話は響の背後からの奇襲を開始した一刻四半前(現代だと2時間30分)に遡る。
軍議は終わった後陣幕内ではやはり、なにかが引っかかるのか今一度、司馬防が告げた言葉を思い浮かべていた。
「……」
口を閉ざし、目を瞑って頭で思い浮かべる過去の記憶を辿り、何か気になる点はないかと記憶を掘り起こしていく響、そんな響を他所に同じくこの場所にいる司馬朗と司馬懿も先程出陣した司馬孚が心配なのかそわそわと落ち着きがなかった。
「う~弥生ちゃん大丈夫かな……私ひとりで様子だけでも…!」
「心配なのは分かるけど、そうすると危なくなったら睦月ちゃん飛び出して手伝いに行くでしょ?そしたら父上の主命を破ることになるわ」
司馬孚が心配な司馬朗は兵もひとりも連れて行かずに司馬孚のもとへと様子を見に行こうかと呟くとそれを聞いていた司馬懿が司馬朗の性格も考慮し、危なくなったら飛び出して父親である司馬防に出された主命を反してしまうと司馬朗に対して言うと、それもそうだと生きたい気持ちを無理に押さえた。
「……いっそ、バレないようにするとか」
司馬朗と司馬懿の2人の話を聞いていた響が隠れて司馬孚を手伝えば良いのではと言葉を零すがすぐさま2人とも無理だと言わんばかりに首を横に振った。
「流石にそれは無理よ」
「お父さんに直ぐに感づかれると思う」
「それじゃあ、どうすれば…ふたりは司馬防様の主命で加…勢…?」
行きたいのは山々とそういった表情を浮かべながらも、行ったことがバレてしまうと司馬懿達は簡単に予想できることを響に告げると何かいい手はないかと項垂れながらも考えようとする響に一つふと思ったことが思い浮かぶ。
そういえば、司馬防が行った主命なぜあの時2人と限定したような言い方をいったのであろうか
その言葉を主に置き、思考する響にとある一つの答えが浮かんできて、気づいた響は驚いた表情で椅子から慌てて立ち上がった。
「ど、どうしたの!?」
いきなり、響が立ち上がったことにより驚いた司馬懿は響にどうしたか訪ねると響は訪ねられたことを無視して司馬懿に逆に質問を問いかけた。
「仲達様!俺ってどういう扱いになってる!?」
勢いよく詰めよってくる響に流石に司馬懿もたじろぐが、直ぐに言葉を返した。
「え?い、いきなりどうしたの?」
「はやく!もしかしたら司馬孚様に加勢に行けるかも知れないんだ!」
その言葉を告げると2人とも驚いた顔で響を見て直ぐさま司馬懿は響の問に答えるべく少し考えて答えを告げる。
「そうね、私の直臣というわけだから、響さんに下知を下すのは大体は私ね」
と司馬懿は響の現状の身分を簡易に話すと直ぐに響は更なる問を問いかける。
「じゃあ、仲達様の指示で兵を率いることも可能なのか!?」
「それは…勿論私が響さんに命令すればで…き…そうだ!その手があったわ!」
即答で響が再び告げた質問に対して司馬懿も可能だと返事を返した直後、響が何を思いついたのか漸く理解することが出来、これなら行けると笑みを浮かべていた。
「え?響さんも如月ちゃんもどうしたの?」
2人がこれならと喜んでいる中、完全に何がどうしたのか理解できていない司馬朗は司馬懿に問いかけ、それに対して司馬懿は司馬朗に響が思いついたことを告げた。
「いい、睦月ちゃん、私と睦月ちゃんは弥生ちゃんに加勢も助言も出来ない…それは父上がいっていたからわかるわよね」
「うん、もちろんだよ、けど、それが何かあるの?」
司馬懿は司馬防に言われた言葉を簡易に復唱すると司馬朗もそれぐらい分かってると司馬懿達が何を考えついたのかまだわからないまま頷く。
首を傾げる司馬朗に今度は響が口を開けて喋った。
