ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~   作:モフノリ

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少年、レイン

 時は流れ、五月。

 一月に起きたALOを舞台にした事件に盛大に巻き込まれたレインは未だに日本にいた。

 特に深い意味はない。

 レインの身体を目当てにやってきたオベイロンこと須郷伸之の手下達が剛やイヴが所属する組織のアジトに攻撃を仕掛けに来たときに、一番暴れたシェルファと目が覚めたばかりのくせに戦闘に参戦したレインが壊したアジトの修繕費分、ここで働くためだ。

 おかげで帰る目処がたったのにもかかわらず、レインは五月になっても元の世界に帰れないでいる、という訳だ。

 そして、現在もお仕事の真っ最中で、黒のワイシャツと黒のズボンを着こなしているレインは不機嫌な顔でビルからビルへと飛び移って移動していた。

 もちろん、腰に傾国の剣が帯剣しているわけはなく、剣を袋にいれて背中に担いでいる。

 別に危険があるとかいう話ではなく、レインにとっては持っていて当然のものであるだけだった。

 銃刀法違反間違いなしの彼ではあるが、何ヶ月もこの世界に留まり、仮想世界でシステムに触れたレインがこの世界に馴染まない訳がなく、今している行動が見つかればかなりめんどくさくなることぐらいはわかっている。

 そんなレインのことを把握したように、ズボンのポケットに入れていたスマートフォンが振動しはじめた。

 ただでさえ不機嫌だったレインは、眉間のしわを深くする。

 仕方なく、足を止めたレインは誰もいない路地裏に着地して、鳴り止まないスマホを慣れた手つきで操作して耳に当てた。

 

「なんだ」

 

『なんだじゃないから?!偶然街に出てた仲間からお前がビルの上を移動してるって連絡来たんだけど!!』

 

「仕方ないだろ。街中を歩いたら声をかけられて面倒なんだぞ」

 

「・・・・・・イケメン滅びろっ!!!」

 

 少しの沈黙の後に突然叫ばれたレインはスマートフォンから耳を離し、ぐだぐだと続く小言を無視して通話をきった。

 すぐさま通話相手だった剛の電話番号を着信拒否に設定して、続いてマップを開いた。

 その様子はごく普通の青年にしか見えず、狂人的な肉体と魔法というこの世界にないはずの力を使う異邦人には見えないだろう。

 路地裏から何事もなかったかのように出たレインは、今度は道路をつかって目的地に向かって足を進め――

 

「そこのお兄さん!モデルやらないかい?」

 

 だからビルの上を移動していたんだ、と一瞬不機嫌顔になったが、すぐにさわやかな笑顔に変え、声をかけてきたスカウトと顔を合わせた。

 

「すみません。今から知人の職場に荷物を届けないといけなくて」

 

 それだけ告げたレインはその場からすばやく駆け出し、人ごみに入った瞬間に気配を消して走り去った。

 その後も何度か声をかけられたレインはコンビニに寄ってマスクを購入し、ただ普通に流していた髪の毛をぐちゃぐちゃにかき乱してようやくまともに進むことができた。

 スカウトや逆ナンから走って逃走を繰り返したこともあり、目的地である坂崎の勤め先をスマホで確認した。

 逃げながらも坂崎の勤め先の方に向かっていたこともあってか、後十分もかからないであろう場所まで来ていたらしく、レインは面倒から逃げるように足早にその場から移動した。

 小走りで移動したこともあってか、五分とかからず坂崎の勤め先である学校にたどり着いたレインは無遠慮に門を潜って構内へと入っていった。

 間違いなく部外者でマスクをしているし髪の毛はぐちゃぐちゃ。さらに全身真っ黒のレインをその学校の生徒が不審に思わないわけがなく、ぎょっとした様子でレインをみているが、レインの異様な空気に誰も声をかけることはしなかった。

 当のレインは他人を気にするわけもなく、エクシードで感じ取ってどこにいるかわかっている坂崎に彼が忘れたスマホを届けたらすぐに修練場に戻ることしか考えていなかった。

 

