「お初にお目にかかる。私は前魔王の血を引く者『シャルバ・ベルゼブブ』だ」
リアス達の目の前に現れた男は先程のディオドラよりも一層濃密な魔力を全身から放っていた。
その時だった。
ドガァァァンッ!!!
「「「「!?」」」」
遥か後方から巨大な爆発音と共に赤い爆炎が舞った。その爆音に驚いたリアス達が目を向ける中、同じくその方向へと目を向けていたシャルバは眉を顰めながら髪を掻き上げる。
「あの愚か者め…せっかく手に入れた力を使いこなせぬとは」
「「「…!!」」」
その瞬間 皆は戦慄する。ディオドラを嘲笑いながら髪を掻き上げた時に見えた額にはなんとディオドラと同じボールが埋め込まれていたのだ。
「まさか…貴方までその球を…!」
「そうだ。それに加えてオーフィスの蛇もあるのでな。今の私は帝釈天はおろか…シヴァすらも軽く超えているだろう。どれ、試してみるか」
そう言いシャルバは腕を掲げた。その掲げた先にいたのはアーシアだった。
その瞬間
アーシアは光に消えた。
「…え…?」
彼女を解放していたイッセーは突然と腕の中から温もりが消えた事で呆気に取られてしまう。
「何を……したの…?」
「次元の狭間に送ったのだ。数分も経てば消失するだろ。普通は魔力が大量に消費されるのだが、全く減っていないな」
「…!!」
その言葉を聞いた瞬間 ゼノヴィアの眉間に皺が寄せられ、怒りに満ちた。
「おのれぇえええ!!!!!」
直前にイッセーから受け取ったアスカロンとデュランダルを掴みながら空中に浮かぶシャルバへ向けて駆け出すと、跳躍し振り回した。
「私の友人を返せぇええええ!!!!!」
「知った事か」
その一振りをシャルバは人差し指一本で受け止めると身体を回転させ回し蹴りを放った。
「がはぁ…!」
その回し蹴りはゼノヴィアの腹へと直撃すると、彼女に胃液を吐かせその場から突き落とした。
「く…くそ…!!」
「ゼノヴィアちゃん!」
地面へと叩き落とされたゼノヴィアを朱乃は介抱する。
「…え…!?魔力が!?」
触った瞬間 朱乃は驚愕する。なんと、先程まであったゼノヴィアの魔力がほぼ全て失われていたのだ。
「ふん。我が力の餌食となったか」
「どういうこと!?」
「アスタロトのガキは『不老不死』であったが、私が授かりし力は『暴食』触れた者の魔力は全て私の糧として吸収されるのだ。その女の魔力は私に喰われたという事だな」
シャルバの馬鹿げた能力にリアス達は目を震わせる。簡単に言うなれば彼の身体に少しでも触れれば瞬時に魔力を吸い取られてしまうのだ。
「さて、魔王の妹である貴様とその眷属を消し冥界への宣戦布告といこう」
「現魔王に直接勝負を仕掛けずに部外者から手を出すなんて…外道ね」
「何とでも言うがいいさ。奴らに絶望と恐怖を与えられなければ意味がないのでな」
そんな時だった。
『リアス・グレモリー、死にたくなければ今すぐこの場から離れろ』
「赤龍帝!?」
後ろからイッセーの神器である赤龍帝ドライグの声が聞こえてきた。見れば神器である籠手の宝玉部分がいつもよりも怪しく輝いていた。
神器が宿る左腕を握り締めながらイッセーはゆっくりと近づいていく。
『シャルバと言ったか。お前は力を得て浮かれているようだが…選択を…間違えた様だな』
「なんだと?」
その一言と共にイッセーの全身が禁手化と同じ赤い龍を模した鎧に包まれ、それと共に全身から無数の光る球が出現した。
その球からは次々と今の現状を憐れむかの様な声が聞こえてくる。
__始まった。__始まったね。
我、目覚めるは_
覇の理を神より奪いし二天龍なり__。
無限を嗤い、夢幻を憂う
我、赤き龍の覇王と成りて_
汝を紅蓮の煉獄に沈めよう…ッ!!
