戦国†無双   作:ウィングゼロ

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第五話

五丈原より8000の山賊の群れが長安へと迫り来る。

 

長安方面を警備していた兵からの早馬が長安に届き、見過ごすことはできないと司馬防は判断し今いる将達を召集、政庁にて賊討伐の軍議が始まろうしていた。

 

着実に将兵が集まる中、要約、到着した司馬懿、司馬防、響は直ぐに先に来ている将兵達と同じように立ち。司馬懿達が来たのを気に司馬防が閉ざしていた口を開けた。

 

「これより軍議を始める。諸君らと知っていることであるが8000の賊どもが我が長安に着実に迫ってきている」

 

司馬防から語られる今の現状に司馬懿を始め臣下達は緊張した表情で何も発さずに司馬防を見つめる。

 

「全く、自身の無能さもわからぬ馬鹿どもだ、所詮は反乱した百姓の群れ、我々が全力で相手することもない相手だ」

 

反乱した賊達を才もないただの阿呆だと見下しながら全力で戦えば間違いなく勝てると確信的な自信に司馬防の臣下達は安堵の顔を見せ響もこれなら司馬朗が慌てるほどだから深刻な事態ではないかと思っていたが、司馬防の臣下達をみて少し緊張感が和らいだ。

 

「…丁度良い」

 

何か思いついたのか、司馬防はニヤリと頬を上げ、それを見た臣下と響は何をしようとしているのかわからないが、娘である司馬懿達はまさかと驚いた表情を見せた。

 

叔達(しゅくたつ)!」

 

「…っ!ここに」

 

笑みを浮かべた後誰かの名を上げると直ぐに返答が来て響は視線を返事をした方向へと移す。

 

そこには響達同様、一列に並ぶ中、司馬懿や司馬朗の服に疑似はしているものの、紺の長袖のセーラーとスカート、髪も薄紫色でディープブルーな瞳、どこか司馬懿達にた女の子が手を合わせて臣下の礼を取る。

 

「弥生ちゃん」

 

響の隣にいる司馬懿がそう、呟き、その呟きを耳をした響は少し司馬懿の方に視線に向け、やっぱり知り合いかと思い再度視線を弥生と思われる女の子に向けた。

 

「2000の兵を貸し与える。進軍中の賊を一掃させよ」

 

「っ!!」

 

「なっ!?」

 

司馬防が口にした命令の意味が判らなかった。

 

8000の賊に2000の兵士を女の子が率いる。そう言ったことに素人な響にとっても明らかに判断ミスであると理解できる。

 

そんな無茶ぶりをなぜ司馬防が、少女に命令をだしたのか、響はその真意がなんなのか判らなかった。

 

「良い演習替わりだ、存分に才を震うが良い、それと伯達!仲達!」

 

「は、はい!」

 

「はっ!」

 

響が司馬防の真意を考える中でも軍議は続き、司馬防は今回の一件を少女の練習材料に持って来いだと笑みを浮かべながら全力で事に当たるように鼓舞、そしてそのあと司馬懿と司馬朗の名を告げると、司馬朗は戸惑いながら、司馬懿はしっかりと返答し司馬防は2人にも何かの役割を命じる。

 

「万が一ということもある。2人には3000の兵を率い、叔達と同じく出陣を命じる」

 

保険として、2人にも命令を下すと、司馬朗の表情は安堵の顔を見せ、司馬懿も同じくこれなら大丈夫とほっとした表情見せたが、次に告げた司馬防の言葉でまた一変する。

 

「ただし、あくまで同行するだけだ。叔達の部隊が敗走するまで、2人は叔達に加勢も助言も禁ずる」

 

次に司馬防が口にしたことに司馬防以外のまわりの臣下や、司馬懿達は絶句する。

 

本当に保険、叔達の兵が敗走するまでは絶対に動くなとそう言ったのだ。

 

劣勢に立たされるであろう味方に何も出来ないという状況に何があるのか、そう言わんばかりに絶句して黙っていた司馬朗が一歩前に出て司馬防に向かって進言する。

 

「お父さんは、弥生が殺されそうになるまで見ていろとそうおっしゃうのですか!?」 

 

流石に妹の危機的状況になるまで見て見ぬふりを出来ないと司馬朗は声を荒げる。

 

しかし、そんな司馬朗の言葉など耳を貸さないと言わんばかりの態度を示す司馬防は司馬朗にこう返した。

 

「馬鹿めが、伯達、幼き頃よりお前達には次代は才ある者が国を動かしていくとそう言ったはずだ。故に、此度は叔達の研鑽の成果を見ることができる。絶好な機会、もし賊を討伐できず叔達が敗走するのなら、その程度だということだ」

 

