二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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レポート多すぎて死にかけてました、生きてます。

更新一回分すっ飛ばして申し訳ありません。










第八十二話  慣らし

「じゃあ、全員連れて行くのか?」

 

「いいえ、佐々木君は残るそうです」

 

「……<鍛冶>か。ああ、弟子入りをしていたか。しかし一人残すのは少し心配だが……」

 

「どうしても残ると言うので、一応騎士団には話を通してあります」

 

「それだけでは不安だな。彼がここにいる間に<防衛魔法>を渡しておこう。少なくとも単独でも自分の身は守れるはずだ」

 

 

 

そういう時のための<防衛任務委託>だ。

 

 

 

「分かりました、彼についてはお願いします」

 

「出立は結局いつにするんだ?」

 

「五日後、元旦、じゃなくて世界の始まりの日にします。ちょうど佐々木君もその日に戻るそうなので」

 

 

 

まあまあ余裕がある。まあ今回は救援要請があったわけではないし、人数も多い。可能な準備は済ませてからという事だろう。町もお祭りムードでお見送り、タイミングとしてはちょうどいいか。

 

 

 

「じゃあそれまでに渡しておく。あと、今日の夜、篠原と話すべきだな」

 

「……神託の事ですか」

 

「ああ、名指しで警告を受けたとなっては何かしら考えられることは考えておくべきだろう」

 

 

 

いやしかし何があるんだろうね。聖剣はともかく防御よりの<勇者>にして<防衛者>でもある俺にもわざわざ名指しで警告が来るとは。

 

逆か? 俺だから警告が来たのか? だとすると相手はよほどの手練れか。それとも『俺達』の敵か。まあ強くなくても搦め手かもしれない。常時狭い範囲で良いから<神楯>か<周辺警戒>を展開させておく必要があるか。

 

 

 

「そうですね。では今夜、自分の部屋でどうでしょう」

 

「了解した」

 

 

 

さて、夜まで暇ができた。

 

 

 


 

 

 

今の俺は<防衛者>だ。<勇者>の力は現在女神に渡された腕輪によって封じられ、自由に扱う事は出来なくなっており、ステータスは本来あるべき<防衛者>と同等まで落ち込んでいる。

 

つまり自然にあるためには<勇者>の力で戦闘を行うのは極力避けるべきだ。直接的な戦闘は前衛職に任せ、<防衛魔法>で味方全域をカバーするのが俺の戦術のメインとなる。何かしら戦術を立てる上で俺を駒として数えてはならない。

 

ただ、人の慣れとは恐ろしいもので、俺の思考の中で無意識に想定している俺自身のスペックは<勇者>の俺だ。

 

召喚直後は若干のずれを感じたものの、殺されてから数か月間、<勇者>あるいは<防衛者>と<勇者>の並列的存在として動いていたせいか、<勇者>の身体能力が思いの外しっくり来ている。来てしまっている。本来は望ましい事だが、今の状況に限っては望ましくない。

 

つまり咄嗟の時に無意識に自分を戦力として計上し、レベル200超えの魔法剣士として考えてしまう可能性が高い。<賢者>としての能力が使えない今だからこそ、いつもの予防線を複数張った思考回路を使えず、無意識領域に頼る部分が大きい。

 

ではどうするか。

 

答えは簡単だ。今の自分がレベル50にさえも満たない<防衛者>であることを頭に叩き込めばいい。

 

 

 

「──ああ、ちょうどよかった。お願いがあるのですが」

 

「なんでしょう?」

 

「少し、剣の、手合わせといいますか、稽古をつけていただけませんか。<防衛者>として任じられているために今の自分がどれだけできるのかを知っておきたいのです」

 

 

 

誰か、<勇者>であれば勝てるが、<防衛者>であれば勝てない相手に叩き潰してもらえば良い。

 

 

 

「……分かりました」

 

「本気で、生意気なガキを叩きのめす感じでお願いします」

 

「ご要望に応えられるかわかりませんが、全力で臨ませていただきます。剣はこちらの物をお使いになられますか?」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

訓練用の剣を正眼に構える。なんだかんだいってこれが一番しっくり来るのは身体に染み付いた癖のせいか。正しいかどうかは知らない。

 

相手もほぼ同じような構えだ。

 

 

 

「……先手はお譲りします、いつでもどうぞ」

 

 

 

 

なるほど、どうやら頼み事は聞いてくれるらしい。ならば遠慮は要らない。

 

息をゆっくりと吐いて、吸う。姿勢を低く、前傾姿勢に、重心を前へ。剣を引きつける。

 

剣を構えて無言で、全力で地面を蹴って飛び出した。挑む先は騎士団長、この国で有数の剣士だ。

 

 

 


 

 

 

キツい。分かってたけどキツい。全然太刀打ちできない。動体視力と素の身体能力はほぼそのままなおかげでどうにか攻撃を避けられているが、その先が出来ない。

 

<勇者>から<防衛者>になる事で失ったものは二つ。

 

魔法及び魔力操作による戦闘補助能力と<並列思考><思考加速>による予測能力だ。

 

