こんな子たちがMだったりゲロ吐いたりすると思うと原作売れるのも納得ですな!!
しかし、その時オルガに不思議なことが起こった。
「――ん…っ、何だ?どこだここは…」
知覚する間もなく、オルガはいつの間にか見知らぬ場所にいた。暗黒の世界の中、小さな星が浮かぶ地平など、宇宙の中にいるようだった。
遅れて伝わってきた感触から、自分が椅子に座っていることはわかる。
「―――――ッ!?」
しかし、それ以上におかしな事が山積みだ。意識のハッキリしてきたオルガは上を見上げて立ち上がり、背中をまさぐる。
「んなバカな!オレはあの時間違いなく死んでたぞ!?背中に弾を受けて ―――はぁ!?」
ない。背中に受けた銃弾の跡も、血も、それに当たる感触が何もない。いつも通りに着ている深紅のスーツだ。
「どうなってんだ…、こりゃあ…」
これが噂に聞く『死後の世界』なのか。辺りを見回すオルガには検討がつかない。もしかしたら先に死んだ団員たちも同じ目にあっていたかもしれないが、聞けるはずもない。死人に口はないのだ。
だが、
「それは私が説明しましょう」
「ッ!?誰だテメェ!」
チャキッと、オルガは声のした方向に銃を向ける。
そこには、白い椅子に座る水色の髪の少女がいた。目が覚めるような綺麗な顔、カラフルな明るい服装。
銃を向けているというのに少女は眉一つ動かさず、余裕の表情だ。その表情はかつて死んだ兄貴分『名瀬・タービン』を思わせる。
その表情は、『上』にいる人間がする独特の顔だ。
(動じねぇな――。腹が座ってんのか、オレが撃たないと思ってんのか)
撃つか。と物騒な考えを浮かべ、引き金を引きかけた所で、オルガは首を振る。
(いや違う、落ち着くのはオレだ。コイツを殺しちまったらここからどう出るのかわからねぇ。ミカでもそのくらい判断できんだろ)
思考を落ち着けたオルガ。判断がつけばやることは一つだ。
「――銃を向けて悪かった。何せこちとら死んだ身なんで訳が分からなくなって、気が動転してたんだ。詫びを入れさせてくれ」
最大限の礼儀と謝罪を示すため、頭を下げる。相手が何者であれ、まずは情報がいる。今までの経験則だ。
女と無縁な人生を歩んできたオルガだが、少女の纏う雰囲気が変わったのは見てとれた。お偉いさんとの顔合わせも無駄ではなかったという事か。
「……落ち着いたようですねオルガ・イツカさん。では率直に言います。貴方は先ほど、不幸にも死にました」
「やっぱり…、そうか」
「ええ、残念ながら」
間違えるはずもない。オルガ自身、間違いなく死んでいたと確信している。全ての感覚が遠く、細くなっていき、プツンと途切れる感覚。今まで自分たちが敵に与えてきた『終わる』感覚。
家族みんなで笑うという夢も、もう叶えられない。
そう思うと、思わず自分の胸を、自分の手で締め付けてしまう。顔を下に向けてしまう。
これが『無念』か。
「………」
「えっと…?オルガさん?」
「…そ…」
「へ?」
水色の髪の少女が、顔をふせたまま動かないオルガに近づき髪をつつく。すると近づいた分、蚊の泣くような小さな声がよく聞こえた。
「くそっ…、ちくしょう…っ!ここまで来て…やっと気づけたってのによ…っ!」
顔を伏せて見えないオルガの瞳から、ポツポツと涙が落ちる。その一つ一つが赤黒いスーツに吸い込まれ、消えていく。
かつては団員の期待を一身に背負い、一大組織『ギャラルホルン』の名を地に落とした鉄華団の団長。オルガ・イツカ。そんな彼も、文字通り全てを奪われれば一人の人間でしかない。
歯を食い縛り、顔を上げない男を前に、水色の髪の少女は一つの提案をする。
「それでは、その気づいた事を世界に広めてみてはどうですか?」
「はっ?いや…、オレはもう死んでるハズじゃ――」
その先を口にする前に水色の髪の少女は言葉を続ける。
「改めまして迷える魂よ。私の名前はアクア。日本において若くして死んだ者たちの転生を担当する女神よ。あなたは日本の生まれではないけど、特別な許可をもらえたの」