次代は才ある者こそ動かす、それは響や他の臣下達も納得のいく言葉であったが、その後に続いた、叔達を切り捨てるような言葉には流石に響も親としてそれは冷たすぎるのではないかと憤りを覚え前に出ようとしたが、響に気付いた司馬懿がその行く手を遮り制止させた。

 

「響さん堪えて、響さんの気持ちは重々わかるけど…」

 

司馬懿も響の気持ちは判っており、悲痛な瞳で周りに聞こえないように小声で響に告げ、響も司馬懿の言葉を受けて、こんなときに何も出来ない自分が情けないと自身の無力さに情けなく思えた。

 

「で、でも!!」 

 

「別にいい、睦月お姉ちゃん」

 

司馬防に言われるも諦めきれない司馬朗は更に説得をしようとするもその説得はあろうことか、叔達によってさえぎられた。

 

「お父様、この司馬叔達必ずや、吉報をお伝えします」

 

「期待しているぞ」

 

叔達は嫌な顔もひとつせずに司馬防の主命を受けて、それを見た司馬防は少し頬にやけさせ、吉報を楽しみにしていると告げた。

 

「叔達、伯達、仲達は直ちに軍をそろえ出立他の者も万が一に備え出陣の準備を怠るな」

 

最後に司馬防が全体的な指示を出してそれを聞いた司馬防の臣下達は一言でその指示に了承して、政庁に集まった臣下達はそれぞれの場所へと解散していく。

 

「弥生ちゃん!」

 

臣下がばらばらに散っていく中、司馬朗が叔達が政庁から出て行く姿を見て血相を変えて追いかけていく。

 

やはり、今回の出陣は無謀もいいところな作戦であり同じく出陣することになっている司馬朗も心配な思いで胸がいっぱいで黙っていられずにはおれず、叔達を追いかけていったのだ。

 

そんな司馬朗を見て響と司馬懿も言葉を発さずに頷くだけでお互いのことを察して、直ぐに司馬朗を追いかけた。

 

叔達と司馬朗を追いかけ、政庁を抜け長安の治安を守る兵士達の兵舎へと向かう道筋。

 

行商人やこの町で暮らす民達も、政庁から大勢出て来たことや、既に噂話で賊が迫っていることなどを聞き、不安な顔つきなどで先程とは変わり、活気が沈みこんでいた。

 

そんな中を追いかける響と司馬懿、呼吸を乱さずに走る2人は漸く前方に見える2人を目視した。

 

2人から見て司馬朗と叔達が止まって話し合っており、司馬朗な激しく話している傍らに叔達は表情を一つ変えずに坦々と喋っていた。

 

「無理だよ!いくらお父様の命令でもこんなのは…」

 

「でも、それが主命だから仕方ない、だったらやるしかない」

 

「でも!」

 

司馬朗は叔達の危機を回避させたい一心で悲痛な叫びで訴えるも親子であろうと主命は絶対とそこを曲げるつもりはないのか、司馬朗の話を聞き取ってくれない。

 

「睦月ちゃん!弥生ちゃん!」

 

響と司馬懿は2人が耳に届くぐらいまで近づくと、司馬懿が聞こえるように2人の真名を呼び、そして司馬朗と叔達も司馬懿の声に気付いて、司馬懿の方に振り向く。

 

「如月ちゃん!」

 

司馬懿がやってきたことで妹の司馬懿なら、無謀に走ろうとする。叔達を止められることが出来るかもと期待した眼差しを司馬懿に向けられるが、そんな司馬朗の期待には応えられないような曇った顔を浮かべる司馬懿

 

「如月お姉ちゃん…」

 

「弥生ちゃん…今回の出陣、恐らくだけど弥生ちゃん一部隊で当たるのは無謀な戦い…それは判ってるのよね」

 

叔達の元へとやってきた司馬懿を叔達は表情を変えずに一言だけ司馬懿の真名を口にし、司馬懿も今回の出陣の今できる予測を述べて叔達に承知をしているかを確認する。

 

それに対して、叔達は頷くと判っていても止まれないとそう言いたげな表情を浮かべその顔を見た司馬懿は諦めたように溜め息を付いた。

 

「その顔だと止めても無駄みたいね、でも玉砕だけは止めてよね、妹が死んでいくのを見たくないから」

 

本当は司馬朗と同じように加勢したいという気持ちでいっぱいであった、しかし司馬防の主命がある今一緒に戦うことすら出来ない。

 

そんな虚しくも感じられる感情を胸を締め付ける中兵舎へと辿り着き出陣の準備を整え始めた。

 

 

「司馬防様、本当によろしかったのですか?」

 

一方、響達が去って行った政庁、その評定の間では、玉座に座る司馬防に、司馬防に長く仕える、老将が司馬防に対して進言の言葉を述べていた。

 

「先程のことか?あの命令を変えるつもりはないぞ」

 

