幻想の迷い人   作:海神アクアマリン

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幻想入り

私は暗い森の中を歩いていた。その暗い森を正しい道に沿って歩いて行くと異世界に行けると言う噂を調べるためにここに来ました。でも、この森は昼も夜も関係なく暗いし、広いからどこまで進んだのか分からなくなります。そんな中を二時間も歩いているから、だんだんと疲れが溜まってどうでもよくなってきました。

「もう、やめて帰ろうかな」

そう言って後ろを振り返ると、目の前に幻想的な美しい風景が広がっていました。私はその美しさに見惚れてしまい、しばらくそこから動けませんでした。そんな時、空から女の人の声が聞こえて来ました。

「あら、間違って入って来ちゃったのかしら」

私は驚いて空を見上げました。そこには特徴的な日傘をさした長い金髪の女性が浮いていました。その女性は私の方を見て薄気味悪い笑みを浮かべていました。

「あの、ここはどこで、あなたは誰なんですか」

私がそう問いかけると、彼女は地上に降りて来て私の目を見て答えました。

「ここは幻想郷よ。そして、私は八雲紫というのよ」

彼女は私から目を逸らさずに私に言いました。

「私が答えたのだから、あなたにも名前と住んでいる場所を答えてもらうわよ」

私は当然だと思いながら、彼女が人でないことに確信していた。幻想郷なんて場所は知らないし、何より空中に浮いていた時点で人でないことは明確だ。それでも、私は彼女からの質問に答えることにした。

「私は夕闇夜宵(ゆうやみやよい)です。ここが私の住む世界と異なるのなら、私は外の世界から来ました。」

「あら、やっぱり外の世界から入って来てしまったのね。でも、どうやって入って来たのかしら。普通に入ることは出来ないはずなのに」

彼女…いや、紫は私に聞こえるように言った。それから、考えるように小声でぶつぶつと言った。

「あの、どういうことですか。普通に入ることは出来ないって、私は噂を調べるために森を歩いていたらここに来たんですけど」

私がそう言うと、紫は不思議そうな顔で私に向かって言いました。

「今、噂を調べてたって言ったわよね。その話、詳しく聞きたいわ。そこで盗み聞きしてるあなたも聞きたいんでしょ、出て来なさい」

私が紫の向く方向を見ると、鳥居とその先に神社が建っていた。鳥居には博麗神社と書いてあるのが分かる。その鳥居の陰から巫女が現れた。そして紫に言った。

「さすが紫ね。私が最初から居たのにも気づいていたんでしょ」

「えぇ、ちゃんと気づいていたわよ。あなたって分かりやすいんだもの」

紫は巫女と普通に話していた。私には分からないけど、どうやら紫と巫女は知り合いのようだ。

「あの、そこの巫女さん、あなたの名前を教えてくれませんか」

私がそう言うと巫女は笑顔で答えてくれた。

「そういえば自己紹介してなかったわね。私は博麗霊夢、この博麗神社のちゃんとした巫女よ」

ちゃんとした、という表現に私は少し違和感を感じていた。そんなことを考えている時に紫は言った。

「さて、自己紹介も済んだことぬだしそろそろ話を聞かせてちょうだい」

「私の調べていた噂の事ですよね」

私がそういうと霊夢は言った。

「そうよ、早く教えなさい」

紫と違って霊夢は少し危険だと私の勘が言っていた。それでも私はしっかりと言うことにした。

「えっと、私の調べていた噂というのは、とある森の中を正しい道に沿って歩いて行くと異世界に行けるというもので、私はその道の途中でやめて帰ろうと振り返ったらここに来てしまったんです」

