それからオカルト研究部一同に加えて、生徒会も校庭へと集められた。今はまだ夏休みなために幸いにも彼らや生徒会の悪魔関係者しかいない。
「何をするのでしょうか…?」
ソーナは自身らを集めた理由をゼノへと尋ねると、ゼノは詳細を説明した。
「簡単だ。今から俺と鬼ごっこをする」
「鬼ごっこ…?」
「あぁ。参加者はお前ら全員だ。一人でも俺から『2分』逃げきれたら考えを改めてやるよ。それか俺に一発でも攻撃を当てても良しとする」
「…に…2分!?」
ゼノが指定した制限時間があまりにも非現実的な数字である事に、一部を除き皆が驚く中、匙は不満を口にする。
「待ってください!!いくらなんでも短すぎますよ!!」
「匙の言う通りですよ!!2分なんてすぐじゃないですか!!バカにしてるんですか!?」
「バカにしてるだ?これでも相当厳しい条件にしたつもりなんだけど。これをバカにしてるって受け取るなら自信があるみたいだな」
「え…?」
ゼノから放たれた予想外の言葉に匙やイッセーは受け入れられないのか言葉を詰まらせる。
そんな中、後ろでゼノの言葉を分析していたソーナは軽く要約する。
「成る程…つまりその2分間の私達の行動が貴方にとって、私達の実力が取るに足りるかどうかを分ける境目…というわけですね」
「あぁ。タッチする代わりにこのペンでマークを書いて、それが捕まえた証拠だ。特に兵藤、お前が一番苛立ってんなら、強いってことを証明して見せろ」
「…わ…分かりました…」
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その後、各々が準備位置へと向かっていく。
皆が次々と持ち場へとついていく中、ゼノの横を通り過ぎていった朱乃や小猫はただ悲しい目を向けていたがゼノはその目を見ても何も言う事はなかった。
それから数分後。いよいよ勝負が始まる。
「タイムを」
「おぅ」
ゼノの指示と共にアザゼルの手に持つ2分のタイマーが開始された。それはゆっくりと、0.01秒ずつカウントダウンしていき、0へと向かっていく。
そして ゼノは動き出すのだった。
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ーーー
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時間経過 10秒。
散らばった全員のうち、ゼノの前に立つ二人の姿があった。
「逃げないのか」
その姿を見たゼノは予想していたかの様な表情を浮かべると、ポケットから手を取り出す。
「言っとくけど加減はしねぇぞ」
「えぇ。勿論ですわ」
「そうでなければ…意味がありません」
対して朱乃は手から雷の魔力を迸らせ、小猫も魔力と気を練り上げ猫又モードとなる。
その瞬間
「雷光よ!!」
「…!!!」
朱乃が手を掲げると空に巨大な魔法陣が現れ、それと共に猫又モードとなった小猫が駆け出しゼノに向けて気を纏わせた拳を振るっていく。
「「やぁッ!!」」
轟音と共に呼び出された雷光は焼きつくさんと迫ってくるがゼノは次々と避けていく。そんな中、小猫からも突き出されてくる連打も次々と受け流していった。
「(避けるのは想定内…なら、ありったけを打ち込んで…大きな隙を狙うだけ…!!)」
振るわれた拳が避けられようとも小猫は連打を止めない。
更に朱乃自身も自身の魔力を魔法陣と併用させ、ゼノの周囲に展開し、そこから放っていく事で追い詰めていった。
「俺がいない間に修行してたみたいだな」
「えぇ…リアスや皆さんのため…そして貴方についていくために…私達は己の血に向き合い修行を重ねました」
「先輩に…いなくなって欲しくありません」
迫り来る雷撃や小猫の拳をゼノは一息吐きながらもかわしていく。
「朱乃は魔力の量と質…雷の出る速度と量が増えて、小猫は仙術と、あとはそれを併用した格闘術か」
自身をすり抜けていく攻撃から感じる魔力や気から彼女らの成長した能力を分析していく。見る限り自身がいない間も修行をしていた事が事実であると分かる。
育てた弟子の成長。それはゼノにとっても喜ばしい事であった。
「フフ…」
「「…!!」」
攻撃を続けていた朱乃と小猫は驚いた。見ると攻撃を避けるゼノは以前からよく見せていた優しい笑みを浮かべていたのだ。
「確かに…お前ら成長したな…クソ鳥の前とは全然違う…俺についていく自信がつくのも分かる…」
すると ゼノはその場で立ち止まり顔を俯かせる。
ゼノが立ち止まった今がチャンスだと、朱乃と小猫は互いに目で感じ合うと同時に攻撃を放つ。
「だけど」
その瞬間____
______「死なせたくないってことを分かって欲しかった」
「…!!」
