二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
とか書いてみたりしてみました。
というわけで第四十七話、どうぞ!
「他に、質問は?」
部屋を見渡すが、こちらを睨みつけるか、俯いて何かを考えているのかのどちらかだ。
睨みつけてきているのは、話を中途半端に聞いた、もしくは言い方は悪いが、考えが足りない奴。俯いているのは全てを聞いて理解できている奴ってところか。どちらにしろ質問は無いと考えてよさそうだな。
「あと最後に。居ないとは思うが、俺に話しかける場合は、敬語を使う必要は無い。以上だ。今代」
「あ、ああ。みんな、話を聞いて分かったと思うが、国崎も何か悪気があって俺を殺したわけじゃないんだ。むしろ、俺としてはあの時止めてもらってありがたく感じているくらいだ。彼は許せとは言わないし許してほしいと思わないって言っていたけれど、出来れば過去の事は水に流してほしい」
「それに、彼は<勇者>だ。いや、今は<防衛者>だけど、この世界で千年前……つまり俺達が授業で習ったあの伝説の<勇者>だ。訓練はしてもらえなくても、助言をもらうだけでも、俺達の大きな助けとなるはずだ……助言、大丈夫か?」
「……助言は大丈夫なはずだ。それくらいなら女神も何も言わないだろう」
既定路線を進むことや、習得可能なスキルはほとんど決定しているのだ。俺の助言で変わるとすれば、スキル習得にかかる時間の短縮くらいだろう。その程度なら誤差の範囲内だから<システム>も見逃してくれる……はず。あとで試してみようか。助言をする時間があるかは別として。いやだってもう魔族の襲撃本格化するだろうし。
「それに、彼がここに居るのも、元は俺達の、俺のせいだ。今聞いた通り、神崎達の本来の役割は、俺達を守り支援する事だ。それを知らなかったとしても、直接の戦闘に向かない神崎と内山さんを、騎士団だけ付けて行かせてしまったのは俺のミスだと思う」
「少なくとも、彼の目的は今俺達と一緒で、しかも力を貸してくれると言う。<勇者>同士で争っている場合じゃないんだ。ここは<魔王>に対抗する、新たな仲間を歓迎するべきだと思う。だから、彼を仲間として認めてくれないか、頼む!」
そう言って頭を下げる篠原。
おお、こいつやっぱり<勇者>というか主人公というか、そんな感じの性格してるな。
「……勇人が言うんなら……」
「……しょうがない、か」
いや別にそこまで頼んでないけど。
「おい国崎」
「なんだ」
えっと、駄目だ。名前が出て来ない。誰だよ。
「勇人は優しいからああ言ってたけど、俺は許さないからな。勇人が言うから報復はしないでおいてやる」
お前人の話聞いてたのか?聞いてないですね(確信)。まあ攻撃されないなら良いけど。攻撃してきても<
「お、おい国崎、どこに行くんだ?」
お話が済んだので帰ろうとしたら篠原に止められた。何で?
「どこって……宿だが」
「王城に話は通してある。君の部屋も用意してあるぞ」
「……手が早いな」
「話を通したのは俺じゃない。騎士団長だ。『前は何もできなかったから今回は』と言ってな」
ああ、成程。今回はそこまで気を回さなくても良かったと思うけどなあ。一応初代<勇者>だし。宰相は野望こそあるが伝説上の存在に喧嘩売れる程のタマではない。
まあ部屋あるんなら使わせてもらうか。宿も無料じゃねえし。
王城の中に居た方が動きは探り易いもんな。
「あと」
「うん?」
「俺の名前は篠原勇人だ。勇人と呼んでくれ。以後、よろしく」
「……ああ、よろしく」
そう言えばこの状態で名前を聞くのは初めてだった。ごめん名前呼びは無理です。
かくして俺は今、王城内の浴場、湯船の中に居る。安心してくれ、男しかいない。
……うん、それはそれで安心できねーな。
「なあ国崎」
「なんだ、ええと篠原」
「勇人で良いと言ったじゃないか……その腕輪は外さなくて良いのか?」
外せるわけないだろ。今のこの顔と声はコイツのお陰だぞ。
とか言えないので、
「……仕組みは分からないんだが、女神様によればこの腕輪をしていることで、俺は<防衛者>でいるらしい。だから外せないんだ」
鉄壁の防壁、女神様発動!