「けど、これには抜け穴があるんだ」
「抜け穴!?」
司馬防の主命に抜け穴があるとそう告げた響に驚愕の表情をする司馬朗、そんな驚く司馬朗に司馬懿は更に説明を続けた。
「そうよ、それは響さんが兵を率いて弥生ちゃんに加勢すること」
「え?でも、それじゃあ主命に反するんじゃ…」
その方法を司馬懿が答えたが納得できない司馬朗は命令違反するのではと聞き返しそれに対して響が答えを返した。
「だから、それは仲達様と伯達さまの2人が下された主命でしょ?だけど、そんな主命を受けてない俺は関係ないことだろ?」
「それに、私達も弥生ちゃんに加勢や助言をするなと言われたけど、でも発想を変えればそれ以外の人達なら指示を出しても構わないと言い換えられる」
「つまり、この場の中で主命も制限もない俺が兵を引き連れて救援に向かっても主命に反することはないってわけだ」
坦々と2人に説明された司馬朗は説明されて行くにつれて呆気取られていた顔が徐々に笑みが浮かび上がってきて完全に理解したとき、大きく声を上げた。
「そっか!!確かにそれなら弥生ちゃんを助けられる!」
なら、そうと決まれば部隊の編成をと司馬朗は張り切った表情で陣幕から出ていこうとするも司馬懿に止められてしまう。
「待って、急ぐ気持ちは判るけど、作戦があるの、だから少しだけ兵を集めるのを待ってくれない?」
司馬懿に作戦のために聞いて欲しいと呼び止められ、今にも出ていきたいと疼いている司馬朗を見て手短に話そうと司馬懿は作戦の内容を喋り始める。
「まず、このまま弥生ちゃんの行った通路から行ったとしても弥生ちゃんの部隊の布陣の邪魔になるし、それに峡谷だから狭いから加勢してもあまり意味をなさない、だから響さんには騎馬隊2000騎を連れてここの迂回路を回って賊の背後を強襲して欲しいの」
弥生が正面に布陣している今、響の騎馬隊が正面から加勢してもあまりメリットがないために、少し時間がかかるが迂回路から部隊を敵の背後に回り、背後からの強襲を司馬懿は提案し、説明を受けた響と司馬朗も確かにと納得した表情で司馬懿に頷いた。
「恐らく響さんの部隊が強襲するのは弥生ちゃんの部隊が交戦が開始して経った後になると思うわ、それじゃあみんな準備をお願い」
司馬懿の説明が終わってから司馬朗は軍馬や武器の支度、司馬懿は引き連れてきた。兵達に事の次第を伝え響の部隊の編成を執り行う。
その間に響は余計なタイムロスを防ぐために地図を見て迂回路の道を暗記する。
行動を開始してから半刻程が経過したとき司馬懿と司馬朗の計らいで漸く響の部隊の編成が完了し、司馬懿に呼ばれ響も陣幕から出て司馬懿の元に駆け寄る。
「準備が出来たわ…響さん、弥生ちゃんをお願いね」
「了解しました。必ずや司馬孚様と共に此処に帰還いたします」
司馬懿に司馬孚のことを頼まれ、響も兵の前であるために臣下の礼を取って敬語で受け答えして、馬に乗馬し引き連れていく騎馬隊に向けて、響は号令を飛ばした。
「これより!賊の背後をつく!八神隊!我に続け!」
こんな感じかなと、テレビやゲームで見た号令を見真似て号令を飛ばし、その直後響の後ろにいる騎馬隊が答えるように声を轟かせ響は乗馬した馬の腹を蹴ると馬を走らせて陣地から騎馬隊を連れて出陣した。
弥生達が向かった峡谷へと続く道とは違う迂回路を進んでいく響と八神隊、馬を走らせその反動で体が飛び跳ねたりもしながら必死に手綱を持って道を進んでいく。
そして八神隊が出陣して半刻四半が経った時、遂に賊の後詰め部隊を視認する距離まで近づく。
「何とか間に合った!よし!騎馬隊!突撃ぃ!」
