二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
最新話です。
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<防衛魔法>は<防衛者>にとって唯一の手札であり、切り札である。精神干渉系統の魔法が存在するこの世界で生き残る事を目的としたとき、自分の切り札を自分以外の誰かに使わせる事はリスクが大きい。特に、残念な事に<防衛者>にとって<支援者>以外の全ては仮想敵になるから余計にだ。
とはいえ、二次委託は存在しないし最悪回収できるので、戦闘能力をあまり持たない相手への付与は割と気安く出来る。
「では付与を始める。使い方は多分使えるようになったら分かるはずだが、一応かけた後で練習しよう」
「おう」
「付与するスキルは三つ。<絶対障壁><神楯><周辺警戒>だ。これだけあれば最低限自分の身、巧く使えば周囲の人間まで護る事ができるだろう」
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あとあまり口に出せない理由として、残る<勇者>が単独である以上、複数地点での警戒を主要用途とする<警戒地点設置>は不要であるという理由が挙げられる。最悪<勇者>である彼さえ守れればそれでいい。
俺も彼も、<勇者>ではあるが万能ではない。
魔力消費は少ないとはいえ、<鍛冶>である彼の魔力量は高くない。不要な選択肢を増やすのはあまり得策とも言えない。
「おう」
「では──<防衛業務委託・絶対障壁><防衛業務委託・神楯><防衛業務委託・周辺警戒>」
<巫女>に付与した時よりレベルが上がり、魔力量が増えている事と、<巫女>より付与したスキルが少ないせいか、魔力消費はだいぶ軽い。
そういえば<巫女>に付与したスキルはどうしようか。<神楯>はかなり有用、<周辺警戒>と<絶対障壁>はそれに準じるが……<警戒地点設置>要るかなぁ……剥がすか、うん、剥がそう。
<防衛業務委託>により、俺と委託先にはちょっとした繋がりが生じる。魔力的な何かでもなく、なんというか、そこに何か繋がりがあるとわかるだけだが。多分業務委託というくらいだから契約的な何かだろうと思う。
剥がす時にはその繋がりに意識を集中し、取り外せばいい。なので顔を合わせる必要はないのだが、俺から付与をお願いしたし、一応話した上で剥がすか。
「じゃあとりあえず使ってみてくれ。詠唱は<防衛業務委託>の後にそれぞれスキル名をつけるだけだ。スキル名はそれぞれ<神楯><周辺警戒><絶対障壁>。一応簡単
な説明を入れると、<神楯>が一定範囲内の自動迎撃、<周辺警戒>は、まあゲームのマップみたいな物が頭の中に浮かぶ、<絶対障壁>は名前通り、全ての攻撃に対処できるバリアを張れる」
「改めて聞くとゲームより凄いな……」
超わかる。
これに加えて現代兵器召喚が使えるんだ、防衛系兵器限定だけど。ネット小説かな?
「魔力は君の魔力を消費する。戦闘職ではないから魔力は多くないはずだ、消費量もかなり少なくはあるが一応発動中は注意しておけ。あとこれはあくまで時間を稼ぐ程度の代物に過ぎない。護衛はちゃんと付けておくことを忘れるな」
<周辺警戒>を発動して頭を抱えたり、<絶対障壁>を発動して小さい子供のように目を輝かせたりする佐々木を見ながら、一応の忠告をしておいた。そういえば春馬さんが使ってた<
この後は、篠原と若干話して……流石に今日<巫女>に接触するのはやめた方が良いか。夜中に女子の部屋に行くのはあまりよろしくなかろう。大した用事でもない、明日行くとしようか。
「さて、とりあえず来てもらったわけだけど」
「ああ、命の危険がある、だって?」
「少なくとも現状維持ならば確定でな。だからそれをどうにかする」
「どうやってですか?」
「ひたすら訓練だ。今までと変わらないが……模擬戦形式で稽古を付けてもらうと良い、と思う。俺も今日同じことをしたが……近衛騎士団長か、あるいか彼に頼んで腕の良い騎士とね」
「理由を聞いても?」
「警戒を厳に、命の危険がある、というのが<神託>の内容だった。しかも<勇者>である篠原と、<防衛者>たる俺にだ。逆に言えばこの二人以外にはその危険は及ばない事になる。つまりこの危険は俺と篠原だけを狙ってきている」
