ゼノの力によって、禍根である旧魔王派の2人が死んだ。一瞬にして__。
「…」
旧魔王の血族である2人を瞬殺したゼノは自身を落ち着かせるかの様にゆっくりと息を吐く。すると、ゼノの全身を包んでいたオーラが身を潜めるかのように体内へと吸収されていった。
「…」
その表情からは何も感じられ無い。あるのは自身の姉へ手を出した悪魔とそれに与する禍ノ団に対する憎悪。そして力を持っていながらも守ることができなかった自身への怒り。
そんな時だった。
「ようやく 出会えた。黒崎 ゼノ」
「…あ?」
背後から怒り狂う彼の名を呼ぶ影が現れる。ゼノが振り向くとそこには宙に浮きながら自身を見つめる幼い少女がいた。ゴスロリのような服を纏いながらも上半身の前側がはだけ、胸元をテープの様なモノで覆うという異質な風貌ながらも、ゼノは気に留めず、目を向けた。
「誰だお前」
「我、オーフィス」
「オーフィス?」
自身をオーフィスと名乗った少女にゼノは身体を向ける。一方で彼女はコクリと頷くと、彼と同じ目線まで地面に降りてくる。自身とほぼ同じ背丈である彼女から感じられる気は他の龍よりも全く異質。まるでこの世の理から外れている様であった。
すると
「禍ノ団の首領…てとこだ」
「へぇ」
サーゼクスと共に降りてきたアザゼルの補足を耳にすると、ゼノは全身から再びオーラを纏いオーフィスへと向けて強大な殺気を放った。
「じゃあお前を殺せば傍迷惑なゴミ共は片付くって事か…!?」
「「…!?」」
ゼノの強大なオーラは再び冥界全土を覆い尽くし至近距離にいたアザゼルやサーゼクス達どころかオーフィスでさえも威圧する。その威圧感は先程の比ではなく、周囲一体を激しく揺らしていった。
「お前に聞く。答えなかったら殺す。なんで禍ノ団とかいう集団を作った?」
ゼノの気の圧力に流石のオーフィス自身も恐れているのか、頬から冷や汗を流しながらも焦る事もせず静かに答えた。
「静寂…」
「静寂?」
「…我…次元の狭間にいる…グレート・レッドを倒して…静寂を得たい…それだけ。そしたら集まってきた」
「グレート・レッド?なんだそれ」
そのグレート・レッドという単語について問うようにアザゼルへと目を向けると彼は答えた。
「【真なる赤龍真帝】イッセーに宿ってる奴の上位互換だ。要約すると、アイツから奪われた住処を取り戻す為…と言ったところだな」
「…そうか」
アザゼルからの説明を理解したゼノは改めてオーフィスを見つめると、全身を駆け巡る気の流れを読み取る。
「…」
答え初めから終わりまでの気の乱れは一才感じられない。つまり彼女は一切の嘘をついていないという事だ。それを感じ取ったゼノは殺気を解くとオーフィスへと目を向けながら尋ねた。
「ソイツを消せばお前は次元の狭間に帰り、禍ノ団も消えるのか?」
「……」
それに対してオーフィスは首を縦に振った。
「それが目的。ただ、集まった者はわからない…」
「…そうか」
オーフィスの言葉を理解したゼノはオーフィスを横切ると、空へと飛び立つ。
「オーフィスってやつ。後で俺の気配を辿って来い。話ぐらいは聞いてやる」
「…分かった」
「それと、サーゼクスとアザゼル」
オーフィスと話を終えたゼノは今度はサーゼクスとアザゼルへと目を向けた。
「今回の件で分かったよ。___
____もうお前らは信用しない」
「な…!?」
その言葉に二人は驚く。サーゼクスとアザゼルを見つめるその瞳は激しい怒りに満ちていた。それは悪魔や堕天使そして天使といった3大勢力全般へと向けているかの様に。
「いや、元から信用してない…っていうべきか?これから全部、俺一人でやる。今後 俺のやる事に口出ししたら容赦なく殺すからな」
「「…!!」」
その言葉を耳にするとようやくサーゼクスとアザゼルは正気に戻ったのか、あまりの衝撃のあまり目を震わせた。
だが、彼らの言葉を待つ事なくゼノはその場からオーラを纏い飛び去っていった。
その場に取り残されたサーゼクスとアザゼルは何も言い返せず、ただ去っていく姿を見つめる事しかできなかった。
「おい…サーゼクス…」
「あぁ分かっている…。だが…これは当然ともいえる……本来統率すべきだった悪魔一人の行動さえも予測できず…彼の家族を危険に晒してしまったのだから…」
「俺達を殺さなかったって事は…僅かな慈悲を残してくださってたってことか…」
サーゼクスは此度のディオドラの件に対して自身の統率能力と一般市民を巻き込んだ自身の不甲斐なさを憎んだのだった。
そして気づいた時には既にオーフィスの姿も消えていた。
その後 サリを介抱していたリアス達の元へと戻るとゼノは礼だけを口にし、それ以降は何も喋らず、瞬間移動によって冥界を後にした。
後にサーゼクスから話を聞かされたリアス達は今回の事件の根幹であるディオドラの同族である悪魔として彼へ謝罪すべく向かうものの、既に彼は家どころか駒王町から姿を消しており、彼らを出迎えたティアマットの手には退部届が託されていたという。
◇◇◇◇◇◇
冥界から遥か遠く。数千キロも離れた暗い暗い空間の中。
「がはぁ…」
一人の男が胸を押さえながら胃液を吐き出しており、その傍らではその男を嘲笑うかの様に見下ろす一つの影があった。
「なんだその様は。銀河神相手にかすり傷さえも与えられなかったのか?」
その男は逆立つ髪を揺らしながら両耳に付けられたピアスの音を鳴らす。
それに対して荒い息を吐く男シャルバは合わせる顔がないのか、その顔を見上げる事はなかった。
「…そうだ!だから殺せ!サッサと私を殺せ!」
「いや、貴様はまだ殺さん」
シャルバは自身を殺す事を求めるが、男はアッサリとその要求を拒否し背中を向けた。
「貴様にはまだ役に立ってもらわなければな。今回は私が助けてやったのだ。次の計画ではどんな役目であろうと受けてもらうぞ?」
「ぐぅ…!!!」
男の言葉にシャルバは死ねないのか、あるいはプライドがズタズタなのか地面を殴り付けながら歯を食い縛った。
その一方で 男はその場にあるモニターにてとある映像を目にしていた。
「それにしても聞いた当初は私も驚いたぞ。まさか…この“小僧”がメチカブラの依代だったとはな…」