ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~   作:モフノリ

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高い口止め料

 あと少し。

 

 二足歩行のトカゲと戦闘中のレインは現在の愛剣、ルナティックを振り回しながらすこし焦りを感じていた。

 剣の耐久値の問題もあるが、あと少しで最前線に乗り込めるようになるのだ。

 一週間ほど前までは、一匹に倒す時間がかなりかかったが、リズベットにシステムから裏技まで教えてもらい、いまでは一般プレイヤーとは遜色ないほどには知識を有しているとレインは思っている。

 その割には索敵スキルを取ることなく、相変わらず現実世界に比べれば感じにくい気配だけで対処してきていたり、筋力値が現実のものと同じになったら上げるのをやめ、敏捷値も思っていたより早く現実世界と同等のものになり、こちらももちろんそれ以上上げていなかったり、この世界の人達からしたらもっと強くなれるのになろうとしていなかったりする。

 システムで上げるのはレインにとって本当に強くなるとは違うことだと思っているからだ。

 もともとが化け物級ではあるので今更レインに関係ない数値な気がしなくもないが。

 身体の感覚としてはようやくスタート地点に立てたが、レベルを上げなければキリトだけではなく、リズベットからも最前線に行く許しがでない。

 普段であれば無視してでも最前線に繰り出していたが、キリトに関しては必死に止められた経緯もあるので従っていた。

 そして、とうとう最前線にいけそうなレベルになってきたのだ。

 しかし、徐々に上がってきているレベルのせいでなかなか経験値が増えない。

 トカゲは盾も持っていて、ガードをしてくるという地味にめんどくさい敵でそれも相まって時間がかかるというのも難点だ。

 流石に、ゴブリンのような奴を五体同時に相手するようにはいかず、出来れば一対一、多くても一対三ぐらいまでがレインにとっては限界だった。

 もちろん、それは攻撃をかすり傷以外で当たらないという条件付きだ。

 攻撃に当たってしまった時は、ポーションを飲んで回復を待ちながら攻撃をさけるという、これもまた人外じみた行為では間違いないのだが、それをしなければ二撃目でHPは全損する。

 それはレインにとっては時間の無駄と感じているので、そうならないように無駄に無茶はしていない。

 本来のその階層に十を足したレベルが安全マージンと言われているので、本来の安全マージンになれば多少の無茶はできるようになるだろうと思っていたりするが、それを言えばまたキリトがうるさいので誰にも言っていない。

 ちなみにであるが、レインはソードスキルを使うことがほとんど無い。

 もちろん、キリトはレインにソードスキルについて教えたし、その重要性も教えた。

 それを聞いてもなお使わないのは、硬直時間というものがレインの中ではかなり気に食わないからだったりする。

 もともと剣を振るって戦っていた戦士だから使わないという選択ができるのだろう。

 それに、システムに補助されたものではレインにとっては意味がないのだ。

 が、しかしである。

 英雄と言われた老人に天性の才能があると言われたことのあるレインはキリトが使っているソードスキルをみて、独力でソードスキルと同じ動きはする。

 ソードスキルが発動している訳ではないので、攻撃力が上がるわけではないが、ソードスキルのシステムアシストされた動きと遜色ないほどの動きを平然とするレインを初めてみたキリトが逆に何も言えなくなったのは言うまでもない。

 異世界から来た戦士はそれほどにもシステムを嫌がり、使おうとはしなかった。

 しかし、そんなレインは装備品に関してはきちんとシステムに従っている。

 リズベットとあった時は動きやすさを優先されていた文字通りの紙装備だったが、今では一見変わらず紙装備に見えなくもないが、それ自体の防御の数値やバフなどはわりと良いものに変わっている。

 著しく変わったのは武器である片手剣だろう。

 すでに愛剣となっているルナティックはリズベットに作ってもらったもので、持ち始め当初は要求値ギリギリのものだった。

 剣自体の大きさや刃の部分の太さは傾国の剣に近いものになっており、重さもそれなりにある。

 次に剣を変えてもらうのは最前線に行けるようになったらとは思ってはいるが、愛着もそれなりにあるので、そのあたりはリズベットに相談するしかない。

 この、剣を強くしていくというシステムにはレインも興味深々だったりする。

 鉱石を自分で探して剣を強くするというのはなかなか体験できるものでは無い。

 今の剣を振るいながら、もうすぐ替え時で少しの喪失感を感じつつも次は剣をどんなやつだろうかと考えてしまう。

 どこの鉱石をつかってリズベットに作ってもらうか。

 あと少しで削れきれるHPから視線を離して珍しくレインはソードスキルを使うためにシステムにそった動きする。

 早くレベルをあげて最前線に行くためと、次の剣へかえたいという気持ちからだった。

 ルナティックには申し訳ないとは思っているが、インゴットという状態にして、次の剣と合成してもらうのでどうにか我慢してもらうしかない。

 

「ふっ」

 

 システムによって動かされる身体に合わせて自分も身体を動かすことで、通常のヴォーパルストライクよりもス ピードがのっていて、レインの基本技術によって切れのあるものが放たれる。

 スピードについて行けていないトカゲはそれをまともにくらい、青いパーティクルになって消えた。

 それと同時に目の前にはレベルアップの表示が現れる。

 それは最前線にいけるということも同時につげていた。

 

「やっとか。あとはキリトとの決闘だな」

 

 仏頂面が少し不敵な笑みに変わる。

 その前にリズベットに新しい剣を作ってもらおうと、レインは最前線より五つしたの迷宮から上に向かって足をすすめた。

 

 

 

 

