二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~   作:クラリオン

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結局定期的な投稿になってしまいました
次の話は実はもう結構できているので、次の投稿は早めになる気がします。
あれもこれもと書いていたら予定していた話にたどり着きませんでした……





お話が全然進まない本作ですがそれでも読んでいただける事に喜びを感じております

それでは第七十七話、どうぞ!


第七十七話  守護者②

 

 

願いは通じなかったらしい、この世界に神はいないようだ。いや居なかったわ。

 

 

 

「じゃあ、一つ」

 

「なんだ?」

 

「<守護者>ってつまり、職業なんですよね?」

 

「ん? ああ、そういう事か。<守護者>ってのは確かに括りとしては職業になるんだが、俺にとっては称号のようなものだ、と思う。竜種は最初から強大な力を持つから職業は<守護者>が割り当てられていたが、俺は<勇者>としての力が無ければ戦力としては半減する。だから職業は鑑定結果がどうであれ、実質は<勇者>だった。それに、俺に与えられた<守護者>の役割は、今回の再召喚というイレギュラーにおける一時的な割り当てに過ぎない。特例だと考えてくれ。

 

――他に何かあるか?」

 

「その貴族の少女の今後の取り扱いはどうなるのかわかりますか?」

 

「おそらく、どこかの国で生活を始めてもらうことになるだろう。しばらくは護衛も兼ねて俺の元相方が付いているだろうが、いずれはどこかで一人暮らしを始めるのだろうと思う。場所は分からないが、彼女個人の希望には沿うようにすると言っていた。森、という事は少なくともあまり南の方にはいっていないはずだから、案外神国周辺辺りに落ち着く可能性もある。

 

――それを知ってどうするんだ?」

 

「話が正しければ、彼女は、竜種に匹敵する力を持つ人族である、という事ですよね。なら、彼女に魔族との戦争への協力をお願いできないか、と」

 

「……確かに、彼女は雷帝竜の末裔で、先祖返りと言えるレベルの魔導師だ。雷属性の魔法に限るならば、おそらく君達の一員である<魔導師>、確か川島だったか? 彼に引けを取らないレベルの使い手だろう。

 

……ただ、彼女は、言いがかりで反逆罪に問われ、無実を主張しても周囲の誰からも信じてもらえず、処刑されかけている。加えて言うが彼女の両親は彼女の前で殺された。その結果として彼女は軽い人間不信に陥っている。俺と元相方も、かつて<勇者>であったという事実を以て彼女に信じてもらっているような状態だ。いや、信じてもらえてると信じたいところだ。

 

そして何より、彼女は我々と同年齢、未だ一般的な貴族の十七の少女に過ぎない。彼女を戦場へ連れて行く事はあまりお勧めできない。尤もそう言っている俺、そして君達もまた十七の子供であるにも関わらず戦場へ向かう事については何も言えないが」

 

 

 

さらっと息を吐くように嘘をついた。と言っても完全な嘘とは言い切れない。理沙の精神状態は正直俺が今一番恐れている物でもある。幾度となく破滅に至る人生を繰り返し、時には両親さえも敵でしかなかった。何度も十七で殺され続けたという少女の心が、正常な機能を保てるものなのか?

 

俺は精神干渉系の魔法による<システム>からのサポートはあったと踏んでいる。いくら外界から迷い込んできた魂とはいえ、大概なんでも可能な上に進化する<システム>が、不可能をそのまま不可能として置いておくはずが無い。恐らくは記憶を消す際に大まかな形で消しているのだろう。

 

それでもなお、彼女の悪しき記憶が全て消えるわけでもないのだ。女子同士での雑談に花を咲かせていた、俺のつまらない冗談で笑っていた、和食っぽい料理に喜んでいた、その表情に裏がない事を俺は願っている。

 

魔法はイメージだ。今系統付けられているのはイメージしやすくするための後付けでしかない。本来の魔法は、魔力さえあれば位階制限などなく、想像に沿って自由に放てる代物であったと聞く。魔力量の操作はその残滓。今違うのは人族も亜人族も魔族も無意識下で常識が制限をかけているからだとも。

 

竜種は太古より、それこそ位階付けがされる前から生き続けるモノ。ならその力に無意識下の制限など及ぶはずもない。彼等の放つ魔法は、例えスキルが低位階であっても威力は最高位を超える。

 

理性の箍が外れた時に外へ向けてどれほどの力が振るわれるかなんて想像したくもない。少なくとも人の身体が耐えられる代物ではないだろうと、あっさり<賢者>が辿り着いていた。さくらで押しとどめられるようなレベルであればいいのだが。

 

 

 

「積極的に探し、勧誘するのは止めた方が良い、とは思っている。彼女は人族としては強大な力を持つ。だがあくまで一般人だ。下手を打てば<勇者>という権威に脅威を感じる可能性があるからな。<勇者>の権威の強さは君達も良く分かっていると思う。

