二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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まだ戦いません。ええ、楽しみにされてる方には非常に申し訳ないのですが、主人公はこよなく平和を愛する日本人ですから。



というわけで記念すべき第二十話です。どうぞ!


第二十話  第一回・初代勇者の防衛戦Ⅲ

「俺は<勇者>だ、と言っても今代のではない。お前がいるからな。俺は<初代勇者>、千年前に<召喚>され<送還>され、何の因果かまたこの世界に舞い戻る羽目になったがね」

 

「な……そんな馬鹿な!」

 

「馬鹿なと言われてもな。実際そうなのだから仕方あるまい、今代<勇者>」

 

「嘘をつくな!<勇者>は勇人しかいない!<聖剣>だって召喚できるんだ!」

 

「だろうな」

 

<勇者>として<聖剣>を召喚できるのは当たり前である。何を今更。

 

「だから貴様が<勇者>などと言うことは絶対にありえない!」

 

「……いやなぜそうなるのかさっぱり分からんから説明しろ」

 

篠原が<聖剣>を出せるのは分かった、だが何でそれが俺が<勇者>でないことの理由たり得るのかが分からん。

 

「<聖剣>は世界にただ一つしか存在しない、伝説の武器。同じものは二つも存在しない、唯一無二の伝説級の武器。これを勇人が持っているのが、お前が<勇者>じゃない証拠だ!」

 

 

ああ、なるほど、<鑑定>持ちがいたのね。それで<鑑定>かけて、『世界でただ一つの武器』だという記述を見つけたわけか。なるほどなるほど、思ったより頭は回るらしい。

 

でもね?

 

 

「そうか、なら<聖剣>を召喚してもらおうか。無論、それが真の<聖剣>であるという証明のため、正式な手順で召喚してもらおう。ああ、安心しろ、詠唱中に攻撃するなどという無粋な真似はしない。<勇者>である我が身に誓う。団長も、部下の統率を頼む」

 

「この場で攻撃を仕掛けるような馬鹿は少なくとも我が騎士団には存在しません。が、まあ一応交渉中であるという事にしておきましょう」

 

「じゃあ始めてくれ」

 

さて、最初の話からかなり横道に逸れてしまったが。

 

 

<聖剣>を初めて召喚するときには、魂とのつながりを強く意識し、手繰り寄せて<聖剣>を実体化させる必要があるため、<詠唱>を行う必要がある。二回目以降は簡略化できるが、<詠唱>を用いて<召喚魔法>を行使するのが正式な方法となる。

 

 

「良いだろう、俺が真の<勇者>であることを見せてやる!」

 

さあさあこいこいどんな詠唱文だ?

 

 

「『我が正義を以て魔を打ち払い、人の世に聖なる光をもたらせ!』<聖剣召喚・正義(ジャスティス)>!」

 

 

噴いた。

 

 

『我が正義を以て』て。正義て。どう考えても正義()だろ?ていうか聖剣の名前が正義(ジャスティス)て。

 

 

辛うじて笑い声はこらえたが、しかしこれは予想以上だ……まあ詠唱内容はもういいか。俺のと変わんないし。

 

てか客観的に聞いてもかなり恥ずかしいんだが……これを堂々と叫ぶこいつは別な意味で凄い。

 

光に包まれ現れた<聖剣>は、どこまでも白い、純白の両手剣だった。名は体を表すと言うが、まさに『正義(ジャス・ティス)!』と言わんばかりの白。

 

「どうだ!これが俺に授けられた<聖剣・正義>だ!わかっただろう!」

 

「あー、うん、そーだねー」

 

まあ、こいつの魂に結びつけられた剣ならそうなるんだろうなあ……

 

「お前のも見せてみろよ、本当に<勇者>だって言うんならよぉ!」

 

剣聖(笑)がなんか言ってるのでリクエストにお答えしよう!さあ、来い我が剣よ!

 

「はぁ……────『我の全てを犠牲に魔を払う力となり、人の世に希望を、世界に均衡と平和をもたらせ』<聖剣召喚・犠牲(サクリファイス)>」

 

気が乗らない事を示すかのようなため息の後に、そう言い放った直後、俺の右手が疼き始める──わけも無く、右手を黒い煙が覆った。徐々に伸びていくその煙は、やがて一つの形──漆黒の片手剣の形をとった。

 

<聖剣・犠牲(サクリファイス)>。これは<勇者>の本質を良く表している剣だと思う。残念なのは、これが俺の魂に完全に結びつけられた物ではなく、仮契約みたいなものであること。無論きちんと機能はしている。

 

というかこれを俺に渡したってことは彼女はこんな状況を読んでいたという事だろうか。何それ怖い。未来視でも使えるの?

