二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
あ、まだ戦いじゃないですよ?
それでは第十八話、どうぞ!
「──来たか」
エメラニア公国北部に広がる平原。ここでは中央にエメラニア公国騎士団が陣を張っていた。その数は万居るか居ないか、といったところだろう。その左右に小さいながら展開されている陣は、わざわざ志願してやってきた冒険者たちの物。
それらの前に現れたのは万を超す軍勢。言うまでもない、シルファイド王国の軍勢だ。
「本当に<勇者>様があの中に?」
「ば、馬鹿言え、<勇者>様は人族全体の味方だ、人族同士で相討つのをよしとされるわけがあるまい……」
そう言いながらも男の声は少々震えていた。かつて魔王すら打倒したという聖なる剣。それが自分たちへ向けられることを恐れているのだろう。
無理もないか。<聖剣>は決して折れない剣。あの剣に限り、武器破壊によって戦闘不能に陥れるという手段は使えない。ゆえに<勇者>他そのパーティーが前線に出てくれば戦力がじりじり削られるだけになってしまう。
つまり数も問題だが、<勇者>が出てきた時点で、こちら側の敗北が決定してしまう。
まあ、こちら側は負けは前提、説得が希望薄、時間稼ぎが主目的。元々勝つ事なんて考えていないのだから。
「なあ、そういえば何で王国の支配を嫌がるんだ?」
「なんだ、お前そんなことも知らないでここに来たのか?」
「あー、俺は旅してるもんなんだが、この国の人に結構世話になってよ、その恩返すのに丁度良いなと思ってきた」
「珍しいな、ここに居る奴は皆生粋のエメラニア人だと思っていたんだが……ああ、理由か。元々エメラニアはあの国から逃げてきた人間が多いんだよ。南部は貴族の圧政が強くてな。あの国に併合されれば元の木阿弥ってわけだ」
「なるほど、それは頑張らなきゃいけないな」
「ていうか声若いな、お前その年で旅人か」
「ああ、まあ事情もあって。ああ、ところで騎士団のトップの天幕がどのあたりかわかるか?」
「多分中央部だ。<勇者>様とまみえる可能性が高いと言ってな」
「ありがとう」
さて、じゃあ騎士団長様にお話を通しに行きますか。
「何者だ!」
「あー、エメラニア公国騎士団長の天幕がここだと聞いた。本当か?」
「何者かと聞いている!」
まあ黒のフード付きコート着てる奴はどう見ても不審者だよな。
「えっと……ああ、コレでいいかな?」
そういって俺が取り出したのは
「なんだこれ……は……SSSランク?!馬鹿な、そのランクの冒険者は存在しないはず……」
「今は、な。それ騎士団長か、歴史に詳しい人に見せてみろ。それは紛れもなく本物の冒険者証」
流石にいつの物かまで言うと、信ぴょう性に欠ける。ただ、ヴァルキリア崩壊後も、長い間使われていたらしいことは分かっているので大丈夫だとは思うが……
「この冒険者証は君のだと聞いた、本当かね?」
しばらく待っていると、そこそこ威厳のあるおっさんが出てきた。
「そうだ。それは間違いなく俺のだ」
「私が騎士団長のアルベルトだ。ところで、こういう物に詳しい知り合いに見せたところ千年ほど前に使われていたものだと聞いたのだが?」
「その通り、何の不思議でもないだろう?それは魔道具だ。たかだか千年、朽ちずに保たれることに何の不思議がある?」
「私が不思議なのはそこではない。君は声的に若いのだろう、なぜこれを持っている」
「俺のだからだ」
「そういうことを聞いているのではない!これに書かれていることが本当なら、コレは初代<勇者>ケイト・カンザキの物なのだぞ!」
「知っている」
「知っているだと?ではまさか君は……いや、貴方様は……!」
「その通り」
そういって俺はコートを脱ぎ捨てると同時に<聖鎧>を展開。兜も忘れずに、腰には一本の黒い剣を提げる。
演出って大事だよね。
「俺が<初代勇者>、神崎啓斗だ」
「──初代勇者だと……?」
「そんな馬鹿な……?」
「あの方は元の世界へ帰還なさったのではなかったのか?」
ざわめく騎士団員の中で、団長だけが落ち着いているように見える。
「証拠は?」
「この鎧と聖剣が証拠だ。あの冒険者証を本物だと見切った者がいるのならその者に見せてみろ。聖剣くらいなら貸してやる」
「ベルモンド」
「は」
何か中年のそれっぽい眼鏡付けた人が出てきた。
「調べろ」
「了解いたしました────こ、これは」
「<鑑定>結果を読み上げよ」
「は────<聖剣・サクリファイス>、所有者ケイト・カンザキ、状態・所有権者所有……本物です。そちらの方も勇者ケイト様で間違いないかと」
当然。
「で、では<勇者>様はなぜここに?もう一人<勇者>様は王国に付いているというお話ですが」
「ああ。それは確定事項で、俺も知っている。俺が来たのはそれのためだからな」
「一体何をなさるおつもりですか?」
「何、<勇者>の<聖剣>は、可能な限り人に対して振るうものではないと教えにな。安心しろ、<勇者>は俺が引き受ける」
「ですが……」
「ああ、俺はこちら側に付いたわけではない。だが<勇者>及びその他<召喚者>は、俺から直々に教えを加えようと思ってな。だから他の王国軍は相手が出来ない。そっちは自分たちで何とかしてくれ」
「いえ、<勇者>様を抑えていただけるだけで十分時間は稼げます、ありがとうございます!」
「初代として後継者を叱り飛ばしに来ただけだ、気にするな」
いや実際そうでしかないのだ。馬鹿だろうあいつらは。仮にも<魔王>を打倒する人種の希望たる<勇者>パーティーだぞ?!
人族同士で争ってどうするんだとか思わんのか?!
……思わんから来てるってね、知ってた。
以上です。
さあ、折りにいきましょう!
それでは感想質問批評等お待ちしております