この素晴らしい世界に鉄華団を!!   作:北岡ブルー

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やべ…、話の進行がつまってきた…!


#6 この二人に未知との遭遇を!

(ちくしょう…!俺の…、俺の異世界生活はどこ行っちまったんだよぉ…)

 

 少年は泣いていた。憧れの崩壊に、夢と現実の違いに突き当たり。顔面をくしゃくしゃにして泣いていた。

 彼の名前は佐藤和真(さとうかずま)。茶色の主人公っぽい髪が密かな自慢の、死してこの世界にやってきた異邦人だ。

 

「クソ!クソォ!!こんな姿になっちまいやがって…!ビスケット…!!ビスケットォォオオオオオ!!!」

「ね~え~オルガさーん。その袋くれないとこっちのビスケット食べちゃうわよー?」

「なっ!」

「はむっ」

「ビ…、ビスケットォォオオオオオオ!!!」

 

 しかし、そこに広がる光景はカズマが思い描いた世界(もの)とは違っていた。

 

 自分に恋して手助けしてくれる美少女? 強敵との戦い? 広がる大草原?

 

 そんなものはない。

 

 あるものといえば、いつまでも冒険に出かけられず、お菓子を抱きしめて泣き叫ぶ頭おかしいヤクザと、それをおちょくって遊ぶ顔だけが取り柄の美少女。

 

 そして、それを白一色の生暖かい目で見るギャラリーの皆さんだった。

 

「殺せぇぇええええええッ!!!もういっそのこと殺してくれぇぇぇえええええええッ!!!」

 

 その状況に耐えられず、天上を見上げ、鼻水と涙をまき散らしながら叫びをこだまするカズマ。

 ド田舎ニート童貞16歳。彼の心は、異世界生活一日目にして粉微塵に砕けていた。

 

 

 

 

 

—―はぁはぁはぁぁン!?このすばァ!?ンなこと言ってる暇あるんだったら俺を美人で性格マトモな母親と幼なじみとおねぇさんと妹とライバル女子がいるbyガチギレズマ――

 

 

 

 

 

 

 惨状が起きる十分前のこと。暖かい陽気の中、一房の前髪を揺らすオルガは冒険者ギルドを目指し、町中を歩いていた。

 背中には金や石鹸洗剤を入れた袋が背負われ、ユサユサと揺れている。

 

「おぉオルガじゃねぇか!今日はどんな仕事をしてんだ?見たところ物運びって所か?」

「グンブさんか。まぁそんなとこだな」

「よっしゃあ!!今度の賭けはオレの勝ちだぜぃ!!」

「賭ける金も程々にしとけよ」

 

「あっオルガの兄ちゃん!なぁなぁ紙芝居見せてくれよ!」

「わりぃなジョン。今日は持ってきてねぇんだ」

「おれ楽しみなんだよ!毎週5時の《テツハナ団の冒険》!あれからどうなるのか気になってしかたねぇんだよ!」

「ハッ、そうか。アカツキがどうすんのか、楽しみにしとけよ」

 

「あ…あの…、お花のお兄さん…」

「あぁ、リーンさんの妹のリン…ちゃんか。どうした?」

「え、えと…。これ、お花とお菓子」

「コイツをオレにくれんのか?」

「ん…うん…」

「そうか。ありがとな、リン」

 

 道中で声をかけてくれる住人達に強面を柔らかくしたオルガは、女の子からもらった花を服の縫い目にに刺し、菓子を腰にくくりつけるとその場を後にした。

 

 念のために言っておくが、オルガがギルドを目指しているのは幼女からプレゼントをもらうためではない。

 新しい情報を得るため。そして、金が足りるなら自分が冒険者になり、外の世界を冒険するためである。

 金は情報料や登録のために持ってきたものだ。

 

「もしかしたら、この世界に飛ばされた鉄華団の団員が…、オレの家族が来てるかもしれねぇからな…」

 

