ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~   作:モフノリ

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関係性

 レインとクラインの三人で他愛のない話をしているときに何気なく明日か奈を視線を向けた瞬間に小さなリップ音が耳に届いた。

 

「今日のMVPはあなた!おめでとう」

 

 思わず息をのんでしまったのは、女の子同士とはいえご褒美と称してほっぺにキスをするというのは日本ではなかなか見られる光景ではないからだ。

 相手がAIといっても見た目も言動も人間と区別をつけることは難しいユナである驚いても仕方がないだろう。

 隣で同様に反応したクラインと違い、何も反応を示さなかったレインをちらりとみれば子犬のじゃれあいを見ていたかのようにほほえましそうに眺めていた。

 今でこそこの世界に馴染みスマホもオーグマーも使う現代人のようなレインだが、本来は異邦人。彼の世界では先ほどのようなアメリカンなスキンシップは日常的なものだったのかもしれない。

 じゃあまたね、と手を振りデータの世界へ帰って行ったユナを見送る。和人は動揺したのをごまかしながら明日奈隣に並んだ。

 

「ランク二位か。すごいやつもいるんだな」

 

「そうね。あんな動きが現実でできるのなんてレインさんぐらいだと思ってた」

 

「オーディナルスケール中で仮想と現実があいまいになってるから許される動きだよ、あれは。とくに登場したとき。あんなのレインじゃなきゃ良くてヒビ、最悪骨折だぞ」

 

「この世界の人間が動けなさ過ぎるんだ」

 

 薬品も効かず、鍵のしまったドアを簡単にこじ開ける人間などこの世界には数えるほどしかいないだろう。

 この世界の人間が、というのを踏まえると、レインのもといた世界の人間は超人ばかりなのかもしれない。

 そこまで考えてふと、レインのような身体能力をもつ人間が五万といる世界を想像して思わずげんなりする。仮想世界でのキリトであるならば多少生き残れるかもしれないが、ただの人間でしかない桐ヶ谷和人は一瞬で死ねる自信がある。

 時々感じる感覚のズレにレインと自分は違う世界の人間だということを認識させられる。

 考えたところでいまさらどうしようもないことを頭から追い払った。

 

「とりあえず、道路の真ん中もアレだし歩道行こうぜ」

 

 道路の規制も解除され始めボスイベントに参加していた人たちはすでに撤退を始めている。

 

「いや、俺はこの後人と会う約束があるからこれで失礼する」

 

 言うが早く、レインはすでに背を向けて歩き出していた。

 名残惜しいなどという言葉の似合わない彼の背中に向かって和人は声をかけるのを忘れない。

 

「今度ALOでデュエルしてくれよ!」

 

「あぁ」

 

 背を向けたまま手を振るレインに声が届いたのを確認してから和人は視線を逸らした。

 無駄な話をしない間柄ではないが、それでもどこかあっさりとした二人の付き合いは他人から見れば深くない付き合いに見えがちらしいとALO内で小耳にはさんだのは少し前のことだ。

 今でこそVRMMOの世界でできたつながりのおかげで友人と行動をすることが増えたが、元来二人とも気質としてはソロ寄りだ。それに、今まで一緒に踏んできた場数もあいまってそれほど話さなくても仕草や行動で大体のことはわかる。

 ゆえに二人の関係は他人からみればさっぱりとしたものなのだろう。

 だから今日のこの別れ方もいつものもので和人も気にすることなくすぐに視線をレインから明日奈たちに移したのだ。

 そんないつも通りの行動を止めたのは隣にいた明日奈だった。

 彼女には珍しくばしばしと凄い勢いで腕を叩かれて思わずぎょっとしてしまう。

 

「な、なんだよ」

 

「キリトくん。あれ!あれ見て!」

 

 声の調子で興奮しているのはよく分かるが、雑音の多い都会のど真ん中でこそこそと話そうとする明日奈にかわいいな、なんて思ってしまう。

 そして、明日奈が指した方に視線を向け、和人はげっ、と思わず声を上げた。

 そちらは先程まで向いていた方で、見えるのは予想した通りレインの背中だ。

 

 しかし、隣の小さな背中は予想外だった。

 

「あの子レインさんの腕に飛びついたの」

 

 なにやら楽しそうに会話が弾んでいるらしいのは遠目でもわかる。二人の関係はそれなりに浅くない様子だ。

 だが、レインに小さな少女の知り合いがリアルいるというのは聞いたことがない。

 が、

 

「まあ、あいつ顔広いしな。俺の知らない交友関係があっても不思議じゃないよ」

 

 そう。レインは知らない間にこの世界で交友関係を広げている。

 ALOでは目立つという意味で顔は広い。もちろんGGOでもだ。

 彼のリアルでの過ごし方はほとんど知らないが、あの坂崎先生の知り合いで謎の組織に属していて、菊岡とも話すようになっているらしい。

 知らないことが多いからこそ、逆に驚かない。

 結局のところ、今更、ということだ。

 

「でも、今までにない絡み方じゃない? 腕組んでるし。……彼女、とか」

 

「彼女ぉ?!」

 

 突拍子もない、和人が知るレインのことを考えればありえない言葉に思わず大きな声が出る。

 いや、確かに女の受けはいいしわりと女たらしではあるが、強くなることしか考えていないし彼と出会った初日にロザリアに放った言葉を思い出すと、あいつに彼女ができるところなんて想像が出来ない。

 

「ないないないない」

 

 歩道へと移動しながら思わず全力否定する。

 

「というか、あいつ異邦人だぞ?こっちで彼女なんて作ってどーすんだよ」

 

「でも、GGOの一件からもレインさん帰る素振り全然見せないし」

 

「あいつがそんなの見せるようなやつじゃないだろ」

 

「……まあ、たしかに?」

 

 でもなぁ、とまだ考えている明日奈を微笑ましく見る。

 なんでも恋愛に繋げる彼女は、自分よりも年上ということもあり少し大人びていると感じることの方が多く、バーサクヒーラーなんて呼ばれてもいるが、ただの女の子らしい一面も持ち合わせている。

 愛おしいなと、感じる。

 そんなことを考えながら、和人は歩道の開けたところで待つクラインの元へと足を進めた。




お久しぶりです
まず、

吉野匠先生のご冥福をお祈りします。





詳しくは活動報告を見ていただければと思うのですが
ざっくり言えば、私は終わりまで書き続けようと思います。

その終わりがオーディナル・スケールなのか、アリシゼーションなのか。
はたまた新しく始まったものなのかは分かりませんが
とにかく、続けようと思います。

今後も亀更新になりますが、どうか、よろしくお願いいたします。

最後になりましたが、暖かいコメントやお気に入り登録など本当にありがとうございます。

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