考える仕草ひとつせず、自身の考えを決して曲げるつもりのないと司馬防は、はっきりと老将に伝えるが、老将も幾多の戦場を経験してきていたからかこのままでは負け戦となると直感から推測して、やはり納得できない顔つきをみせる。

 

「ですがこのままでは司馬孚様の御身は…」

 

主君といえど、ご子息を見捨てるような行いを断じて見過ごせないと、強く再三の進言を述べる老将に、司馬防はなぜか溜め息を付いた。

 

「馬鹿め、わざわざ負け戦をさせるために行かせるわけがなかろう」

 

と、司馬防はそれぐらい当たり前だろうと言わんばかりの表情を老将に見せ、それに対して老将はではどういうことだと司馬防が何を考えているのかわからないと困惑する。

 

「ではこの戦、司馬孚様が勝てると言うのですか?お恐れながら司馬孚様は統率も知力も申し分ございません、しかし、統率では司馬朗様、知力では司馬懿様とお二人には到底及びませぬ、では何故そのような勝機があるとお思いなのですか?」

 

今一番気になっている率直な答えそれを知らねばこの不安が収まらないと老将は司馬防に訪ね、司馬防は訪ねた老将に落胆したように溜め息を付いた。

 

「馬鹿め!それぐらい自分で気づくのだな、だが、一つ言うなら今回の勝利の鍵は奴次第ということだ」

 

訪ねた老将に対して、司馬防は罵声を上げ、今回の戦の重要点だけを述べて後は考えろと吐き捨てた。

 

奴とは誰のことを示しているのか、大将の司馬孚のことなのか、それとも付いていく司馬懿か司馬朗のことをさしているのか、結局当初の晴らそうとした胸の不安感は晴らせず。ただ出陣した司馬孚達の生存を祈るだけであった。

 

 

長安の街から出立つし司馬孚、司馬朗、司馬懿、そして響は司馬防に貸し与えられた5000の兵と共に五丈原方面へと向かう道を行軍していた。

 

響達は調達していた西涼の馬に跨がりゆっくりとした馬の足取りで進んでいきその背後には5000もの司馬防に付いてくる兵士達の足踏みがそろった行軍で賊を迎撃する場所へと進んでいく。

 

「……」

 

そんな中、響は俯いて、何かを考える仕草をして司馬防に言われた言葉のことについて考えていた。

 

あの司馬家の大黒柱である父親の司馬防がこんな無謀な戦で1人の娘をみすみす死地へと赴かせるだろうか…

 

確かに、他の人に比べれば、司馬朗も司馬懿も群を抜いて優れているのは響も知っている、しかし、司馬孚はその2人には長所では劣っているが全体的に見てはその2人にも差し控えない。

 

賊を討たなければならないという、使命感は重々と承知している。だが命を下したのは長安の太守にして司馬懿達の父親の司馬防、いくら厳格な性格をしているとはいえ無謀なことをさせるほど暗愚でもないはず。

 

では何故…と司馬防の真意が全くもってわからない、響は真意を理解しようと必死に考えるが結局何もわからずじまいで、徒労に終わった。

 

「如月お姉ちゃん…その人…誰?」

 

そんな響が思考をしているときに共に馬で移動する司馬孚が響のことに気がつき司馬懿に誰なのか訪ねた。

 

そういえばという、表情を見せ、司馬懿は響を呼びかけると、それに反応して響は司馬懿に顔を向けると、簡潔に事の内容を教え、理解した響は頷いて、司馬孚の方へ顔を向けてしっかりとした表情で司馬孚に名乗った。

 

「申し遅れました、私は八神響、仲達様の世話役と補佐を務めさせてもらっているものです、以後お見知りおきを」

 

初対面で格上であることから司馬懿達とは違って律儀に丁重な言葉遣いで自身を紹介した。

 

「響さん、ものすごく堅いね」

 

「やっぱり初対面だからかしらね…」

 

直ぐ傍にいる司馬朗と司馬懿は響の言葉遣いからまだあって間もないときと同じく堅い、口調であることに不服そうな顔付きで響を睨んでいくが、その視線に気がついている響は仕方ないと割り切って、あえてその視線を無視した。

 

「如月お姉ちゃんの…司馬孚です、字は叔達、よろしく」

 

噂は聞いていたのか、響の素性を知った司馬孚はこの人がと表情を変えずに呟くと直ぐに自身も名乗った。

 

「さて、自己紹介も終わったから、なるべく急ぎましょう」  

 

自己紹介も終わり、司馬懿は行軍スピードを早めることにした。

 

賊が長安に来る途中でも村は存在する、だから自分達が到着が遅れ賊によって手に掛かってしまう命もあるかもしれない。

 

そんな、いのちを見捨てる訳にはいかないとそういった、民を慈しむ気持ちを胸に行軍を早め迎撃地点へと急ぐのであった。

 

 

 


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