二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
第十九話です。どうぞ!
さて、勇者様はどこに居るかな?というか前線に居るよな多分。
<勇者>を旗印・宣伝塔に使うつもりだろうから、一番前に置いて使わないとね。馬に跨って<聖剣>を空に掲げる<勇者>。絵になるよな。特に篠原は俺と違って顔も良いし、背も高いから映えると思う。
<勇者>ってやっぱ外見が良いほうが良いのだろうか、それもそうか主人公だし。
……でも外見良くてもな……
《頭が空っぽだとどうしようもないわね》
《さくら?!》
《<念話>繋ぐって言ったの忘れたの?さっきから思考筒抜けよ<勇者>様?》
うわあさっきの全部聞かれてた恥ずかしい!
《やっぱりアンタ
《……頼むからそれ以上言わないでくれ、自覚はあるんだから》
《頭抜けてるよりはマシよ。だからきっちりへし折ってきなさいな、現実を理解せず
《……良いのかそれ》
《どうせ義務履行はアンタもできるもの。まともな方が仕事すればいいのよ。だから一回トラウマになるレベルで潰してきなさい》
えげつなっ!まあ、でも妥当なんだよな。
《仰せのままに<聖女>様》
相手側の陣から人が出てくるのが見えた。白旗を結び付けた棒を持っている、と言うことはつまり特使だ。攻撃してはならない。
今俺がいるのは、騎士団の陣の中央部。騎士団長のそばに控える形である。最初は上座に居てくれと言われたのだが、この迎撃戦における主力はあくまで騎士団。俺は人間同士の戦いに<勇者>が割り込まないためのブロック役である。なので丁重にお断りし、傍に控える形をとった。
「──特使、ですか」
「は、我が軍勢を率いる<勇者>様は、人族同士で争うことに非常に遺憾の意を抱いており、今からでも遅くないので降伏しないか、と。無論、国民及び騎士団の皆様方の生命は保証いたします」
「ふむ……どう思う、ケイ」
「俺の立場から言わせてもらうなら、受ける必要は無いか、と。ここでこの提案を受けるのでは、ここに来た意味がない」
「だろうな。というわけで特使殿、ここまでご苦労ではあったが、その提案は受けられぬ。先回同様、対魔族連合軍に対する戦力の提供及び後方支援等なら可能である、そう伝えてくれ」
「……そうですか、非常に残念です」
それはこちらの台詞だ。なぜ争う事に遺憾の意を表明しながら、軍勢引き連れて戦争準備をしているのか。別に魔族と戦わないと言っているわけではないのに。さくらはそれを頭が抜けてるって言ったんだろうな。
自分が絶対正しい。でも奴らはなぜか同意しない。ならば悪だ。
アホか。そこまで世界が単純なわけがない。特に人の利害が絡むなら余計に。
被害者であると同時に加害者であり、黒幕の一人のように見えるが実は真の黒幕の手下だったりする。
恐ろしい程複雑で、黒と白が入り混じる。完全に潔白な人間なんて滅多に存在しない。そんなものが普通に存在するのは、物語の中だけだ。
なんてそんなこと、中学生でも知ってそうだけどな。
「総員配置につけ!勇者様は……?」
「俺は前線に相手が出るまでここで待機するよ。護衛も見張りも要らない。ああ、もし別のところに勇者が出たら教えてくれ」
「かしこまりました」
さて、このあとはしばらく待機。あー、早く勇者ぶっ飛ばしたい。なんか憧れるよね、ネット小説とかで、何か勘違いしている勇者的人物を主人公がぶっ飛ばすシーン。リアルにやることになるとは思わなかったけど。
お、戦闘始まった。公国がやや強いな。数の不利をあまり感じさせない。戦い方が巧いのか。このままだったら時間稼ぎは余裕だな。
……元々の国の方針として、帝国が攻めてくること、遅滞戦闘は最初から考慮してたんだろうな。兵の動きが恐ろしい程良い。かなり綺麗に統率されている。訓練していない動きではない。
ただ、このままだと確実に帝国は焦れる。どう見ても相手は少数なのに、こちら側とほぼ互角に戦っているのだから。帝国としては数で圧し潰したいところだろうが、うまく少数を狙って動く騎士団と、多数の軍勢を遠くから上手く牽制をしている冒険者によって、中々大軍を当てることが出来ない。
冒険者も、剣を持っている者は騎士団に、弓矢や魔法が使える者は陣地や地面のわずかな起伏から敵の指揮官クラスを狙うという綺麗な分業体制。
やはり日頃からそのための訓練だけをしている軍隊は、強い。思う様に進撃できないとなると大分苛立ってくるはずだ。まあある程度こんな状況を想定はしていただろうが。じゃなきゃ異世界から<勇者>なんて召喚しないだろ。
