二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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はい、またまたお久しぶりです。

またまた閑話です、すみません。次は本編です。


閑話  気付きと決意

 

 

 

 

 

シルフィアーナの部屋を出て、1人1人に当てられた個室のうち、勇人の部屋へと向かう。

 

 

「──さっきの話に戻すぞ高山」

 

「さっきの話?」

 

「ああ、先代<勇者>の<防衛者>に対する評価の話だ」

 

「……なぜ庇うんだ、お前はあいつに殺されたじゃないか」

 

「だが生き返る事は知っていた、だろ?それにお前達を殺すことはしなかった、回復魔法までかけていったんだ」

 

「でも何も傷つける必要は……!」

 

「……多分、警告だったんだよ。俺達と、王国への」

 

「警告?」

 

「『調子に乗るなよ』っていうのと多分『これ以上仲間を喪うな』っていう」

 

「……『調子に乗るな』っていうのはなんとなく察しが付く。俺達がしたかもしれない可能性の話だろう?」

 

 

高山はあえて大量虐殺、と口に出しては言わなかった。

 

 

「そうだ」

 

「『これ以上仲間を喪うな』ってのは?」

 

「……アイツが、神崎と内山さんを、使えない、と評価したあと、こうも言ってたんだ。

 

 

『<防衛者>と<支援者>は、立場上そして理論上、召喚直後から<勇者>パーティーと拮抗状態に持ち込める力がある』

 

 

と。だから本来魔族二人程度に負けるはずがないんだと」

 

「……それが?」

 

「でも負けてしまった、なぜだろう。そう思ったときに気づいたんだ。俺達は、彼等の邪魔をしていたんじゃないかってね」

 

「邪魔?」

 

 

確かに訓練している途中に魔法を撃ちこんだり剣の戦いを挑んだりしていたが……

 

 

「そう。初代<勇者>の台詞から考えられるのは、俺達が<勇者>という称号で1セットであるように、彼等は二人で1セットだったんじゃないか、という事なんだ。でも、俺達が<召喚>されて、彼らが殺されてしまうまで、彼等が二人だけで行動していた時間は、多分、無かったんだ」

 

 

初めて長期間共に行動できるタイミングでの魔族の襲来。

 

 

「ぶっつけ本番で、格上の相手に、初めて組む連携。上手くいったとは思えないんだ」

 

 

<初代勇者>の言葉から考えるなら、本来の<防衛者><支援者>にとっては格上ではないのかもしれない。

 

だがそれは<防衛者>と<支援者>が二人でちゃんと協力し、本来の戦闘方法を行えた場合における比較。

 

<防衛者>の本来の戦闘方法を知らず、また<支援者>との共闘も初めて。

 

期待される本来の戦闘能力を発揮できたとは思えないのだ。

 

実際、騎士の報告では<支援者>内山が先に殺されてしまっている。

 

 

「彼等をそんな風にしてしまったのは、俺達だ」

 

「な、どういうことだよ、俺達のせいって」

 

 

確かにそれまで連携の練習なんてしていなかっただろうがそれはしようとしなかった彼等の責任であって、自分や勇人が気にすることではないだろうに。

 

 

「内山さんは、召喚されてから何をしていた?」

 

「何をってそりゃ俺達と一緒に……!」

 

「気付いた、みたいだな」

 

 

そう、当初、称号<勇者>を持たない二人は<勇者>達の訓練から外されていた。が、内山は<剣聖>水山や勇人自身の誘いで訓練や授業を共に受けていた。一方で神崎は、誰からも誘われる事無く、一日のほとんどを自室でのみ過ごしていた。騎士団長からの話では、三日目から訓練場の片隅で何か──本人の弁を借りるなら<防衛魔法>の練習──をしていたらしい。朝早くから、時には夕食後まで訓練場に居たという話もある。

 

 

<防衛者>と<支援者>が訓練や授業に呼ばれなかったのは、彼等が<勇者>でないからだ。

 

 

<勇者>ではなく、ステータスはこの世界の人族と比べるならともかく他の<勇者>より劣る。そんな彼等を、魔族との戦闘の最前線に立たせるのはいかがなものか、というものだ。

 

 

さらにもう一つ付け加えるなら、これは宰相の差し金である。彼の目的達成には、戦意旺盛な<勇者>が必要であった。そのためには、彼等の仲間は健在である事が必要となる。そのためには死ぬ可能性が一番高いであろう二人を、戦場へ出すわけにはいかなかった。

 

 

だからそれを防ぐためにまず訓練させなかったのである。

 

尤も、途中から邪魔になってしまったので、<勇者>の魔族に対する敵意を稼がせるために殺したが。

 

 

そんなこととは露知らず誘ってしまった<勇者>達。

 

 

「つまり彼等が連携できなかった原因に俺達も一枚噛んでいるという事だ」

 

 

本来2人で1つのタッグで挑むべき敵に、1+1で挑んでしまった。挑ませてしまった。

 

 

