二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

19 / 108
更新と再起動…だと…


予告通り、王都サイドのお話です。

それでは第12.5話、どうぞ!


閑話  今代<勇者>の決意

<防衛者>神崎啓斗と<支援者>内山さくらが殺された日の夜。王都・王城の謁見の間では、馬を全力で駆けさせた近衛騎士団の報告が行われていた。

 

 

 

 

「何、魔族が?!」

 

「は、ギガントポイズンスパイダーの討伐に成功した直後、気が緩んだ隙を突かれ、クラウディア・リベオール正騎士が討たれました。さらに他の騎士へ襲い掛かろうとしたところを<防衛者>……様が、障壁を張ってくれたので」

 

「では<防衛者>様は?<支援者>様もお姿が見えないのですが……まさかっ!」

 

「王女殿下、申し訳ございません……我々も力を尽くし、できうる限りのことはしたのですが……我々を庇って……」

 

 

 

小隊を率いていた隊長の話はこういうことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔族による不意討ちを受け、1人が殺された騎士小隊を護るように<絶対障壁(バリア)>を展開。<支援者>による援護もあり、最初は魔法攻撃を全て防御しきったという。しかし、騎士団員含め17名を覆うほどの障壁は、当然ながらかなりのMPを消費し、疲労もたまる。一瞬の隙を突かれてまず<支援者>が殺された。さらに<防衛者>自身も腹部を刺された。しかしそこで相手の剣と手、自分を<絶対障壁>で固定し、その間に首を刎ねるように指示。

 

見事魔族の討伐に成功した。しかし、直後にさらにもう1人の魔族が出現。応戦しようとした騎士団に、<防衛者>は逃げるように指示。殺された騎士の剣を拾って、自分と魔族を囲むように内向きに<絶対障壁>を展開したのだという。

 

最初は命令権から指示に従い、退避したものの、途中で閃光が走り、爆発音が鳴り響いたので、心配になり戻ったところ、その場所は円形に吹き飛んでいたという。残っていたのは魔族の下半身だけの死体と、血が付いた<防衛者>の服の切れ端、そして血が付き折れている騎士剣だけだったという。

 

 

 

「魔族の攻撃魔法もしくは自爆だと……考えられます」

 

 

 

 

 

実際は嘘八百も良いところなのだが、内容に矛盾はなく、1人が欠けている理由も判明。もともとギガントポイズンスパイダーとの戦闘で前衛全員鎧には大なり小なり傷が出来、汚れている。そもそも魔族との戦闘ではほとんど守られてばかりだという点においても、観測可能な事実と一致。

 

ゆえに、これが嘘であることに、<勇者>メンバーも王国の上層部も、計画した張本人の宰相を除き、気づくことは無かった。

 

 

 

(よし、邪魔者の排除には成功したか。1人死んだが……まあ国のためだ、仕方ない。詳細は後で聞くとしよう。あとは厄介者も排除しなくてはならんな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その日の深夜、宰相の自宅。

 

 

 

「ご苦労だった、これは約束の報酬だ」

 

「ありがとうございます……それで、お言葉通り、昇進させていただけるのですよね?」

 

「それは騎士団長と話したまえ。私はただ役割をこなせば昇進も有り得ると言っただけだ」

 

「な……約束と違うじゃないですか!」

 

「約束?なんのことだ?私は昇進は有り得ると言っただけで、昇進させてやると言った記憶はないぞ?」

 

「ふ、ふざけんなよ!なんのために殺したと思っているんだ!」

 

「そのような事をあまり大声で言うのは良くないぞ?」

 

「人に人を殺させといて今更だろうがよ!くそっ、こうなったらいっそ公表して道連れに……」

 

「それは困るねぇ……やっぱり下賤な犬は使い捨ての駒にしかならんか」

 

「なんだと?」

 

「やれ」

 

「何をっ……ガッ?!」

 

 

 

次の瞬間、隊長の胸から短刀が突き出てきた。いつの間にか回り込んだ、黒づくめの男から、真後ろから胸を一突き。

 

動かなくなった隊長を見て、宰相は小さくため息を吐いた。そして、

 

 

 

「ついでだ。全員殺してこい」

 

「は」

 

 

 

一言そう答えると、隊長の死体と共に一瞬で消えた。残りの随伴メンバーを消しに行ったのだろう。

 

 

 

「言い訳はどうしようか……魔族の報復、で良いか。これで邪魔者は全て消し去ったな……成就までまた一歩前進か」

 

 

 

宰相宅、血だまりが広がるホールに、宰相の声だけが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日夜、<勇者>メンバーに割り当てられたリビングでは、<勇者>達が内山の死を悼んでいた。一方で神崎の死は、自業自得だろう、としか思われていなかった。

 

 

 

「内山さん、どうして……」

 

「なんで神崎より先に死んでるんだよ!」

 

「女子を先に死なせたのか!」

 

 

 

彼等の耳に、「隙を突かれて」という言葉は残っていなかった。ただ、神崎啓斗よりも先に内山さくらが死んでしまったという事実だけが残っていた。

 

特定の誰かと組むという事はしなかったが、誰に対しても柔らかい物腰で接していた彼女の死は心から悼まれた。そして当然の如く、その責任は共に行動しながらも、彼女より後に死んだ神崎啓斗へ向く。そして向くだけの根拠もあった。