「日本?女神?転生?アンタなにいって――」
「日本の事は置いといて…、女神はこの私。転生はアナタたちの言い方でいうと生まれ変わりのことね」
口調を柔らかくして接してきた水色の――、否。アクアを名乗る女神の『生まれ変わり』というキーワードに、オルガはある会話を思い出す。
それは、宇宙海賊ブルワーズとの戦いの後の事―――
『俺の弟の…、昌弘が死ぬ前に言っていたことなんだがな。世の中には『生まれ変わり』って言葉があって、死んだら別の誰かに産まれ直す事で新しい人生を始める…って考え方なんだそうだ。』
『明弘、その話をなんでオレに?』
『…悪い、アイツとまともに話せた話だから、残したいって思ってるのかもな。気分を悪くしたならあやまる』
『あやまるこたぁねぇよ。良いじゃねぇか生まれ変わり。そういう奴らと、いつかまた会えたらいいな』
「生まれ変わり…か」
まさか、生まれ変わりが人にしてもらう事だったとは。と、オルガは思わず鼻で笑ってしまう
「それが嫌なら天国で永遠にのんびりするっていう選択肢もあるのだけれど…」
「いや、頼む。お願いします。オレを…転生させて下さい」
オルガは、顔を上げると両膝に手を置き、アクアを名乗る女神に頭を下げる。
その姿勢を椅子に戻ったアクアは静観し、交差した脚を切り替えて尋ねた。
「本当によろしいのですか?私が転生させられる世界は一つだけ、アナタの常識が通じない魔の世界です。そこは魑魅魍魎が行き交う地獄のようなもの。それでも行くというのですか?」
女神は目を細めて警告する。目が細くなった事で醸し出された女神のオーラが、オルガに直接叩きつけられる。
しかし、オルガの意志が変わる事はなかった。
「アクア…さんって呼んでいいか?オレは死んで、やっと気づけたんだ。オレの、俺たちの居場所はどこかに立ち止まって終わりじゃねぇ。進み続けること、それが本当の居場所だって事に」
「オレはもうあいつらに顔を合わす事はねェし、出来ねぇ。死んじまったんだからな。ならオレは死んでも前に進み続けて、アイツらの『先』にいる道を選ぶ」
「それがあいつらを置いて死んじまったオレの『けじめ』だ」
アクアの水晶のように丸い瞳と、オルガの鷹を思わせる鋭い眼光が互いに交差する。
一刻置いて、アクアが立ち上がった。
「あなたの覚悟、身に染みてわかりました。それでは転生特典をお選びなさい。あなたの旅の助けになることでしょう」
バサバサッと、手元にあった本が一枚一枚の紙になって舞い飛び、オルガの下に集結して並べられる。
紙自体見たことがないオルガは、一人でに並ぶ紙に驚き、言葉もでない。
「先ほども言いましたが、転生する世界は魑魅魍魎の世界です。心して選びなさい」
紙にはオルガの文化にあわせてアルファベットの文字が書き込まれており、『筋力チート』や『永遠無敵』など、見知らぬ言葉がズラリと並んでいた。
一通り目を通したオルガは気まずそうに頭をかき、それらを指差してアクアに訪ねる。
「あ~…、あのすんませんアクアさん。持ってくモンなんですが…」
「決まりましたか?」
「……コイツで良いですか?」
「え?」
チャキッ…と、オルガは最初に向けた銃を上向きに構えた。
「コイツはオレの相棒の…、ミカってヤツの銃なんです。持っていけるならオレは、コイツを選ぶ」
掲げた銃は何十年も使われ続けたせいか、細かいところに傷がついたり擦りきれてたりしていた。上から見上げてみるとさらに目立つ。
だが、この銃はまだ生きている。力を持っていくなら『ちーと』や『むてき』などの聞き慣れないものではなく、長年相棒の身を守ってきたコイツがいい。そう考えていた。
(悪りぃなミカ。返し損ねちまった)
「まぁいいでしょう。お好きになさい」
「……ワガママいってすんません。転生の事といい恩に着ます。この恩は必ず―――うおっ!?」
感謝を告げるオルガの足元に緑色の魔方陣が出現し、そこから無数の光が吹き上がる。