 

「これが、俺が今保有している<聖剣・犠牲(サクリファイス)>だ。色合いはともかく、<聖剣>ではある」

 

「黒の……もう一本の<聖剣>……だと、馬鹿な、<聖剣>は一本では……」

 

そうそう、俺もそう思ってたんだけど、これはどうも説明不足みたいなものでね?

 

「説明ではそうなっているがね、それは、『同じ<聖剣>は一本しかない』という意味であって、<聖剣>そのものは世界に何本か常に存在する。それに、<聖剣>とは<勇者>の魂に結び付けられる剣、よって<勇者>が複数いれば、<聖剣>もまた複数本存在する」

 

俺が今までに確認した<聖剣>は()()。俺が現役<勇者>だった時、帰る直前には自分の含めて二本確認している。

 

「さて、疑問も解けた、俺が<勇者>だと証明もできた。どうする?」

 

「どうする、とは?」

 

「随分と脱線してしまったが、話の最初の方、俺はお前に帰れと言ったんだよ、国もしくは後方に。<勇者>が人族同士の争いに手を出してはならない。俺はそれを伝えるためにわざわざここまで来たんだ、初代<勇者>、つまりお前らの先輩として、だ」

 

 

やっと本題に入れる。この考えなしの馬鹿どもを戦場から引きずり出さなくてはならない。

 

 

「そもそもお前らは兵隊を連れて何しに来たんだ?」

 

「この国が魔族との聖戦に協力してくれないから、魔族と内通しているんだろうと思ったんだ」

 

「それで何も聞かずに自分で何も考えることなく出兵からの蹂躙からの占領ってか。考え無しにも程があるだろう」

 

 

というか聖戦て……こいつらは知らないからわからんでもないけど、知ってる人間からしたら苦笑する以外にないんだが。

 

 

「別にそんなつもりじゃなかった!ちゃんと公国側の話も聞く予定で……」

 

「予定のままに終わったってわけか。馬鹿か?そもそも話聞きに来た、つまりは会談したかったんなら軍隊を連れてくるな、宰相やら国王やらが何を言おうと自分達のみで乗り込んで来い。軍隊を連れて、宣戦布告までした上で話し合いとか人を馬鹿にし過ぎだ、どう考えても脅迫でしかないだろう」

 

<勇者>というこの世界の人種の最大戦力(最終兵器)がどこか一国に味方して、軍勢を率いて他国を攻める。その上で魔族と戦う。額面上は、『人種が連合して魔族と戦う』ということになるのだろうが、実情は、まあ、お察しの状態だ。

 

だからそれじゃダメなんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。<勇者>は人族を殺してはならない。魔族もまた同じ。<勇者>が殺していいのは魔族だけ、<魔王>が殺していいのは人族だけ。まあこれは暗黙の了解というか、普通に考えてもそうだろうが。

 

 

「それは国王が勝手に……」

 

「それを<勇者>として止めろと言っているんだよ、その程度の力なら今のお前らでも持ってるんだから」

 

<勇者>及び<防衛者>に与えられた強大な力は、<魔王>に対抗するための調整役(バランサー)だけでなく、その力を利用しようとする人族に対しても抑止力となり得る。特に制限のある<勇者>と異なり、<防衛者>は殺害に関する種族の制限はない。

 

今回は既に<防衛者>はいないわけだが、<勇者>を兵士にしようとする辺り、<勇者>の制限とそれを破った罰を知らないのだろう。ならば十分脅しとして成り立つはずだ。

 

 

「それは……その……」

 

「まさか考え付かなかったとでも言うのか?おいおい、そんなんじゃあ<勇者>として先が思いやられるよ……っと!」

 

何か突然水山が斬りかかってきた。

 

「危ないなあ、俺は今先達としてささやかなアドバイスをしようとしているんだ、邪魔しないでくれ」

 

「うるさい!突然現れたと思ったら勇人に意味の分からないことばかり言いやがって!」

 

そう言った直後に、俺の目の前に火球が出現、直撃した。

 

「……ッ!またか、お次は誰だ?」

 

現れたのは、<魔導師>川島(ノーコン野郎)だった。

 

「<勇者>と偽って俺達を騙そうったってそうはいかないぞ、魔族め!」

 

は?

 

「は?」

 

おっと危ないついつい本音が。

 

「さっき<聖剣>を出したのを見ていなかったのか?」

 

「偽物だろう!」

 

んなわけあるかボケナス。<詠唱>聞いただろうが。

 

「そんなことはありえない、公国最高クラスの鑑定士が、この方の<聖剣>及び冒険者証(ギルドカード)を確認し、間違いなく<初代勇者>様であると言っているのだ」

 

「じゃあそいつも……いや、国全体がグルなんだろ!宰相の言った通りじゃないか!この国は魔族と内通しているんだ!」

 

 

 

 

 

 

ねえ。

 

 

 

 

もう帰っていい?

 

 

 




以上です!


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