紫は私の話を聞いて何かに気づいたようだった。

「まさか、そんなことがあるはず無いわ。幻想郷に繋がるゲートは確かに存在する。でも、森がゲートの役割を果たすことは無いはずよ」

「だとすると、この子が能力を持っていて、それが原因で幻想入りしてしまったんじゃないかしら」

霊夢の口から能力という単語を聞いた時、その能力に覚えがあるような気がした。

「あの、紫さんと霊夢さんも能力を持っているんですか」

私が質問すると紫が答えた。

「私は境界を操る程度の能力を持っていて、霊夢が空を飛ぶ程度の能力を持っているわよ」

「能力をそういう風に言うのなら、私は妖と魔を操る程度の能力を持っていることになりますね」

霊夢はそれを聞いてから、私をじっと見つめて言った。

「あなたも能力を持っていたのね。それも、結構厄介そうな能力ね。紫はこの能力が幻想入りの原因だと思うかしら」

「絶対とは言えないけど、多分その能力が原因だわ」

私もこの二人の話を聞いて、噂が原因ではなく私の能力が原因だと思うようになっていた。私は能力を昔から少しだけ使うことができて、下級魔法や弱い妖術などが使えた。だから、どんな不思議なことが起きてもおかしくは無いと思っていた。だけど、実際に起きてみると普通に混乱してしまった。私は紫に帰ることが出来るのか聞いてみることにした。

「紫さん、ちょっとお聞きしたいのですが、私は無事に外の世界に帰ることが出来るんでしょうか」

私がそう言うと紫と霊夢は少しの間顔を見合わせたままになった。しばらくすると紫が口を開いた。

「私と霊夢が力を合わせれば時間は掛かると思うけど、あなたを外の世界に帰してあげることは出来るわ」

「その代わり、しばらくの間は幻想郷に住んでもらうことになるわ。夜宵、これはすごく重要な話よ。紫と私で外の世界と幻想郷を短い間だけど繋ぐことであなたを外の世界に帰せるの。このチャンスを逃したら二度とあなたは外の世界に帰れなくかもしれないわよ」

「あなたがどうするかはあなたの勝手よ。でも、霊夢が言った通り、このチャンスを逃したら幻想郷で永遠に暮らすことになるわ。自分の人生なんだからちゃんと考えなさい。私達はここでしばらく待っててあげるから、人生を無駄にしない答えを出しなさいね」

紫と霊夢は言い終えてから黙り始めた。私は、自分が今この瞬間に危機的状況に立たされるとは思ってもみなかった。この選択で人生の大きな選択の一つが決まってしまう。14年間しか生きていない私の人生の終着点が決まるかもしれないこの大きな選択には冷や汗も流れてしまう。私の親は私が小さい時に亡くしてしまったから、外の世界に帰らなくてもいいという考えも浮かんだ。それでも、大好きな家族は外の世界に存在するのだから、家族との思い出のある場所に帰るのは当然だと思う。だから、私の答えは決まった。その答えを紫達に伝えた。

「紫さん、霊夢さん、私を死んだ家族との思い出がある大切な私の居場所に帰してください」

私が消え入るような涙声で、しかし覚悟を決めた真っ直ぐな眼差しで私の思いを伝えた。霊夢と紫は私の外の世界の大切な場所への強い気持ちに答えるように言った。

「あなたの気持ち受け取ったわ。必ずあなたを外の世界の大切な思い出のある町に送り届けるわ」

「私と紫に任せなさい。絶対にあなたを帰してみせるわ。大船に乗った気持ちでいなさい」

私は紫と霊夢の力強い言葉で、元気が出て来たのを感じていた。この二人なら大丈夫だと思ってしまうくらいにこの二人には安心感があった。私は二人に言った。

「どうか、よろしくお願いします」

二人は私に近寄ってから、包み込むように私を抱いた。その瞬間、私は我慢しきれなくなったのか、多くの涙を流した。私がこんなに泣いたのはいつぶりだろうか、親を亡くした5歳頃から今まで涙を流した記憶が無い。だからなのか、私の涙はしばらく流れ続け、泣き止んだのはそれから1時間後だった。


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