ハイスクールD×D 破壊を司る神の弟子   作:狂骨

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神の修行

皆が各自で修行する中 ゼノは何もない空間でひたすらウイスと戦いを繰り広げていた。

 

「…!」

「♪」

今のゼノは普段とは違い身体中から青白い熱気を放っており、目はエメラルドのように美しく髪も炎のようにユラユラと揺れていた。

そしてゼノは皆といる時とは全く違う程の速度でウイスへ次々に拳を放っていた。対してウイスは笑顔で楽しそうにまるでダンスを踏むかのようにその拳を軽々と最小限の動きで躱していた。

 

「ほらほら、こっちですよ♪」

ウイスが後方へジャンプし左右へユラユラとしながら手招きをすると分かっているかのようにゼノは空気を蹴り急接近し拳をまた次々と打ち始めた。

 

「なかなか 良い感じじゃないですか。ならば私も行きますよ?」

「…」

そう言うと同時にゼノの拳が杖で受け止められると今度はウイスの攻撃が始まった。

 

次々とトリッキーな動きで杖を突きつけてきたり 、蹴りを放つなど 普段見せる事のない姿勢を見せていた。だが、それに対してゼノはその攻撃をまるで身体が勝手に避けているかのような動きで次々と躱していた。

 

「ほほ。やりますね。ではこれはどうでしょう?」

そう言った直後 ウイスの動きが変化した。

 

「!?」

先程よりも動きが桁違いに速くなり、 攻撃を受け止めたかと思いきやその手に衝撃が走る。そして最終的には受け流しは愚か防御さえもする事が出来なくなってしまった。

 

「ふむ。ここまでですね。時間は5分ですか。まだまだですね」

そう言ったと同時にゼノは地面へと崩れ落ち身体から発せられる気が消えた。

 

「ぶはぁ〜!き…キツイなぁ…まだ10分にはいかねぇか」

「集中力が未だに足りませんね。修行が足りない証拠です」

厳しく指摘するウイスにゼノはぐったりと倒れた。

 

「今日はここらで終わりにしましょう」

そう言いウイスが杖を叩くと歪んでいた空間が元に戻りだし、冥界の岩が多くある景色へと変わった。

 

「では、キチンと休んでくださいね」

「はい…」

そう言うとウイスは去っていった。

 

「さて、しばらく休むか」

そう言うとゼノはその場に寝転んだ。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

カンカン

「ん?」

 

突然 耳音で何かをたたく音で目を覚ました。見てみるとアザゼルが立っていた。岩を叩いて目を覚まさせたのだろう。見ると何かを手に持っていた。

 

「なんだ?」

「差し入れだよ。朱乃と小猫が共同して作った弁当だ」

そう言いアザゼルは起き上がるゼノにデカイバスケットを差し出した。

開けてみるとゼノの好物である肉類と白飯が入っており、食欲を誘ってきた。見ると一枚の写真が入っており それには満面の笑みを浮かべている朱乃と全身黒焦げの筋骨隆々な男性が写っていた。

 

「これ誰だ?」

「ソイツが朱乃の父親『バラキエル』だ。前までは険悪な仲だったが、もうすっかりと仲直りしたらしい。朱乃は凄く感謝していたぞ」

「そうか」

写真を見る限り 修行の一環で勝負したのか、バラキエルの焦げ具合から朱乃の方が勝利していると読み取れた。

 

「バラキエルもお前に感謝していたな。会える機会があればすぐに会いたいとな」

「唐突すぎるだろ。取り敢えずいただきます」

そう言い開けると食べ始めた。

「そう言えば 小猫はどうしてるんだ?暴走はしてないな?」

ゼノは朱乃ともう一人 小猫の現状を聞いた。それについてアザゼルは思い出し話す。

 

「あぁ。というか…魔力と筋力が成長しすぎてな。イッセーと同じく 岩に囲まれた場所で修行してもらってる。リアスの屋敷の庭だと辺りを吹き飛ばしちまいそうだからな」

「そうか。朱乃は写真を見る限り大丈夫だな。ちょいと小猫の方を見てくるか」

そう言うとゼノは小猫の気を探り感じ取り その場へと瞬間移動していった。

 

