ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~ 作:モフノリ
特にすることもないレインは、先ほどの騎士達の戦闘思い出し、いつものように身体を動かしてキリト達を待っていた。
少し慣れてきた羽を使って空中で身体を器用に回転させながら剣を振るい、時にはその場から急発進をし、そのまま突然バック宙のような動きをする。
それは間違いなく常人から逸脱している動きなのだが、レインはまだ飛行に慣れていないあたり、彼の戦闘センスと成長スピードは計り知れないものだというのがわかる。
したことのない空中戦闘に適応するべく、飛び回っていたレインの視界の端に、キリトが出現してくるのが見えた。
静かに動きを止めたレインはきょろきょろと辺りを見回してレインを探しているのであろうキリトの元に向かう。
「早かったな」
着地をしながら声をかけると、キリトは無理やりといった感じではあるがへらっと笑う。
「まあ、な。スグ・・・・・・リーファとは兄妹だから一緒に住んでるし」
「話は済んだのか?」
レインの問いにうつむいたキリトの様子から察するに、そういうわけではないのだろう。
そこにはレインの知らない、ただの少年であるキリトの姿しかなく、自分の背中を任せることのできる剣士キリトの姿はない。
「キリト、これはお前がどうにかしないといけない問題だ」
「わ、わかってる」
「なら、さっさとどうにかしろ。今のお前は世界樹の上に行くにはただの邪魔だ」
冷たくそう言い放つと、キリトは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに困ったように笑った。
そんな表情をされるつもりなんてなかったレインは眉間にしわを寄せる。
「お前、なんだかんだ優しいよな」
「さっきの言葉からどうしてそうなる」
「だって、うじうじしてる俺に喝を入れてくれた上に、待っててくれるんだろ?」
にやりと笑いながらそう言うキリトに対して盛大に顔をしかめたレインは気まずげに視線をそらしてしまう。
「・・・・・・お前と行った方が勝率が上がる。それだけだ。遅いと思ったら一人で行くからな」
キリトのことを一切見ていないレインにはキリトがどんな表情でレインのことを見ているかはわからない。
「わかった。ちゃんとリーファと話し合ってくる。それからアスナ達を助けに行こう」
いつものどこか悪戯で、しかしその中に間違いなく真剣なものも含まれている笑みで力強く言ったキリトは、リーファと約束した場所があるから行ってくると告げ、その場から飛び去っていった。
あとはリーファ次第だろう。
だが、彼女はかなり動揺していたし、この世界に戻ってこない可能性だってある。
キリトがこっちに戻ってきたのは現実世界でケリをつけてこれなかったからなのか、それとも彼らにとってはこの仮想世界でのほうが語り合いやすいのか。
そんなことを考えていると、キリトが出現した時と同じものが目の前で光り始め、中からリーファが現れた。
「うわぁ?!」
レインが目の前にいるとは思っていなかったのだろうリーファは声を上げて驚き、バランスを崩した。
「驚きすぎだ」
大音量に眉を顰めながらレインはこけそうになったリーファの腕を掴んで支える。
「ご、ごめん」
意外にもごく普通のリーファだったので、レインは逆に眉間のしわを深くさせた。
体勢を整えたリーファは無理やりという感じでへらっと笑う。
「私ね、もうこの世界に来るのをやめようと思うの」
「君はキリトの妹なんだよな?」
「え?あ、うん」
レインは苦しそうに仮想世界に来ることをやめると言ったリーファをみて、思わず口を開いていた。
それと同時に、ガラじゃないなと思いながらも、言葉を止めることはやめなかった。
「ならあいつが命をかけて戦ってきた世界の事を知っているだろう。俺はその時に知り合った戦友みたいなものだ」
