試合開始の合図と思わしきチャイムが鳴った瞬間 サイラオーグの剛腕がゼノに向かって放たれた。
「ふぅんッ!」
その拳をゼノはアッサリと避ける。が、サイラオーグは最初から避けられる事は分かっていたようで、その体制から踏み込みもう一方の腕を放つ。
「はぁッ!」
二発目に放たれた拳をまたもやゼノは避けた。すると、サイラオーグは続け様に次々と自身の剛腕を放ってきた。
「ほぅ?」
対してゼノは右手を構えると向かってくる拳 全てを手で受け止めた。拳を掴んだ場合 すぐにサイラオーグは攻撃の手を止めるだろう。それでは面白くないと思いゼノは受け流すだけに徹しているのだ。
一方で、サイラオーグも遊ばれている事は気付いている様子で拳の乱射を止めると後方へと飛ぶ。
「うん。いいな。今まで戦ってきた悪魔の中で一番 強い」
「褒めてくださる割には全く効いているご様子がないですね」
ゼノの賞賛にサイラオーグは当たり前のように返す。ただ、ゼノは内心 少しイラついている事があった。
「おい」
「?」
頭に筋を浮かべ、珍しく怒りの表情を見せたゼノはサイラオーグへある事を言う。
「お前、本気じゃねぇだろ?」
その言葉にサイラオーグは黙る。実は今の彼の力はまだまだ序盤に過ぎないのだ。彼もまた 神器所有者である故、神器を纏ってこそ、本気と言える。だからゼノは言う。
「神器とか何か持ってるなら遠慮しないで使えよ」
その言葉にサイラオーグは頷いた。
「分かりました」
そう言うとサイラオーグは手から大きな戦斧を出した。すると、斧が輝き出し、見ると斧はフードを被った少年へと変貌していた。
「コイツは私の神器である『獅子王の戦斧』です。他の神器と違い、自立型で主を探しているところを見つけ眷属にしました」
「へぇ。神器を眷属にするなんて初めて見るな」
幾多ものある神器の中でもサイラオーグの持つ神器は特に特殊であり、自信の身体を持っているのだ。
「行きます。……『我が獅子よッ!ネメアの王よッ!獅子王と呼ばれた汝よッ!我が猛りに応じて衣と化せぇッ!!!!』
そう叫んだ瞬間 サイラオーグの身体から光が発せられ、辺りを眩しい黄金の光で包み込んだ。
ーーーーーー
「ぐぅ!?ま…眩しい…何だこれ…」
「…まさか…サイラオーグ…神器を持っていたの…!?」
閃光を物ともせずにフィールドの中心を見つめながら驚くリアスの言葉にイッセーは反応する。
「部長も見たことがないんですか!?」
「えぇ…私どころか…彼以外で神器を持っていると知っている者は周りにはいなかったわ…恐らくだけど…お兄様も知らなかったと思うわ…!」
そう言われたイッセーは魔王でさえ見た事がない未知の禁手化をある事に驚き フィールドへと目を向けた。
周りの皆も興奮のあまり、リアスと同じようにその場を見つめた。
「サイラオーグ様が神器を!?」
「何という事だ…!」
ーーーーーー
光の発光が収まると、ゼノは驚いた。感じ取れるのは魔王以外の悪魔の中でも飛び抜けた戦闘力、そして闘気。
「へぇ〜。それがお前の神器か」
そこには黄金のライオンの鎧を身に纏い身体中から金色のオーラを発しているサイラオーグの姿があった。後頭部から後ろへと流れる長髪はライオンの鬣のようにたなびいており、王者のような風格を与えてきた。
「はい。これが私の禁手化『獅子王の剛皮』です。では…行きます…ッ!」
そう言うと、サイラオーグは拳を構えた。
「____ぬぅんッ!」
自身の神器と一体化したサイラオーグは一気にその場から踏み込むとゼノのいる場所まで飛んだ。
