二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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はい、数日ぶりです。とうとう始まってしまいました後期。前期の反省を活かし、フル単出来るよう頑張るため、更新スピードは落ちます。


それでは第二十八話、どうぞ!


第二十八話  転生者

翌朝、午前五時。身支度を全て終え、セレスが買ってきた食料品や消耗品を<空間収納>に放り込んだあと、宿を出る手続きを終える。外はまだ暗く、人もあまりいない。わずかに老人が散歩していたり、何かの店の店主が準備をしているだけだ。

 

 

この時間を選んだ理由は二つ。と言っても最終的には一つに絞られるが。

 

 

まず一つは、スムーズにこの街を出るため、である。南の大国の首都なだけあって、皇都リゼヴァルトは人の出入りが多い。日の出以降は門がかなり混雑する。ベストなのは夜から夜明け前なのだが、昨日まで牢獄暮らしだったであろうレイシアの事を考え、休息をとった上での出発にした。

 

 

二つ目は、迅速な移動のためである。先ほども言った通り、この時間帯であれば、町の外はほとんど人気が無いはず。それならば八九式乃至一六式を皇都近くで出すことが出来る。元貴族令嬢だから、恐らく俺達に付いて行けるほどの体力があるとは思えない。ので迅速な移動をするには早い段階で車に乗る必要がある。

 

 

以上の理由からの早朝の出立。

 

 

 

「──こんな早朝にか?」

 

「ええ、両親から理由すら記されていない、早く帰ってこいとの手紙がありまして」

 

 

と、やや困った素振りでため息を吐く。

 

 

「わかった。一応規則に則って身分証明と、あとフードを取れ」

 

「わかりました」

 

 

そう言って、全員が冒険者証を出し、フードを取る。うん?レイシアの?昨日さくらが代理で作りに行った。

 

 

「うむ……通って良し!」

 

 

普段金髪の人間が黒髪だと随分変わって見えるんだよね。

 

 

それに俺とさくらは黒髪のままだし、セレスも腕輪のおかげで黒髪なので、余計紛れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

門から出たら、しばらく街道を行く。適当なところで街道を外れる。

 

 

「──そろそろ、良いか」

 

「そうね──さて、レイシアさん、ここから何が起こっても驚かないようにね?」

 

「?はい」

 

「行くぞ──<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>」

 

 

虚空から出現する八九式装甲戦闘車。説明その他をするなら歩兵を乗せるスペースのあるこっちの方が良いと思っての選択。

 

 

とはいえ、こちらの世界の人間にとっては、科学の集合体たる鋼鉄の悍馬なんて、どれも見慣れない物でしかない。

 

 

さぞ驚いた事だろう。とりあえず説明でもしてやるか。

 

 

レイシアの方を振り向くと、驚きに目を見開いていた。そうだろうそうだろう、我が祖国の誇る防衛戦用(自衛隊)兵器だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……戦……車……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?俺これ戦車だって説明したか?

 

 

「日の……丸……自衛隊?」

 

 

ちょっと待て。何で国籍表示見てわかるんだよ。

 

 

「じゃあ……貴方達日本人?」

 

 

そして何で国名知ってるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「転生者?」」

 

驚いた。そんなものは小説の中だけのものだと思っていた。元日本人現貴族令嬢。しかもどこぞの小説投稿サイトによくあるテンプレ付き──ゲーム乃至小説の悪役転生──で。何その偶然。

 

 

「ちなみに前世は?」

 

「一生病院暮らしでした、享年……は17です」

 

「よし同級生ね、以後タメ口オッケー?」

 

「お、オッケー……」

 

 

おうおう随分強引に……

 

 

「はい、じゃあとりあえず、前世の事は放置!移動しましょう!話は中でも出来るから。ケイ、運転よろしく」

 

「……了解」

 

 

乗り込む、エンジン始動。自動的に装填される機関砲。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはまた随分な目にあったわねえ……」

 

 

後ろから聞こえる会話によれば、レイシアは、ただの転生者ではなく、いわゆるループ──同じ人生を繰り返していたらしい。おまけにいずれも国外追放か処刑あるいは修道院エンドだったとか。

 

 

乙女ゲームだったか小説だったか漫画だったかは聞こえなかったが、とにかく、俺達の世界にもある作品中設定と同じような世界であったらしい。そこではリズヴァニア伯爵家は悪役なんだとか。

 

 

おいおい竜種の末裔が悪役とか無理にもほどがあるだろう。

 

 

そう思ったら、なんか今回の世界だけ違ったらしい。少なくとも今までは、髪はともかく瞳は碧だったらしいし、そもそも雷帝竜の存在は無かった。そして何より、ラビラスなんて存在も居なかった。

 

 

「でもケイが<勇者>だったなんて……」

 

 

