二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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昔話です。

魔族との事実上最終決戦。まずは、<聖女>その他側からです。



それでは第三十四話、どうぞ!





第三十四話  千年前の戦争Ⅰ

──千年前。ヴァルキリア皇国南部、トランザニア平原。

 

人族側の天幕に、伝令兵が駆け込んでくる。

 

 

「<魔王>が出ました!」

 

「行くか」

 

「ああ」

 

 

それに応じて六人の人影が立ち上がる。元ヴァルキリア皇国近衛騎士団団長ザイドル・フォン・プラシュニッツ、魔導師シュレスタ・リーゼル・セルバシュタ。ヴァルキリア皇国でも名を知られた2人の実力者。それに続いて、1人の少年、1人の青年、2人の少女が出てきた。一見この場に相応しくないように見えるほど若いこの4人に、しかし伝令兵は跪いた。

 

 

 

彼等4人こそ、<魔王>に対抗するために異世界から<召喚>され、これまで各地で魔族の侵攻や魔物の跳梁を阻止してきた者達。<勇者>神崎啓斗、<聖女>内山さくら、<防衛者>国崎春馬、<支援者>中岡陽菜乃、以上、初代<勇者>パーティーである。

 

 

 

「配置は?」

 

「俺とザイドルさんで前線を張ります。春馬さんとさくらは中衛を、中岡さん、シュレさんは後衛をお願いします。行きましょう、今日が勝負の分かれ目です」

 

 

まだ戦闘が始まってもいないのに、そう告げる啓斗。その言葉に頷く5人。そう、今日こそが、()に対抗するためのその第一歩、魔族との講和に踏み出せるかどうかの分かれ目。ここで啓斗が<魔王>と戦いながらも説得できるかどうかが重要なカギとなっている。

 

 

「膠着に持ちこんだら固有スキル使います、その間の戦闘は春馬さん」

 

「わかっている。可能な限り犠牲者を出さないようにしよう、人族兵士には既に?」

 

「告知済みです。理由も告知済みです」

 

「……従ってくれるだろうか」

 

「……命令だと伝えてあります、命令違反は厳罰ですから、従うでしょう」

 

 

苦笑して見せた現団長。確実に従うよう、厳罰を添えた命令と言う形で発したが、それは同時に、誰かの命令違反により作戦が失敗した場合、その責任を彼が背負うという事にもなる。

 

 

 

魔族と講和するため、<魔王>との直接対話を試みる。そのために可能な限り殺さず、戦闘不能に陥らせるのみとせよ。

 

 

 

人族兵士の中には、家族を魔族による侵略で失った者も多い。特に戦災孤児も居ると聞く。魔族への恨みや怒りを抑えきれるだろうか。

 

 

「……ありがとうございます。啓斗、行くぞ」

 

「わかりました。では、行きましょう。この世界に恒久の平和をもたらす第一歩です」

 

 

その声と共に走り出す六名。この世界に於ける人族の最上位者と、異世界から召喚された<勇者>達のスペックは高く、恐ろしい勢いで魔族本陣へと突入していく。包囲しようとする魔族に対し、人族陣営から雷属性の麻痺魔法と水属性の拘束系魔法が次々に放たれる。今のところは全員が命令に従っているようだ。

 

降り注ぐ攻撃は前衛か春馬が弾く。<神楯(イージス)>により致命的な攻撃が迎撃され相殺され、残りは<聖剣>と神授剣が弾く。

 

 

「……魔王はどこだ……」

 

 

右手で攻撃を弾きながらも、その感覚のほとんどを魔王を探すことに費やす啓斗。<魔力感知>で周辺を探る。

 

 

 

 

そしてやがて無傷の、最大の敵勢力の中に、ひときわ大きい魔力反応を発見した。

 

 

 

 

「見つけた、全員続け」

 

「了解!」

 

「……シュレスタだ、魔王を見つけた、作戦を第二段階へ移行しろ」

 

 