「坂崎」

 

 扉を開けながら目的の人物の名前を呼ぶと、何かが倒れる音とそれに続いて物がたくさん落ちる音が聞こえた。

 そして、ばたばたとあわただしく目的の人物である坂崎は白衣が着崩れたままレインに駆け寄ってきた。

 

「君はもうちょっと場所を考えるとかできないのか?!」

 

「スマホを忘れたあんたと、それを俺に届けさせた剛がわるい」

 

 さらりと流したレインはポケットに突っ込んでいた坂崎のスマホを白衣のポケットに雑に突っ込んだ。

 

「いや、まあ・・・・・っていうか土足?!ちょっとまって。あの~、スリッパの場所知りません?」

 

「まて、俺はすぐに帰――」

 

「教員室に突然現れて先生方を困惑させたんだ。修繕費代に含んであげるから今日はここで少し手伝って行きなさい」

 

 ふと、坂崎の背後をみると、こぼしたコーヒーを拭く人や落とした書類を拾い集める人が見えたので、レインは小さくため息をついて靴を脱いだ。

 

 

 

 それからレインは先生方から頼まれる事柄を淡々とこなした。

 といっても、邪魔になっている木の枝を切ったり、校舎の壁のペンキ塗りだったり、重い荷物を運んだりと大したことはしていない。

 たとえそれが、極太の木の枝でも、校舎の四階部分の外の壁でも、パソコンの本体が五個ほど入ったダンボールでも、レインにとっては大したことではない。

 最初は先生方から、それは無理だ、危険だと止めが入っていたが、放課後に差し掛かるころには、

 

 まあ、彼なら

 

という不思議と納得し始めてしまっていた。

 そして、現在は坂崎に頼まれ、彼と同行しながら授業で使うらしい何かの部品が大量に入ったダンボールを運んでいた。

 

「もう放課後だし、これが終わったら帰ってもらっていいよ」

 

 にっこりと笑いながらそう言った坂崎はなにやら楽しそうで、逆にレインは眉間にしわを寄せる。

 しかし、ぐちゃぐちゃにした髪の毛で目元は隠れ、口元もマスクで隠れているので坂崎にはレインの表情が全く見えていてない。

 おかげで坂崎はレインのことを気にせず話を続ける。

 

「実はレインがまた来てくれないかって言われててね。来るかい?」

 

「来るわけないだろ。何をするにも人が集まってくるし来たくない」

 

 レインは何をするにも人が集まって実に居心地が悪かったのを思い出してしかめ面をする。

 

「坂崎せんせー」

 

 背後から突然聞こえた声にレインはぎょっとし、髪の毛の隙間から坂崎を睨むと、彼はにこにこと笑っていた。

 そこでようやく、この面倒な今日が全て仕込まれていたことに気がついたレインは内心でため息をついて全力で自身の空気を別人のものに変えた。

 そんな様子のレインにくすりと笑った坂崎は足を止めて声をかけてきた生徒のほうに振り向く。

 

「なんだい、桐ケ谷君」

 

「いや、実は今日の授業の・・・・・・って俺邪魔でしたか?」

 

 間違いなくこちらに興味を示し始めているのは、背中に受ける少年の視線から伝わってくる。

 

「あの人って誰なんです?もしかして、今日みんなが騒いでたお手伝いさん?」

 

「そうそう。僕の知人でね、学校に来たついでにいろいろしてもらったんだよ」

 

 背後から感じるそれに、関わったら間違いなく面倒なのは目に見えていたのでレインは我関せずを貫き通して事前に聞いていた荷物を置きに行く教室に向かって進み始めた。

 

「ちょっと、どこに行くんだよ」

 

「・・・・・・」

 

「レインってば」

 