忘れていると思うが、アザゼルは未だに自分のマンションの修理費の請求書をゼノに渡せないでいた。

 

ーーーーーー

一方で 誰もいない ゴツゴツとした岩場のど真ん中で 小猫は静かに深呼吸をした。 周りの景色と一体化するように。

「スゥ……」

空気を吸い心を落ち着かせて 気を身体中に巡らせる。

そしてその集まった気を両手に集中させ 具現化させるようにイメージをする。

 

「やぁッ!」

私は具現化した鬼火のような玉を一気に巨大な岩石に投げつけた。気の玉が岩石に当たると同時に大爆発し、一瞬でその岩石を粉々に吹き飛ばした。先程よりも威力が上がっていた。

 

「はぁ…はぁ…」

気を使いすぎたのか 私は疲れてその場に仰向けで倒れ込んだ。疲れたけれど、凄くいい気分だ。今まで 自分が嫌って封印していた力が 私をこんな気持ちにしてくれるとは思わなかった。これに気づかせてくれた先輩には本当に感謝している。

 

先輩…会いたいです…

 

 

1日 だけ会えなかったというのに私は凄く心が落ち着かなかった。今の成長した自分の力を見て欲しいから。

 

私がそう思った時

 

「どうだ調子は?」

私は飛ぶように起き上がった。

 

ーーーーーーーー

 

ゼノが現れると小猫は驚きながら立ち上がる。

 

「先輩!」

小猫は嬉しさのあまり立ち上がると猫のようにゼノに抱き着いた。

 

「お…!?」

いきなり抱き着かれた事にゼノは困惑した。それでも小猫は尚も笑顔で頬擦りをしだした。猫耳を出しているので尻尾も健在であり、その尻尾は嬉しそうにウネウネと揺れていた。

 

「なんだ!?完全に猫になってる…」

あまりの変化にゼノは驚きながらも小猫を引き剥がした。

 

「暑苦しい」

「むぅ…」

小猫は頬を膨らませた。それを無視してゼノは現状を聞く。

 

「少しずつですがコツを掴めてきてます」

満面の笑みで言うとゼノは ほほうと関心する。ゼノから見たら少しだけではあるものの戦闘力が上昇していた。そこである提案を出してみる。

 

「だったら俺と一戦やるか?」

「え…!?」

突然の誘いに小猫は腑抜けた声を出す。それでも気を取り直しすぐさま「はい」と言った。

 

「よし。なら来い」

そう言うとゼノは手を組みながら右脚を膝を上げるように構えた。

 

「……足だけですか…?」

「あぁ。飯の後の運動には丁度いい」

「むす…」

ゼノに小馬鹿にされた小猫は額に青筋を浮かべるとすぐさま拳をゼノの頬へ向かって放つ。

 

「えぃ!」

突き出されたその拳をゼノは上半身を右に傾ける形で避けた。だが、それは予測されており、小猫はすぐさま次の拳をゼノの傾けている腹へと放つ。だげどもそれもアッサリとゼノは跳躍し 一瞬だけ拳の上に着地すると軽くジャンプし後ろへと着地した。

着地するとゼノは指で誘うように挑発した。

 

「こいよ。猫又の力見せてみろ」

「分かりました…」

すると小猫は身体中に気を宿らせ 猫又本来の力である「仙術」を解放した。再び耳と尻尾が現れ 戦闘力は1段階上昇しそれと同時に身体から白いオーラが湧き出し小猫の周りの小石が辺りへと四散した。

 

「行きます…!」

小猫は状態を低くすると 短距離をスタートするような体勢となった。そして右脚に力を入れ一気に踏み出し一瞬にしてゼノの前へと移動した。

 

「…!」

ゼノの間合いへと入った小猫は両手を握り締めると すぐさま 強烈なラッシュを放った。

 

「ダダダダダッ!!!」

次々に迫り来る拳と蹴りをゼノは脚で弄ぶかのように防いだ。

 

 

「ほらほらどうした?そんなんじゃ一発も顔に当てられないぞ?」

すると小猫のラッシュの速度が1段階上がった。そして拳のみならず蹴りも放ち始めゼノへ一泡ふかせようという気持ちが現れ始めた。

 

