二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
千年前の戦争、魔王に対し休戦を持ちかけた勇者。
彼等はどんな経緯で共闘するに至ったのか。
というわけで過去編最後です。
第三十八話、どうぞ!
「……貴様はつまり、俺達が神によって操られている、そう言いたいのか?」
「そうだ」
「……随分と舐めたことを言ってくれるな……それは魔族だけでなく同時に我が主神ラボルファス様も侮辱することであると分かっているのか?」
「
「実際に今、我が主神ラボルファス様は人族の主神たる女神を倒し、<勇者>の力を削ごうとしておられる」
「そう言う事じゃあない。なぜ神は、毎度のごとく、協調を選ぼうとしないのか、そう思わないか?戦争で、や普段に、ではなく」
「それは……相容れないからで」
「人同士は相容れない、だから力を以て決着する……日常的にそんなことをするか?人族は最初は話し合って、解決する。あるいは解決できずとも、同じ目標があるなら協調は出来る。これは魔族にとっても同じじゃあないのか?」
「……同じ目標は」
「あるはずだ。自分を信仰している種族の繁栄、とかな」
「だがそのためには人族が」
「必ず邪魔になるとは限らないだろう。寧ろ、戦争で片方が片方を滅ぼした場合、犠牲も大きい」
窮鼠猫を噛む、という言葉がある。こちらの世界では、ゴブリンでも竜に挑戦する、といった言葉になっているようだが。
領土拡大目的だけでなく、相手の種族の屈服・殲滅をもくろむならば、当然相手も死力を尽くし、取り得る全ての手段で以て対抗する。そうなれば犠牲も多く出るだろう。こちらが相手より格段に勝り、量を質でねじ伏せることが出来るのならば別だが。
しかし実際のところ、魔族は人族に比べ、魔力・体力的に優位といった程度であり、個々人にそれほど圧倒的な差はない。光・聖属性魔法が対魔族特効を持つ事を考えるとむしろ不利である。
つまり人族を滅ぼそうとするならば、魔族側も壊滅的被害を覚悟して挑む必要がある。
本当に魔神ラボルファスが魔族の繁栄を願うならば、そこまでの被害を要求するだろうか、いや、しないだろう。
そこから<勇者>が言いたいこととは。
「──この世界の住民が信じる神は、本当に、
「女神教の教義には、協調と融和の大切さを説く内容もある。ではなぜ神々はそうしないのだ?」
「それは俺達が潰しあう事で何かしら神に利益があるからではないのか?つまり、彼等は利己主義者ではないのか?」
「……貴様はそれを俺に聞かせてどうしようと言うのだ」
「<魔王>、貴様は先ほど、俺に休戦を提案した理由を聞きたがっていたな。それと同じだ。もし、この戦争が神によって操られた結果起こっているのだとしたら、苛立たないか?」
「魔族と人族が、互いに抱いている憎しみが、殺意が、神によって操られているのだとしたら、そのせいで争うのは無意味だと思わないか?」
「──貴様の発言が真実である根拠は?」
「ない。が、仮に俺のここでの発言が全て俺の思い込みによる誇大妄想の結果だとしても、休戦することにメリットはある」
「メリットか」
「そうだ。まず、互いに余計な犠牲を出さずに済む」
「外では既に戦闘が始まっているぞ?」
「人族には既に、相手に致命傷を与える事が無いよう、低階位もしくは拘束系の魔法を使わせている。近接戦においても、致命傷を与えてはいない。後退させるだけの負傷は負わせているがな。こちら側の死傷者も最低限に抑えているはずだ」
「なんだと?」
「だから想定通りであれば、今戦場では負傷者多数が出ているが戦死者は少ないか皆無のはずだ」
「……了解した。メリットの話を続けろ」
「二つ目、人族側には、いくつかの技術の提供、それと魔導師派遣の用意がある」
「……目的は」
「こちら側の技術や魔法を伝える代わり、そちらの魔法や技術が欲しい、そういう事だ。そちらには人族の持たない技術や知識、魔法がある。無論同様なことは人族にも言える。それらを集めて、互いの技術を高めようという事だ。無論、軍事・国家機密程のレベルではないものだ」
人族のみ、あるいは魔族のみが所有し、どちらの役にも立つ、しかし軍事・国家機密にはならないほどそれぞれの市井に普及している魔法技術。縛りが多く、一見この条件に当てはまる技術などないように見える。
