ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~   作:モフノリ

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戦友から助言のために

 しまった。

 

 そうおもったときにはすでに遅く、いれすぎてしまった力のせいで洞窟の奥底で戦っていたレインは洞窟を壊してしまうレベルで傾国の剣の遠隔攻撃を放ってしまっていた。

 早く慣れなければと思っていても、強い相手を倒した後に手に入ってしまったその力を完全に使えるようになるのはもう少し先になってしまうだろう。

なにせ、レインには先に慣れなければいけない事があるからだ。

それにもやっと慣れてきたが、たまにできない時があるので、どうしてもそちらに気がいってしまう。

こんなことなら先に力を制御できるようになっていればよかったと思うが、今そう思ったところでレインは瓦礫に埋もれるしかない。

瓦礫に潰されないためにレインはとっさにマジックシールドを張る。

魔法の詠唱を必要としなくなった彼にとっては造作もないことだ。

そして、不意に消えた足元にも本来であればすぐに反応しただろう。

実際、足元が無くなった瞬間にマジックシールドをといて降ってくる瓦礫を足場にしてどうにか脱出しようと思った。

しかし、そうしなかったのはその先に見えた、見たこともない背の高い箱のような建物や、道を走る箱に見覚えがあるような気がしたからだ。

見たことがあるが記憶にない。

妙に引っかかるものと、思い出したいという不思議な自分の思いに従った方がいいと判断したレインは自らそこに飛び込んだ。

 

 

 

 世界が暗転し、意識がぐっとどこかに持っていかれる感覚に、レインは顔を顰める。

 今意識を飛ばすのは間違いなくしてはいけないことだ。

 唇を噛んでどうにか意識を保ち続ける。

 まるで一瞬が引き伸ばされたような不思議な時間を経て、全てが収束したとき、レインは変わらず暗闇の中に立っていた。

 しかし、洞窟のような暗がりでもなく、先ほどのような不自然な暗転をした暗闇でもなく、月明かりではないとおもわれる光が木々の隙間からぼんやりと見える。

 

「木?」

 

 ようやくそこで、レインは自分が木に囲まれていることに気がついた。

 なにか自分でも気づかないほど巧妙なトラップのような転移魔法でもおかれていて、どこかに転移させられたのだろうか。

 真っ先に思いついたのはそれだが、転移する前にいた盗賊の住処だった洞窟に入ったのは昼間だ。

 ちゃちなトラップが仕掛けられていたが全て破壊しながら進んだので辺りが暗くなる程時間をかけてはいない。

 意識も飛ばしたわけではないので、普通であればよくて夕刻だ。

 つまり、ただの転移ではない。

 なにかめんどくなものに巻き込まれたことは明らかで、レインは頭をかきながら顔をしかめる。

 とりあえず、周りの様子を確認するためにすぐ近くにみえる開けた空間に向かって足を進めた。

 何気なく、探るエクシードが今までに感じたことないもののはずなのだが、どこか昔で感じたことがある覚えがある。

 それが、今まで感じたことないはずの量のエクシードが密集していても、人では行けないはずの高さに多くあっても、それは知っているものだと、どこかで思っている自分がいる。

 ならば、知っているのだろう。

 ただ覚えていないだけで。

 この不可思議なエクシードや夜を照らす月明かりではない光の正体を、自分の中にある引っかかりを頼りに忘れてしまったそれを思い出そうとする。

 一応ではあるものの、警戒しつつ開けた場所に出たレインの視界に入ってきた世界をみて

 

 ――忘れてしまっていた世界を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 目の前でアホ面をさらす少年にレインは満面の笑顔を向けた。

 再び日本にやってきて一ヶ月。

 すぐに帰っても良かったのだが、レインは手に入れた力に慣れるよりも優先している表情をつくることに慣れるために日本にとどまっていた。

 ミュールゲニアでは名前を名乗るのも嫌なぐらい知られざる天才剣士として有名になったこともあったので、一部にしか知られていないこちらで難なく表情を作れるまですごすことにしたのだ。

