二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
果たして主人公の狙い、戦闘に対する忌避感は植え付けられたのか……
何事か呟いて一瞬で消え去った先代<勇者>を名乗る何者か。残されたのは、身動きが取れない状態で呻き声を上げる戦闘職男子。支援系職の男子と女子は傷が少なかったおかげか、<
その中にいる<賢者>高山に、同じく<賢者>の女子、
「ねえ」
「な、何?」
「アンタさっきあいつに何を言われてたの?何か呼ばれてたみたいだけど」
「……<勇者>の力を人族に向けるなと。<賢者>の役割は<勇者>の行く先を正す事だと。次同じことになったら手加減しないと言われた」
「どういう事?」
「知らない、だけどそのままじゃないかな。あ、あと、このままいけばお前等は全滅していたか大量虐殺をしていたかのどちらかだ、自分の頭でもっとよく考えて動けって」
「……何よそれ、大量虐殺って」
「言葉通りの意味、あのまま僕達<勇者>が人族の一般的兵士と戦っていたら、って」
「それは……でも仕方ないじゃない、あの国が協力しないのが悪いんだって。それにあいつも篠原君を殺したじゃない!」
「それは……」
「ねえ、ちょっと誰か来て!」
先程まで、ただただ勇人の死体を呆然として見つめるだけだった女子達が叫んだ。
「何かあったのか?」
比較的軽傷で済んだ<狩人>
「……何だ、これ……」
そこでは、勇人の死体が全て光に包まれていた。特に切断面──首は眩い光で覆われ、様子は全く伺い知れない。
「……<鑑定>……これは?」
<鑑定>が最初から使えていた<鍛冶>佐々木が勇人の死体その物を鑑定したらしい。浮かび上がったステータス画面を見て驚いていた。
「どうしたんだ?」
平井が横からのぞき込む。
「……これ」
──────
ステータス
篠原 勇人 Lv.4
種族 異世界人
職業 勇者
年齢 17
性別 男
HP 0/800
MP 0/800
物防 0
魔防 0
物攻 0
魔攻 0
称号 <勇者><正義の勇者>
状態 死亡
備考 死亡状態につきステータス低下・<再生魔法・
完全再生まで残り1:55:32
──────
「再生……?」
────まあ、そんな悲しむなよ
────どうせ生き返るんだから、さ
「なんで、わかって……まさか!」
まさか、あの不審者は本当に先代<勇者>だったのか。
「いや、そんなわけがない」
仮にあの不審者が魔族だったとしよう。ではなぜ<勇者>が不死身である事を知っていたのか。
これは簡単だ。前回、千年前<召喚>されたという<勇者>もそうだったのだろう。魔族側がそれを教訓として語り継いでいたのならば今の魔族が知っていても不思議ではない。
では不死身と知りながらなぜ殺しに来たのか。
これは色々考えられる。人族の士気を下げるため、侵攻を遅らせるため、<勇者>自身への何らかの警告。
辻褄はかなり合う。だが
「いや、待て。確かアイツは<光刃><光槍>を使っていたな」
魔族は基本的に光・聖属性は扱えない。例外は人族とのハーフくらいなものだがそれでもレベルは5までしか上がらない。しかし。
「<
魔法スキルの段階の呼び方にはレベル・位階・ランク等多くの言い方がある。が、いずれも最高到達点は10。つまり第十位階=ランク10=レベル10で扱えるスキル、となる。
つまりかの不審者は<連続発動>を使っていたことから、少なくとも<光属性魔法>レベル10を所持している。現時点で勇人は<光属性魔法>レベル5なのでそれより上なのだ。
魔族が光・聖属性を扱えないのは、体質・種族的な理由というか種族の在り方そのものであると聞いている。彼等が信仰する魔神ラボルファスは存在そのものが闇であるのだと。それゆえに魔神から生み出された魔族もその属性そのものが闇であるがゆえに光・聖属性を扱えない、と。
つまりあの不審者は魔族ではない。
ならば人族。
しかし、人族ならば人族で矛盾がある。と言うよりこれは全ての仮説を否定しようとする物証なのだが。
「なぜ<
<聖剣・正義>が一時的とはいえ、折られた。この事実が、全ての仮説を否定する。
いや、一つだけ否定も肯定もされない仮説があった。それは先ほど自分が最初に否定した仮説。
「本当に、あの男は<勇者>だったのか……」
<勇者>パーティーはそれぞれ与えられた職業・称号により、様々な恩恵を受ける。例えば<魔導師>であれば、<召喚>当時から既に<全属性魔法>を持ち、特殊系統に当たる時空属性や、種族固有魔法などを除くすべての魔法を扱う事が出来る。<槍術師>ならば槍系のスキルは一度見て動きをトレースすれば取得できる。
これこそ<勇者>がチートである理由なのだ。
まあそれはともかくとして、では<賢者>はどうなのかと言うと、他の<勇者>持ちのように、スキル取得や魔力・HP量などで優遇されているわけではない。しかし<賢者>には別の恩恵がある。
<並列思考><思考加速><脳内演算>
これらのスキルによって<賢者>は<勇者>パーティーにおいて参謀的な役割を果たすことが出来る。高山がそれらのスキルを用いて何度も何度も予測を繰り返したが、やはり全ての条件をクリアして否定されないのは、不審者は<勇者>である、という仮説だけだった。
肯定も否定もできないのは、現状最強の武器であり、一般的には<破壊不能オブジェクト>に近い<聖剣>同士で耐久値を削りあった場合、どうなるかという問題の結論が出ないためだ。
実際には<システム>上では<聖剣>同士で削りあってもどちらも壊れない。今回啓斗が<正義>を折ったのもただ<システム>の管轄を超える<聖剣・
だがそんなことなど<システム>の存在すら知らぬ<賢者>にわかるはずもなく。
高山はただ思考の渦に引き込まれていくだけであった。
高山が俯き、考え事をしている間、次々と回復し起き上がってきた戦闘職男子達が、勇人のところへやってくる。そして佐々木の手元の<鑑定>結果を見て驚いていたり、安堵したりしている。女子の中には安心のあまり泣き出している者もいた。
「ねえ」
その中で声を挙げた女子が居た。前原だ。
「とりあえず、王国に戻らない?」
「……そうだな」
「勇人はどうする?」
「私が運ぶわ」
「ああ、そういえば貴女の職業は<傀儡術師>だったね、じゃあよろしく」
<傀儡術師>
「<
地面に手を当て、魔力を流し込み、スキルを発動。地面が盛り上がり、そこから現れたのはゴーレム。何の変哲もない、ただの
「<傀儡加工>」
両腕で勇人を抱えさせると、頭部をなくし、肩から上を平らにしていく。人1人を寝かせるのに十分なスペースを確保するとそこに乗せた。
「……じゃあ、帰りましょう。予定を大幅に変更しなくては。高山、行くよ」
「あ、ああ」
思ったより効いてない件について。
いや、多分ショックが大きすぎて、かえって現実味が無くなってるんですけど。
この時点で主人公の企みは半分失敗……?
まあもはや成功しなくても良いっぽいですけど。
それでは感想批評質問等お待ちしております。