二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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はい、今回は久々のあの人の登場です。

というわけで閑話です。




どうぞ!


閑話  宰相

 

 

 

 

不味い。これは非常に不味い。現状について彼──シルファイド王国宰相ゼルビアスは、そう思った。

 

 

 

不安要素かつ不要である<防衛者>と<支援者>を排除、実行者の口封じも無事完了し、そのことを知るのは彼及び彼直属の隠密のみとなった。

 

 

 

またその二人の死因を魔族によるものと偽ることで、<勇者>達の魔族に対する敵愾心を煽る事に成功。

 

 

 

こちら側の勧告に従わなかった公国についても、その返答と質問を、あたかも公国が魔族との戦いに参加しないと言っているかのように、捏造・隠蔽した。

 

 

 

その返答を<勇者>に伝え、公国が魔族と通じているという嫌疑を持たせる事にも成功、公国に対する戦闘に<勇者>自らが介入するように話を持って行く事も出来た。あとは、公国軍を<勇者>の実力と威光を以て蹴散らし、公国を併合するだけだった。

 

 

 

()()()()()()()とは言え、ここまで<勇者>が思惑通りに動いてくれるとは思わず、異世界人は扱いやすい、と思っていた。

 

 

 

実際、戦場に赴かせるまでは、彼が()()()に聞いた通りに進んでいた。ほぼ全てが、である。<勇者>ではない者の召喚、その者に対する<勇者>の蔑視。

 

 

 

唯一、竜の来訪だけが予想外ではあったが、<勇者>が思った以上に単純であった事に安心した。寧ろ<防衛者>を名乗る者に対する嫌悪が一層強化され、逆にこちら側としては望ましい結果となった。

 

 

 

 

 

だが。

 

だが、公国に対する戦闘に参加しようとした<勇者>の前に現れたのは、初代勇者を名乗る人物。

 

 

 

 

彼はその名乗り通り、<勇者>のみが持つ事を許される<聖剣>を持ち、既に国内では最強クラスの戦力を誇るユウト・シノハラ率いる<勇者>をたった一人で戦闘不能に陥れ、シノハラ自身の首をも刎ねた。

 

 

 

そのせいで、<勇者>達は、公国が魔族とつながっているという嫌疑に否定的な見方をし始め、気づけば公国と講和し、初代勇者にも<魔王>打倒に力を貸してもらうという提案が行われ、それが通ってしまった。

 

 

 

幸い、初代勇者の協力は得られなかったようだが、その時にまた要らない事を吹き込んでいったようだ。

 

 

 

「忌々しい……」

 

 

 

<防衛者>といい、初代勇者といい、どうしてこうも邪魔をしてくるのか。

 

 

 

『困っているようだね?』

 

「誰だっ!」

 

『おいおい、いきなり剣を取り出すんじゃないよ』

 

 

 

その声は、窓の桟にとまっている小鳥から聞こえた。当然、人族語を話せる動物など、居るわけがない。つまりこの小鳥は、自然に居るモノではなく、誰かの使い魔、それも魔法により創り出されたモノであるという事だ。

 

そしてその嘴の間から聞こえてくる声を、彼は聞いた事があった。

 

 

 

「……驚かさないでいただきたい、()()

 

『いやいや、何か困っているようだったから声をかけてみたのだが……』

 

「……ええ、そうです。なんですか、()()は。聞いていませんよ?」

 

『教えてないからね』

 

「……ふざけないでいただきたい、私は貴方が成功すると断言したからこそ、計画を実行したのです」

 

『知っている。今回、()()が出てくるか出てこないままで済むかは一種の賭けだった。不確定な事を言う訳にはいかなかったんだよ、許してくれたまえ』

 

「……承知しました」

 

 

 

不服ながらも、彼はそれで矛を収めざるを得なかった。いくつか気がかりな事があるとはいえ、一時的にでも<勇者>を王国の手駒に出来たのは、この小鳥の向こう側の人物無しでは不可能な事だったからだ。

 

 

 

『とはいえ、君の計画は失敗した、約束は守ってもらうよ』

 

「……分かっております」

 

『うむ、よろしく頼むよ……ところで、アレは今どうしているんだ?』

 

「……今代<勇者>のところに居ます」

 

『おや、直接手を出すわけにはいかないのではなかったか?』

 

 

 

なんでそこまで知っているんだ、と思いながら、なぜそれを知っているのに、とも思う。

 

 

 

「……女神から、<防衛者>が抜けた穴を、埋めるようにと言われたそうで」

 

『女神から、か。ははっ』

 

 

 

それを聞いた相手は、答えを反芻した後に、面白そうに笑った。計画を発動する前、彼から聞いた、この世界にまつわる衝撃的な話を思い出す。

 

 

 

「……その、貴方のお話から察するに、彼は……」

 

 

 

『そうだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼は、』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我々の、そして()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『間違いない。これは確実にそうだ』

 

 

 

相手はそう、力強く断言した。

 

 

 

『ほかに、彼に同行者が居るという話はあるかい?』

 

「……ユウト・シノハラの話では、他に元<聖女>が自分と共になぜか再び召喚された、と話していたとのことです」

 

『……相手は二人か、しかしかえって難しいな……しかし……まあ良い。彼は今のところは、<勇者>に協力しているのか?』

 

「……女神からそう言われたことを同行理由にしているのです。少なくともしばらくは<勇者>に協力するでしょう」

 

 

 

創世の女神リシュテリア様の宣託。それは、この世界において大抵の事を押し通せるパワーワードである。しかし一方で、それを翻すことは出来ない縛りでもある。女神の力によって、異世界から連れて来られた事になっている<勇者>でもだ。

 

 

特に初代勇者は、自ら、女神からのお告げがあったと話していた。それは、周囲に対して彼の行動についてかなりの信頼感を持たせると共に、本人に対しても重い枷となる。

女神のお告げが虚偽であれば、彼は人族亜人族のほとんどを敵に回す事になるし、虚偽でなければ、自分の過去の言動を容易に翻すような言動は取れない。

 

 

 

『……ならまだ大丈夫だな。もし、<勇者>達がこちらに来るような事があるなら、知らせてくれ、準備することは多い』

 

「分かっております」

 

『ではな。くれぐれも、約束を破らないでくれ』

 

 

 

それを最後に小鳥は窓から飛び立った。

 

それを見送り、窓を閉めた。

 

既に自分の計画は失敗に終わったことを告げられた。これからは相手との約束通りに、相手側の計画を進める手伝いをしなくてはならない。

 

 

明らかに嵌められた、という感想しか抱けなかったが、最早取り返しは付かない。それを見抜けなかった自分が悪い。

 

 

情報戦は、手持ちの情報の質が良く量が多い方が勝つ。それは今まで宰相としてこの国の政治に関わる中でよく分かっていた。

 

 

 

 




以上です。


さて、誰なんでしょうね協力者。



それでは感想批評質問等お待ちしております。

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