陳留……
漢の国の中原に位置する都市の一つ
治安等も中々良好であり住みやすい土地ではあるだろう。
しかしそんな陳留に向かうことになった響の顔は全くもって優れていなかった。
それはなぜか?それは陳留の太守に問題があったためである。
陳留の太守……かの魏の土台をつくることになる曹孟徳が納める地であったためである。
その理由は言わずも知れた……響がまだ長安にいた頃…司馬懿…如月と共に下野したきっかけになった…否、利用した人物である。
そのような人物…もしくは親しい間柄のものに響が見つかればどうなるか…それは間違いなく命を失うことになるだろう。
故に響はどうするか否かを考えていた。
いかなければ、命の危機もなく安泰であろうが仕事としてはそのような勝手ないいわけが通るはずがない…間違いなく信用を失うであろう
考えても結論は出てこず、如月は明日に依頼した行商人の長と会合があることを響から聞くと、とりあえずあってからどうするか決めようと響に助言すると響は頷き、明日に合う行商人の長のことに不安になりながらも今日一日が過ぎていった。
そして翌日、約束されている場所…茶屋に辿り着いた響……そして如月
「如月……別に来なくても……」
「響が危ないかもしれないのよ黙ってるわけないじゃない」
と心配で付いてきた如月は響そう告げると既に長いつきあいになっている響はもう何を言おうと動かないと判断し一緒に立ち会わせることにして茶屋の入口で待っていると一際目立つ格好の男性が響達に近寄ってくる
「あのすいません、もしかして…今回の物資輸送の用心棒さんでございましょうか」
「…ああ、間違いありませんよ…今回依頼を引き受けました響…っ!?」
響は近寄ってきた男性に声を掛けられるとそれに応じて話し始めたのだがその男性を見て言葉を詰まられた。
男性の容姿はこの漢の国では珍しい紺色のズボンに白のシャツ、その上ネクタイをしっかりと締めてシャツの上に漢の国でもよく見る布服を羽織っている。
かなり目立つその容姿に響は驚いたわけではなくズボン、シャツそしてネクタイと見覚えのある服を着ていることに驚いており、恐る恐るだが響は訪ねてみた。
「あの、お一つお聞きしたいんですが……あなたのお名前は……」
「ん?そういえば名乗っておりませんでしたね、私この漢の国で商いをしております芥炎隊の海藤陸と申します」
と懐から上質な竹で出来ている名刺?らしき物を手渡され響は受け取ってその書かれている文字を見ると何が書いてあるのかさっぱりな汚い字で書かれていた。
「それでは早速依頼の方の話を「はい、少しストップ」……なんでしょうか?……ってあれ?ストップって……」
汚い字を見ていた響に陸は依頼の話を持ち出してきたが、響がそれを遮って外来語を出すと陸もそれに反応した。
「えっと……海藤……さんでいいんだよな……俺が着てる服……海藤さんなら見覚えのあると思うんだけど」
「その服装……おお!まさかクラスメイトか!」
響は自身の着こんでいる制服を見せるとそれに反応して陸は響のことを同級生だと理解して驚いた顔をする。
「まさか、洛陽に同級生がおるとは思ってなかったわ……ほんで……名前もしっかりと名乗ってもらいたいな」
「八神響だ」
まさか、洛陽にて出会うことになるとは思ってもいなかった陸は再会したことの笑みを浮かべながらも再度、響の名前を訪ね、響はすぐに答えを返した。
「八神…なるほどな!つまり八神さんは夜天の…ごふぅ!」
「どこぞの黒狸じゃねえよ」
八神繋がりでアニメのキャラのことを出した陸を見て響は咄嗟の判断で拳を振り落として最後まで言わせなかった。
「そんならあれか!新世界の神か、若しくは選ばれし子供…」
「だから!デスノーでもデジモンでもねえから!」
「????」
拳で黙らせたというのに再びボケを噛ます陸にツッコミを入れる響、そして如月はなにをいっているのか分からず、完全に蚊帳の外になっていた。