 返事を返せば、声を出すことになると思ったレインだったが、それが間違いだったと認識したのはわざとらしくわざわざ名前を呼んできた坂崎の声が聞こえてからだった。

 そこで走り出せば逃げ出せたかもしれない。

 だが、レインはそこで足を止めてしまった。それはしまったと思ったからか、坂崎のわざとらしさにむかついたからなのかはレインにもわからない。

 ただ、なぜかレインは足を止めてしまったのだ。

 その隙に、坂崎に声をかけた少年はレインの前に回りこみ、髪とマスクに隠された顔を覗き込んでくる。

 

「・・・・・・レイン?」

 

 目の前で疑惑と期待の目でこちらを見てくる少年をみて、やっぱりこいつだったかと小さくため息をもらしたレインはぐちゃぐちゃにしていた髪の毛を整え、マスクをはずした。

 

「久しぶりだな。キリト」

 

 アインクラッドでみた彼よりも少し成長したらしいキリトにレインは不機嫌な顔で言葉を交わした。

 

 

 

 

 

 キリトこと桐ヶ谷和人は昼ごろからざわめく学校に何事かと思いつつも特に興味は示さなかった。

 やれ木の太い枝をサバイバルナイフ一振りで切り落としたお手伝いさんがいるだの、やれ命綱なしで四階の壁を修繕しているお手伝いさんがいるだの、ダンボールが歩いていただの、どれも信憑性にかける話題だったからだ。

 なんだかんだ、リアリストである和人はきっとSAOで非現実に触れてきた生徒が現実が退屈に感じ始めて面白半分で流したデマだろうと思っていたのだ。

 なので、興味を示さなかったし、深く詮索することをしなかった。

 しかしである。今日のオフ会の前にどうしても坂崎という教師に聴きたいことがあったために、放課後になってから校門前に明日奈を待たせてまで来て見れば、そこに無駄に現実世界に馴染んだレインがいたのだ。

 最初は、坂崎先生の隣になにやら真っ黒でぼさぼさの男がいるなと思った程度だった。

 見慣れないその姿に、今日学校を騒がしているお手伝いさんはこいつか、と観察していると、そそくさとどこかに行こうとしたそいつを坂崎先生が『レイン』と呼んで呼び止めたのだ。

 その瞬間、目の前の真っ黒の背中と、アインクラッドとアルヴヘイムで見慣れ、すでに遠い過去になってしまった頼もしい真っ黒の背中がぴったりと重なり合った。

 あわてて回り込んで顔を見れば、髪とマスクでほとんど顔が見えなかったが、完全に一致し待っている姿に意識せずに名前を読んでいた。

 そしたら、目の前の男は片手で重そうな荷物を抱えたまま、空いた片手で髪の毛を整えてマスクをはずし、もう見ることはないと思っていた顔で感動などクソもない挨拶を交わされた。

 

 

 目の前を歩くレインと坂崎の後ろをぼんやりと思い出した和人は、昼からの騒ぎが目に映るように想像できた。

 

「で、お前は何で着いてくる。さっさと用事を済ませてさっさと帰れ」

 

 急に振り返って実に冷たい言葉を投げかけてくるレインに和人はあいも変わらず、無表情なだな、という感想しか出てこない程度には彼の冷たい態度には慣れている。

 いや、むしろこっちの方がさらに無表情ではないだろうか。

 

「・・・・・・おい」

 

 ぼけっとレインをみていると、これも見慣れた不機嫌な顔でレインは和人のことを見ていた。

 

「残念ながら俺の用事は更新されたんだ」

 

「だからって俺についてくる必要性はないだろ」

 

「いやいや、あるんだなこれが。実は、この後アインクラッドの知り合い何人かと集まるんだよ。そこにあんたも連れてくつもりだ」

 

 和人がにやりと言うと、面白いぐらいにレインが顔をしかめた。

 隣では坂崎がにこにことしているので、もしかしたら彼がわざとこのタイミングでレインをここに呼んだのではないかと疑ってしまう。

 なにせ、異邦人であるレインの現実世界での知人だ。間違いなくいろいろと裏のある人物なのだろう。

 裏社会的ななにかには巻き込まれたくはないので、坂崎については深く知らないでおこうと決めつつ、レインに視線を戻した。

 