「ダダダダダ!!!」

「ほぅ?(確実にパワーアップしてきているな…それに気のコントロールも少しできてきている…)」

ラッシュを受け流しながら小猫の現状を読み取り感心すると受け流しを止め、指で脚をピンと小突いた。

 

「ニャ!?」

いきなり不意を突かれた小猫は小突かれた反動でその場でバランスを崩してしまい、力を使いすぎたのか その場に倒れてしまった。

 

「いいぞ。着実に成長してきている。だが…あとは仙術だな…それをどうするかだ…」

ゼノは倒れて目を回す小猫を見ながら考える。気のコントロールや扱い方などは指導できるものの 仙術などのその種族独自の術式などは専門外である。故に仙術に関してはゼノもどうすれば良いのか分からないのだ。その種族である小猫でもある程度しか出来ない程であるので、正直 お手上げ状態だ。

 

「ウイスさんなら何とか出来ると思うが…小猫は流石に無理があるな」

すると目を覚ました小猫がヒョイと起き上がった。

 

「う〜ぅ…本当に片足だけでやられました…」

「当たり前だ。ほれ、さっさと帰るぞ」

「はぁい…」

立とうとするもよろける小猫。それを見かねたゼノは溜息をつき、しょうがないと言い肩に手を置くと リアスの気を察知し、グレモリー邸へと瞬間移動した。

 

ヒュン

 

「到着」

「ぎゃん!?」

ドサッ

瞬間移動したのはいいものの、移動先がまさかのリアスの真上だった為、突然現れた2人によってリアスはその場で下敷きにされてしまった。

 

「あらあら。ゼノ君」

「おぉ」

偶然 一緒にいた朱乃にゼノは軽く挨拶すると辺りを疲れて寝ている小猫を朱乃に渡した。

 

「来て早々わるいが、コイツをベットに運んでおいてくれるか?結構 負担を掛けたらしいからな」

「あらあら…。任せてください。ゼノ君はどうするんですか?」

小猫を受け取りお姫様抱っこをすると朱乃は何処かへ行こうとするゼノに質問した。

 

「あぁ、ここにいる間は会長のホテルに泊まるよ。今更 来客が1人増えると迷惑だからな」

「そうですか…一緒に寝れないのが残念です…」

とんでもないことを呟くが、ゼノは意に介さず、辺りをキョロキョロを見回す。

「ところでリアスはどこだ?」

ゼノは辿ってきた気の元であるリアスが視界に映らないことに疑問に思い朱乃に聞きながら辺りを見回した。

それに対して朱乃はいつも変わらず笑いながら教えた。

「うふふ。ゼノ君の足元ですわ」

「え?」

みると自分の足元に地面に顔を埋めているリアスの姿が映った。

 

「何だよ。お前も修行のし過ぎか?部長なんだから自分の身体の気配りくらいちゃんとしろよ」

「誰の所為だと思ってるの!?」

ゼノがその場から退くと、リアスは身体を震わせながら起き上がった。

 

「それよりも聞いていたけど。遠慮しなくていいのよ?1人くらい増えてもすぐに食事やベッドも用意できるわ」

服に付いた土を払いながらリアスは言うが、ゼノは拒否した。

「いや、それでもやめておく。自分の家の中に神がいるとなると精神的に負担がかかるだろ」

「ま…まぁそうね…」

その言い分にリアスは納得する。自分達は長い間 同じ空間にいるので大丈夫であるものの、初めて会う自分の両親や屋敷のメイド達にとっては、同じ空間に神がいるとなると、間違いなく混乱するだろう。

 

「そう言う訳だ。じゃあな」

ゼノは2人に手を振ると瞬間移動をし、この場から消えた。

すると、朱乃は溜息をついた。修行の疲れでもあるが、何か他の感情が混じっているようだった。

そうとは知らないリアスは疲れているのだろうと思い風呂へと誘った。

「今からお風呂入るけど貴方もどう?」

「いえ…修行の疲れではなく…ゼノ君と一緒の空間にいられないのが残念なの…」

それを聞いたリアスはう〜んと考え込むとある提案をした。

 

