二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
レポートとテスト、携帯(データ)の故障等が重なり、気付けば一ヶ月が経過しておりました。
今更ながらの恐る恐るの投稿です。
それでは第三十二話、どうぞ!
「んで、コレは何があったんだ?」
<転移>先は前回戦闘があった平原。そこに居たのは公国騎士団長と、<勇者>パーティーの面々だった。
「お待ちしておりました<初代勇者>様」
「ん?ああ。それでこれは何だ?」
「その、<勇者>様が」
「騎士団長殿、俺達から話します」
「ではお願いします」
さあ説明求むぞ今代。
「何か、俺に用か、今代」
「そうだ、だがその用件を話す前に一つ言いたい」
おいおい横槍入れんな、お前には聞いてねえよ<槍術師>。
「なんだ」
「その兜を取れ」
は?
「なぜその必要がある」
「今後も、俺達と貴方は会う可能性が高い。本人確認が出来るように、顔を見ておきたいのです。ダメですか?」
「ダメだ。その理由は複数ある」
「なぜです」
「まず一つ。単純に俺は自分の顔を人にさらすのが好きではない。まあこれは俺の気持ちの問題だな。そして、この兜は、俺が展開させている<聖鎧>の一部。コレだけを外す事は出来ない。俺はこのような会合に丸腰で出るつもりはないのでな」
「なら護衛を付けてくれば良い」
「我がパーティーメンバーは、この世界出身の者は既に亡くなり、また共に召喚された仲間も再召喚されたのは<聖女>のみ、むざむざ人質になるような人間を連れてくるような愚行はしない。我ら<勇者>は不死身であれど、<聖女>は不死身ではないからな」
まあ<緊急蘇生>の多重行使で疑似的不死身にはなれるし、<聖女>と言うが、聖属性・水属性攻撃魔法なら全部使える大分攻撃的な<聖女>だけど。
「最後の理由は簡単だ。俺とお前たちが今度このように会う事はほとんどないからだ。会うとすれば戦場、それも敵としてであろうな。お前たちがこのまま、一国の走狗である事に甘んずるのなら、の話だが」
「な……敵として、だと……」
絶句しているようだが俺に首チョンパされといて今更じゃないかね?
当たり前の話であるが、<勇者>は人族全体に属するべき物。高々一国がどうこうして良いもんじゃない。
「当たり前だろう。<勇者>とは何か、お前達は知らぬのか?<勇者>は魔族、特に<魔王>に対する人族の切り札。いずれ来る人族と魔族の戦争において、人族の先頭に立つのが役目。俺もその役割を果たした」
まあ<魔王>を殺したわけじゃないけど。
「一方でお前達はどうだ。なぜ人族の内戦において一勢力に加担する。お前達の役割は、内戦を止め、人族を一つにまとめ上げる事だ。それがわからずに同族相手の侵略を続けるというのなら、俺は何度でもお前達の前に立つぞ」
さて、では改めて。
「話が横に逸れたな。用件は何だ、今代」
「この国に同盟の申し出をしに来たのです」
「馬鹿だろう」
おっとつい本音が。
「つい一週間ほど前に大々的に宣戦布告した挙句侵略戦争して、今更同盟の申し出とは」
「それは……」
「まあ良い。それで、その同盟の内容は?」
「……これだ」
<賢者>が出してきた用紙を眺める。
ふむふむ……大分綺麗にまとまっているし、内容もあまり偏っていない。上出来だね、コレは忠告が効いたかな?ただまあいくつか呑めない項があるね。
「ふむ、良いとは思う。だが、この三つ目の『初代勇者の戦闘参加』という項、それから五つ目の『初代勇者による鍛錬』は不可能だな」
「……なぜです?貴方も<勇者>ではないのですか?」
「そうだな、俺は確かに<勇者>だ。だが<初代勇者>であって、その役割・義務は千年前に既に果たし終えている。今、俺がこの世界にいるのは、別の役割を背負っているからだ」
「それはどういう……」
「悪いがそれは話せない。特に<勇者>には、な。何、<勇者>としての使命を果たせば、自然とわかるものだ」
まあそんなこと万が一にもありえないことだけどね。だって魔王……は居るけどシステム上の<魔王>は居ないんだから、<魔王>の役割が居ないんだから<勇者>の役割なんて果たせるわけがない。今代魔王を打倒したところで<システム>には認められないだろうし、魔族を全滅させてもまたどこか山奥で生き残った
<システム>とはそういうものだ。魔物も動物も魔族も人族も、絶滅することは無い。仮に動物の一つの種を絶滅に追い込んでも、数十年後ぐらいに、秘境の地的なところでひそかに繁殖しているのが再発見される。例えば竜の縄張りの中心近く、例えば中央縦断山脈の奥、人族・魔族が踏破できていない場所など、星の数ほどある。
「そしてその役割において、俺は人族と魔族との戦争に介入する術を全て禁じられている。俺指導の訓練もそうだ。直接参戦など以ての外だな」
「でも貴方が参戦してくれればより少ない犠牲で魔族を亡ぼすことが」
