二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
というわけで
第五十二話、どうぞ!
国王陛下曰く、警備隊の見張の人数を増強し、特に夜間は魔導師も多めに配置する、との事だった。とりあえずこれで早期発見はどうにかなるだろう。
問題は護りだ。王都を守護する、王都大結界。王都を囲う城壁内に設置された結界発生装置、恐らく魔法陣を刻んだ魔道具、によって作られる、王都の守り。それは現状、魔族軍一般兵の攻撃にも耐えきれないレベルでしかない。
比較するならかつてヴァルキリア皇都に存在した皇都守護大結界が、<魔王>の全力でギリギリ破壊出来る程度だったと言えば、その脆弱性がわかるだろうか。
篠原が、王都警備隊から聞いてきた話によれば、結界が弱いのは魔力不足もあるが、現状の出力では結界発生装置も足りないのだとか。
数か……それは多分、どうしようも無いはずだ。となると、単体ごとの出力を上げる方法しか取れない。つまり供給魔力をどうにかする方法。
一回実物を見せてもらいたいね。じゃないと解決策を選択出来ない。
そう篠原に伝えたところ、即日で許可をもらってきた。良くやった<勇者>。
「ああ、成程ね。このタイプか」
守護範囲内から一定量の魔力を吸収することでエネルギー源とする、自然魔力供給型結界。これは魔力供給量を増やせばどうにかなるタイプではない。打つ手は無いことは無いが、今の<勇者>では少々手に余る可能性がある。
「どうにかなりそうか?」
「……後衛魔法職、それからスキル<錬成>か<魔道具作成>を持ってるやつが必要だな。<鑑定>持ちが居ればかなり楽になるが」
設置型魔方陣による固定結界の改良は、少々面倒だ。まずどういう魔方陣が設置され、どの順番で描かれているのか、それらをどのように弄るのか、どうやって描き換えるか。
最初の3つに<鑑定>と魔法職が必要。最後に<錬成>か<魔道具作成>持ちが必要。<勇者>モードの俺なら全部俺だけで可能だが、今代は数人に分ける必要がある。
人材は既に心当たりがある。<魔導師>と<鍛冶>だ。<勇者>パーティーにおける鍛冶は、基本的に魔法付与系の武具防具も扱うために、取得スキルで魔道具作成全般を担う事が可能だ。
俺が出来るのは助言だけ。これの改良に口出しするのはアウトな気がする。せいぜい必要な人材を教えるくらい。
「<鍛冶>と<魔導師>が居れば十分だとは思う」
「わかった、すぐ呼んでくる」
性格に難がありそうとはいえ一応<勇者>パーティーの一員らしく、完璧ではないが結界強化に成功した。皇都守護大結界には及ばないが、少なくとも上級幹部級でなければ破れまい。
とは言え、強化に丸三日もかかるのはちょっとかかり過ぎじゃないですかね。分析に半日、試験に一日半、作成に一日とは。見た感じそこまで複雑な魔方陣でもなかったんだけど……レベル低いからしょうがないのかねぇ……
さて、最初の襲撃から既に四日以上経過している計算になるな。という事は多分そろそろのはずだ。
人族領各地への、魔族襲来の報告が届くのも。
確かに王都
何が言いたいかって、各地は大被害なんで勇者様助けてくださいが始まるんだよ。
基本的に魔族の序盤の動きとして、大都市以外は一度撃退されたら二度と来ない。そりゃそうだ、対処法が確実に強化されているだろうに、そんな小規模拠点を犠牲覚悟で襲う意味が無い。
そこそこの大都市、つまり人族魔族両方にとって確保し続けることに戦術的・戦略的価値がある場所は何度でも襲撃してくる。あとは<勇者>の拠点もか。
逆に言えば、撃退しなきゃいつまでもそこに居続ける。当たり前か。
以上から、<勇者>による人族領行脚が始まるわけだ。
当然俺も同行する事になる。北へ南へ東へ西へ、海を渡り山を越え洞窟を抜け、そんな勇者の冒険がいよいよスタート。