全員が狙われるのなら、わざわざ名前を出して言及する必要はないからね。
「俺と篠原だけを狙って殺すなら、方法は限られる。暗殺か直接戦闘で殺すかだ。暗殺だとまあ、順当に刺客送り込んでくるか毒か、だろう。このうち毒については考えなくていい。万一命に関わる事だとしても、今回も――今代の<聖女>が同行するのだからな。彼女でなくとも<回復術師>も<治癒術師>もいる、状態異常は即時治癒が可能だ」
この世界で使われる毒は魔法でどうにかなってしまう。魔法マジチート。自然毒? ……あー……個人的に警戒しとくか。
「となると警戒すべきは直接戦闘と暗殺者。直接戦闘で、相手が<勇者>を殺すために送り込んでくるのなら、間違いなくそいつは今の篠原よりも強い。だから確実に格上である相手に持ち堪える事に慣れてもらおうというわけだ」
この短期間で劇的にステータスを上げる事はまず無理だ。ならば別の部分で成長してもらおう。つまりは自分より強い相手との戦闘に慣れてもらう。ぶっちゃけ最初の攻勢を防げれば数で叩ける。
「暗殺者は気にしなくていい。俺が対処する。どうしても気になるようだったら、同じ<勇者>にもいるのだろう、彼らに協力してもらってくれ。遠距離魔法の狙撃も同様だ」
<周辺警戒>というメタ暗殺者な魔法あるし、<神楯>であれば俺の近くに俺を標的とした魔法が入った瞬間に迎撃される。
「後、ランニングとかの自主トレーニング、やっているのなら、模擬戦と合わせて無理のない程度まで負荷を落として構わないから続けた方が良い」
この世界におけるステータス、というのは当人の能力をある程度の目安として可視化したものになる。それはレベルが上がらないとほとんど変わらない。となると単独でやる鍛錬やら筋トレやらは意味がないように見える。
しかしそんな事はない。筋トレして腕力が上がればそれは物理攻撃力に+される。そもそもステータスに反映されない身体能力だってある。持久力、移動速度、動体視力等。この世界ではステータスは一つの目安に過ぎない。ステータスを封じられてもスキル無しなら騎士団長とも鍔迫り合いが可能な俺が証拠だ。
「この世界では努力が全て生き残る事に直結する。やれる事は全てやっておくべきだ」
正直わざと毒キノコとか毒草を致死量未満程度食べさせて毒耐性つけさせるか悩む……止めとこうか、間違ったら死ぬ。
「出来る事を全てやってもなお、足りないならば、俺がフォローしよう」
先ずは毒、匂いは正直分からないが味であれば判別できる。俺さえ生きていれば耐久戦は容易い。
暗殺者、これは簡単だ。敵意は<周辺警戒>に引っかかり、攻撃は<神楯>に引っかかる。<反応障壁>があれば少し工夫できるがまあ今無い物は放っておく。
遠距離狙撃、これは<神楯>に祈るしかない。頼むぞ。
直接戦闘、相手の剣を見て避け防ぎ続ける事が重要。最悪は<神楯>頼りだが、よほどの相手でない限り対応は出来る。
……死角は、強いて言うなら毒か。これだけは俺の感覚頼りになる。毒探知……採取系のスキルにあったような、となると<狩人>か。<暗殺者>の罠探知系では微妙なところだが……毒系って自然習得だったか、教わらないと駄目だったか?
<賢者>の<解析眼>って毒探知できたっけ。
毒の耐性って直接摂取以外に取得する方法なかったか……あ、女神の加護。南に到着する前にもう一つ洞窟無いかな。
「国崎?」
「うん? ああ、悪い。少し考え事をしていた。何かあるか?」
「いや、もう何もないなら解散にしようと思ったんだが」
「そうか。いや、俺には何も無い」
「じゃあ、今夜はこれで解散という事で。高山、また明日」
「ああ、篠原君も、国崎君も、お疲れ」
「お疲れ」
「じゃあ俺の部屋は向こうだから」
「そうか、じゃあな」
さて、俺も色々やんないと……自力で戦えない後衛職に<防衛業務委託>使ってみるか?
以上です。
今年も本作品を読んでいただきありがとうございました。来年も読んでいただければ幸いです。
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それでは皆様良いお年を。