二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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二週間ぶりです、どうも。

もう八十話ですね。

内容はタイトルからもう察してください。

勇者に休みなどなかった。

それでは第八十話です、どうぞ!


第八十話  王女殿下

賢者を帰し、廊下の角を曲がったのを確認する。そして呟くように言った。

 

 

 

「さて、もう大丈夫だと思いますが」

 

「……なぜ?」

 

 

 

何もない虚空から声が聞こえた。

 

 

 

「その問いかけはなぜ分かったのか、という事ですかね。<防衛者>には自分の周囲を警戒する魔法があるんですよ。今度はこちらから質問してもよろしいでしょうか、()()殿()()。なぜこんな時間に私の部屋にいらっしゃるのです?」

 

「それは……」

 

「――失礼、誰か来ます、部屋の中に入っていただいても?」

 

「え、ええ」

 

「ではこちらへ」

 

 

 

「さて、改めまして。こうして言葉を交わすのは初めてですね。初めまして、先代<勇者>、ケイ・クニサキです。お茶も出せませんがご容赦ください」

 

 

 

透明マントのような、自己を透明化する類の魔道具を使用していたらしい。部屋に入ってすぐ、何もない虚空から王女が姿を現した。どうでもいいが簡素なドレス姿だった。

 

 

 

「お初にお目にかかります、先代<勇者>様。私はシルファイド王国第一王女、シルフィアーナ・シルファイドと申します。このような場でご挨拶申し上げる無礼をお許しくださいませ」

 

 

 

どうしよう、敬語で対応したらそれを上回る敬語で返された。対応に困る。

 

 

 

「……あまりへりくだる必要はありません。私は確かにこの世界で千年前に<魔王>を打倒しましたが、今は女神様の下令によって<防衛者>の代理として動いている身。普通の<勇者>と接するように接していただいて構いませんよ。個人的にそういった扱いは疲れますし」

 

「……ではクニサキ様とお呼びします。私の事はどのようにでも」

 

「ではシルフィア殿と呼ばせていただきます。時間も遅いですし、本題に戻りましょうか。なぜ私の部屋に?」

 

「……クニサキ様が、<勇者>の御力を使われたとお聞きしました」

 

 

 

なるほど、それか。

 

 

 

「ええ、女神様に無理を承知で祈願したのですが、なぜか快く聞き入れてくださいまして」

 

「その御力、どうか人族のために振るっては頂けませんか?」

 

 

 

そう来るよなぁ……うん、こっから気を抜けない。結論をどう持っていくにしても、だ。

 

思い悩むふりをしながら、背中に隠した左手と<警戒地点設置>でシステムウィンドウを操作、<特務管理者>権限から俺自身のスキルのうち<自動翻訳>系のスキルを全カット。

 

ここから先は全部現地言語だ、俺の言語力と表現力が試される、と言いたいところだが俺だけとかどうやっても地雷を踏んでしまいそうなので、助っ人を使う。

 

 

 

『というわけで校正よろしく』

 

『了解。方向性は全部任せるわ』

 

「……えぇ、私もそれが叶えばどれほどいいだろうと、何度も思いました」

 

 

 

ゆっくりと話し出す。

 

 

 

「なら!」

 

「落ち着いてください。それが出来ないのです。私とて、全てが自由にいくわけではない。私自身、本来は今この世界にいて良い存在ではない事をご理解ください。全てが偶然の事故とはいえ、<勇者>の、それも一度<魔王>を打倒するに至った<勇者>の力は、自由にするには大きすぎるのですよ。ゆえに私には私も同意した上で、女神様によって枷を掛けられた状態です」

 

 

 

理由以外は事実だ。<勇者>の力は二人分も要らないし、今代の<勇者>は<正義>だ。

 

 

 

「それは……どうにか、どうにかできないのですか!」

 

「私ではどうにも」

 

 

 

残念そうに首を振る。<システム>の掟は俺一人でどうにかできるもんじゃない。別にさくらが居てもグラディウスが居てもそれこそ<正義>に朱梨先輩を加えたところでどうにかなる問題でもないが。

 

 

 

「そんな……わ、私に出来る事ならなんでも――」

 

「そこまで」

 

「はい?」

 