レインの突然の告白に、リーファが驚いてぽかんと口を開けたが、レインは気にせず言葉を続ける。
「一人の戦士として、俺はキリトを信用している。常に危険な所であいつは戦っていて、飄々とした様子で過ごしてはいたが、無理して明るく振舞っている様子だった。いつも周りのヤツがいつか突然死んでしまうんじゃないかと怯えていたんだろう」
それはきっとアスナだけではなく、クラインやエギルもキリトから感じていただろう。
だからこそ、彼をかげながら心配し、そして見守っていたのをレインは知っている。
「俺といる時は、俺のほうがあいつより無茶をしていたらしいからぎゃーぎゃーと横でいつもうるさかったがな」
何故か顔を引き攣らせているリーファを無視してレインは話を続ける。
「そんなあいつがここでは本当に楽しそうに笑っていたんだ。まあ、俺のことに関しては変わらずうるさかったけどな。俺はアインクラッドでは飄々としているあいつしか知らなかったが、ここのあいつの方がキリトらしいと思えた。あれだけ楽しめていたのはリーファ、君のおかけだと俺は思っている」
「でも私・・・・・・」
「リーファちゃん!!」
突然響いたレインは聞いたことのない声に優しい顔をすぐに顰めた。
しかし、リーファは知っていたようで、聞こえた瞬間は突然のことにビクリと驚いていたが、すぐに意味がわからないという表情をして声のした方に振り返った。
「レコン?!なんでここに?!」
「どうにかこうにかリーファちゃんに追いつくためにやって来たんだ!」
どうにかこうにか、という雑な説明なのにも関わらず、リーファが引き攣った顔をしているので、彼がどういうことをしたのかなんとなく察しているのだろう。
「ってあれ?そこの真っ黒の人、あのスプリガンとは違う人なんだね。っていうか、あいつはどうしたの?」
一瞬、スプリガンとは誰のことかと思ったが、リーファの表情が一変して暗くなったので、おそらくキリトのことなのだろうと察する。
「私、あの人に言っちゃいけない事言っちゃったの。だから――」
「リーファちゃん!」
突如現れたレコンと呼ばれる少年が、突然でかい声を出してリーファの両手を掴んだので、リーファはぎょっとして言葉を止めた。
「僕、いつも元気なリーファちゃんに勇気を貰ってた。だから、笑ってない君は見ていられない。だから・・・・・・だから、僕が君の笑顔を守るよ!リーファちゃんの、直葉ちゃんの事が好きだから!」
一見、弱々しい風貌の少年が、レインがいるのにも関わらず大声で告白したことに、レインは少年を見直した。
が、戸惑っているリーファに向かって口を突き出してキスをしようとし始めたのをみて、ただの馬鹿だということをすぐに理解し、レコンの頭に無言で手刀を落とした。
「いでっ!」
「れ、レインさん?!」
「何奴?!」
先程までの空気が一変してしまったのと、レコンの馬鹿さ加減に思わずため息がでる。
「何奴、じゃない。女の子にいきなり何してるんだ」
「なにって、ここはあとは僕の勇気だけって場面で、いでっ!」
先程よりも強めの手刀を再びレコンの頭にお見舞いする。
レインがNPCに設定するされているからか、それなりの強さだったのにも関わらず犯罪防止コードが出ることは無かった。
「お前のことをよく知らんが、馬鹿だということはわかった」
「初対面の人にバカって言われる筋合いはないんですけど!!っていうか誰なんですか!」
「うるさい」
ただでさえややこしい状況なのでレインは視線もつかって無理やり黙らせた。
言葉も出てしまっているのは珍しく彼ももやもやとし始めているのだろう。
緩んでしまった空気を変えるかのように、レインは真剣な面持ちでリーファをみた。
「ただ、こいつの言うことも全てが間違っているわけじゃない。あいつに帰れと言われて言い返していた君はどこに行った。俺をNPCだと思っていた時でさえ言い返してきた君はどこに行った。あの真っ黒のバカは正真正銘の馬鹿だからハッキリ言ってやらんとわからん奴だぞ。それに、兄妹が向き合わずに他に誰と向き合うというんだ」
