ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~ 作:モフノリ
レインは一人、最前線よりかなり下で誰も寄り付かないようなダンジョンを歩いていた。
彼の腰にぶら下がっているのは、リズベットに作ってもらったルインソーサリーではなく、最前線の迷宮区で拾ったそれなりの剣。
今から使う用途を考えれば、ルインソーサリーは使えなかった。
いつもよりも増して感情の見受けられないレインは、こつこつと足音を響かせながら奥へとすすむ。
たまに出てくるモンスターを一撃でほふりながら進んでいたレインがようやく足を止めたのは少し開けた場所だった。
一見、なんでもないような場所だが、レインはそこから動こうとはしない。
「おい、いるんだろう」
どこにでもなく声をかける。
返事はなく、ただレインが独り言を言っているようにしか見えないが、レインは気にすることなくしゃべり続ける。
「卑怯な手しか使えないクズ共がいるのを知ってここに来ている。それともなにか?こんなガキ相手にびびって出てこれないのか?」
それでも状況が変わることはない。
あきれたレインは鼻で笑って、不敵な表情をした。
「ガキ一人にびびって出てこれないなんてな。ただの弱虫のクズ以下のクソ雑魚連中だったてことか」
レインが吐き捨てるように行ったと同時に、その場の空気が変わった。
殺気のようなものが立ち込める中、レインは動じることなくやっとか、といわんばかりにため息をつく。
そんなレインに向かってどこからともなくナイフが飛んできたが、レインはまるでハエが飛んできたかのようにそれを手で受け止める。
もちろん、毒が塗られていることも配慮して刃の部分に触れないように受け止めているあたり、さすがというしかないだろう。
「なんだ?」
「何だじゃねぇだろ」
どこからか声が聞こえたかとおもうと、ぞろぞろとまるで山賊のような男たちが出てきた。
にたにたと気持ち悪く笑っているやつもいれば、すでに頭に血が上っている様子のやつもいる。
三十人以上はいるであろう男たちに囲まれたレインだったが、表情は変わることがなかった。
「攻略組のゴミ共を待ち伏せしてんのに邪魔すんじゃねぇよ。ここは俺たちラフコフ住処だぞ。早死にしてぇのか?」
「ゴミとはお前たちのことだろう。怖くて最前線にもいけない雑魚が何を言っている。それに言っただろう。クズ共がいるのを知ってここに来ているとな。そんなこともすぐに忘れるほどお前の頭は使い物にならないのか?」
明らかにレインのほうが不利だというのに、煽ることをやめる気配は全く見受けられないどころか、さらにレインは男たちを――殺人ギルド《笑う棺桶》のメンバーである男たちをあおっていく。
「殺人ギルドというくせに中身をのぞけばただの雑魚が群れをなして傷を舐めあっていただけだなんてな」
わざとらしく肩をすくめるレインに、とうとう我慢ができなくなった二人の男がレインの背後から斬りかかった。
全く動かないレインをみていい気になった二人はいやらしく笑う。
しかし、二人の武器が届く前に、二人の両腕が吹き飛んだ。
両腕を失った二人は何が起きたのかわからず、唖然としながらレインの両サイドを通り過ぎて無様に転がる。
そんな二人をレインはいつの間にか抜いた剣を片手に冷たく見下ろすだけだった。
「どうかしたか?」
そういったレインの声はひどく冷たいものだった。
こいつを殺らなければこちらが殺られる。
瞬時にそう判断したラフコフのメンバーの動きは早かった。
次々にナイフや剣を抜いて、レインに飛び掛っていく。
レインは冷たい目をしたまま、飛び掛ってきた男たちに向かって剣を振りはじめた。
◆
キリトを含めた攻略組でも先鋭がそろった一行は滅多に来ないような場所に来ていた。
目的はボス攻略ではなく、殺人ギルド《笑う棺桶》の討伐だ。
今回は命のあるプレイヤーということもあって、ボス戦に向かうときよりもパーティーの空気は重い。
キリトも例に漏れず、重い空気を漂わせている。
黙々と歩き続ける討伐隊はラフコフがいるといわれている場所に近づくにつれてどんどん空気を重くしていった。
「キリト君」
隣を歩いていた少女――アスナに突然声をかけられたキリトはびくりと肩を飛び上がらせた。
「な、なんだよ」