 オルガはこの1ヶ月間、様々な仕事をこなしながら団員たちの情報を集めていた。

 

 自分がこうして生きているのだから、死んでいった家族がどこかで生きているかもしれない。そう考えるのに時間はかからなかった。

 

 オルガは、何も無造作に仕事を取っていたわけではない。

 牛乳配達の時も、町全体を周りながら前世で顔を合わせた奴がいないか確かめた。

 馬小屋掃除やウェイターなど、顔を合わせる仕事をたくさん取り、団員たちの特徴を伝えて情報をくれるよう頼んだ。

 

 しかし、それでも団員たちを見つけるには至らなかった。この町に彼らはいなかったのだ。

 

「ったく。こうなるんだったらLCSの一つでも持っとくべきだったな」

 

 オルガは今までの苦労を思い出して頭をかき、皮肉を言う。しかし、それでも歩みを止める事はしない。

 

 女神アクアは自分を送る際、この世界を魑魅魍魎の世界と呼んだ。もしかすると平和なのはこの町だけで、外は危険で溢れているのかもしれない。

 

 新しい世界にやって来てなお、団員達が過去のように苦しんでいるとしたら…。そう思ったオルガの目標は一つに絞られた。

 

「アイツらを守る。アイツらの居場所を…、今度こそオレが作ってやる!」

 

 そのために力を。仲間を守り、進み続ける力が欲しい。

 物思いにふけっていれば、もうギルドは目と鼻の先。オルガは今日、ここで冒険者になることを決めた。

 

 決意を新たにしたオルガは、生気溢れるたくましい顔で歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 ――このすばっ♪byアクア――

 

 

 

 

 

 オルガが到着する七分前の事。

 

「えへぃううぇへうえっ…!えへェいうえぃうえ…!!」

 

 もはや何を言っているのか理解不能なレベルで、アクアは泣いていた。悔しさや無念をゴチャ混ぜにした顔で目の前の怨敵をブンブン揺り動かし、怒り狂っていた。

 

「なぁんでよぉおおお!!何で私がアンタのオマケになんなきゃいけないのォ!?一人ぐらいいてもいいんじゃない!?同じ女神がここにいて元の場所に帰すとかミラクル起きてもいいんじゃなぁい!?」

「いや、それはさすがにムリだと思う」

「だぁあぁあああああああ!!」

「揺らすんじゃねぇ吐くぞ!」

 

 揺り動かされている張本人。カズマはよせばいいのに確信を突き、顔が無数の残像になる。

 ここは冒険者ギルドに置かれた待ち合い所。そのテーブルの端っこで、彼らは言い争いをしていた。

 

 カズマは冒険者になろうとここに来たのだが、冒険者になるには手数料がかかるらしく、一文無しの二人は途方にくれていたのだ。

 

「大体な?異世界の知識がない人間を放り込むって考えがおかしいんだよ!!なんだよジャージ一丁で放り込むって!ファンタジー感ブチ壊しじゃねぇか!?初期装備も金も無しってどんなクソゲーだよ!」

「知らないわよゲームなんて!創造神様がお決めになった事なんだから私に文句いわないでくれる!?」

「なんだよクソッタレがァ!!こんなことならお前連れて来るんじゃなくて何でも出せる道具もらっとくんだった!具体的には青は青でも金作りの手段いくらでもある青ダヌキもらうべきだった!!」

「私金ヅルだったの!?金ヅルとして寄生すること前提で巻き込まれたの!?女神様に寄生する虫なんてエンガチョよこのド田舎ヒキニート!

「ンだとやんのかコラ駄女神コラァ――ッ!!」

 

 言い争いはヒートアップし、牙を剥く両者はやがて竜玉を集める戦士のファイトスタイルを取る。

 アクアは人差し指と中指を額に当て、カズマはやめときゃいいのに手のひらに力を溜めようと構えた。

 

 各々の必殺技(エア)が放たれようとした、その時―――ッ!!