『あら、美少女の『なんでもするから』って聞きたくなかったの?』

 

『この文脈で聞かされるとは思わなかった。っつーかこの状況で聞いてどうすんだ』

 

『おいしく頂かないの?』

 

『んな事するか馬鹿』

 

『じゃあ早目に取り繕いなさいな』

 

「失礼。ですが、『自分に出来る事なら何でもする』というのは、あまり軽々しく口に出して良い言葉ではありませんよ、特に王女殿下、貴女のような人は特に」

 

『随分と優しい事。まさか狙ってるの?』

 

『お前これでOK出しただろ』

 

『私は校正だけだし? 外見に沿ってるからねぇ。でも巧く捌いてね』

 

『ですよねー』

 

「それはどういう……?」

 

「ご自分でお考え下さい、自分がいまどんな状況でどこに誰と居るか、とかを特に……話を戻しますが、私の枷についてはどうにもなりません。先ほど<賢者>にも同じ話をしましたが、簡単に説明しましょうか」

 

『うわさらりと流しやがった』

 

『任せるっつったじゃねーか……なあ、さっき話したこと交えて良いか?』

 

『どれ?』

 

『魔王未出現の召喚』

 

『んー……まあいいわ。ちゃんと巧く纏めてよ、何かあったらこっちで弾くから』

 

『了解』

 

「<勇者>というのはこの世界において基本的に異物です。当然ですね、この世界の法則に従わない、外の世界から来た人間です。だからこそ<勇者>の力を与える事が出来るわけですが、その力で好き勝手される事は許容できないでしょう? ゆえに枷を嵌めるわけです。

 

最初私がこの世界に来た時、私ともう一人、かつての<聖女>はどこかの森にいました。召喚されたことは把握しましたが、其れ以外は何もわからなかったところに女神様から神託が下りました。

 

『理由は不明ながら再召喚されたようである、現時点で<魔王>は存在しない。排除されるか送還されるか留まるかを選べ』と。排除されるのは御免でしたが、送還されるのも腑に落ちませんでした。

 

女神様が、()()()()()()()()、と。明らかに異常でしょう? しかも今代の勇者は別の国で召喚済みであると。留まって万一の役割と調査役を果たそうかと思い、留まる事にしました。

 

女神様は、自分がどれだけの苦行を私達異世界人に託しているか良くご存知です。ですからこの世界に留まると決めた私に枷を嵌めるときも、私に同意をお求めになった。これは信頼の証です。女神様は私がそれを拒まない事、つまり私が<勇者>としての任を解かれてもその力を自分のために世界を荒らすような事に使わない性質である事を信頼なさっている。

 

であれば私はその信頼を裏切るわけにはいかない。最初の選択は間違いなく自分の判断です。だから私はこの状況に甘んじるしかないのです」

 

『……まあよくも次から次へとそんな話思いつけるわね?』

 

『なんでだろうなぁ』

 

 

 

俺が知りたい。

 

 

 

「今の私は殺された<防衛者>の代理。<防衛者>として全力を尽くす事は確約しましょう。それに前回召喚されたときの知識は残されたまま、これも何かの役には立つでしょう。それでは不足でしょうか?」

 

『鬼かおのれは』

 

『巧く纏めろって言ったじゃんか』

 

「……いえ、無理を言って申し訳ありませんでした」

 

「お気になさらずに。取れそうな手段はとりあえず取ってみるというのは私にも経験がありますので」

 

『修行デスマーチ?』

 

『何だその名前は』

 

「さて、時間も時間です。必要であれば途中までなりともエスコートいたしますが……」

 

「いいえ、ここは城内です。私に手を出すような不届き者があるとは思えません。それにこれもありますので」

 

「……なるほど、透過の衣ですか。では、おやすみなさいませ、いい夢を」

 

「ありがとうございました、失礼いたします」

 

『お疲れさまー』

 

『……こんな時間に協力ありがとな』

 

『これくらいならお安い御用。後で何か奢れ』

 

『お安い御用じゃねえのか』

 

『値段は気にしないから安いでしょ』

 

『そうじゃねえだろ……いいや、了解、お休み』

 

『お休み』

 

 

 

 

「楽しいな」

 

 

 

 




以上です。


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