「そうか、女神様の魔道具か。それは確かに外すわけにはいかないな」
「実を言うと外し方も知らないんだ。だからこの任務が終わるまで、俺は<勇者>としての力はほとんど封じられたままだ。死んだら生き返るらしいが」
こんな感じで良いだろ。ずっと外さなくても気にされる事は無い。
ちなみに拳銃は既に収納済み。見つかると面倒だしね。<
現代兵器は見れば一発でわかる物が多い。現地人だけなら<防衛魔法>固有の謎の魔道具でごまかせるだろうが、ここには現代人も居る。うっかり見せて、王国側に伝わってしまえば何かしら情報提供を求められるだろう。
最悪、投獄からの拷問ルート、もしくは今代<勇者>を人質にとっての脅迫……は流石にないとしても、前者は十分にあり得る。後者もどうだろう……利益を前にした人間は欲に目が眩むからなあ。女神の名も知ったこっちゃないとかなりかねん。
まあ、当然大人しくそんな流れになるのを待つ俺ではないが、そんな状況になっては<勇者>の防衛どころではなくなるだろう。それはちょっと困る。
現実世界への迅速な、そして平穏な帰還には、
「なあ」
「なんだ」
「君は千年前<勇者>として<召喚>されたんだろう?」
「そうだな」
「その時、どう考えて戦おうと思ったんだ?」
「どう、か」
「そう、戦おうと決めた事にも何かしら理由だとかあると思うんだ」
「まあ、そうだな」
「俺は、この世界の人を救えるのが俺達だけなら、やるべきだと思って皆で戦うと言ったんだ。だが、既に二人のクラスメイトを亡くしてしまった。今更ながら、俺の決断は間違っていたんじゃないかと思って……全員の意見を聞いて、嫌だと言うなら、その人は戦いから除外すべきだったんじゃないかって」
今更だよなと思いつつも、それに考えが至るだけ、成長したか、とも思う。
「……それで、俺の意見を聞きたいと」
「……そうだ」
「お前の判断が間違っていたかどうか、それは俺よりクラスメイトにでも聞けば良い。俺が戦おうと決めたのは、それ以外に道が無いと知ったからだ」
「それ以外に道が無い……?」
「少なくとも、当時の俺にとって、それが最善の道だった」
<勇者>として<召喚>される。ネット小説でもライトノベルでも、良くあるシチュエーションだ。多分それを読んだことがある者、特に男子なら一度は夢見る状況でもある。
だが現実にそれが起き、良く考えてみれば、そこまで良いことでもない事がわかる。<勇者>として召喚されるという事はつまり、世界の平和を妨げる何かと戦うという事だ、無論命を懸けて。だが、普通に考えて、普段平和な世界で平穏な日々を送る一般人に、そんな事が出来るだろうか。答えは否だ。
無論、召喚されるのが現役の軍人だとか、日々戦いの中に身を投じている傭兵だとか、戦いが暮らしの一部だというような世界から<召喚>される、というなら話は別だが。そんな小説は読んだことが無いので知ってたら誰か教えてくれ。
……思考が横道に逸れてしまったが、つまるところ、実際に自分の身に降りかかるなら、戦うと即決することは出来ない。当たり前だ、何事も無ければまだまだ長く続くはずの人生が、途中であっさり終わるかもしれない選択なのだから。
いくらそれが自分たちにしかできない事だと言われても、自分に何が出来るのかすら分からない状態で、躊躇なく身を投じるのは俺は少なくとも無理だった。
あるいは小説の主人公、<勇者>と呼ばれる者達は、それが可能であり、そして成し遂げたからこそ<勇者>と呼ばれるのだろう。
以上です。
世界の仕組みを知らない相手には、女神様もしくは魔神様は攻撃全て無効の鉄壁防御。
さらっと女神に様を付けない主人公凄い()。
それでは感想批評質問等お待ちしております。