思えないんだけど」

 

「伝説なんて誇張されるものよ、私も講義で習って身を以て知った気分よ……」

 

 

 

一応さくらも千年前、<聖女>として戦場で、人族の街で、<勇者>と同レベルで活躍した人物である。つまり彼女は自分の過去を、伝説として盛大に誇張されて聞かされたわけで……

 

 

 

「顔から火が出そう、って表現は、ああいう時に使うのね」

 

 

 

慣用句が、ぴったり当てはまる状況に放り込まれたらしい。

 

 

ちなみにその伝説とは、

 

『女神の化身であるかのように、美しさと慈悲の心を兼ね備えた聖女様は……』

 

から始まる、長い長い、聖女の偉業の数々である。一部真実も含まれてはいるのだが、かなり誇張されている。

 

 

 

「街丸ごと浄化とか出来たわけないじゃない……」

 

 

 

魔族の軍勢を説き伏せて追い返しただとか、アンデッドの大群を土地ごと浄化しただとか、不治の病を治したとか、神を降臨させ魔族の大群を撃退しただとか。

 

 

魔族を追い返したのは事実だが、説き伏せたわけではなく、魔力量で格の違いを見せつけただけである。相手も強襲偵察程度の規模であった。

 

アンデッドを土地ごと浄化したのは事実だが規模は街と言うより村であり、また啓斗の力も借りた上での事。

 

不治の病は元々担当していた治癒術師が治せなかっただけなのを、魔力量に物を言わせて無理矢理治癒させただけである。

 

神の降臨に至っては完全にデマである。ただ、聖属性魔法第十位階スキル<裁きの光(ジャッジメント・レイ)>を多重発動させただけである。

 

 

上空に展開した大量の巨大魔方陣から放たれる滅びの光が神の降臨に見えるとは。

 

 

 

「待ってなんか最後のおかしい」

 

「何が?」

 

「いや<聖女>って普通後衛で、支援系の魔法で<勇者>の援護するんじゃ……」

 

 

 

基本的に<聖女>が高適正を持つ光・聖属性魔法において、個人が発動できるスキルの内、九割以上が支援・回復のスキルである。残りの一割も、ほとんどが武器への付与が中心となっており、少なくとも後衛型職業である<聖女>自身には向いていない。

 

無論味方への付与は可能であるが。

 

 

 

「基本はそうなんだけどね、アイツが基本的になんでも単独で出来るようになってしまったから、私も攻撃くらい出来るようになっておこうと思って」

 

 

 

結果が後衛(ただしアタッカー)型<聖女>の誕生である。<聖女>の魔力量と光・聖属性魔法への高適正、称号<賢者>による思考分割を利用して、本来集団で放つ合唱スキルや儀式スキルを短詠唱だけで発動するとかいう凶悪ぶりを発揮した。

 

範囲殲滅力だけ見れば、<勇者>である啓斗より高い。

 

まあそのお陰で、今啓斗が三人から離れて自由に動けるわけなのだが。

 

 

 

「右前方、二時の方向……ちょっと多い、私がやってくるわ」

 

「い、いってらっしゃい」

 

 

 

恐らくはゴブリンかオークの群れだろうと思われる集団を探知。少々数が多いのでさくらが出た。

 

 

 

「さて、じゃあ早速。<神光(マジェスティ)二重(ダブル)>」

 

 

 

装甲車の上に上半身を出して、詠唱したさくらの左右に、魔方陣が出現する。一拍置いて放たれる光。

 

 

聖属性魔法第八位階()()()()()<神光>。

 

 

『神の威光は魔を滅ぼし、世界を浄化する』という女神教教義の記述通り、魔の因子を持つ物のみを滅ぼすスキル。

要は魔物か魔族にのみ効くレーザービームである。本来はスタンピードに対処する際、<聖属性魔法>レベル2以上の所持者が()()()()()で放つ事がある程度の魔法。

 

それを二本同時に、ゆっくりと首を振らせながら、掃射。群れを一掃した。

 

 

 

「……おしまい。相変わらずあっけないものね」

 

 

 

こうやって、彼女達は南へ向かう。

 

 

 

 




以上です。

合唱も儀式も、普通は単独発動なんて無理ですよ……さくら(と啓斗)が異常なだけです。

合唱…二人以上で放つスキル
儀式…魔方陣等媒体を利用し放つスキル

全ては<並列思考>スキルのおかげ

単独で魔法を複数発動する方法
思考分割

同時イメージ

短詠唱

複数発動専用語尾(二重、とか三重、とか)

儀式とか合唱だと、最後の語尾付けが無いです。



それでは感想批評質問等お待ちしております。

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