だから切り札を切る。相手の戦意を削ぎ、自分達の戦意を高揚させると同時に正当性を主張できる切り札、<勇者>と言う名の切り札を。
「<勇者>様、相手側の<勇者>が現れました!」
ほらね。
「どこだ?」
「敵部隊の中央です!今騎士団長が睨み合っています」
「戦闘は?」
「始まっていません、どうも<勇者>が話し合いを提案したようで……」
馬鹿か!もう戦闘は始まったというのにこの期に及んで話し合いだと?ふざけている。恐らく既に死傷者は出ているはずだ。恐らく『召喚された<勇者>』と言うネームバリューで辛うじて戦闘衝動を抑えているに過ぎない。
戦争とは言え相手を殺すのだ。一定の覚悟をしているところで、水を差されたとなるとな、殺意すら湧くだろう。なんてことを仕出かしてくれるんだあの<勇者>は。
「わかった、すぐ行こう」
伝令兵の案内に付いて行くと、そこでは騎士団長と<勇者>──篠原とその取り巻き男子ーズ──が、馬から降りた状態で話しているように見えた。後衛組は……ああ、男子の後ろにいた。それを、それぞれ半円を描くように遠巻きに見ている帝国軍と公国軍。
「──だからそれならばなぜ、軍勢を引き連れてきたのかと申し上げているのです!」
あ、団長キレてる。
「団長」
「ん?──おお、ケイか」
「<勇者>が来たとの伝令が入ったから、約束通りに。──初めまして、貴様が今代<勇者>か。もう既に戦闘が始まっているというのに今更何の用だ?」
「誰ですか貴方は」
「一応は、公国側の関係者、だ。それより何をしている、既に宣戦布告はそちらからなされているはずだ。今この場所に何の用で現れた」
「宣戦布告がなされたからこそ、ですよ。貴方は何とも思わないのですか?」
「何をだ」
「このまま戦闘が続けば、いずれ公国軍は壊滅してしまう!」
「そりゃそうだな、それが戦争だし」
「民間人にだって被害が出るかもしれない」
「そうだ、何を今更のように。国同士の戦争はそういうものだ」
「知っているなら何で!」
「止めなかったのか、か?」
「そうだ!仮にもお前は公国の軍人なんだろ?だったら国民の被害を抑える方法を探すべきだ!」
「その結果がコレなんだよ。その程度の事、政府や騎士団長が考えてないとでも思ってるのか?」
「どういうことだよ」
「この国は元々貴族による圧政を嫌った人間が集まって作った国だ。一応元首としてエメラニア公を立ててはいるがね、ほとんど象徴のようなものだ。そんな彼らが、再びの貴族による支配を喜んで受け入れるとでも?有り得ないね、彼らは……特に年長の、貴族支配を知っている者は最悪自殺しかねない」
先程冒険者から聞いた話を、やや誇張して話してみる。コレくらいの嘘は悪くはないだろう。
「我々だって勝てるとは思ってはいない。ただ、国民が避難するまでの時間を稼ぐだけだ。そしてそれには誰かが王国軍に立ち向かう必要がある。戦争には、願い事には犠牲が必要。我々程度の人数の全滅で、百倍以上の国民の命を救えるなら、それは我々の本望だ」
途中で騎士団長が口をはさんだ。
「だから我々に、ここでの降伏、あるいはこちらに不利な条件での講和と言う選択肢はありえない。わかったらとっとと帰れ、まあいい時間稼ぎをしてくれたことには礼を言う」
なんとなく面倒になったので、扱いがぞんざいだけどまあ気にするな。
「おいお前!」
「なんだ、俺に何か用か?悪いが俺は今こいつと話しているんだ、すこし黙っていてくれ」
えーと……ああ、誰かと思えば
「お前はこいつが誰だと思っているんだ!」
「え?頭の足りない今代<勇者>」
「な……<勇者>だと分かっていてなぜそのような暴言を吐くんだ!」
「暴言も何も事実を言ったまでだ」
「お前は何様のつもりだ!高々1兵士ごときが<勇者>にそんな暴言を吐いて良いと思っているのか!」
「……俺が<勇者>と同格以上の存在だとか思わないのか?」
「ありえない!<勇者>はこの世にただ一人!それより格上も存在するわけがない!」
「……まあ良いだろう、教えてやるよ、今代<勇者>とその取り巻き共」
なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け!……すいません悪乗りしました。そもそも聞かれてなかったわ。
「俺の名前はケイ、俺の職業は
────────<勇者>だ」
以上です。ちなみに神崎であることはバレてないのでご承知ください。
それでは感想批評質問等、お待ちしております!