二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
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それでは第四十三話です、どうぞ!
第四十三話 第二回防衛戦の幕開け
シルファイド王国王都から北東へ、二時間ほど馬車を走らせたところに、大きな森がある。ノースファイド大森林と言う名称だが、『蜘蛛の巣』という通称の方が多く知られているとのこと。そこは、ギガントポイズンスパイダーと呼ばれる、蜘蛛型の特殊指定魔物を頂点とした、昆虫型あるいは蟲型と呼ばれる魔物の巣窟であった。一か月半ほど前に、そのギガントポイズンスパイダーは討伐したが。
森の奥にある、少々開けた場所。俺とさくらが一度殺された場所だ。<勇者再生プログラム>が発動した場所。こうなると殺されたことにも意味があったようだ。
「とりあえずやるべきは顔の変更だな」
今回、常に兜を被ったままではいられないだろう。なら顔を変えるとして……どんな顔が良いかな。元の顔から少し弄るとして……そうだ春馬さんの顔にしよう。あの人もイケメンだから<勇者>に合うと思うし、何より一番想像しやすいからな。春馬さんの顔を少しだけ若返らせる。
「<
魔力で鏡を作って微調整する。あとは冒険者証を再び人族へ。最後に声も少し弄って偽装完了。
「さて、篠原の位置は……良し、王都だ。じゃあこっから王都へ行けばいいんだが……」
移動手段はある。足だ。人数的な問題から、俺は<勇者>という名の、魔法と武器の両方を扱う完全なオールラウンダーとなる事を強いられたため、<回復魔法>も使えるから、疲労は考慮しなくていい。なら雷属性の高速移動魔法<
問題はこの森を抜ける方法である。俺の行動は大分イレギュラーなので、できれば魔物とはいえ討伐せずに済ませたい。ちょうどこの時期なら次のこの森の主を決めようとしているだろうしな。ならばとれる方法は。
「<
<三叉水槍>で、前方の植物を刈り取り、魔物は雷属性の<誘導弾>で麻痺状態へ。側面・後方から来る魔物も雷属性の<誘導弾>で同じく麻痺状態へ。
「<雷霆>」
一気に加速する。上空から見たら、何か森の奥から王都へ向けて、何かが射出されたように見えるかもしれない。これに重ね掛けを行う。
「<
風属性高速移動魔法……になるのだろうか?空気を圧縮して任意の方向に噴き出す。当然攻撃や防御にも使える……というかそっちが本来の用途だったような。
<雷霆>は、レールガンのような物だと思われる。魔力の動きが直接見えるわけじゃないから確証は取れないが。当然、放たれたらそれで終わり。地面から離れてやや浮いているので、リニアモーターカー的機構も付いているのかもしれないが、多分推進力は無い。
そのままだと、いずれ空気抵抗で減速してしまうので、<噴流>を後ろ向きに使用。角度を調節しながら王都へ。
空気抵抗がキツいが、まあこれくらいは許容範囲だろう。とっとと<勇者>と合流せねばならん。
「もう一つ──<噴流>!」
「──冒険者の方、ですか」
「はい、そうです」
「冒険者証は?」
「これです」
「Cランク、苗字なし……ケイさん、ですか。はい、ありがとうございます」
随分簡単に王都に入れた。さて、これからどうするべきか。最初は馬鹿正直に<初代勇者>として突入することを考えていたが、理由を説明できないので止めた。
となると、魔族による襲撃が始まってからが良いだろう。それからなら、新たな任務という点でも言い訳が成り立つ。何で来たのって聞かれて、さすがに、全部<システム>がコントロールしてるから知ってるんだが魔族の襲撃があるんだ、とか言えないしな。
一番良いのは、何かこう、ピンチの時に颯爽と入る事。助けてもらった負い目であまり探られたり変に扱われたりはしないだろうしな。
それまではのんびり過ごすとしよう。魔族が攻めてきたらすぐに分かるさ。
王都に到着してから二日が経った。さて、通達が正しければ──正しくないわけがないのだが──今日の正午に魔族が襲来する。
その前に準備はしなくては。まず<初代勇者>としての装備。今回<
「<防衛装備召喚>……これでいいかな」
取り敢えず、腰元に拳銃を召喚。自衛隊のではなく、ニューナンブM60と呼ばれる、警察の装備。警察が発砲するのって、やむをえない場合だけだよねってことで、侵略用途じゃないから召喚できた。
それと<勇者>の基本装備。
「<犠牲>は、あるな。あと……『勇者は永久に孤独なりて、世界に平穏をもたらす者なり』……で合ってたっけ?」
詠唱直後に右腰に何かがぶら下がる。
「合ってた合ってた。神剣<
基本的に<勇者>専用の武器は最大で3つである。<勇者>であるところの所以たる<聖剣>、俺が持ってるような<聖鎧>、そして一定の試練をクリアすることで神から授かる<神剣>のような神授武具。
と言っても確実にあるわけではないようだ。朱梨先輩は<聖鎧>を持っていなかったし、今回だって始まりがイレギュラーすぎる。時期的には丁度良いが、<神剣>の準備はされているのだろうか?
用意されてそうだな、アイツが使うかとかそもそも手に入れられるかは別として。
「では出るか」
時刻は……まあおおよそ午前十一時くらいか。さて、配置はどこが良いだろう。王城の近くか、街の中か。王城の近くで良いか。
幸いにして、正門近くに広場があったので、そこで待機することにした。しかしなんとも平和である。これから戦争になるとは思えな……そういえば王国首脳の話によれば始まってるんだったか。
いやしかし何ともいい天気かつ平和な光景だ。
そんなふうにのんきに構えていたら、ウトウトしていたらしい。不意に響く爆音にはっと顔を上げる。と、王城の一部から煙が上がっていた。
始まったか。
じゃあ行きましょう、戦場へ。
取り敢えず開けっ放しの門から王城に入る。門番はどこかに駆り出されたらしい。<聖鎧>を展開しつつ、煙が上がった方向へ向かう。訓練場かな?近づくにつれ、怒号が聞こえてくる。
「<魔力感知><周辺警戒>」
一度殺されたせいで、王城の人族もかなり多くが赤く染まっている、非常に判りにくい。
見慣れたそこそこでかい黄色の反応が<勇者>、その次にでかい黄色が<魔導師>か?そいつらと向き合ってる赤いのが恐らく魔族……
ところで<勇者>は気づいているのだろうか、何か恐らく<勇者>パーティー後衛組が集まってると思しきところの至近に、魔族っぽい
あの様子だと気付いてないな。近寄ってみないと分からないが前衛組はほとんど魔族との戦闘状態にあるようだ。魔族の数は全部合わせて……十人程か。前に居る奴だけでも魔力量的に太刀打ちできるのは<勇者>パーティーと騎士団長と魔導師団長くらいか。相変わらず嫌な編成してくるな<システム>。
このままだと後衛が殺られるな。それを防ぐのが<防衛者>。ならやってみましょう。
以上です。
はい、第二回防衛戦、幕開けです。この防衛戦、少なくとも五回はあります、多分。魔族相手だけで、です。
基本その間、主人公二人は別行動なわけです。
女子三人旅の方は、多分閑話として時々出てくると思います。
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