「それは……そうかもしれない。でも俺達はその時そんな事は知らなかったんだ、あの2人がそういう職業であることは……大体なんで初代<勇者>はそんな職業の存在を知っていたんだ?王国の人達も知らないようだったのに」

 

「そんなの簡単だ、彼が召喚された時にもいたんだよ、<防衛者>と<支援者>が」

 

 

召喚された時に聞いた、<初代勇者>のパーティーメンバーは5人。うち3人が異世界人。ならばその3人は。

 

 

「<勇者><聖女><防衛者><支援者>の4人が召喚されたんだろう、多分ね」

 

 

この世界に1000年前に召喚されたという4人。しかも。

 

 

「あの水帝竜、クトゥルフの話と、声から考えて、全員、多分俺達と同じくらいの時代・年代の日本人だな」

 

 

争いを好まない国、ニッポン。それが初代<勇者>の出身国であると聞いた。こうやって異世界が存在する以上、並行世界の可能性も否定できないが、そうだとしてもほぼ同じような世界だと考えていい。

 

そして残念ながら<勇者>の顔は見れなかったが、声は聞こえた。若い、同年代と思しき男の声だった。

 

 

「じゃああの<勇者>も俺達と同年代──高校生なのか?」

 

「まあ年上としても大学生、年下でも中三くらいか、身長的に。だからこその警告だろうな」

 

「……彼等も同じような失敗を?」

 

「話的には殺されたとまではいかないが、何かしらやらかしたんだろうさ。それを考えて警告に来たんだろう。知らなかった、気づかなかったじゃすまないぞ、と」

 

「……」

 

「俺達が背負っているのは、俺達自身だけじゃない。この世界の人族の命運も背負っているんだ。彼が言っていた事が事実なら、俺達の戦力は<防衛者><支援者>を喪ったことで既に半減している。殺されたのはその分の罰も兼ねているのかもしれない」

 

「罰、か」

 

「<勇者>を持っていないからと言って、俺達と違う扱いをされているのを、許容するべきじゃなかったんだよ。せめて内山さんとは同じ行動をとってもらうべきだったんさだ」

 

 

 

せめて完全に一人にするのは避けるべき事だった。向こうなら、例えば学校で一人であっても、毎日誰かしらと接点は持つ。でもこちらで一人に、それも物理的に離されてしまっては、完全に孤独だ。食事をする場所すら別だというのだから徹底している。

 

 

 

 

周囲に見知っている人間は誰もいない。本来なら同じ境遇であったはずの内山は、<勇者>達に誘われて行動を共にしているようだ。

 

 

 

 

 

全く知らない世界での完全な孤立。

 

 

 

 

 

そこへ降って湧いた、クトゥルフの提案。元の世界に戻れる、と言う。

 

 

日常を送ることが出来る学校がある、元の世界へ。

 

 

それは今の孤独からの解放を意味する。彼にとっては渡りに船とも言うべき提案だったのだろう。

 

 

 

 

 

だからクトゥルフの提案に乗った。

 

元の世界に戻りたかったから。

 

 

 

だがそれはもう叶わなくなってしまった。

 

 

 

死んでしまったから。再生プログラムは、名前から考えて<勇者>にしか働かない。他は皆、元の世界同様、死んだらそれっきりだ。

 

 

 

これを繰り返してはならない。

 

 

 

 

「……なあ」

 

「どうした?」

 

「<初代勇者>に、会うにはどうすればいいかな?」

 

「あいつに?なぜ」

 

「今からでも俺達との共闘をお願いできないかなと思ってね。あと、俺達の訓練相手を頼めないかなと」

 

 

 

千年前一度召喚された<勇者>。自分達が全く知らない魔法を使っていた彼は、確かに自分達より強いはずだ。数字的にも、技術的にも。

 

 

 

「それは確かに良いかもしれない……だがどうやって会うか……あ」

 

「何か思いついたか?」

 

「もう一度公国に行けばいい」

 

「だが俺達はつい今日、あんなことになったばかりだろう?」

 

「……国王陛下に今回の<初代勇者>の件を合わせ、公国との同盟を進言してみる」

 

「通るか?」

 

「通す」

 

「強気だな」

 

「<勇者>にはそのくらいの力はある、だとさ。国を止めようとするのも<勇者>の仕事だと。確かに、人族同士で争っている場合ではないしな。無論お前にも手伝ってもらうよ」

 

「公国への疑いは?」

 

「……<初代勇者>が出てるのに、魔族と結ぶわけないだろ」

 

「……魔族の疑いは?」

 

「晴れたよ、光属性第十位階魔法使える魔族が居てたまるか」

 

 

高山はそういって苦笑した。

 

 

 

「じゃあまずは皆のところに顔出して、王女殿下に奏上するか」

 

 

 

 

 

そして彼らは、なんと一週間で王国にどうにか講和条件を呑ませることに成功し、それを携えて公国へ向かった。




以上です。

神崎くんにとっては確かに渡りに船な提案だったわけです。理由は全く別ですが。


それでは感想批評質問等お待ちしております。

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