その一言が紡がれた時、イッセーの身を包み込んだ鎧は更に形を変えていき、龍の姿を模した異形の化け物と化した。
その姿には禁手化時の逞しい姿の面影はどこにもない。あるのはただ一体の“血と破壊に飢えた龍”
勇猛果敢な姿を脱ぎ捨て、内に秘めたる凶暴性を剥き出しにしながら溢れ出た力は全てを破壊する事を宣言すると巨大な咆哮を上げた。
「ほぅ?覇龍か…。正面から迎え撃ってやろうッ!!」
「グロォオオオオオオオ!!!!」
その時だった。
【覇龍(ジャガーノート・ドラ_____】
「やかましい」
『『『『『!?』』』』』
突然と聞こえたその声と共にその場に巨大な衝撃音が鳴り響き突風が発生した。それによって辺りには巨大な砂嵐が舞い上がると共に瓦礫が次々と吹き飛ばされていく。
「…!!!」
砂嵐が吹き荒れる中、現れた物体を見たのか、シャルバの額からは冷や汗が流れ始めていた。
「ふん。次から次へと面倒な事ばかり起こしやがって。まぁ一気に3つも回収できるから好都合だな」
そこには地面に叩きつけられ仰向けに倒れているイッセーの姿と全身から真紅のオーラを放ちながら見下ろすゼノの姿があった。
「き…貴様は…!?」
「黙れ」
その一言と共にゼノの手に赤い気が集中し巨大な気弾を作り出す。その気弾をゼノはシャルバへ向けて放った。
「は!」
それに対してシャルバは不敵な笑みを浮かべると両手を突き出し向かってきた巨大な気弾を両手で受け止めた。
「魔力攻撃か!?そんなもの今の私には通用し___なに!?」
だが、それは一瞬にして消え去った。シャルバは理解していなかった。ゼノの放った気弾自体には自身の容量を軽く凌駕する程のエネルギーが込められていることを。
「な…なんだこれは!?吸収しきれ…うわぁぁああ!!!」
シャルバの身体はゼノの気弾を吸収しきれず、気弾を受け止めたままその場から上空へと吹き飛ばされていった。
そして、その吹き飛ばされていく姿をゼノは見つめながらゆっくり翳していた手をゆっくりと握り締めた。
その瞬間
シャルバを吹き飛ばしていた気弾がゼノの手に呼応するかのように巨大化し、冥界の空を照らす程まで輝くと大爆発した。
「「「「「…!!」」」」」
背後で見ていたリアス達は、その光景をただ見ていることしかできず、何も口に出す事ができなかった。
すると、巻き上がる爆炎の中からシャルバが煙を纏いながらゆっくりと落下していった。
「生きてたか」
吹き飛ぶシャルバに向けてゼノは目を向けると、ゆっくりと脚を曲げる。
「けど、逃がさん」
その一言と共にその場から飛び上がり吹き飛ぶシャルバへ向けて飛び立った。
◇◇◇◇◇◇
リアス達から遥か遠方に離れた地点。辺りでは悪魔と堕天使と天使の連合軍と禍ノ団の魔法使い達が交戦していた。
混沌とする戦場の中、その中心部では3人の人影があった。
「はぁ…はぁ…コイツはヤベェなサーゼクス…」
「あぁ…。まさかあの球を埋め込んだだけでこれ程までの力を得るとは…」
一つは服が所々破れ、傷も見える程までボロボロとなっているアザゼル。もう一つはアザゼルと同じく傷だらけとなったサーゼクスであった。
「我が授かりし力の前に屈したか。その姿、見ていて愉快だ」
そして目の前には黒いマントを纏いながら両手に雷と炎を迸しらせる男『クルゼレイ・アスモデウス』がいた。
彼の周りには一直線上に雷や炎がまるで鎖のように張り巡らされており、今もなお、雷は稲妻を。炎は熱気を帯びていた。
「テメェ……一体どんな力を獲やがった…!?オーフィスでもこんな事できねぇぞ…!」