 

 《グギュルルルルル~~~》

 

 腹が―――減った。

 

「うぐ…!」「へううっ」

 

 技(エア)が放たれてもいないのに倒れる両者。戦いと腹の空しさを現すようにホコリが舞う。

 ホウキを持っている従業員が、それを邪魔くさそうな目で見ていた。

 

「う、ううっ…!このままじゃまずいわ…!ここは一時休戦よカズマ!ひとまずは飯の種を手に入れなければ飢え死にしちゃうわ!」

 

 激戦に倒れたライバルのように休戦を求めるアクア。その顔は床のホコリで汚れていた。

 

「なっ!自称なんとかがマトモな事を!でもどうすんだ?俺たちに金はないんだぞ!?」

「フフン。私はこの世界を統べる女神様よ!この私の手にかかれば…ッ!」

 

 自信ありげなアクアはヨロリと立ち上がって後ろを向き、雄々しい背中を見せて歩き出す。

 カズマはその後ろ姿を、床に張り付き、下から見上げる体勢で見ていた。

 

「お…、おぉほぉ~~!!」

 

 こうして見ると。やっとその美しさが見えてきた気がする。

 

 水色の髪は風にたなびいて川の如き輝きを放ち。黄色のラインと黄緑のリボンが藍色の服とのコントラストを成す。

 下から見上げるプロポーションも完璧で、初恋()の情熱が下半身からこみ上げてくるようだ。

 特に健康的な桃色と肌色、白玉の輝きを放つお尻は最高で。我ながらよく襲わなかったなと紳士な心に感心してしまう。

 

「さぁここに集まりし人間たちよ!私はこの世界の女神アクア!!アクシズ教が祭り上げる御神体そのものよ!!だからお願いします誰かお金を貸して下さい!こんなにたくさん人がいるなら1エリスでも大金になるはずだからぁ!!!」

 

 これで頭が良ければ完璧なのに。

 

(あろうことか懲りもせずに女神を名乗った上に頭を下げやがったァァァッ!!)

 

 一般的な女神とは高明で慈悲深く、人々に救いを与えるものである。断じて45度の礼をして金を恵んで貰おうとする人のことではない。

 

 無論。その代償は高くついた。

 

「バカー!アホー!このマヌケー!!」

「なんで俺たちが金出さなきゃいけねぇんだ!」

「オレはこの前アクシズ教徒に店を食い潰されたんだぞ!」

「ウチの従業員なんて『オレはアクシズ教徒なんだ』ってトチ狂ったコト言い出したのよ!?」

「ホントに神様なら脱げよ!神様はヌードが正装だろ!?」

「それになんだよ重力無視してるそのクルリンパな髪型はよぉ!!頭デザインしたヤツ頭おかしいンじゃねぇのか!」

「はいてない!はいてないぞこのドスケベ!」

 

 成したげたぜ。とキメ顔をしているアクアに、罵詈雑言の嵐が飛び交う。

 中にはアクシズ教の名前を使ったせいでシンパだと勘違いした人が続出し、ビール瓶や弓矢が飛び交う始末だ。

 

「あ…あれ?どうしてこうなるの?どこかで間違えちゃった??」

「間違うどころか地雷踏んだっぽいぞ!ここは退散だ!」

 

 様々な物が飛び交う中。パチクリと瞬きをするアクアの手を引っ張り、ギルドを出ていくカズマ。

 気のいいおじいさんが投げる人をなんとか止めようとしてくれたが、多人数の勢いを止めることは出来なかった。

 

 

 

 

――おい誰だパンツ投げたの!ありがとうございまぁす!――

 

 

 

 

 

「う…、ヒック…。グズっ…、スンッ…」

 

 ギルドの冒険者から追い出される形で逃げ出してきたカズマとアクア。

 特に涙脆いアクアは罵詈雑言の嵐がよほど効いたらしく、道端で座り込みぐずったままだ。

 