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。そんなことより、何か聞こえない?」
静かだったところにアスナの綺麗な声が響いたので、その場にいた全員が歩みを止めて耳をすませた。
足音もなくなった空間に、かすかにではあるが剣と剣がぶつかり合う音、何かが落ちる音、それから叫び声や何かが消滅したときに聞こえる音が小さくではあるがかすかに聞こえた。
「なんだ?」
クラインが訝しそうな表情で音の出所である前方を見る。
キリトも前方に注意しながらもさらに耳をすませた。
「ば、ばけもの!!」
「やめてくれ!!」
かすかにそんな叫び声が聞こえる。
アスナにその場に向かう許可を取ろうとしたとき、キリトの耳に聞きなれた低い声が届いた。
「お前たちは大勢の人を殺してきたんだろ。そのくせに殺される覚悟はなかったのか?」
聞こえた瞬間、キリトは誰に何を言うでもなく駆け出していた。
後ろでアスナが自分を止めようと声をかけてきているのを感じながらも、キリトは今まで出したこともないようなスピードで駆け抜けた。
その場所にたどり着いたキリトは、血の海を幻視した。
実際にはない血の海の真ん中に剣を片手に自分と似たような黒ずくめの男が立っている。
その男を取り囲むように、ナイフや剣などが大量に落ちていた。
さらに、腕や足を失って動くことすらできなくなっている肉塊となった人間も転がっている。
胃の中のものがせり上がってくる感覚をキリトを襲った。
しかし、ここは仮想世界なので、何かが出てくることはない。
その感覚がやっとのことでなくなったキリトは目の前に一人だけ立っている男に向かって声をかける。
「・・・・・・レイン」
思った以上にかすれた声がでる。
キリトの声に反応したレインはゆっくりとした動きで振り返った。
酷く冷たく、何もうつしていないレインの目を見た瞬間、キリトは何も言えなくなってしまった。
「キリトか。後の処理はお前たちに頼む」
「キリト君!いきなり走り出して一体・・・・・・っ!」
やっと追いついてきたアスナたちが目の前の惨状をみて言葉を失っているのをどこか遠くに感じる。
レインは特に気にした様子でもなく、こちらに向かって歩き出した。
彼のことを知らないアスナたちは咄嗟に柄をつかんだが、抜こうとすることはしなかった。
いや、レインのかもし出す空気のせいで抜くことができなかったのだろう。
レインは冷めた目をしたまま歩き、討伐隊だった攻略組のメンバーは彼に道をあけた。
「レイン!」
キリトはやっとのことでもう一度声をかける。
無視されるかとも思ったが、レインは足を止めて振り向いた。
よく見ると、体中に切られた様子が見受けられ、HPゲージはレッドゾーンまで入っていた。
「なんだ?」
「一体何人・・・・・・」
殺したのか、と聞こうとしても声が出なかったが、レインは何を聞かれたのかわかったようで答えた。
「二十一」
その数にキリトは目を見開いたが、こちらを見ているようで見ていない目を見てなぜか落ち着いてしまった。
「あとで事情聞きに行くからな!メッセージにも返事しろよ!」
キリトがそう叫ぶと、レインは一瞬瞳を揺らがせた。
「勝手にしろ」
吐き捨てるようにそう言ったレインがどこに帰るのかは知らないが、その場から立ち去った。
取り残されたキリトたちが動けるようになったのは、完全にレインの姿が見えなくなってからだった。
気持ちをどうにか落ち着かせたキリトが大きく息を吐いたのが合図だったかのように、全員の緊張感が溶ける。
「おい、キリの字。あいつ知り合いか?」
クラインの質問にどう答えたものかと考えてキリトはげんなりとした。
クライン以外のメンバーも気になるようで、キリトの返事を待っている様子だった。
「まぁ・・・・・・知り合いっていうか、なんというか」
「なんだ、その煮え切らない答えは」
最初の出会い方の問題もあってキリトは笑ってごまかすことしかできなかった。
今回は短めです。
レインは容赦ない人です・・・・
原作でもです
きりのいいところでまた続きを書いているわけじゃないので
間が開くとおもわれます。
意外にも読んでくださる方がおおく
感謝感激です!
お気に入り登録、感想、ありがとうございます!
アインクラッド編は最後までやりきりますので
これからもよろしくお願いします。