しかし、実際には多く存在する。
例として人族側からは、農業に関する魔法が挙げられる。
元々種族特性として闇・魔属性魔法適正が非常に高い魔族は、その他の属性の魔法の研究は進んでいなかった。なぜなら闇・魔属性の魔法は、大抵の事は何でも出来るからである。だが、植物の育成など、生命に正の影響を与える魔法は闇属性には存在しなかった。
生命に正の影響を最も多く与えるのは光・聖属性であるがこれらは魔族にとって弱点属性であるから扱えない。しかし、風属性やその派生の植物魔法なら魔族にも扱える。しかし上記の理由から研究が進んでいなかった。
一方で人族は闇・魔属性であっても何ら問題なく扱えるので、様々な属性で、同じような効果を持つ魔法が多く人口に膾炙していた。
逆に魔族側から提供できる技術として、魔物を抑える魔法がある。魔物とは、何らかの原因によって、動物が魔力に“染められる”ことで発生する生物であり、無論魔物同士の交配でも増加する。
これらの魔物は、生息地に求めるリソースが元となった動物に比べ多いのか、よく人里に出てきては、畑を荒らしたり家畜を襲ったりする。ゴブリンやオーク等、人型の魔物なんかは苗代にするべく、人族の女性を攫ったりすることすらある。
さらに、一時的に何らかの原因で、ある魔物の数が急増した場合、魔物大暴走と言って生息地から一斉に出てきて、村や町を襲う事がある。その原因は自然的なものから人為的なものまでさまざまだ。
人族はこれらの魔物による被害に対し、魔物を武で以て撃退するという方法をとっていた。人族が扱う魔法の内、光・聖属性魔法は魔物にも特攻効果が存在したためである。
一方で、魔族は、魔物を“宥める”ことで被害を抑え、落ち着いた後で討伐、もしくは従えることで解決を図っていた。
流石に従える魔法については軍属の魔物調教師しか使えないが、その前段階の宥める魔法は、一般に普及していた。
<勇者>が提案したのは、それらを交換し合おうという事である。人族側は魔物をより安全に討伐できるようになる。魔族側はより多く食料供給が可能になり、両者ともにより繁栄できるようになる。
「言葉で話して分かり合おう、とか同盟を組もうと提案するわけではない。ただ、お互いの繁栄のために停戦しようと言っているだけだ」
「……それを俺が受け入れると?」
「受け入れるだろう。感情に流され、より多くの犠牲を出すか、矛を収め、更なる繁栄を求めるか。選択肢はこの二つだ。貴様はここで感情論を選ぶ程愚かなわけではあるまい」
「それでうまくいくと思うのか?」
「そのための
「……良いだろう、承知した。契約を破るなよ」
「わかっている。そしてもう一つ、これは俺個人から貴様個人への依頼だ。お願いと言っても良いか」
「なんだ」
「こうやって俺と貴様の世代は合意を締結できた。だが、もし神が<魔王>と<勇者>を戦わせることで遊んでいるのなら、いずれまた同じことが起こるだろう。だから魔王、力を貸せ」
「何をしろと」
「神を、倒す」
「……良いだろう、力を貸してやろう。だが忘れるな、我々魔族は、人族となれ合うつもりは無い」
「力を貸してくれるならそれで十分だ」
「『魔王、力を貸せ』」
「……やめてくれ、アレは俺にとって大分黒歴史なんだ」
「『力を貸してくれるならそれで十分だ』」
どうやらこいつは俺を恥ずか死なせたいらしい。
「で、そのあとは?」
「さくらの話の通りだな。外に出たら爆心地だった。さくらと陽菜乃さんの遺体を連れて<
「ああ……なるほどね、お疲れ」
「と、まあこんな事があったわけだ……っと、右正横に、ありゃあ聖都かな?何か真っ白に輝く塔が見えるぞ」
「うん、アレが聖都よ」
「まだ先は長いかあ……ま、いっかもう」
「戦争始まるのは確定みたいだしね」
以上です。
<魔王>が話に乗るのが早い、と思われるかもしれませんが、今回の<魔王>がそういう人だったってだけの話です。というかむしろこれが<魔王>の素です。
普段の人族必殺は<システム>による思考誘導です。<絶防ノ盾>含む<聖剣>の固有能力は<システム>管轄下ですが<システム>の能力を凌駕します。なので<絶防ノ盾>内部の<魔王>は思考誘導から解放されてるので素が出てます。
質問感想批評などお待ちしております。
それでは今年も本作品をよろしくお願いいたします。