その効果かは分からないが、魔方陣の上に立つオルガの体から重みがなくなり、どんどんと上へと浮かんでいく。何かがエイハブリアクターのように重力を操っているのだ。
「すげぇ…!どうなってんだこりゃあ…!」
オルガの目から、全てのものが小さくなっていく。アクアや自分が座っていた椅子も、今の自分から見れば小石のように小さい。
「さようなら、オルガ・イツカさん。あなたの旅立ちに栄光あらんことを」
アクアが男の門出を祝福し、両手を暗黒の空にかかげる。
すると花開くように異次元の扉が開かれ、オルガはその先に引き寄せられていった。
目指すものなど、なにもない。
それがどうした、これから見つけるさ。
「お前ら、オレは進み続けるからよ。オレがいなくなったからって止まってんじゃねぇぞ!!」
オルガの姿が見えなくなるまで手を振り続けたアクアは、オルガを異世界に送りこんだ後、一仕事終えて「ふうっ」と息をつき、白い椅子にもたれ掛かる。
そして一言。
「あ――」
「ぶわぁあ"あ"あ"あ"あ"ァあ"ッ!ごわ"がっだ"ぁッ!!あ"の"人ごわ"がった"ぁあぁぁあ"あ"!!!殺さ"れるかど思っだあぁぁあ"あ"あ"!!!」
締め付けるほど強く自分の肩を抱き、鼻水やら涙やら様々な体液を垂れ流して絶叫するアクア。
実は結構ガマンしていたのだ。恐怖とか泣きたい気持ちとかモロモロを。
「な"んな"のよ"ォあの子ォ!!女神た"るあだじにいぎなり"銃むげる"どがぁあ"!!!あ"り得ない"でひょ普通ゥ!!ざら"にヴぁ怖い目でギロギロ睨み付けでぐるしぃ!?「フッ」って"バカにして"ぐるしぃ!?果てには"な"ンなの"よォ!!チートどか無敵と"が大盤振る舞いしたのに「オレはコイツでいい」って銃も"ってぐどがぁあぁああ!!ナメてんの!?あの子私のことナメてんのぉぉおおお!?」
それはそれは、今までの凜とした姿が嘘のような泣きっぷりだった。
そもそも、事の始まりは異世界の死者の転生を担当するエリスの不在から始まった。
たまたまその時にエリスが不在で、代わりにお前がやれとばかりにあの男を押し付けられたのだ。
その時はまだ「胸パットのこといじってやるわ!」といつも通りだった。
しかし、転生を担当する神は効率よく相手を転生させるため、対象がどう死んだかを自動で『見る』事になる。そこからアウト。
のんびりと休んでいる時に、突如映像が流れこむ。映ったのは日本ではありえない銃撃戦。
アクアにその映像は刺激が強すぎた。例えて言うなら幼稚園児が任侠映画を見るようなもの。
バスバスと命中し、血霧をあげる男。頭を撃ち抜かれたヒットマン。神の目は高クオリティで抉れた肉やら吹き出た脳汁なども映し出す。
本来アクアが見るグロ映像はモザイクがかかるのだが、日本ではないからか無修正だった。
特に脳汁のくだりは脳ミソは青白いなど、知りたくもない情報をアクアにブチ込んだ。
それを見せた張本人に銃を向けられて怖くないハズがない。ぶっちゃけちょっぴりモレた。
こんな殺人鬼を目の前に送り込むとか上は何考えてるのか。ゴッドスレイヤーでも作りたいのか。
そんな彼女を支えたのは女神としての誇り。女神らしく堂々と対応したが、いつこの男に襲われる(物理)か気が気でなかった。何個か言うべき事が抜けたが全部上が悪い。
脳内で何度「銃取り上げてからよこしなさいよッ!!!」と上に怒りをぶつけたことか。
もうとにかく、今回の転生は色々シャレにならん。目が真っ赤になるほど泣き晴らしたアクアは
「あの上げ底エリス覚えときなさいよッ!!帰ってきたらとことんやってやるんだからぁぁぁああああああああッ!!!」
と髪を逆立てて怒り狂い、サンドバッグ兼バカタレ後輩の帰りを待ち続けたのだった。
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その頃エリスは下に降りて冒険中♪(はぁと)
Q:何でオルガは銃を持ってこられたの?
A:ヒント・いらない子