「それなら…ああそうや!歌って戦う…」
「うん、なんとなく言いたいことはわかった…だけどそろそろ止めようか…話が完全に反れてる」
まだボケる陸を見て響は溜め息を付き呆れながらこの話を止めて本題に戻ることになった。
「ああ、そうやったな!それで依頼の件なんやけど……簡単に言うと私らの芥炎隊の輸送の護衛を頼みたいんや」
漸く話に戻り、クラスメイトだということもあって先程より馴れ馴れしく話し始める。
「一応聞くけど輸送する物資ってのはなんなんだ?ものによってはこの依頼引き受けないぞ」
概要を少し聞かされて考えた響はまず前提で物騒な物なら依頼は断ると断言する。
これは以前の真矢の一件からの警戒心から来るもので同じクラスメイトであっても早々に信じないことに決めていたのだ。
「まあ色々とあるけど陳留にいく理由は米を買うことなんや」
「米……ですか?確か今年の陳留は豊作だと聞いてるから…それが理由?」
主な目的が米を買いに行くことだと打ち明ける陸に各国のそういった情報を知っていた如月が言葉をかえした。
「米を買ったら次は凶作の地域に向かって買った米を購入額より高く売る…俗に言う米転がしやな」
「なんとなく、やろうとしてることはわかった……」
陸は適切に分かるように響達に説明すると響達もわかったように頷き、また考えるように俯く。
(まあ、悪意はないのはさっきのやり取りでなんとなく分かるけど後の問題は陳留か)
先程のやり取りの中で真矢のように陸には悪意がないことを見抜く響は直視する問題を曹操に向けて考える。
(陳留といっても、都市に行くわけではないし、それに何より俺の顔を知ってるのはあの時来た2人のみ…そこまでの危険性はないと思うけど……)
行くか行かないか、どちらにするか頭の中で考えて3分ほど意を決した顔で響は陸に向かって話した。
「依頼引き受けるよ……出発は何時になるんだ?」
「おお!それはありがたいわ!予定だと明日の早朝にこの町を出るつもりで陳留に付くのは五日後やな」
陸の依頼を受託し何時向かうのか聞く響にすぐに陸は明日の朝に出ることと陳留への到着予想を告げた。
そして他の段取りもとんとん拍子で話し合い翌日の朝、予定通り洛陽の門前にやって来た響…そして如月
そこで見たものは陸が言っていた芥炎隊の所有している物なのか八台の馬車に十台の馬に繋げられている荷台が並び立っていた。
その馬車や荷台に荷物を乗せていく芥炎隊と思われる人達も50人以上いて、かなりの大規模な物のために2人は唖然とした。
「なに、この規模は…」
「馬車や荷台をこんなにそろえるなんて…あの人見かけによらず。凄い人なのね」
率直に驚く響に如月は陸の第一印象から来ていたイメージとは思えない規模だったために陸のことを賞賛する。
「にしてもだ…如月本当に付いてくるのか?」
「当たり前よ、陳留にいくんだから…響が心配なの、だから今回は私も連れて行って」
陸の商業団体から視線を如月に向けて心配な顔付きで訪ねる響
曹操があれだけ勧誘していた如月が曹操の領地に行くということはかなり危険が伴うために響にとっては共にいくことはおすすめしていなかった。
しかし如月もまた響が1人いくことに心配だったために一緒について行くと断言し、その言葉を撤回するつもりもない態度を示し、諦めて響は溜め息を付いた。
「おお!八神、もう来てくれたか!もうすぐ出発やさかい…護衛のほうよろしく頼むで」
そこに陸も来て現状況を響達に知らせにきて響はわかったと頷いた。
「さて、俺は護衛だからこのまま馬に乗って護衛するし如月は馬車に乗せてもらえ」
「うん、わかった…それじゃあまたあとで」
響は如月にそういってから連れてきた馴染みのある馬に跨がり乗馬し、如月も芥炎隊の乗る馬車に乗り込むと陸が大きな声で叫んだ。
「それじゃあ!出発!!」
その声とともに馬車と荷台も動き出し響も陸達と歩調を合わせて馬を歩かせた。