二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
それでは第三十六話、どうぞ!
かつて、東西冷戦時代に米国存在した、とある重要な軍事任務があった。俗称は水爆パトロール。
水爆を搭載した戦略爆撃機が、常に何機か陸上から離れて空中に存在し続けるこの任務の目的は、いわば共倒れである。本国が相手の放った各種核ミサイルによって壊滅状態に陥った場合、つまり指揮系統ズタズタになり、対抗が出来なくなった時に、最後に報いる一矢として、相手にも水爆をお見舞いするというもの。
が、冷戦時代にそんなことを想定しているのは当然ながらその中心である米ソの二大国。
現代ですら地球上に存在すると言われる全ての核兵器を使用すると数十回地球が滅ぶと言われているほど。
当然ながらこの二大国が核すら用いて全力で殴り合えば、地球は完全に滅びる。
ここから転じて、やがてその任務は、世界最後の日、すなわち
「魔法名は多分コレ。ただ機体がどう見てもソ連機な上にアレ改造機だから多分」
「つまりその史上最大の核兵器とやらが載ってるの?」
「恐らくな。しかも多分アレは……」
《同時発動数12》
《投弾用意》
システム音声のような声──世界の声、あるいは神の声とも称される正体不明の声が、発動を告げる。その瞬間、編隊が解かれ、4機はそのまま旋回を続け、残りは魔方陣を中心に8方位へ向け飛び始めた。
《基準点に到達》
《投弾》
号令とともに12機全てが投下。その数は1機当たり1発。
「!やはりかっ!<
いつも使っている魔法に加え、さくらが知らない魔法まで利用し、投下された一発の塊の下、自分たちの頭上に壁を展開していく。
「……春馬さん、教えてください、アレは何ですか?」
「言っただろ、史上最強の核兵器。ツァーリボンバだよ。ああ……お前達核兵器っつーとトールボーイとかファットマンくらいしか知らんのだったな」
ツァーリボンバ。単発兵器としては
当然そのサイズは教科書に載っている原爆より遥かに大きい。
致命傷を与えうる範囲は半径58キロ。一発だけでもこの戦場ごと滅ぼせるほどだ。
しかしこれは実験時の値。ツァーリボンバ本来の威力のおおよそ半分。魔法で召喚しているからには、元の威力以上である可能性も否定できない。しかも12発。
全て起爆すれば確実に殲滅される。
「……来る!」
一番上、高度6000地点に張った<絶対障壁>に爆弾が接触。
しかし、落下による運動エネルギーのみで砕かれた。
「……無理か」
そのすぐ下の<神楯>から魔力弾が放たれるも、外殻に阻まれ、通過を許してしまう。
直後、爆弾のすぐ真下に閃光が走ったかと思うと、接触面が一気に爆発する。<反応障壁>の効果。着弾する前に装甲自体の自爆によって誘爆、あるいは直撃を逸らさせようというもの。
が何事も無かったかのように通過。
「やっぱ無理かあ……しゃあない、また生き返ってから会おうぜさくら、<絶対障壁>」
「え?」
《起爆高度に到達しました》
《起爆》
次の瞬間、さくらの視界は真っ白に塗りつぶされた。
「──え、何それ、そんな事起こってたの?」
「ええ、そうよ、最初で最後の<報復魔法>の発動。あ、あと最後から二度目の<防衛装備召喚>発動でもあったわね」
「じゃあそのあと春馬さんは<防衛装備召喚>は……」
「封じたわよ。だからだったのね。よく考えればケイと春馬さんが高レベルで共闘したのはあれが最初だったわ」
「ああ、そのあと使ってないなら俺は見れてないな……でも何で封じたんだろ」
「わからないわよそんな事。聞いても教えてくれなかったもの。『気付いてないならそのままで良い』とか言ってたし」
気付いてないならそのままで良い、ねぇ……めっちゃ意味ありげな言葉だな。うーん……『気付いてないなら』ってことは春馬さんは何かに気づいたんだろ?タイミング的には<報復魔法>発動時に。
何か隠された意味とか新たに気づくことなんてあったか?
<報復魔法>と<防衛装備召喚>の違い?いや、<現代兵器召喚>との違い……
「あの……」
「ん?」
「結局発動した後とか、<魔王>との会談ってどうなったんですか?」
「じゃあとりあえずさくらから」
「えっとね、ああ、視界が真っ白に塗りつぶされたのは話したわね。そのあと……」
反射的に目をつぶったが、それでも瞼の裏が明るくなるほどの強烈な閃光。視界が回復するのに数分が必要だった。
漸くまともになったところで、目を開けた。
がすぐに誰かの手によって塞がれた。
「春馬さん?ちょっと手が」
「見るな。目を閉じていろ、これは見れたもんじゃない、見る必要は無い」
「へ?」
「俺達は死ななかったか……術者とそのパーティーは免除されるのか?<
「ちょっと春馬さん」
「良いから目を閉じろ……放射線は……ほぼ0?!残留放射能が無い?!」
わけもわからぬまま、しかし春馬の口調から只事ではないと悟り、素直に目を閉じる。
「閉じたわ」
「良し。啓斗が出てきたらすぐ<
「あ、ああ」
「わかった」
「それからはケイも知ってる通りよ」
「それでお前あの時目を瞑ってたのか……俺はてっきりアレを見たから目を閉じてるのかと」
「アレ?」
「うん……なんていえばいいのかな、地獄絵図?」
あれはちょっと……うん、見たいものではないな。<魔王>も目を背けていたから、だいぶなものではなかろうか。
「……どんな感じ?」
「……原爆投下直後の写真まんま、ただしフルカラー」
もしくはそれ以上かもしれない。春馬さんが恐らく戦場全体に張った<絶対障壁>に加え、多分、全力で魔法障壁を貼ったのだろうが、出力で押し切られたらしい、魔道士の焼け焦げた死体だったり、恐らくは再生途中なのだろうが、人間かどうかすら怪しい肉塊だったり。
発動直後なら、恐らく鎧を着ていた騎馬兵なんかが一番グロかったのかもしれない。
「……なんてこと」
「お前は見なくて正解だった、あれはキツい、精神的にな。春馬さんは多分、直接ではないにせよ引き金を引いた責任からか、目に焼き付けるレベルで見ていたが」
たまたまさくらがあらかじめ<蘇生魔法>の開発に成功していたからいいものの、その必要性を感じていなかったら、自分の怒りが元で数千人数万人を殺していたところだったのだ。
しかもこの世界には存在しない
「じゃあ次はケイね」
俺とさくら、前世で核兵器・原爆の被害を知っている理沙が発する重い空気を振り払うかのようにセレスが言った。
以上です!
ようやく自分が書きたかった場面を書けました。
異世界に核兵器を持ち込む、しかも魔法で。
実はこの場面は、自分が最も書きたかった場面であると同時に、この作品の原点でもあります。最初は主人公にやらせる予定だったのですが、それだとだいぶ先の事になってしまいます。それに物語を再編し、新たな設定を組み上げたとき、どうしてもここで主人公に"気づいて"もらう必要が出てきたため、春馬さんにやってもらいました。
ちなみに<報復魔法>はかなり特殊な状態に備えて作られた魔法なので、術者から見ると全自動発動型の魔法になります。術者の意思に関わらず、です。
文中に出てきた<反応障壁>ですが、モデルはまんまですね、爆発反応装甲です。
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