陣形が変わる。啓斗が突出し、ザイドルが攻撃をさばき始める。陽菜乃が防御力上昇、攻撃力上昇の支援魔法をかけ、わずかに出来る傷もさくらが回復する。飛んでくる魔法攻撃は<神楯>が相殺し<絶対障壁(バリア)>が弾く。防ぎきれないレベルの攻撃はシュレスタが障壁を展開し多重防御、同時に<反撃魔法>により自動で攻撃が飛んでいく。さらに周辺へ人族魔法使いによる非殺傷系魔法が降り注ぎ、低ダメージで戦闘不能に追い込んでいく。

 

啓斗は前に立ちふさがる魔族を一撃で無力化しながら魔王へ突進する。だが決して殺しはしない、そうでなくては命令の意味がない。

 

そして魔王のところまでたどり着いた。周辺に群がる魔族を雷属性<範囲麻痺>で無力化した後、<聖剣>を掲げ、叫んだ。

 

 

「『我が孤独は絶対なりて、我が望まぬ如何なる物の侵入も許さず』<絶防ノ楯(ソリチュード)>!」

 

 

次の瞬間、巨大な障壁が、啓斗を中心に展開。周辺に転がっていた無力化された魔族達は、それに押しのけられるように、外側まで転がっていた。障壁は常に光り輝き、中を見ることが出来ない。

 

ザイドルはそれを見て

 

 

「とりあえずお膳立ては完了したか……しっかり頼む、出来るだけ短めにな、ケイト」

 

 

と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<聖剣・孤独(ソリチュード)>の固有技能<絶防ノ楯>によって、魔王と二人、他の何にも邪魔されないような状況を作り、対談に持ち込む。

 

 

 

それが今回の作戦。下手をすれば魔力切れレベルまで戦い続けるために、万が一の援護が必要なので、ザイドル達はこの場にとどまり続けなくてはならない。

 

 

彼等の役割は橋頭堡。彼等へ向け、人族部隊が道を作り、回復薬を補給する。人族部隊の応援により魔力残量を気にする必要がなくなったザイドル達は、障壁を取り囲むように展開する。ザイドル、シュレスタ、春馬は単独で、さくらと陽菜乃は二人一組で。二人とも銃を手に持ち、交互に魔族を迎え撃つ。それは春馬が<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>で召喚したもの。本来の彼女たちならば反動や重量が大きすぎて持てるわけがない機関銃。それをレベルによる能力補正で完全に抑えきっている。

 

 

<防衛装備召喚>という魔法によって生み出された銃は、弾薬補給不要、銃身過熱無しというチートも良いところな兵器。その銃身は常に鉄の塊を吐き出し続け、魔族軍を薙ぎ払う。交互に立つのは、魔法を行使する時間を作るためである。定期的に回復魔法と攻撃・防御上昇の支援魔法がザイドル達に降り注ぐ。

 

 

 

後には味方、前には敵のみ。これほど戦いやすい状況は無い。だから油断していた。

 

 

 

 

 

 

 

人間とは、時に自分の欲のために何でもする生き物である事を、忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

とある人物にとって、今回の動き──魔族との講和は決して望ましいとは言えない結果であった。

 

 

 

 

 

彼女──陽菜乃にとってそれは唐突だった。いや、この場に居る者のほとんどにとってそれは唐突だっただろう。

 

降り注ぐ大量の支援魔法に混ざった僅かな敵意。それは春馬にむかったものではなく、また攻撃魔法自体は多く飛んでいた。よって彼の反応は一瞬遅れた。その一瞬はかなり致命的であった。

 

 

 

 

 

感じ取った悪意、それは地属性魔法第二位のスキル<石槍(ストーンランス)>。普通は召喚者にとっては大した脅威ではない。しかし、後ろががら空きで、急所──心臓などを正確に撃ち抜かれた場合、動物の常として、死に至る。

 

 

 

 

 

<支援者>中岡陽菜乃が、心臓を貫かれ、死んだように。







以上です。


……殺されちゃいました。まあどこの世界にも平和を望まない人間は居るものです……よね?


それでは感想質問批評等お待ちしております。

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