その声共に、騎馬隊は雄叫びを上げて賊の後詰めへと突撃していく。
勝利目前の前で背後からの強襲など想像していなく、浮き出しだっていた賊達は統制など取れるはずと無く後詰めは瞬く間に瓦解し慌てふためく賊達はあちらこちらと逃げまどう。
響も騎乗しながら持参の剣を振るい通りかかった賊を8人ほど切り倒していく。
彼も司馬懿に仕官した後にも鍛錬は怠っておらず、寧ろ士官した後の方が以前より比べるものでないほど剣の腕や、乗馬などが上達し、それにより、並みの者よりかは強くなった。
後詰めの賊を蹴散らした後響は騎馬隊共に司馬孚達がいる方向…つまり賊が集まっている方へと駆ける。
「くそ!正面の敵は囮か!」
「か、頭!後ろから敵がも、うぎゃぁぁっ!!」
賊の中央部、先程前線へと出た青年や賊の頭領がいる辺りでは後詰めの賊が敗走したという凶報が伝わり賊達は狼狽え始め賊の頭領も正面の敵は背後の強襲を悟られないようにする囮だと勘違いし、背後の敵に迎撃の指揮をとろうとするが既に時遅し。
流石は西涼の馬とそれに鍛えられた騎兵、既に頭領達がいるところまで響率いる騎馬隊は突撃しており頭領の回りでは指揮も執れない賊に八神隊の一方的な蹂躙が繰り広げられていた。
ある者は首をはねられ、またある者は槍で喉元を突かれ、またある者は斧で頭をかち割られる。
誰もが賊の敗北だと、わかりきると自身の保身であっちこっちへ逃げ惑う賊、そんな逃げ惑う賊達に峡谷の幅の狭さや八神隊の遠慮無く追撃の手が入り未だ誰一人離脱できずにいた。
それから直ぐ、賊の頭領も討たれることになる。
死因は馬に轢かれるという最後、余談ではあるがその馬に乗っていたのは八神響であり、当の本人は馬で轢いたのが賊の頭領であったなど未来永劫知ることはなかった。
響の騎馬隊の奇襲や賊の頭領の討ち死に、その二つの凶報により、前線でもその効果は現れた。
謎の青年により危機に陥っていた司馬孚は響の奇襲により視線が外れたのを見て距離を取り命拾いした。
それから、賊達も奇襲により士気が落ち、先程のように攻め立てられず司馬孚の奮闘で立て直された司馬孚隊に足止めをくらう。
生き残るには前を抜いて逃げるしかない、そう背後から迫る恐怖に死に物狂いで前へと進撃する賊達であったが皆が自身の保身ということもあって連携も取れておらず、彼らが突破することは不可能であった。
そんな光景を見ている物がいる。
同じく賊に身を窶した謎の豪傑の青年である。
彼はあれでは突破は無理とわかりきっており、だがしかし、このままでは響達の騎馬隊の餌食を待つことになる。
それなのに彼は一行に慌てる素振りを見せない。
そんな彼に体制を立て直した司馬孚がやってくる。
「おお、まさか、一度は瓦解ししたのにここまで立て直すとは中々のもんだな」
青年は司馬孚に気がつき、あろうことか敵である司馬孚に対して声を掛けて体制を立て直したことを賞賛した。
これには司馬孚も唖然とするが直ぐに正気になり持っている弓矢を構えて青年にへと狙いを定める。
それをみて、青年も持っている薙刀を構え直して司馬孚目掛けて飛び込む体制に入る。
互いに1歩と動かない状態が少し続いて、先に動いたのは青年の方であった。
脚に力を入れて地面を蹴り、先同様、凄まじい速度で司馬孚に近づいていき、みるみると距離が縮まっていく中司馬孚もつがえていた矢を青年に目がけ放たれる。
飛び込んでくる青年に目の前から矢が飛んでくる、一般では避けることなど不可能であるが彼は違った。
彼は矢が迫る中笑みを零しており次の瞬間、脚で地面を蹴ると横に飛び、矢を避けて見せ、直ぐさままた、距離を詰める。
「っ!!」