 主街区についたレインはいまでは慣れた操作でリズベットに店に明日行くとメッセージを送る。

 そのついでに、いまでは情報を教えてくれるようになった情報屋のアルゴにいい鉱石について教えてもらうために会いたいとメッセージも送る。

 日本語を読むのもの聞くのもなんの問題はないが、打つことに関しては難しい。

 そのため、かなり簡素な文章になってしまうが、いつもの態度のおかげであまり突っ込まれたことはない。

 打つのには時間がかかったが、リズベットからもアルゴからも少し長い文章がすぐ返ってきた。

 リズベットからは無茶をしていないかという内容と、明日は昼頃まで鉱石をとりに行っているということと、早めに来て店で寛いでていいという事ががかかれていた。

 アルゴからは今から行くので指定の酒場で待っていろという内容だった。

 たまたま、指定された酒場は普段滞在している階層の行きつけの酒場だったのでなれた様子でレインはそこに向かう。

 この世界は結局仮想世界だということで食べなくても生きていけると知ったレインは基本的に最低限の食事しかしていない。

 しかし、最前線に行ける祝いということで珍しくちゃんと食べようと思い、酒場の席についたレインは普段は注文しないような量の食べ物を注文した。

 落ち着いた空気と高身長が相まって二十歳に思われていることが多いが、これでもレインは育ち盛りの少年。

 運ばれてきた料理を周りを気にすることなく、ガツガツと食べ始めた。

 

「レインがそんなに食べてるなんて珍しいナ」

 

「俺だって食べる時は食べる」

 

 突然後ろから声をかけられたにも関わらず、レインは特に驚いた様子もなく、返事をする。

 

「ありゃ、後ろにいたのバレてたカ」

 

 ニシシと笑いながら髭のペイントをしたアルゴが空いていた前の席に座る。

 レインはそれを気にするようでもなく、半分程残っている料理を食べ続ける。

 

「やっとこの世界の気配を読むのにも慣れてきたおかげでな。あと、今日のレベリングで最前線にも行けるようになった」

 

「相変わらず規格外な男だナ。キー坊が過保護になるのも分かるヨ」

 

 それから、数分で食べ終わったレインは最後にミルクを飲んでから、話しを切り出した。

 

「で、何かいい鉱石が手に入る場所を教えて貰っていいか?」

 

「構わないヨ。ちゃんとキー坊の言うことも聞いて最初の頃みたいな無茶はしてないみたいだしナ」

 

 それから、アルゴはレインがソロでも行けるような場所でレアな鉱石の情報を聞いた。

 それはクエストの報酬らしく、村を襲うモンスターを討伐してくれというものらしい。

 そのモンスター自体は弱いのだが、ソロ限定クエストだというのに討伐数が1000というふざけた数字らしい。

 前もって報酬が提示されているおかげで何が貰えるのかは分かるが、誰一人としてクリアした者がいないらしい。

 

「レインならこんな数でも平気だロ?アンタのレベルのことも考えてもクリティカル三撃ぐらいで一体仕留めれるはずだしナ」

 

「それぐらいなら問題ない。いつも情報助かる」

 

「いやいや、あのキー坊が過保護にしてる人だからナ。オレっちもそれなりな対応をしたくなるのサ」

 

 ニシシと笑うアルゴはレインにとっても謎の多い人物だった。

 どこからどうやって情報を得ているのか聞いてみたが、企業秘密だと言われ教えてくれなかった。

 

「そうそう、レインもラフコフには気を付けろヨ」

 

「ラフコフ?」

 

「ありゃ?キー坊から聞いてないカ?平気でPKする頭のおかしな連中のことだヨ。奴らは最前線に行くことはないガ、中層とかで活発に動いてやがるからナ。中層の、しかもソロで動いてるレインは標的になりやすそうだかラ、キー坊が忠告してるもんだと思ったんだけド」

 

 レインは特に表情を変えずにその話を聞いた。

 キリトからそのことを教えられていないのは、タイタンズハンドの一件や、他にもオレンジギルドに単身で殲滅しに行ったことがあるせいだろう。

 それが分かっているから、レインは意識して自分の空気を変えなかった。

 

「そんなギルドがあるのか」

 

「最近、活発化してきてるからアジトを探してるんだヨ。見つかった時は攻略組のやつらが討伐隊を組んで乗り込むって話になってル」

 

「そのときは俺にも教えてくれないだろうか?ただし、その事はキリトには内密で」

 

「ん?そのヘンの事情はよくわからないガ、それは口止め料にもよるナ」

 

「なら、キリトも知らない俺の強さ秘密を教えてやろう」

 

 レインは不敵な笑みを浮かべてアルゴをみた。

 それに対して、アルゴは驚いた様子を見せたが、にやりと笑った。

 

「なんか面白そうだナ。のっタ」

 

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 ここに来た経緯以外のことを話したレインはクエストに向かって店を出ていってしまっている。

 一方アルゴは仮想世界でなければ冷や汗をかいていたであろう話をきいたせいでしばらく酒場から動けそうにもなかった。

 

「まさか異世界から来た途中参加者だったなんてナ。っていうか、異世界なんて本当にあったのかヨ。こりゃ高い口止め料になっちまったナ」

 

 嘘だと、全部作り話だと言うことも可能だったが、あのレインがそんなことを言うとは思えないのと、実際の彼の実力と突然現れたレインという存在に矛盾がなかったせいでアルゴは信じるしかなかった。

 

「どおりでハイドが全く効かないわけだヨ」

 

 アルゴのそんな呟きは酒場の喧騒のせいで誰にも届くことはなかった。




システムに適応してきたレインはどんどん強くなります

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