 穏やかなこの世界であれば向こうよりも表情をつくるのには良いということもある。

 寝床確保のために適当に魔力を放って坂崎たちに自分の存在を教えたレインが待っている間に遭遇した少女と坂崎たち以外の知り合いとはわざわざ会うつもりはなかった。

 理由は単純で、この世界が進んだと自分の世界が進んだ時間にずれがあったからだ。

 仮想世界に飛び込み、キリトたちと知り合ったのは十五、十六歳のときだったが、今のレインの年齢は大体二十歳。

 対してこの世界はあれから半年ほどしかたっていなかった。

 見た目こそ十八歳から変わらないので適当にごまかせばどうにかなるかもしれないが、いちいち説明するのは面倒だということもあるし、結局はミュールゲニアに戻るので会ったところで何にもならない。

 タダで泊めてもらうということも申し訳なく思ったレインは坂崎たちに頼まれる仕事をそれなりにこなしながら、日々バーなどに入り浸っては表情を作ることに慣れていった。

 そんなレインが、豪華な店でキリトにわざわざ声をかけた理由。

 それは、店に入ってきたキリトに気がついたレインが全力で気配を消してばれないようにしていたら、後ろに座ったキリトが散々自分を馬鹿にしていた――からなどではなく、キリトの前に座る菊岡というらしい男にややこしい話を持ちかけられていたからだ。

 GGOに関しては後で裏から適当に手を回せば良いと思っていたのだが、自分の話が出てきたとなってはわざわざこちらから出向くしかない。

 そして、散々馬鹿にしてくれたお礼とばかりにわざわざ気配を消したまま声をかけた、というわけだ。

 いまだアホ面をさらすキリトを無視して菊岡に顔を向けると、彼もきょとんとしていた。

 

「で、俺に何かようなのか?」

 

「あ、いや。特に用というわけではないんだ。だた――」

 

「誠二郎さん、お久しぶりです」

 

 菊岡の言葉をさえぎってレインの後ろから顔を出したのはレインをここに連れてきた坂崎だった。

 なにやら知り合いらしい二人にレインは眉間にしわを寄せる。

 

「なんだ?知り合いか?」

 

「まあ。で、誠二郎さん、彼についての話は僕の顔に免じてなかったことにしてくれませんか?」

 

 その言葉にちらりとレインをみた菊岡は少しだけ笑った。

 

「なるほど。それなら仕方ないね」

 

 呆れたような顔をしながらもあっさりと受け入れてしまった菊岡に坂崎は笑顔で礼を述べて、その場はあっさりと解散になった。

 腑に落ちないことこの上ない。

 そのままレインは坂崎と共に帰る――わけでもなく、キリトと並んで歩いていた。

 

「で、ほんとにレインなんだよな?」

 

 今日はこの後に何も予定がないので、言われるがままになんとなくキリトについて歩いているが、どこに向かっているのかはわからない。

 キリト以外のアインクラッドとアルヴヘイムで出会った人達にはできれば会うつもりはないので、彼らのエクシードを感じたら逃げるつもりだ。

 

「疑い深いな。それともなにか?お前の頭は人の顔すらすぐに忘れるぐらい馬鹿なのか?」

 

「お前な、あんなに表情出さなかったやつが普通のやつと変わらないぐらいころころ表情変えてるんだから疑いたくもなるだろ」

 

 それもそうかもしれないと素直に思う。

 表情を作り始めのは立ち寄った国で知り合った戦友とも呼べる青年に辛い時でも笑ったほうがいいと言われたからだ。

 数年もの間自分から抜け落ちた表情を作るのは強くなるよりも難しく、まだ常に意識していないと出てこない。

 だから、キリトになんと言われようと表情を元に戻すことはしない。

 

「それに、お前成長しすぎだし」

 

「なにが?」

 

「なにがって、体つきとか全体的にだよ。半年ぐらいしかたってないのになんでそんなに伸びるんだよ」

 