 

誰もが思い出していたのは、一週間ほど前の竜の訪問時に、彼が言い放った言葉。

 

 

 

──<支援者>が<防衛者>に同調するのは当然だ

 

 

 

──なぜなら<支援者>は<防衛者>の唯一のパーティーメンバーなのだから

 

 

 

その発言は、今の彼等には、<支援者>は<防衛者>の部下である、と言っていたようにしか思えなかった。ダメ押しがその後の二人の会話である。

 

 

 

──<支援者>、お前はまだあちら側にいろ、そっちの方が都合が良い

 

 

 

──言われずとも

 

 

 

まるで上司が部下に命令するような、いや、それは紛れもなく、<防衛者>から<支援者>に対する命令であった。そして<支援者>内山さくらは、その命令を拒まなかった。

 

 

 

「なんで内山さんを庇わなかったんだ!」

 

「<支援者>が<防衛者>の部下だから……とか?」

 

 

 

よって彼等はその結論に辿り着く。

 

 

 

「なっ……じゃあ身代わりにしたってのか!」

 

「女子を身代わりにしようとするなんて!」

 

 

 

落ちこぼれの男子が生き延びようと、ステータスの低い女子を身代わりにしたのではないか、という彼等にとって()()()()()()()()()結論に。

 

 

 

無論この結論には欠けているものが多すぎる。

 

<防衛者>も<支援者>同様に低ステータスでまとまっているという事実が。

 

彼が最期まで<絶対障壁>を張り続けたという騎士団員の言葉が。

 

ただでさえステータスが低い者が、足手まといを守りながら、命を懸けても到底敵いそうにない相手と戦う時に、周囲を気にしている暇などない、という思考が。

 

冷静であれば全て分かるだろう事が欠けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、神崎を蔑む声が多い中、篠原はうつむいて考え込んでいた。

 

自分自身の体で魔族の動きを制限し、倒させる。あの強力な魔法障壁たる<絶対障壁>を内側に向け、慣れないはずの剣を持って足止め。最終的に爆発に巻き込まれて死んだ。円形に吹き飛んだということは、爆発まで<絶対障壁>を維持しつつ戦っていたことになる。しかも恐らくレベルは1、攻撃力も初期値と変わらない状態で。

 

 

 

騎士団(他人)を護るために。

 

 

 

自分が最優先だといった、(神崎)の姿とそれが重ならなかった。

 

 

 

レベルも低い、当然MPも少ない、体力は現代人の人並み程度。その状態で16人を護り続ける障壁を維持し続けるのは至難の業だ。むしろ、一度集中が切れたらもうできない可能性すらある。しかも恐らくは間近でパートナーたる<支援者>内山が殺されているはず。だというのに、冷静に、倒す指示を出している。

 

だが、最終的に殿……というか囮を務めた。この部分も何か違う。自分を最優先で動くなら騎士団に任せた方が得、と言うか彼は生き残れるはずだから。

 

そこまで考えてある考えが閃く。

 

「いや、まさか……!」

 

「どうしたの勇人?」

 

「い、いや。ちょっと考え事をな」

 

「ふーん、何?内山さんのこと?」

 

「いや、神崎の方だ」

 

「アイツ?何かあったっけ?」

 

「いや、ちょっと、な。一応は同じクラスの仲間だったんだし、さ」

 

「勇人は優しいね」

 

 

確か、報告では一人目の魔族は、神崎が自分の肉体と障壁で相手を固定して倒したと聞いた。偶然か狙ってか、腹に刺さった剣を相手の腕ごと固定することによって。

 

人族領に出てこれるほどの魔族なら、レベルも高いはず。騎士団が倒しきるまでにもそこそこの時間を必要としたはずだ。その間剣は刺さりっぱなし、終わった直後に再び魔族襲来。<治癒魔法>や<回復魔法>を発動するひまもなかったのだとしたら。

 

 

逃げても遅かれ早かれ死ぬのが見えていたから、自分が殿となって、死兵となって、騎士団を逃がした。出来るだけ多く生き残り、情報が伝わるように。

 

 

そうは考えられないだろうか?

 

 

 

「マジかよおい……」

 

 

 

推論でしかないが、状況を聞く限り、篠原にとって、これが真実に近いと確信できる仮説だった。

 

 

 

何があっても自分を優先するという姿勢を取った(神崎)が、例えなりゆきであっても、自分を犠牲にまでしてこの世界の人を守った。

 

 

 

ならステータスが優れる<勇者>である自分がそれをせずに何をしようと言うのか。

 

 

既に彼と彼女(神崎・内山)を殺した魔族は、彼自身が殺している。ならば何をするか。

 

 

 

「魔王を倒し、魔族を亡ぼすことで二人への弔いとする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日この時、<勇者>篠原勇人は決意した。

 

 

 

何としてでも<魔王>を倒し、魔族を亡ぼし、人族を救う。そして、せめて今生きている者は全員、元の世界へ連れ帰る。それが、先に死んだ学友の願いにも沿うだろうと。

 

 

 

彼は気づかない。それがすべて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()




以上です。

自分で書いてて笑いそうになりました。こうして<勇者>は、魔族を滅ぼす意志を固めます。
それが根本から間違っているとも知らずに。

次話から主人公サイドです。
それでは、感想質問批評等、お待ちしております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。