「はぁぁッ!!!」
雄叫びを上げながら拳を握り締めるとゼノに向かって一気に放った。
対するゼノは一瞬ながら笑みを浮かべると顔を横に逸らす形でその拳を避けた。避けた拳はゼノの横を通り過ぎると、軌道上の空気を向こう側の壁にぶつけた。その威力は特別に硬く作られているとはいえ、フィールドの壁に巨大なクレーターを作った。
今まで見てきた神器の中で一番の破壊力だ。
「へぇ」
ゼノが向き直ると目の前にサイラオーグの拳がまたもや迫ってきていた。
それを避けるとサイラオーグは再び強烈な乱舞を繰り出してきた。
「ゔぉおおおおおッ!!!」
雄叫びを上げながら獣のように縦横無尽に拳を繰り出すその姿はもはや野生の猛獣である。
ゼノは迫り来るサイラオーグの野生の乱撃を右手で次々と受け流していった。
すると、乱舞が突然やみ、サイラオーグの身体が横に回転した。
「ッ!」
その瞬間 ゼノは状態を下に下ろした。すると、ゼノの頭の上をサイラオーグの回し蹴りが通り過ぎていった。すると、髪が揺れる程の突風が巻き起こった。一般の悪魔ならば、避けなければ確実に首を持っていかれただろう。
だが、サイラオーグの攻撃は止まなかった。
回し蹴りを終えたサイラオーグは突然 脚を振り上げ、下に状態を比較しているゼノに向かって振り下ろしてきた。
「でやぁぁッ!!」
だが
「な…!?」
その攻撃の対処なぞ、ゼノにとっては容易い事だった。振り下ろされた踵をゼノは掴むように受け止めた。そして、手を離すと一瞬ながら笑みを浮かべる。
「俺からも一発 いくよ。死ぬなよ」
「ッ!?」
その瞬間ゼノの姿が消え、サイラオーグの目の前へと現れた。突然現れた事により、サイラオーグは驚く。そんな中、ゼノは拳を握り締めると予告通りサイラオーグの頬へと拳を放った。
「ぐぅ…!?」
その拳は頬へ減り込むと同時にサイラオーグの身体を吹っ飛ばした。
ドォオオオオオオオオンッ!
吹っ飛ばされたサイラオーグはそのままフィールドの壁へと激突した。
辺りには四方が見えなくなる程の砂煙が舞っていた。
ゼノは腕を軽く回すと吹っ飛ばした方向へ向け口を開いた。
「今まで戦った悪魔の中でお前は一番強かったけど、詰めが甘いところがあるな」
煙が晴れると、向こう側には、サイラオーグが、鎧が解け、身体中がボロボロで意識を失いかけた状態となっていた。本来ならば意識を失う程のダメージを与えた筈なのだが、意識をまだ保っている事にゼノは驚いていた。
「は…ははは…やはり強いですね…まったく歯が立たなかったです…」
「へぇ喋れるのか。俺の力を込めた一撃を受けて意識を保っていられるなんて、大した奴だね」
そう言いゼノは賞賛すると、サイラオーグへ近づき仙豆を手渡した。
「食え」
「豆…?」
いきなり豆を渡された事にサイラオーグは頭に?を浮かべる。
「取り敢えず食え」
そう言われたサイラオーグは豆を口に入れると飲み込んだ。すると、傷が一気に全回復し、疲れも吹っ飛んだ。
「おぉ!?凄い!身体が軽い!」
「ボロボロだとこの後のお前の仕事に支障がでるだろ」
そう言いゼノはサイラオーグへ背を向けた。
「じゃあな」
「…!ありがとうございました…!」
サイラオーグは去りゆくゼノの背中へ向け、深く頭を下げた。
こうして、前覧試合は幕を閉じた。次はいよいよリアス達の番だ。成長した朱乃や小猫はどういう戦いをするのか。また、リアスはその駒をどんな方法で操るのか。
「さぁて、じっくり見させてもらう」