 そう言われてどうしたものか、と考える。

 こちらでは一年すらたっていないが、ミュールゲニアに帰ったレインは四、五年たっている。

 一応、十八で肉体年齢は止まっているが、それでも誤差はある。

 まあ、キリトが相手なのでごまかす必要はない。

 

「そりゃ、今の俺は二十歳だからな。そりゃ変わるさ」

 

「はぁ?」

 

 これが鳩が豆鉄砲を食らったような目なのだろう、とぼけっとあほ面を晒すキリトをみて思う。

 

「嘘じゃないからな。一回元の世界に戻ってから、またこっちに来たんだよ」

 

 自分のヘマのせいでとは明言しない。

 思い出したからわかる。

 異世界を渡ったのは普段は腰に付けていて、今は袋に包まれて担いでいる傾国の剣の力のせいだ。

 つまり、盗賊を壊滅させた洞窟で力を暴発させてしまったのが原因で再びこちらに来てしまったということ。

 帰るときも似たような感じで適当にやれば帰れるだろう。

 

「えっ。その見た目で二十歳?!」

 

 そんなことを喚き出したキリトに思わずしかめっ面で見返す。

 

「お前どーみても十八歳ぐらいだろ?!」

 

 まあ、間違いではいないが。

 デジャヴを感じつつもレインはしれっと適当に返す。

 本当のことを言ったところで面倒なだけだ。

 

「お前、俺が十五のときは二十歳ぐらいに見えるって言ってたのに、二十歳の今は十八歳に見えるってなんだよ。お前の目は腐ってんのか?」

 

「あの時は、表情ほとんど動いてなかったのと空気がそう思わせたんだよ」

 

 しけた面をしていただけのクソガキの自分をどうみたら二十歳に見えるのか追求したくなるが、あれはアレで今のレインにとっては触れられたくない部分でもあるので、適当に話をすり替える。

 

「そんなことより、キリトはコンバートするのか?」

 

 菊岡とキリトの話は終始聞いていたので把握している。

 そして、目の前の彼はそれが危険だと分かっていても、むしろそれが危険だと分かっているからそこ、飛び込むタイプの馬鹿だということもレインは分かっている。

 

「まあな。もし、本当に仮想世界での死を、現実での死に出来るやつがいるなら止めないといけない」

 

 相変わらず、キリトの仮想世界好きは変わらないらしい。

 実際、自分なら仮想世界で殺した相手に魔力やら何やらをぶち込んて現実世界の本体に流し込んで爆発でもさせれば、

 

「出来なくもないからなぁ」

 

「え?!」

 

「ん?」

 

「出来るのか?!」

 

 そこで、ようやく、そう言えば仮想世界で本当に人の命を奪うことは出来ないという前提で話が進んでいたことを思い出した。

 

「俺は天才だからできるってだけだ。ほかの凡人共のことはしらん」

 

「天才ってほんとお前変わったな。で、なんでお前なら出来るんだ?」

 

 微妙な顔をされたが、レインはそれをさらりと受け流す。

 

「簡単にいえば、俺が異邦人だからだな。アルヴヘイムで魔力が使えるのは知ってるし」

 

 と言っても、もう使う気は無い。

 今までは仕方なかったという部分が多かったので目をつぶるとしても、仮想世界で本来使えない力を使って戦ってもなんの意味もない。

 使わないといけないのであれば、それはただ自分が弱いだけだ。

 

「あぁ、あのチートか」

 

 アルヴヘイムのときのことを思い出したらしいキリトは引き攣った顔になる。

 

「お前のよく分からない斬撃はまだ許容できたけど、美人さんがレインの身体をのっとた時のやつはもうなんだよあれって感じでしかなかったなぁ」

 

「美人さん?」

 

 そんな人がいただろうかと首を傾げる。

 確かあの時は、と思い出そうとしたが、肝心なところがぼんやりとしてしまってなかなか思い出せない。

 そこまで記憶力がないとは思えないのと、そこを思い出そうとすると頭が真っ白になるのは明らかにおかしい。

 

「ほら、お前が助けてた翼の生えた綺麗な女の人だよ。忘れたのか?」

 