走ってくる敵に矢を弾かれるわけではなく避けられるとは思っていなかった司馬孚は驚愕するがそんな中、彼は迫り来る。
「もらった!」
次の矢をつがえる隙など与えないと青年は司馬孚を斬ろうと振るおうとした直後司馬孚と青年の間に馬が間に入る。
「うおっ!?」
いきなり現れた馬に青年は驚いて後退、後退したことで再び命拾いした司馬孚は冷や汗を浮かべながら助かったとほっとして、馬に乗っている人物を見てまた驚いた。
「あなたは…」
「いや、本当に危ないところだったな」
司馬孚と青年の前に現れたのは響であり、遂に中央部で暴れていた騎馬隊が司馬孚のいる前線までやってきたのである。
なぜ司馬懿の直臣の響が此処にと驚く司馬孚だが、響は司馬孚が無事であったことに安堵する。
「まさか、背後の奇襲部隊か?もうここまで来たのかよ」
そんな2人を見て青年はこれは不味いと思いながら焦りの表情を見せた。
「…仕方ない、命あっての物種だ、ずらかるか」
そう青年は口をこぼすとそれを聞いていた響は可笑しなことを言うと思い青年に話しかけた。
「あんた、前も後ろも攻められてるのにどうやって逃げ切れると思っているんだ?」
「それは…こうするのさ!」
そう、青年は言うと突然峡谷の岩壁に向かって走りだし、このまま突っ込めば壁に衝突するのではないかと響も見ていて内心そう思っているが彼は速度を落とすことなく壁に近づき遂に目の前まで迫る。
「はあぁぁぁぁぁっ!!!」
そして壁に衝突する…と思いきや、青年は壁を脚で蹴って、壁を走り始めた。
「…は?」
響は彼の姿を見て信じられない物を見た表情を浮かべ、あまりの驚きに唖然とする。
隣にいる司馬孚でさえも唖然としてしており、2人が青年のあまりの人間離れ技に凝視する中そんなこと気にせずに彼は壁を完全に走りきる。
そのあと、青年は響達を一度見下ろした後、直ぐさま走りだして何処かへと行ってしまう。
彼がいなくなった後も、2人は唖然として固まっていたが、ふと響が率直な思いをくちをする。
「…俺…垂直で壁走りする人間なんて初めて見た…」
「…弥生も…です」
あんな超人的な行いをできる人間がいるとはと世の中広いんだなと実感した2人、そして、そんなことを思っている2人に至るところから完成が響き渡る。
「あれ?もう終わったのか?」
先に正気に戻った響が辺りを見渡して、勝ち鬨を上げている味方の兵を見て賊を殲滅できたのかと言って、司馬孚もきっとそうと、響の言葉に肯定した。
「なら、戦後処理が終わったら引き上げよう、仲達様達が心配してるはずだしな」
一刻も早くこんなところから離れたいと響はぼやきながら、引き連れてきた兵に指示を出そうと兵が集まっている場所に馬を歩かせていく中、司馬孚は響の背中を見ながら口を開ける。
「待って…」
そう短い言葉を口にすると響は馬の足を止めて顔を向ける。
突然声を掛けられたことからどうしたのだろうと首を傾げて司馬孚の言葉を続きに耳を傾ける。
「あの…助けてくれて、ありがとう」
頬を赤らめ、余所余所しい態度で響にお礼を言い、少しお礼を言われるとは思っていなかったために、少し間があいて、響は司馬孚に笑みを浮かべて返事を返した。
「どういたしまして」
そういって、それじゃあ行こうと司馬孚に声を掛けると、司馬孚はうんと短い言葉を口にして頷き、響と共に戦後状況を確認しに、兵達が集まっている場所へと向かった。
オリキャラ紹介
姓??
名??
字??
性別男
年齢19
長安に向かう賊の群れの中にいた謎の青年
賊とは思えない卓越された武力を持ち、何より並みの馬をも越える俊足の持ち主であり、超人的な俊足に響達を驚かせた。