ガラでもない。
そんなことを思いながらも口から出たのはリーファの背中を押すような言葉だった。
リーファが驚いているような表情をしているのを見て若干後悔をしたが、口に出したことを無かったことにする性質でもないので、ただリーファがどうするのか答えを待つ。
少し俯いたリーファだったが、すぐに顔を上げたときにはいつもの調子に戻った様子でにっこりと笑う。
「二人共ありがとう。私ちょっと行ってくる!!」
いつもの調子に戻ったリーファはすぐに飛びたっていってしまった。
「リーファちゃん?!」
追いかけようとしたレコンの襟をため息をつきながらレインはむんずと掴んで止める。
「ちょっと!あんたさっきから何なんですか?!」
「ただの腐れ縁でここにいるだけだ。とにかく、あんたは邪魔にしかならんからここで大人しく俺と待っていろ」
「いやいやいや!よく分からないん・・・・・・ってその白いカーソル・・・・・・もしかしてグランドクエストの鍵?!え?!なんで?!あだっ!」
レインは再び何も言わずにうるさいレコンの頭に手刀を落とす。
先程までとは違う意味で、さっさと戻ってこいと願うレインだった。
◆
「・・・・・・なにやってんの?」
「お前達が帰ってくるのを待っていただけだ」
一応気配で帰ってきたことを知っていたレインはごく普通の様子で、キリトと共に帰ってきたリーファの問いに答えた。
「それを待っていただけと言えるお前の思考がわからないんだけど」
よく見ればどこか似ているげんなりと表情の二人をを見て、レインは兄妹だということを再認識する。
「さて、遊びは終わりだ」
何事もないかのように振舞っていたレインは、あんたに反撃してやる、と言い出してからずっとレインを殴ろうとしているレコンの攻撃を避けていたの止めて、あっさりとレコンの頭に手刀を落とした。
「あだっ!」
表面に衝撃をというより、中に衝撃を与えてくるレインの攻撃を知っているキリトはふらふらとその場で倒れるレコンを哀れな目でみていた。
「で、どうするんだ?」
二人の様子からきちんと仲直り出来たことを理解したレインはさっさと話を進める。
「世界樹を攻略する」
「えぇ?!」
キリトの発言に声を上げたのはレコンだった。
意外にもしぶとい奴のようでレインはめんどくさいと言わんばかりに顔を顰める。
「もちろん私とレコンも一緒にね」
「えぇえ?!」
不敵な笑みでリーファが言うと、いつの間にか頭数に入れられてしまっていたレコンはさらにうるさく喚く。
「こいつが役に立つとは思えないんだが」
「大丈夫よ。私とレコンは基本的にあなた達のサポートするから。残念だけど、二人があんなにもやられたガーディアンに私一人が加わっても意味は無いだろうしね。だから私とレコンは二人の治癒魔法に専念するつもり」
まあそれなら、とレインはしかめっ面のままではあるが納得する。
「こいつも根性だけはあるようだしな」
「っていうか、この人グランドクエストの鍵なんでしょ?治癒魔法いらないんじゃない?死なないんでしょ?」
レコンのそんな言葉に、キリトとリーファは顔を引きつらせ、レインは呆れ顔になった。
馬鹿だとおもって放置していたが、変に頭が働くようで、説明するのも億劫なところをついてきたのだがから三人の反応は当たり前だろう。
「ユイ、いるか?」
どうにか話を逸らそうとキリトがユイに声をかけると、キリトの胸ポケットから勢いよくユイが飛び出してきた。
「うわ!それナビゲーションピクシー?はじめてみる!可愛いい゛っ!」
ユイに詰め寄ったレコンの語尾がにごったのは、リーファとレインの手刀が頭にクリーンヒットしたからなのは言うまでもない。
あまり無駄話をするとレコンがうるさいと判断したレインたちはさっさと世界樹の中に入っていた。