「・・・・・・俺は行かないぞ」

 

「でも君、この後なんも予定ないよね」

 

 にこにことしながら坂崎がすぐにレインの逃げ道をなくしていく。

 

「それと、桐ヶ谷君についていったら、僕の独断で修繕費をチャラにしてもいいよ」

 

 修繕費と聞いてピクリと反応したレインを見るに彼がまだこの世界にいた理由がなんとなくわかってしまった和人は顔を引きつらせる。

 

「・・・・・・今回だけだからな」

 

 それなりに長い時間悩んだレインは苦渋の決断といわんばかりに顔を顰めながら承諾してくれた。

 全力で拒否する場合はあの手この手で無理やり連れて行く気だったので拍子抜けだったが、あっさり承諾してくれるならそれはそれでいい。

 

「よっし。じゃあ、その荷物運んだらさっさといこうぜ!明日奈を門で待たせてるし、ささっと頼む!」

 

「いや、後は僕が運んでおくから行っといで」

 

「やっぱりお前わざとだな?」

 

「なんのことかな?」

 

 笑顔の坂崎と不機嫌なレインが互いに無言で顔を合わせた後、レインはため息をついて床にダンボールを置いた。

 

「後で騒いでも手伝わんからな」

 

 それだけ言い残したレインはそれまでは普通にしていた髪の毛を再びぐしゃぐしゃにかき乱してマスクをつけ、すでに学校の構内図を把握しているらしく、迷うことなく校門の方に足を進めた。

 

「せんせっ!ありがとうございます!」

 

「いやいや、彼があんなだからお節介もしたくなるのさ。じゃ、楽しんでおいで」

 

 笑顔でそういう彼が裏社会に関わっているようには全く見えないなと重いながら和人はあわててレインを追いかけた。

 そのとき後ろで、おもっ?!ちょっと、レイン!やっぱり待って!という情けない声が聞こえてきたが、気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、何でレインはそんな髪の毛乱してマスクしてるの?全身真っ黒でそんなだと不審者にしかみえないんだけど・・・・・・」

 

 突っ込めずにいた和人の変わりに明日奈が少し聞きにくそうにだがレインに聞いた。

 和人と明日奈とレインは、エギルが経営しているダイシーカフェに向かって歩いている。

 まるで付き人かのよう和人と明日奈の後ろを歩いていたレインに明日奈が声をかけたのはあと十五分もすればダイシーカフェに着く、というあたりだった。

 マスクと髪の毛のせいでレインの表情はわかんない。

 

「こうしないとまともに道を歩けないだけだ」

 

「もしかして、絶賛命狙われ中・・・・・・的な?」

 

「違う」

 

 須郷に異邦人だからという理由でつかまっていたレインだから命を狙われていてもおかしくないと思った和人だったが、以外にもそうではないらしく、即答で否定された。

 

「じゃあ何だよ・・・・・後ちょっとでエギルの店につくし普通にしたらどうだ?」

 

「・・・・・まあ、あとちょっとなら大丈夫か」

 

 何が大丈夫なのか分からないが、マスクを取って髪の毛を整えたレインはどうやら周りを気にしているようだった。

 きちんとレインの顔を見ると、仮想世界から変わらず嫌がらせのように整った顔をしている。

 身体つきもほとんど変わっておらず、黒のワイシャツに黒のパンツのせいでどこかのホストに見えなくもない。

 

「ほんとにあの時姿のままなのね」

 

 感心するように隣で明日奈が呟いた。彼女も同じようなことを思っていたらしい。

 

「そりゃそうだろ」

 

「明日奈が言いたいのは」

 

「すみませーん」

 

 お前の嘘みたいなイケメン顔が本当だったんだなってことだ、と言おうとした和人の言葉を遮ってスーツ姿の女性が声をかけてきた。

 視線を見るにレインに声をかけているらしい。

 それに対してレインは小さく息をはいた。

 

