あれから一悶着があった後。途中で帰宅してきた朱乃を加えて全員は現在テーブルを境にロベルに向かい合っていた。
「初めまして。私、ドミグラ様の秘書を務めさせて頂いております『ロベル』と申します。以後お見知り置きを」
そう言いロベルは胸に手を当てながら紳士的な素振りで頭を下げてくる。それと共に名刺も。
その名刺には『時空調査委員 委員長補佐』と書かれていた。
「本当に秘書なんですね…」
「秘書もどきだ。人様の家に勝手に魔術しかける失礼な奴が秘書な訳ねぇ」
「あら。“もどき”とは失礼な。れっきとした秘書ですよ」
ゼノの小猫に対する説明にロベルは不服の声を上げるがゼノはそれを無視して話を続ける。
「確か100年くらい前にタイムパトロール隊と一緒に暗黒帝国軍を壊滅させたんだよな?」
「えぇ。メチカブラは当時の私達の野望の邪魔でしかありませんでしたからね」
そう言いロベルは出されたお茶を優雅に啜る。
その姿を見つめていた小猫は冷や汗を流していた。
「…(この人……強い…)」
彼女は女性ではあるが、強さでいえばこの場にいる中でゼノを除いて最も強い。小猫自身はロベルから巨大な気を感じ取っていた。それはお盆を持ちながら立っている朱乃も同じであった。
その一方で、ゼノはロベルに向けて鋭い瞳を向けた。
「で?要件はなんだ?」
「簡単に言えば_______
________暇潰しです」
「帰れ」
「冗談です」
ロベルは揶揄う様にクスクスと笑うと手に持っている杖の様なものを掲げた。
すると目の前の空間がまるでデジタル空間の様に歪み出すと赤い髪を七三分けにした男性が映し出された。
「なんだお前か。“ドミグラ”」
「久し振りだな黒崎ゼノ…」
その男を見た瞬間 小猫と朱乃とティアマットは全身を震え上がらせた。モニター越しからでも分かる威圧感と気。もしも実物を見てしまった時はどうなってしまうのだろうか。
それを想像すると更に震えてくる。
その一方でドミグラと呼ばれた男性を見たゼノはその髪型を見てほくそ笑んでいた。
「相変わらずの髪型だな」
「貴様の所為だろぅがぁ!!!!」
(((なにが!?)))
何やら揉めている様であった。その様子を座っていた小猫、朱乃、ティアマットが疑問に思っているとそれを読み取ったロベルが説明した。
「ゼノさんが私達と2回目に会った際にドミグラ様の髪型が変だと言いビルス様と共謀してドミグラ様の髪に大量のワックスを。その結果あのような髪型に。それ以来髪が元に戻らないのです」
「は…はぁ…」
その一方でドミグラの怒鳴り声を笑いながら聞いていたゼノは目の色を変えた。
「で?要件はなんだ?まさか暗黒魔界の事か?」
「くぅ…察しがいいな。その通りだ」
「そうか。4人とも部屋から出ろ」
ゼノはジェスチャーを加えた指示で自身以外の4人を今いる部屋から追い出した。その理由は簡単だ。姉であるサリや弟子である3人を巻き込むのが癪な為である。
「メチカブラの姿は確認されていない。だが、それ以外のトワやミラ、そしてその他の魔神の姿が地球で確認されている」
「あぁ。前に俺もサルサと会った。だが、妙だった。アイツからは魔神特有の気は感じなかったぞ」
「その点についてはまだ私の部下が調査中だ。また報告する」
そう言いうとドミグラの顔が映し出されたモニターが消滅する。ゼノに従っている様な彼だが、それでも大昔に歴史の支配を企んでいた大悪党であり何度も当時のタイムパトロール隊と衝突していたらしい。
歴史の支配自体が全宇宙共通で大罪であるために破壊神どころか遂には全王にでさえも目を向けられ、現在はその野望を諦め暗黒魔界や時空の歪みにおける調査を行なっている様だ。
元々の性格があってなのか、仕事に対しては本当に真面目でありその点についてはビルスは高く評価しているらしい。
ドミグラとの通信を終えると腰を下ろしていたロベルは立ち上がった。
「では私はこれにて。またお邪魔しますよ」
「もう来るな!!(怒)」
怒るゼノに向けてロベルは笑いながらウインクをするとその場から消えた。
ロベルが消え、一人となったゼノはドミグラからの情報と、ヴァーリの情報を頭の中で整理する。
変なボールとは恐らく『暗黒ドラゴンボール』だろう。そしてそれを持っていたディオドラという男は情報通りならば数日後のレーティングゲームで動き出す。
そうなると暗黒魔界軍は必ず彼を狙うだろう。
「(これを機に奴らを一網打尽にしてやる…ッ!)」
暗黒ドラゴンボールに加えて暗黒魔界軍。一網打尽にするべくゼノは決意を固めるかの様に瞳を火の様に燃やすのであった。
ドミグラ
自身を“魔神”と称する魔術師であり、幾千万もの呪術を操る。戦闘力は高いものの、ビルスよりは格段に劣るらしく彼と出会った際は必ず敬語になる。
大昔に暗黒帝国軍をタイムパトロールと共に壊滅させてから何度も歴史の支配を企む様になるが、その度にビルスによって成敗されている。
その歴史の支配に対する執念はビルスは勿論だが、遂には全王からも目をつけられる様になってしまった。
流石に全王に対しては逆らえないのか、その後は身を潜めビルスの命令に従いながら暗黒魔界の残党や時空の歪みに関する調査を行う様になった。
それからまた時が流れ、ゼノがビルスの弟子になった時と同時に全王はドミグラを監視対象から外した。それによって彼は再び動き出そうと画策。だが、それもアッサリとビルスに知られ、ブチギレた彼にボコボコにされた挙げ句の果てにゼノの気の練習台として大腸を操作され下痢を起こしてしまった。
その結果、全宇宙に醜態を晒してしまい、ビルスやゼノからはたびたび『下痢グラ』と呼ばれる様になってしまった。
それを知った当時の全王は同情と共に大爆笑したという。
それ以来ドミグラは心を入れ替えたかの様に業務を行う様になった。
ロベル
ドミグラの作業の補佐を務める女性。ドミグラを支持しており彼の命令を忠実にこなしていく。行う事全てが完璧である為に宇宙中から『完璧秘書』と呼ばれていたが、少々ナルシスト気味なところもある為に『完璧残念秘書』と呼ばれる様になった。
ドミグラが下痢を起こした際は笑いながらアフターケアをした。
ゼノと出会ってから度々 彼の家に邪魔する事があり煎餅や菓子などを勝手に漁っている。(初めてアパートを借りた時とか)
その結果、ゼノからは『秘書もどき』『たかり秘書』と呼ばれる様になった。