 その言葉に引っ掛かりを感じる。

 その人を間違いなく自分は知っていると思えた。

 しかし、その人に関することだけがまるでくり抜かれたように思い出せない。

 ここに帰ってきたことで全てを思い出したと思っていたがそうでもなかったらしい。

 そのことに気がついたレインは顔を顰めた。

 こちらだけではなく、元の世界でも所々記憶にモヤがかかる部分があるのでそれ関連なのは違いないだろう。

 

「そう言えば、そんなこともあったな」

 

 キリトに本当のことを話したところで解決するわけでもないので適当に話を流す。

 

「で、あれを使えば殺せなくもないってことは理解してたか?」

 

「じゃあ、今回の事件に異邦人が可能性あるかもしれないってことになるのか」

 

「どうだろうな。まず、異邦人が仮想世界にわざわざ行く理由がない。俺は強くなるために仮想世界に飛び込んだが他の奴がどうかは知らん。それに、人を殺すならリアルのが方が手っ取り早いし、悪目立ちしたいならこの街を消し炭にするぐらいした方がいいだろ」

 

 魔法で隕石でも降せば広範囲をすぐにでも更地にできるし、傾国の剣の遠隔攻撃を放てば高層ビルもあっさりと真っ二つできる。

 異邦人が悪目立ちしたいというのであれば、現実で思う存分力を振るうほうがおそらく早い。

 目立ちするやつは力を見せびらかしたいやつがほとんどということもあって、それが出来るだけの力ぐらいは有しているだろう。

 

「か、過激だなぁ」

 

「ここが平和なだけさ」

 

 社会の裏であれやこれやと繰り広げられてはいるが、寿命を全うできる人が大半のここは平和だろう。

 暗殺から戦、王権争いなどが日常茶飯事のようなレインがもといた世界に比べれば間違いなく平和だ。

 

「ところで、一応お前について歩いてるが、どこに向かってるんだ?」

 

「俺の家」

 

「帰る」

 

「まてまてまてまて!」

 

 あっさりと踵をかえしたレインの腕をキリトがあわてて掴む。

 筋力値パラメーターによる補正もない現実世界で、しかも少し前にドラゴンと同等の力を手に入れたレインにとって、キリトに引っ張られてもさほど意味はないのだが、男を腕にくっつけたまま歩くのも趣味ではないので、仕方なく足を止めた。

 

「なんだ」

 

「なんだじゃないだろ」

 

「言っておくが、あと少しで元の世界に帰るつもりだし、ほかの連中と会う気はないぞ」

 

 どうせその後は会えなくなってしまうのだ。

 再び会って変に期待などさせたくはない。

 

「いや、レインのことだからそう言うのは分かってたし、俺も会わせるつもりはないよ」

 

「じゃあなんだよ」

 

「あんたの現実世界での動きが見たい」

 

「断る」

 

「即答だな?!」

 

 逃げられまいとしているのか、レインの腕を掴むキリトの力が強くなる。

 

「別に力を見せびらかすために強くなってる訳じゃないんだよ」

 

「いや、分かってるって。ただ、やっぱり気になるというか」

 

 そわそわとする少年の瞳の彼にレインはただ不機嫌な顔を向ける。

 アインクラッドときはまだそんなに強くなかったり、異世界だからとか考えることもなくペラペラと喋った自分にも非があるのを頭の片隅のほうで理解しているレインは、仕方がないと息を吐いた。

 

「わかった。お前の家には行ってやる。ただ、あー、なんだその。今はちょっと力加減が上手くできないから、ちょっとしたもんだけで我慢してくれ」

 

「ほんとか?!」

 

 嬉しそうなキリトを見て、早くも後悔したのは言うまでもない。




ファントムバレッド編ではレイン本編ネタバレを気にせず
ゴリゴリやっていこうとおもっています。




お気に入り100突破しました!!

ほんとうに、本当にありがとうございます!!!!!(血涙)



大人になってチートみましてますが、これからもどうぞよろしくお願いします!

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