「こんなのはどうかしら?」

 

ーーーーー

ーーー

 

場面は変わり、ホテルへと到着したゼノはスマホをみるとアザゼルからメールが来ていたので開いた。

 

『明日は若手悪魔の会合がある。だからリアス達は皆 本部へと行くんだが…お前さんはどうする?』

その文面を見てゼノは考えた。自分にとって若手悪魔 に興味はない。けれども、他の魔王も見てみたいと思い 、メールを返した。

 

『面白そうだから行かせてもらう。他の魔王も見てみたいしな』

するとすぐにメールが返ってきた。

 

『なら、俺からサーゼクスに伝えておく』

『了解』

 

ゼノは携帯を閉じると 室内にある 少し広めの洗面所へと行き、お湯を入れた。

 

「さぁて……」

お湯が溜まるまで暇だと思い、ゼノはある事を始めた。

 

「…」

坐禅を組み、心を落ち着かせ、今日の修行を振り返り、己の欠点を見出す。つまり、瞑想だ。

 

 

どうすれば あの動きを躱せる。

ウイスさんのあのトリッキーな動きを。

どうしたら捌ける?

 

今日戦ったウイスの動きを頭に思い浮かべた。

 

そしてその回避の仕方 捌き方などを次々に思い浮かべてそれを組み入れていった。

 

その時

 

ピー

 

「お?」

風呂の水が適度の量まで溜まったら知らせてくれるブザーが鳴り、ゼノは瞑想を中断する。

 

「さて、入るか」

 

服を脱ぎ腰にタオルを巻くと三つ編みを解いた。レバーに手をかけ 熱めの42度程のシャワーを全身に浴びせた。

そしてシャワーを止めると、椅子に座り頭にシャンプーをかけ 優しくゴシゴシと洗った。ゼノの髪は腰まであるので、洗うのには毎回一苦労しているのだ。

 

「めんどいな…切ろうかな?」

すると 背後の床が突然 光り始め、見ると魔法陣が映し出されていた。

 

「なんだ?」

誰か来るのかと思い咄嗟に警戒を取る。けれどもすぐに警戒を解いた。その理由は 魔法陣から感じる気は馴染みのある者だったからだ。

 

「この気配…まさか!?」

そのまさかだ。

その魔法陣から現れたのはタオルを巻いた朱乃であった。

 

「朱乃!?なな…なんでここに!?」

「うふふ…ゼノ君と一緒に入りたいと思いまして。お背中お流ししましょうか?」

朱乃は妖艶な笑みを浮かべながら聞いてきた。ゼノは顔を真っ赤に染め拒否した。

 

「いいよ!は…早く帰れ!」

「そんな…」

すると、朱乃の顔から何もかもが消え去り暗い表情へと変わってしまった。

 

「私をここまで強くしてくれたから…少しでもお礼がしたいと思っていたのに…」

朱乃はその場に膝から崩れると目から涙を流してしまう。流れた涙は次第に多くなりその場に溜まり始めた。

 

「…(え…待てよ…確実に俺が泣かしてるみたいじゃねぇか…!?)」

罪悪感に駆られたゼノはどうしようか考えるも案が浮かばず 降参した。

 

「じゃ…じゃあ背中…頼むよ…」

そう小さく言った時 朱乃の涙がすぐさま止まりパァと顔を明るくした。

 

朱乃はボディソープをタオルにつけるとゼノの背中へと付着させ上下に動かした。

 

「気持ちいいですか?」

「あぁ…少しずつ眠くなってくる…」

「うふふ。ここでは寝ないでください」

そう笑いながら背中にシャワーをかけ優しく撫でるように洗い流した。

 

ゼノはお返しとして朱乃の背中も洗い流してあげた。2人とも体が洗い終わると湯船へとゆっくり浸かった。広さは一般家庭にある風呂とさほど変わりはない。

 

入浴している場所からは外の景色を眺める事ができ、窓を開け2人は外の景色を眺めた。

 

 

「ふぅ…」

疲れや汗を流しているとふいに朱乃が切り出した。

 