 

その結果としてどういった事態を招くのか、正直これは俺にもわからないが、いい方向に転ぶ可能性は低いぞ。

 

それに彼女は、魔法と魔力こそ竜種クラスだが、肉体的にはこちらの世界の普通の少女に過ぎない。彼女に何かあった場合の雷帝とかその麾下の魔物への完全なフォローなんて俺でも無理だ」

 

 

 

単純に時間がかかるというのもあるけどな、と続けながら思考を巡らせていく。

 

いや雷帝はとっくの昔に死んでるのでフォローとか要らないし、理沙本人も探しても見つからないだろうから大丈夫なんだが、できればここで理沙の参戦フラグはへし折っておきたい。

 

 

 

「至極個人的な意見としては、彼女はそのままそっとしておく方が良いと思う。まあ、個人的な意見だ、参考程度に考えてくれ。もし君達が彼女を探し、協力を願うというのならそれでも構わない。それならば俺が彼女を全力で守るだけの事。それでなお雷帝あるいはその麾下にある魔物が怒るようなら俺も雷帝の知人として、今代<防衛者>代理として、最善を尽くそう。どうするかの選択は君達に託す。俺は代理人だからな」

 

 

 

絶対起きないと分かってる事なので軽々しく約束させてもらった。いやあ良く回るね俺の舌。しかも最善を尽くすとしか言ってない辺り責任逃れし過ぎにも程がある。

 

まあ俺がペラペラしゃべったことを全部事実とするなら、攻撃される事はないと分かってるだろうから別に構わないか。

 

 

 

<賢者>スキルがあると長文を考えながら話すときでも吟味しながら話せるから、嘘をつく時に便利だ。とはいえこれがある状況に慣れすぎると攻撃を受けた時なんかに低レベル<防衛者>としては不自然になるから意識しておかないといけない。

 

 

 

「他に質問は?」

 

 

 

黙り込んだ<勇者>に問いかけてみる。応えはない。

 

勝った。とはいえ後で設定を覚えておかないと詰む。

 

 

 

『最後の台詞必要だった?』

 

『ああ、だってこれは彼等自身や外部要因が捻じ曲げたとはいえ、あくまで彼等の旅路なんだ。今の俺の介在は特例で、俺の立場はただのアドバイザー。俺達は外部者なんだから、ちゃんと責任は彼等自身にとってもらわないといけないだろ』

 

『責任取りたくないだけなくせして』

 

『まあね。とはいえ、俺の存在によって、少なくとも人族領にいる間は身の安全が保障されるんだ。想定外選択肢を取らない決断の責任なんて安いものだろう。ギブアンドテイクって事で』

 

 これは突然降って湧いた選択肢である。彼女の力を借りる事は、最初の想定には無かったから、必須戦力であるとは言えない。<勇者>仲間の負担の軽減になるという若干の感情が混じる理論は彼女の悲惨な境遇というさらなる感情論を以て封殺した。

 

あとは完全に冷徹な戦力論からの考えから詰めるくらいだが、さて。平和国家を自称する現代日本で教育を受けて育った<勇者>達はその考え方を許容できるかな。

 

無理だろな。

 

 

 

「……いや。教えてくれてありがとう」

 

「まあ、情報提供は厄介ごと押し付けた詫びだとでも思ってくれ。まさか<勇者>に噛みつく人間がいるとは思わなかったのでな。それで、今のところ彼女についてはどうするつもりでいる?」

 

「今のところは、積極的に探す事はしない事にするよ」

 

 

 

勝った。

 

 

 

『勝ったわね』

 

「そうか、わかった。じゃあ、とりあえず、移動しようか。行き先は城か?」

 

「ああ」

 

「了解。ああ、あと、<魔導師>か。手間かけさせて済まなかったな」

 

「……気付いていたのか」

 

「こんなところで長時間話してるのに人影が無いとか不自然にも程がある。消音系と人除けの類でも張っているのだろうとは予想出来る。これはこんな所で出待ちした挙句にそこそこ重要な話を始めようとした俺の責任だ」

 

 

 

まあ張った事に気付いてたから<守護者>関連の話を垂れ流せたわけだが。

 

<勇者>としてそれなりの成長を遂げ続けているという事なのだろう。

 

世界誕生祭は彼等が<勇者>として召喚されてから、確実に長く市井に身をさらけ出す期間である。向けられる注目が鬱陶しくて結界を張る事にしたのだろう。

 

 

 

「なんとなく目的も理由もわかるが、ほどほどにしろよ。実情がどうであれ、君達は今、この世界の人族にとっては救世主そのものなのだから、あまり姿を隠し続けるのは得策じゃない。視線が鬱陶しいのは分かるがな。行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上です。



<賢者>は優秀。下手な嘘をつけば一瞬で見抜かれてしまいます。



それでは、質問感想批評など、感想欄にてお待ちしております。

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