「申し訳ないが俺は今から用事がある。声をかけるなら他をあたってくれ」

 

 どこかげんなりとした様子でなにも言われていないのにレインは喋りかけてくることすら断った。

 これ以上喋ることはないと言わんばかりに和人と明日奈の肩を掴んでさっさとその場から立ち去ろうとするレインはどこか慣れている様子だ。

 ぐいぐいと進んでいくのかと思いきや、明日奈がまだリハビリ中だと知らないはずのレインは明日奈の負担が大きくならないようにしているらしく、そこまでスピードを上げることは無かった。

 

「だから顔を隠してたんだ」

 

 声をかけてきた女性が追いかけてこないと判断したレインが二人の肩から手を離して、ぼそりと漏らした。

どこか疲れた様子のレインはそそくさとマスクを付け直す。

 

「しょっちゅう声かけられるのか?」

 

「まあな。そんなにもこの世界ではモデルとやらが人財不足なのか?鬱陶しくてしかたがない」

 

「それはご愁傷さまで・・・・・」

 

 眉間のしわがいつもよりも増して深いあたり、かなり苦労したのだろうことはわかった。

 

「あの、お姉さん。少し話しいいですか?」

 

「えっ、私?いや、あの」

 

「少しですから」

 

「でも」

 

 和人とレインが話している間に声をかけられて困っている明日奈を二人はじっとりとした目でみて、同時に深くため息をついた。

 

 

 

 

 右肩にアスナを担いでいるレインは、先を行くキリトを追いかける形で走っていた。

 さっさとエギルの店に逃げ込むためだ。

 全力ではなく小走りなのは、そこまで切羽詰った状態というわけではなく、ただ単に歩いているよりは走っているほうが声をかけられないだけだったりもする。

 

「やっと着いた!」

 

 小走りとはいえ、大して運動をしていないらしいキリトは息を切らした様子で、やはり仮想世界とは違いただの少年でしかなかった。

 担いでいたアスナを丁寧に地面に立たせる。

 

「雑な運び方で悪かったな」

 

「大丈夫。むしろ、あんな運ばれ方ってされないから面白かった」

 

 くすくすと笑うアスナは元気そうにしているが、持ち上げたことでわかったがかなり軽かったので万全というわけではないことはわかる。

 それでも楽しそうで元気なのはキリトという存在が彼女を支えているからなのだろう。

 

「誰にもレインがくるって伝えてないから絶対驚くぜ」

 

 にやにやと悪戯を仕掛ける子供のように笑うキリトだが、レインは逆に彼が驚かされようとしているのをエクシードで感じている。

 なにせ扉の向こう側では数人がわくわくとした気持ちで待ち構えているのだ。

 何かされないわけがない。

 しかし、それを教える義理はレインにはないので、何も言わずにさりげなくキリトとアスナが先に入るように促した。

 何も知らないキリトが得意げな顔で扉を開ける。

 

「「「「「キリト!SAOクリアおめでとー!!」」」」」」

 

 クラッカーの音とともに祝福されたキリトは先ほどまでの得意げな顔はなりを潜めて、ぽかんと口を開けていた。

 こうなることをアスナは知っていたようで、そんなキリトの様子をみてくすくすと笑っている。

 

「ほら、はいってください」

 

「いつまでぼけっとしてんのよ」

 

「お兄ちゃん、驚きすぎだよ」

 

 中から聞こえる声に、レインは誰がいるのか大体把握して、かすかに微笑んだ。

 ぼけっとしたまま女性陣に引っ張られる形で入っていったキリトとその後ろをにこにことしながらついていったアスナに続いてレインも特に気にすることなく店の中に入っていって後ろ手で扉を閉めた。

 

「すまんな、俺も邪魔するぞ」

 

 さすがに一声かけなければいけないかと、思ったレインが声をかけると、にぎわっていた店の中が嘘のように静かになり、全員がレインのほうを向いた。

 そこでようやく我に返ったキリトが女性陣の輪の中から抜け出して、レインの隣に並んだ。

 