今までの世界では<勇者>はいわゆる隠しキャラ的存在で、立ち位置に恥じぬイケメンだったとか。

 

 

すまんなフツメンで(泣)。

 

 

「今は違うわよ、今代には今代でちゃんと<勇者>も、その相手になり得る<聖女>も居るわ」

 

「じゃあそっちが隠しキャラ?あらあらヒロインちゃん残念」

 

「それに、こっちに来る時期も大分ずれるだろ」

 

 

首チョンパして、侵攻を遅らせたからな。あれで上手く戦場に対する恐怖を煽れたらいいのだが……あれは<勇者>パーティーに対しての見せしめ──<勇者>とて相手によっては殺られる側に回ることへの──としてやったこと。

 

 

だが同時に彼らの希望にして中心たる<勇者>が不死であることを示すことでもある。この事実によって、彼らが調子に乗る可能性もある。言わば両刃の剣なのだ。

 

 

「調子乗らなきゃ良いんだけどな」

 

「乗ったら乗ったでまた潰しに行けば済む話でしょう?」

 

 

お前<聖女>で相手クラスメイトの癖にエグイ事言うなおい。

 

つまりそれって「もっかい殺してこい」ってことだろう、それで良いのか<聖女>。

 

 

「……それにしてもループ転生かぁ……<システム>のあるこの世界じゃありえないと思ってたんだけどなあ」

 

 

同じ時間軸を何回も繰り返すという地獄のような転生、ループ転生。だが、ほぼ全ての生命体の死が、かなり大雑把とは言え管理され、時空属性竜(ヨグ・ソトース)が存在するこの世界で、それが生じうるのか。

 

 

いや、そんなことを<システム>が許すはずがない。アレは()()()()()()()()を目的に作られたモノ。ループは確かに永久に続く世界の実現の一つの手法。だがそれは常に()()()()()。常に同じ人物(レイシア)が、同じ立場(悪役)で、同じ終わり()を迎える世界。それは<システム>の()()()()()()に反する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逆に考えろ、逆に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

経験者が居る以上は、それは実際に起きた出来事。<システム>がそれを許容するだけの何かがあった。いや、もしくは<システム>がそれを行った?

 

 

 

考えろ……アレは機械だ、目的達成のため、作業効率化のためなら俺達に思いつけないこともする。俺達とは根本的に着眼点が違う。

 

 

 

ネット小説での冤罪悪役小説のエンド……国の、滅亡?

 

戦争、()()()()()()()。まさか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ループじゃない、シミュレーション?

 

 

生まれる前の魂を使って、国を滅ぼし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……なあレイシア、つかぬ事を聞くが、お前の周りにループしたと思われる人間は?」

 

「居なかったけど……」

 

「転生者は?」

 

「居なかったはずよ」

 

「OK、大体理解できた。さくら、<システム>は大分やらかしてるらしい」

 

「今の質問で最後のピースでもはまった?私にも説明くらいしなさいよ……」

 

 

 

『……ループの正体はアレがやったシミュレーションだ。実際にその場を構成するはずの、()()()()()()()を使った、大規模な演習だ。目的は存在目的と一致。繰り返していたのは、どう調整すれば、()()()()()()か、だ』

 

『それどっから思い付いたのよ……』

 

『ネット小説のあらすじ。他にも考えられるかもしれないが、可能性が高く、一番合理的なのはこれだ。周りの記憶に無かったのは、()()()()()へ干渉されていた、もしくは複製だったから』

 

『ああ……レイシアは転生、つまり異世界の魂だからうかつに干渉できなかったのね』

 

『な、辻褄は合うだろ?』

 

『じゃあ今までの人生で雷帝竜が居なかったのは』

 

『システム内まで直にアクセスが出来なかったから、だろうな。そして本当の人生では居た、多分<システム>も承知の上かもしれない』

 

『どうして?』

 

『じゃないとわざわざ異世界人転生者とかいう取り扱いが面倒な魂に、管理者権限付けたりしないだろ。恐らくアレは全部見通してるぞ』

 

『……まさに神ね』

 

まさに其の通り。皇国や今代から見れば確実に<デウス・エクス・マキナ(ご都合主義の権化)>だ。そしてその本質もまた<機械神>。

 

 

 

 

これが、良くある小説なら、それに抗うのが主人公の役目。

 

でも俺はあえて<システム>に阿る。それがここでは最善であると知っているから。

 

 

 

 

そして俺の推測が当たっているならば、きっと彼女の運命は俺達のせい。

 

 

俺が逃げたから、逃げざるを得ない状況を作らせてしまったから。

 

 

次は逃げない。あのときの借りはきっと、大きく大きく、利子がついて膨らんでいるだろう。

 

 

今度は逃げない。三年前の負債も全て返しに行こう。

 

 

合理的で、平和で、永遠に続いていく世界のために。

 

 

 




以上です。




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