「出来るだろうな」
レベル200の化け物参戦させたらそりゃあ魔族なんて一掃できるだろう。でもそれじゃあ戦争の意味がなくなるんだよなあ。まあ今回<魔王>居ないから<システム>が戦争を始めるかどうかはわかんないけどさ。
「ではなぜ!」
「それが決まりだからだ。破ればそれなりの罰がある。まだ受けたことのある者が居ないから、どういうものかは知らんがな」
「そんな訳のわからないような、あるかどうかすらもわからないような罰の為に、人々を見捨てるというのか!」
そういう聞き方なら、
「そうだ、俺は自分の身の安全が第一だからな」
こういう答えになるかな?どこかの物語の悪役の台詞っぽいな。というか当たり前だろ、相手は仮にも神だぞ。
「お前……お前はそれでも<勇者>か!」
「その役割は千年前に終えた。それに一つ聞くが、<勇者>が命を大切にしないで、どうするんだ?」
人族の戦力の中で、<魔王>と相対出来るのは<勇者>だけだ。<聖剣>の加護により、簡単には死なない体になっているとはいえ、何事にも例外がある。死亡してから<蘇生魔法>が発動後完了するまでに<聖剣>が壊されてしまえば、その瞬間に<勇者>は完全なる
死ぬ場所が後方なわけが無い。いや、暗殺とかなら有り得るが、それでも、だ。<勇者>が「死んでいる」間、<聖剣>を守らなくてはならない。もしかすれば<勇者>を超える力の持ち主と交戦する必要もある。<聖剣>を守りながら。
死体を守る必要は無いが、死体の損壊度が大きい程蘇生には時間がかかる。つまり交戦時間も伸びる。うん面倒だね。
つまり<勇者>の<聖剣>連動型不死身システムは、実のところ使い勝手が大分悪い代物だ。それでも俺も何回か命を救われちゃいるがね。
まあ大抵の場合、<魔王>もしくはその手下は<勇者>を仕留めたことで満足して帰るので、大して問題になっていないのが実情である。
この辺りも大分ご都合主義が絡むが、まあそれはおいといて。
「<勇者>の再生とて、無条件ではない。<聖剣>とともにあってこその<勇者>であり、不死身だ。万が一、俺達の再生中に<聖剣>が壊されてしまえば、それは人族にとっては終わりを意味することになるぞ」
「……だが、だからと言って後ろに隠れているばかりでは」
「誰が後ろに隠れると言った。ああ、これは俺の言い方も悪かったかもしれない。もっと命を大切にしろと言ったんだ。今の自分では到底かないそうにないと思ったら迷わず逃げを選択しろ。<勇者>は一度しか呼べないんだ。死んだから代わり呼びますと言うのは不可能だからな?それをしっかり理解しろ」
「さて……騎士団長、大公閣下はこの条件で頷かれるだろうか?」
「こちらにお呼びします、おい、誰か。大公閣下をお呼びしろ」
「はっ!」
「さて、今代<勇者>諸君。二回目となるが、先達として改めて忠告しておこう」
「なんですか?」
「すべて自分の目で見て、自分の頭で判断しろ。戦場において頼れるのは自分だけだ。例え相手が例え人であれ、感情だけで手を抜くな。決してこの世界の者に頼りすぎるな。我らは<勇者>、世界を救う者だ、良いか、人族をじゃない、世界を救う、世界を維持する者だ。それを肝に銘じろ」
これだけ言えば十分だろうか?というかさっきから視界に警告メッセージが大量に浮き出てものすごく見えにくいんだが。やっぱこの発言だと警告に引っかかっちゃうか。
「……貴方様が初代<勇者>様ですか?」
後から声を掛けられたので振り返ると、そこには40代に見える一人の男性が立っていた。<鑑定>。
……そうか、この人が大公か。
「初めまして、大公閣下、お呼び立てして申し訳ない。私が初代<勇者>です」
「いいえ、構いません、私としてはむしろお礼申し上げます。先回は、我が国騎士団をお助けいただきありがとうございました」
「いいえ、アレは私の仕事です。なので気になさらずに。それよりこちら。シルファイド王国からの同盟締結の文書になります」
「拝見いたしましょう……ふむ、問題はなさそうです」
「わかりました…………だそうだ。俺に関する条項以外はOKらしい。だからそれを持って王国に帰れ。俺が忠告したことを守っていれば、俺と会う事も無いはずだ」
これだけ念押ししておけば大丈夫……だよね……くっそ不安なんだけど。特に今代<勇者>。本人自体はそこまで危険でもなさそうだが、周りがな。<槍術師>なんて今でも俺を睨んでるし、<魔導師>はさっきから魔力を練って、拘束系魔法を撃とうとして、そのたびに俺が魔法を解体している。お前らは何がしたいんだ、<勇者>だろ。
「では──────ああ、そうだ、今代。一回、<防衛者>と<支援者>の弔いくらいは行ってやれよ。お前がそいつらの分まで働かなきゃいけないしな」
「あ、ああ」
「じゃあな──<
しかし自分で自分の弔いを頼むってのも変なものだな。
はい、二度目の接触です。
以上です、それでは感想質問批評等お待ちしております。