俺達の時は召喚者四人に加え、ヴァルキリア最強の戦士と魔導師が居た。まあ、今回はある程度既にレベルも上がり戦闘経験もある上に人数も29人。現地人が付く必要は無いだろう。
率直に言って不安しかない、が、まあなるようになるだろう。何があろうと俺の責任じゃない、そうだ、俺の責任じゃない。
「国崎」
「なんだ?」
「王国北部から救援要請が届いた。気候が気候だけに魔族も攻めあぐねているらしいが、あそこには兵士も冒険者も少ない」
「つまりそこに行くんだな。いつからだ?」
「明後日出発の予定だ。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないって言っても通るわけじゃないだろ?ああ、安心しろ。どうせ身の回りの私物なんてほとんど無い。いつでも出発できる。ところでお前達はどうするんだ?」
「どうするって?」
「非戦闘職の人間はどうするんだ?」
「……彼等は、希望者だけ連れていく予定だ」
「なら、その中で、俺を信用している奴を誰か、後で俺の部屋に寄越してくれ。可能であれば女子が良い」
「女子?分かった」
「残る人間がいるなら、やる事があるからな、早めが良い」
<
「了解した、可能な限り早くしよう」
「頼むぞ」
その日の夜。時間的には九時ごろ。提供された個室のドアがノックされる。さて、少しばかり長いかもしれない夜の始まりだ。
「こんばんは、石縄」
「──こんばんは、えっと、篠原君に言われてきたんだけど」
入ってきたのは今代<巫女>
「ああ、じゃあ石縄も残るんだな。ああ、そこに座ってくれ──あとは誰が残るか教えてくれないか?ああ、出来れば職業名を付けてくれ」
「私以外には、<調教師>
言われたことを全てメモっていく。名前はカタカナだ。
残るのは10人か。女子8に男子2。戦力構成は前衛2後衛4。<騎士><回復術師><治癒術師>は保険かな?ちゃんと考えているようでなにより。
<結界術師>を残したのはそこそこ大胆だと思う。二人しかいないのに。まあそれはさておき。
この面子なら確かに石縄が適任だな。あとは<調教師>かな?夜襲の時に一緒に行動して話したからな。
「それで、私を呼んだ理由は?」
「その前に質問を一つ、この後……今からだと長ければ日付が変わるくらいまで時間かかるんだが大丈夫か?」
「え?あ、うん」
「なら良し。石縄を呼んだ……と言うかまあ篠原に選んでもらっただけだけだが、呼んだ理由は、俺が北に行っている間の、代理を頼みたくて」
「代理?」
「そう。<防衛者>の代理をしてもらうために、そのために色々教えておかなくてはならない事がある」
この口調選んだの俺だけど面倒だな。威厳的なものを欲してたけどなんか面倒だ。
「<防衛者>は、召喚者の中には一人しかいない。だが一人だけじゃ、どう考えても人族の領土全体を守ることは出来ない、という事は分かるか?」
「うん」
「それを解決するためのスキルを、実は<防衛者>は持っている。<防衛業務委託>、という名前のスキル。名の通り、誰か任意の人間に、<防衛者>の業務を委託するためのスキルだ」
「俺は<勇者>と共に行く。そのため、誰か王都に居る人間で、信用のおける人間、出来れば<勇者>の内誰かに、俺の業務を肩代わりしてもらう必要がある。そこで篠原に頼んだ。誰か残るという<勇者>の中で俺を信用できる人間を連れてこい、とな」
「それで私が……」
「そうだ、俺も納得いく人選だと思う」
「私が?」
「ああ。流石に男子には任せられないのだろう」
信用と言う点と、万が一の戦力という点で。
名前をカタカナで書いたのは、その漢字でそう読む事を知っていると言うことを知られないためです。過剰なまでに慎重に、身バレを避けていきます。
以上です。
それでは感想批評質問等お待ちしております!