「いきなりで悪いけど…明日から修行に付き合ってもらう事はできない?」

2人だけなので朱乃は普段の口調をやめタメ口で話した。 朱乃は自身の力を見てほしいと思い 質問したのだ。

それに対してゼノは朱乃の積極的な要望に感心すると了承した。

 

「いいぞ。ただ それは会合の後でだ。一応 俺も出るからな」

そう言いゼノは風呂で背伸びをする。いい具合に汗も出てき始めた。

すると、朱乃は微笑み 後ろから手を回しゼノを自分の胸元に抱き寄せた。

 

「!?」

突然抱き寄せられたゼノは驚き すぐさま離れようとするが 朱乃はただ何も言葉を発さずに離さなかった。ゼノは抵抗しようとしたが、何か理由があるのか、いつもよりも手の力が弱い故に手足をバタつかせる事をやめる。

一方で朱乃はただ笑顔のままでゼノを抱き締めていた。

 

それから数分

 

「……熱い…そろそろ上がる…」

「あらあら…お顔が真っ赤っかですわ。上がりましょうか」

ゼノは朱乃に抱き抱えられるようにして湯船から上がった。

 

 

風呂から出ると寝間着に着替え ゼノは朱乃にドライヤーをかけてもらっていた。自分よりも長い髪をいつもケアしている朱乃の技術は抜群的であり、ゼノの髪がいつもよりしなやかになった。

 

「うふふ。髪を解いているゼノ君の姿は新鮮ですわね」

「んん…寝る時は縛らないからな…というか…」

ゼノは未だに居る朱乃に目を向ける。

 

「何でまだ居るんだよ…。そろそろ戻れよ。明日 俺も忙しいんだよ…」

ゼノは眠たそうな目を向けながら朱乃に言う。すると今度はうつむかず、スンナリと受け入れてくれた。

 

「そうですわね。元々は一人部屋なので もう一人増えてはいけませんわね」

そう言うと朱乃は魔法陣を展開した。

 

「では。おやすみなさい」

「あぁ」

そう言うと朱乃は魔法陣で転移していった。

 

 

「ふわぁ…さて、俺も寝るか」

今にも閉じそうな目を擦りながらゼノは部屋の照明を消した。消すと窓から冥界の街の灯りが広がり神秘的な景色を表していた。

 

ーーーーーーー

 

冥界が夜に包まれた時 建物が密集する場所から遠く離れたとある暗い山岳地帯にて、一人の青年が辺りを照らす月を見上げていた。

 

「ふむ…冥界は穢れている場所かと思っていたが 存外 美しいものだな」

その男はまるで始めて冥界に来たかのような感想を述べた。すると、背後に魔法陣が現れ王族が着る獣の毛が施されたマントを着用した男性が姿を現した。

 

「遅いぞ。アスタロト」

月を見ていた青年は振り返る。アスタロトと呼ばれた男性はケラケラと笑いながら言い訳をしてきた。

「いやぁ悪いね。可愛い眷属の相手をしていたらツイツイ時間が過ぎてしまって」

その男は反省の意思がないように謝罪をした。他者から見たら確実に怒るだろう。だが、青年は怒る事は無かった。青年は内ポケットをまさぐると何かを取り出した。

 

「貴様も力を欲していたな。ならばこれをくれてやる」

「ほぅ?これがシャルバの言っていたボールか…」

青年が差し出してきた玉を男は受け取ると水晶を見るかのように回しながら見た。血のように赤く光り、その中に四つのドス黒い星が輝いていた。見るからに不気味だ。

 

「この玉を飲み込めば貴様の力は今の魔王を軽く越えられるだろう」

「!?こ…この玉を取り込めば…超越者である…アジュカを超えられるのかい!?」

「そうだ。もっとも…貴様がその力に耐えられるのならばな」

青年の言葉に男は興奮し後から忠告した事は聞き入れていなかった。

 

男は玉を受け取ると魔法陣を展開し、この場から去っていった。男がいなくなると、青年はフッと笑った。

 

「やはり憎しみの強い魔王の血族は利用価値がある。利用されている事に気付かないとは…悪魔も馬鹿が多いのだな」

その男は嘲笑いながら月をしばらく見つめると姿を消した。

 

 


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