「にゃんでぇ…、にゃんでみんな私の事信じてくれないのぉ?女神だからぁ?あまりに神々しすぎるから一般人にはわかんないのぉ?」

「へいへい。100パーアクアのせいだけどこれでも食って落ち着け」

 

 さすがに泣いている女は堪えるのか、カズマは最悪の場合コッソリ食おうとしていたコンビニのお菓子を取りだし、アクアに与える。アクアは乱暴にソレを受け取ると、中のお菓子をポイポイ口の中に放り込みはじめた。

 

「ううっ…!しょ()()も私はヒキニートにほはしゃ(ほださ)れたりしない()…!!」

「フラグとして受け取っとくよ。あと口の中カラにして喋れっ」

 

 心の傷を癒やすためにバカ食いを敢行している女神をよそに、カズマは空を見上げてため息をつく。

 

「しっかし、こっからどうするかなぁー」

 

 金も家も、今日の飯も食えぬ一文無し状態。本来ならここから成り上がって最強勇者になるハズだったのに、どうしてこうなったのやら。

 

「今まで親と戦い続けた努力が報われないが仕方ない。働き口探すか」

「ええっ!?ヒキニートが働くとか存在意義なくしちゃうわよ!?そんなのダメ!カズマが消えちゃう!」

「いや概念的な存在じゃないからな?それにしても立ち直りが一瞬とは、このカズマ様でも予測つかなかったよ」

「フフンっ、元気百倍が取り柄のアクア様なんですからねっ」

 

 それなら非常食やったかいがあるってもんだ。とカズマは軽口を叩き、フンフン鼻歌を歌いながら歩き出した。

 

しかしその時。

 

「ブダぁッ!?」

「おっと」

 

 顔に何か固いものが当たり、弾かれるようにカズマは倒されてしまう。

 

「く、くそぅ!せっかく決まったのにこれかよ!誰だおま…え?」

「あ~もうカズマ大丈夫~?怪我してな…い?」

 

 倒されたカズマが思わず怒鳴ってしまうと同時に、言葉も詰まる。それはアクアも同様だった。

 

「あぁわりぃな、大丈夫か?」

 

 なんせ相手は、身長が200超えてそうな長身なのだから。

 わからない場合は通勤電車のドアを思い浮かべよう。それのてっぺんにモロ顔面をぶつける大きさだと言えば、その大きさがわかるだろうか。

 

 そんな巨体からヒュンと腕が伸びてきて、カズマの手を捉える。そしてそれに驚く間もなくカズマを立たせてしまった。

 

「うおおおおッ!?え?なんだ!?今何が起きた!?」

「あー、なぁ。アンタさっきからどうしたんだ?」

 

 カズマの驚きが今さら顔に出て、男が訝しげな反応をする。その顔はこの世界の人間ではないような、彫りの深い顔立ちをしていた。

 

 岩のように濃い褐色の肌とガッシリした体つき。目は刃物や猛獣を思わせるように鋭く、奥には金色(こんじき)の瞳が輝く。

 トゲトゲに尖った銀髪は白い山脈を彷彿させ、クの字に曲がった前髪は、さながら鍛え上げられた金属のよう。

 

 白いタンクトップとダボダボなズボンを合わせて、まさしく絵に書いたかのようなワイルドさを醸し出していた。

 

「そういえばアンタ、見ない顔してんな。ここに来たのは初めてか?」

「え?あっはいソウデス」

 

 威圧に圧倒されたカズマは、極力刺激しないように直立した姿勢を崩さない。模範的な回答に徹し、筋肉質な腕を組む男の返事を待つ。

 

「そうか。オレの名前はオルガ・イツカ。ここで仕事をやってるモンだ」

 

 驚きが抜けきらないカズマにその男…『オルガ・イツカ』は、片目をつむったニヒルな笑顔で自己紹介をした。

 




ビスケット死すと言ったな。あれは嘘だ。

 次回にすりかえておいたのさ!!

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