「そうそう、今日学校でレインに会ったからつれてきた!」

 

 ぼけっとしてしまっている店内を見回せば、シリカやリズ、リーファだけではなく、クラインや他にもあまり知らない面子もいる。

 

「本当に俺はきてよかったのか?」

 

「そりゃ、アインクラッドを騒然とさせた知られざる天才剣士兼謎のPKKを連れてきて悪いわけがないだろ。シリカとリーファだっているし」

 

「いや、まあそうだが・・・・・・」

 

 完全に止まってしまった空気をどうにかすべく、レインは仕方なく知人に声をかけることにした。

 

「シリカ、リズ、リーファ。久しぶり」

 

 リズとも知り合いだったのかよ、となにやら騒いでいるキリトは無視する。

 ようやく状況が飲み込めてきたらしい三人は本当にそこにレインがいるのかと確かめるようにべたべたとレインを触り始める。

 なんだ、この状況は。という感想しかないが、されるがままにしていると、シリカとリーファの目から涙が出始めた。

 

「お、おい」

 

「もうレインさんに会えないと思ってたぁ」

 

 顔をぐずぐずにしながら泣くシリカ。

 

「私、私、お兄ちゃんからレインさんのこと聞いて、すごく心配してたんだからぁ」

 

 アルヴヘイムとは違い、切りそろえられた黒髪のリーファは必死で涙をこらえている。

 

「あんた、女の子泣かすんじゃないわよ」

 

 いつものごとく、小言を言ってくるリズベット。

 もう一度会うつもりなどなかった人たちは、自分のことを気にしていてくれたらしいことが伝わってくる。

 

「その、なんだ。とりあえず二人とも泣き止んでくれ」

 

 あいもかわらず、女の子には弱いレインは二人をなだめるのに苦労したのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 太陽はビルの隙間から見えることもなくなり、半分以上を闇が支配する時間帯。

 レインはこっそりと店から抜け出していた。

 ドア越しにも賑わいを感じる。

 決して楽しくなかったわけではない。

 シリカにピナという飼い猫がいたり、リズベットとキリトが知り合いだったり、リーファの本当の姿が思っていた以上にキリトに似ていたり、クラインが以外にも大人だったり、エギルはまともな店をもっていたり。

 アスナはおしとやかでしっかりしているし、キリトも少年らしく笑っていた。

 知らなかったことや、知ろうともしなかったことを知った。

 仮想世界で見てきた戦士としての彼らも彼らではあるが、やはりここで平和に楽しく暮らしている彼らのほうが本来の姿だと思えた。

 しかし、自分は違う。

 戦場に身をおいて戦い続ける戦士だ。

 強くならなくてはいけない。

 レインは最後に騒がしいエクシードを感じとり、微笑んだ。

 優しい黒衣の異邦人はただ願う。彼らに平和が続くことを。

 そして、レインは誰にも声をかけることなくこの世界から姿を消した。




最後まで、お付き合いいただき
ほんっっっっっとうにありがとうございました!!!

フェアリーダンス編、完結になります。

アインクラッドからここまで書いて、気がつけば20万文字越え。
そこまで書くとは思っていませんでした。
いろいろと省いたりもしてましたからね。
ここ読みたかったのにぃいいいいいい!!
ってところをすっ飛ばしてしまっていたらもうしわけないです。

さて、レイン布教のために書き始めたこのSS。
何人の方に興味を抱いていただけたのでしょうか。
一人でもおられたら私は万々歳でございます。

ALOでの補足や続編についてなどは後で活動報告で書かせていただきますので
気になる方はそちらを見ていただければと思います。

最後になりましたが、
ここまで読んでくださった方、お気に入り登録してくださった方、
感想を下さった方、評価を下さった方
本当にありがとうございます。
おかげでここまでくじけずに書き上げることができました。

最後に、
おこがましい限りではございますが、今後のために感想などいただければと思います。


本当にありがとうございました!!

それではまた、どこかで。

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