静かに放たれた言葉と共に二人は一瞬ながらも動揺すると共に二人の間をゼノの身体がすり抜けていった。見ると二人の額には×が書かれていた。
「ゼノ君…貴方…」
朱乃が振り向くとゼノはただ無表情のまま立ち尽くしていた。そして、先ほど笑みを見せた面影が全くない無表情なまま歩いていったのだった。
「お前ら失格だ。アザゼルのとこに戻れ」
40秒経過 朱乃、小猫 失格。
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試合開始から45秒。
ゼノヴィアと木場とギャスパーは中庭にて生徒会である真羅椿姫らと他数名のメンバーと待機していた。
「朱乃さんと小猫ちゃんがやられてしまったか…」
「流石は銀河神様……当たり前だが、一筋縄ではいかないか…」
そんな時であった。
「木場きゅ……君。ゼノヴィアさん…ギャスパー君…そして他の皆さんも、少しお耳を…。時間の関係上、早口でお伝えいたします…!!!」
椿姫は何か作戦を思いついたのか、皆を集める。
ーーーーーーー
60秒経過。
ゼノは既に全員の位置を把握しており、数人の生徒会メンバーを捕まえていた。
「お前らも失格だ。戻れ」
全員が戻っていく中、 ゼノは把握していた気配のうち、数人の気配が近づいてきている事に気づくと振り向いた。
すると
「うぉおおお!!!」
影に覆われると共に空から雄叫びを上げながらゼノヴィアがデュランダルを振り下ろしてきた。
それを見たゼノは軽く身体を横にそらす形で避ける。
「…へぇ。お前も速さが上がってるな」
横スレスレをデュランダルの刃が通り抜けていく中、ゼノは向上したゼノヴィアの身体能力を分析すると、背後から既に迫り来る木場の気配を読み取り、そこから上空へと跳躍する。
「く…!!!」
その直後、案の定、背後から木場の禁手化によって生み出された魔聖剣が突き出されるも、それは虚空を貫きゼノに当たる事はなかった。
「殺気がダダ漏れだ。乱暴に振りかざすくらいなら素人にだってできる」
「ご指導痛み入ります…ふん…!!」
更に二人は次々と剣を振り回してくる。それと共に他の生徒会メンバーも現れ、援護するかのように魔力弾を放ってきた。
「僕は…貴方に感謝しています…コカビエルとの闘いの時…貴方から貰った力で皆の仇が打てた事がどれほど嬉しかったか…!!」
「だからなんだよ?」
「僕は先輩にまだ何も返せていない!!」
「私もだ!!銀河神殿…貴殿から貰った力で私自身もどれほど救われたか…いつか恩に報いるべく貴方の事を考えていたが、いつしか胸の辺りが熱くなってしまう!!だからここで告白するぞ!!私は貴殿が好きだ!!!」
木場とゼノヴィアが胸の内を明かしながら剣を振るうと、それをゼノは避け、地面へと着地する。
「ハァッ!!」
「お前もいたのか眼鏡2号」
「新羅椿姫です」
更に横から別の刃が迫り、それを紙一重で避けたゼノは目を向けると、そこには長刀を突き刺す生徒会副会長である『新羅椿姫』の姿があった。
「私もお相手いたします」
「お前と戦うのは初めてだな。まぁいいか。とり……ん?」
その時であった。
ゼノの動かそうとした腕の動きが止まる。見れば離れた援護射撃を打っていた生徒会メンバーの場所にはギャスパーの姿があり、此方に向けて目を向けていた。
ギャスパーの神器がゼノの動きを止めていたのだ。
「今だ!」
その瞬間 木場が叫ぶと共にゼノを3方向から囲んでいたゼノヴィアと椿姫が中心に立つゼノへと向けて刃を振り翳していった。
「「「はぁあああッ!!!!」」」
「へぇ。ギャスパーの神器か…でも」
3方向から刃が迫り来る中、ゼノはギャスパーへ向けて鋭い目と共に殺気を放った。
______見るなッ!!!
「ヒィ!?」
その瞬間 ギャスパーはその殺気と視線に耐えきれず目を閉じてしまうと共に魔力を引き下がらせてしまった。
それによってゼノを止めていた神器の力は一瞬にして失われ、ゼノは自由を取り戻した。
「確かに…中途半端なところで時間を止められれば、誰だって慌てる…よく考えてたけど______甘いな」
その瞬間
「があ…!?」
「ぐぅ…!!」
「かっ…!!」
木場とゼノヴィアと椿姫の刃が届く寸前にゼノの姿が消えると3人の背後へと現れると次々と手刀で大地に叩き落とし、その3人に加えて残りの動揺していた生徒会メンバーやギャスパーの顔に×を書いた。
「それを克服してるから神やってるんだよ。お前らも失格だ」
「な…!!待ってくれ銀河神ど…」
「くっちゃべってる暇はねぇ」
ゼノヴィアの呼び止める声に耳を貸すこともなくゼノはそのまま残りを捕まえに向かったのだった。
80秒経過。残り時間40秒。 リアス、ソーナ、匙、イッセー、アーシアの5名