「しかも魔力が減少している様子もない…これ程の魔力の嵐…流石に魔王の血族といえども長くは持たない筈だ…!」
傷を押さえながらも少しでも攻略法を見つけるべく、二人はクルゼレイへ疑問をぶつける。それに対してクルゼレイはボロボロな姿を嘲笑いながら答えた。
「教えてやろう。俺が得た力はオーフィスと同じく『無限』俺が放った魔力攻撃は俺の意思で解除されない限り決して途切れる事なく発動され続けるのだ」
「な…!!」
「おいおい…いくら何でも反則すぎんだろ…!しかもこんな馬鹿げた能力を持ってる奴がまだ5人もいるってことだよな…!?」
それはもはや神滅具さえも凌駕する程の能力であった。常軌を逸した能力にサーゼクスとアザゼルは冷や汗を流し始める。
完全に絶対絶命。
その時だった。
空から何かが飛来してきた。
「「「!?」」」
突然と地面に激突しながら飛来してきた物体にサーゼクスとアザゼルは勿論、クルゼレイも驚きのあまりその場へと目を向けた。
「なっ…!」
岩場へと叩きつけられた物体の正体が露わとなった時、クルゼレイは思わず驚きの声を上げてしまった。
そこにいたのは全身に傷を覆い、左頭部が焼け焦げた男。自身と同じ旧魔王派であるシャルバ・ベルゼブブであった。
「シャルバ!」
思わず声を上げるクルゼレイ。すると、その声が届いたのか、倒れ伏していたシャルバはゆっくりと目を開けた。
「クルゼレイか…今すぐ逃げろ!!」
「は…?何を言っているんだ…?」
「早く逃げろ!!!奴が…奴が来るぞ…!!」
「やつ?」
その様子を見たクルゼレイは不思議に思ってしまう。明らかに冥界を襲撃する前の彼と雰囲気が違っていた。いつもは冷静沈着かつ魔力の流れもスムーズであった彼が、今ではそれが正反対の状態となっていた。顔を引き攣らせながら必死に伝えるその様子に、本当に彼なのか疑ってしまう程であった。
その時だった。
「…!!」
その場を巨大な殺気と恐怖感が覆った。当たりで交戦していた魔法使いも連合軍もその動きを止めて、全員がある1箇所を見つめていた。
「あ…あああ!!!!」
シャルバの恐れ慄く声と共にクルゼレイがゆっくりと振り向く。
「き…貴様は…!!」
「…」
そこにいたのは全身から深紅と蒼炎のオーラを纏うゼノだった。その姿を見た瞬間 クルゼレイの目が変わる。
「ようやく会えたな…我が同胞であるカテレアの仇…今ここでとらせてもら___」
その瞬間 クルゼレイの身体が光に飲み込まれて消えた。
肉片も残らず。
そして、クルゼレイを葬り去った犯人であるゼノの鋭い目が地面で倒れ臥すシャルバへと向けられた。
「ああああああ!!!!」
自身の瞳を覗き込むかのように見つめてくるその姿にシャルバは恐怖と絶望に支配されると共に正気を失ったかのように頭を抱えながら叫び出す。
そして、その叫び声を聞いたゼノはゆっくりとシャルバへ迫っていった。
「くるな…来るなぁぁぁ!!!」
ゆっくりと自身に迫るその小さくも巨大な影にシャルバはもう魔王としてのプライドさえも捨て、1秒でも長く生き長らえる為に何度も何度も魔力弾を放っていった。
だが、身体に当たってもゼノには傷一つつかない。それどころか、感じる気が次々と増大していった。気を感じる度にシャルバの全身という全身から鳥肌と冷や汗が流れ、鼓動も激しさを増していく。
その一方で シャルバへと向かっていくゼノは立ち止まると、手を翳した。
「終わりだ」
その一言と共にシャルバの身体はゼノの放った高密度のエネルギーの波動に飲み込まれた。
次回でいよいよ、ホーリーはおしまいです。