いつものように安全のために予防線を張り巡らせた戦いがまったくできないために防戦一方になっている。

 

剣の腕は多分互角。でも多分向こうはまだ余裕がある。まともな教練と実戦経験による洗練された剣技といったところか。

 

さてどうしたものか。

 

 

 


 

 

 

強い。

 

剣を交えてみて確信する。おそらくそこらの騎士相手でもまともに戦える程の強さだ。

 

これで<勇者>の力をかなり封じられているというのだから驚くほかない。確かに攻撃は一切こちらへ届いていない。全般的に攻撃の速度が遅く、迎撃は容易い。

 

ただしそれは基準を自分に置いているが故の判定だ。彼の動きは普通の騎士と遜色がない。しかも一切の詠唱が聞こえないという事は、戦闘系スキルをまったく使っていない、つまりこれが彼の素の身体能力であるという事。

 

そして一方でこちらの攻撃もまた相手には届かない。全て剣で逸らされるか避けられてしまう。つまりこちらの剣が相手には見えている。

 

彼の剣は『受ける』剣の性質が強い我流の剣だ。自分が生き延びる事を主軸に置いた『生き残る』剣。それも多数を相手にすることを想定した剣に見える。

 

動きにところどころ違和感があるのは、おそらく本来であれば支援系の魔法があるという事なのだろう。付け込む隙があるとすればそこだ。しかし残された時間はあまりない。この短時間の間に徐々に修正されつつある。異常なまでの成長速度だ。早めに決めなくてはならない。

 

 

 


 

 

 

どうしたものかとは言ったがこの模擬戦闘、勝つ必要はない。現在拮抗しているというこの状態において既に俺の目的は半分ほど達成されている。

 

久々の負け寄りの勝負という事もあってか、全ての感覚が急速に現在の状態に最適化されつつある。ぶっちゃけ非常に楽しい。とても楽しい。多分口角は上がっている。

 

 

 

「ここっ!」

 

 

 

鋭く振られた剣に自分の剣を添えて振り払う。力負けはするが避ける事は出来る。そのまま返す形で切りかかるが避けられた。そのまま距離を取る。

 

示し合わせたように息を整え、剣を構え直す。

 

 

 

「──<縮地>」

 

 

 

次の瞬間、団長の姿は俺の真横にあった。

 

 

 

「っつ……!」

 

 

 

咄嗟に剣を差し出し身体の前に滑り込ませる。直撃は避けられたが衝撃を受け止められず姿勢を崩された。ああうんこれは良くないな。倒れこむと同時に右側へ転がり、起き上がりつつとりあえず一閃。

 

 

 

「<縮地>」

 

 

 

振り切った時には剣の射程外に団長が剣を構えていて、しまったと思う間も無く、首元に剣を突き付けられた。

 

 

 

「──参りました」

 

 

 

両手を挙げて降参の意を示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……質問をしてもよろしいですか?」

 

 

 

団員の方が差し出してくれた水をありがたく受けとって飲んでいると団長に声を掛けられた。

 

 

 

「ええ、なんでしょう?」

 

「その『剣』は……どこで身につけたのですか?」

 

「……かつての<剣聖>、そして召喚した国に居た騎士団長、二人から教えを受けて、後は戦場で、ですね」

 

「なるほど、道理で。強いと思いました」

 

「無茶なお願いを承諾してくださりありがとうございました」

 

「いいえ、私にとっても良い模擬戦になりました。希望には添えましたか?」

 

「はい」

 

 

 

多分、大丈夫だ、と思う。

 

団長を真っすぐ見据え、右手に剣を握る。それと同時にほぼ反射的に呟く。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

構築される絶対の護り。これでいい。襲撃を掛けられたときに、時間を稼ぐ事ができるならそれで良い。障壁を解いて、剣を近くの団員に返す。

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 

 

改めて頭を下げた。

 

 

 


 

 

 

頭を上げて去っていく少年の後ろ姿を見つめながら先ほど言葉にしなかった疑問を思い浮かべる。

 

『その剣は、貴方がこの世界に初めて来る前から身に着けていたものなのか』

 

両手で剣を握り、相手の眼に切っ先を向ける構えは、一度だけ見た事があった。今は亡き<防衛者>ケイト・カンザキが<剣聖>の称号を与えられたタカヒロ・ミズヤマと模擬戦をした時、確か彼は適当に見えて妙に様になっている構えを取っていた。その状態から滑るように動き出し、相手の剣を弾いて叩き落し喉元に剣を突き付けた。

 

その時の構えと、今回の構え方は良く似ていた。それが少し気になっていたのだが、確信は無かった。

 

ただそれだけだ。気のせいと言われればそうかもしれない。そういえばあの時ケイト・カンザキは『ケンドー』という言葉を口にしていた。文脈的にはそれが彼が元の世界で予め修めていた剣技なのだろう。元<勇者>ももしかしたらそうなのかもしれない。

 

ただどうしても気になる。どうしても彼と元<勇者>の少年の構えが被る気がしてならなかった。




以上です。

感想評価質問などお待ちしております。

次回更新も遅れるかもしれません、予想を上回る頻度で実験が叩き込まれました……

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