キリトとレインは剣を構え、リーファとレコンは治癒魔法の準備を始める。
「さっきと同じように半数以上が俺のほうに来るだろうが、お前は気にせずに進め」
「あの鎖が出たときはどうする」
鎖、という言葉を聞いて、剣を離した瞬間に現れ、自分を捕らえた鎖を思い出して顔をしかめる。
「あれは俺が剣を離しさえしなければ出てこない。たとえあれにつかまっても世界樹の上に転移でもつかって戻されるだけだ」
なら、苦労してこのドームを攻略しなくてもいいのではないかとも思うが、オベイロンのところに言った瞬間、システムに全てを支配されて完全に身動きは取れなくなるし、下手をするとキリトの邪魔になる可能性だってある。
「できるだけ、そうなることは避ける。だが、もしもあれが出てきたとしても俺にかまうな。俺達じゃどうにもできないやつだ」
キリトは一瞬苦しそうな顔をしたが、すぐに真剣なものに変わって上を見上げた。
他に交わす必要がないと判断したレインも上を見上げる。
「準備できたよ!」
リーファの声を聞いた二人は、合図をしたわけでもないが、完全にシンクロした動きで飛び上がった。
一度目の特攻から短期決戦に持ち込まなければ、あの尋常じゃない量の騎士達を掻い潜って天井までたどり着けるとは思えないため、レインは遠慮なくスピードを上げた。
しかし、上れば上るほど、騎士達の量は多くなり、真ん中あたりまでたどり着いたときには周りを囲まれ、頭上には壁のような量の騎士に埋め尽くされていた。
そんなことになってしまっては、さすがにレインもキリトも足を止めるしかなくなった。
完全に進めなくなってしまった二人は、互いに騎士達を蹴散らしていく。
斬撃を飛ばして同時に何体もしとめながらも、剣では一撃でほふるレインと、自身の身長ほどある大剣をかすむようなスピードで振り回し、時には体術で騎士の頭を吹き飛ばすキリトの動きは間違いなく人間の域を超えている。
そんな二人の動きでも周りを埋め尽くすほどの騎士を掻い潜って進めない。
レインは斬撃を飛ばしながら舌打ちをする。
本来の傾国の剣であれば、自分の魔力で斬撃の威力を変えることができたのだが、システムに過ぎない今のこいつではそこまでの威力を発揮することができない。
そのとき、ふと自分の中にある魔力を思い出した。
シェルファが自分を飛べるようにするために残してくれた魔力だ。
これを元にどうにか魔力を使うことはできないか考え始める。
いつも突然現れる、本当の傾国の剣の魔力にシステムによる鎖さえもどうにかしてしまったらしいシェルファの魔力。
この世界で魔力が使えないわけではないのだ。
ただ、自分が使おうと思っても自由に使えないだけで。
「パパ!飛行時間の残りが少なくなってきています!」
敵を蹴散らすことに集中していたからか知らぬ間にそれなりの時間がたってしまっていたらしい。
事実、レインもできるだけかわしてるとはいえ、何度か身体を切られては治癒魔法をかけてもらっていた。
時間がないが、どうにかシェルファの残してくれた魔力を元に本当の傾国の剣をもう一度この仮想世界に出現させるためには時間がいる。
キリトに時間稼ぎを頼みたいところではあるが、二人でようやく均衡を保てている状態でそんなことをするのは愚行だということぐらい考えなくてもわかる。
「戦いながらやるしか――」
気合を入れるためにわざわざ口に出そうとした瞬間、下のほうから炎が巻き上がり、キリトとレインの周りにいた騎士を何体かに直撃した。
突然のことに思わず下を向くと、竜に乗った人や甲冑を身にまとった多くの人がいた。
何事かとリーファをみると、彼女の隣には領主と名乗っていたサクヤとアリーシャがリーファに声をかけている。
このタイミングに見事駆けつけてくれたらしい。
キリトを確認すると、彼も状況を把握したようだった。
「キリト!少しでいい、集中するから援護頼む!」
これだけの人がいればたとえ自分に向かってくる騎士の数が多くてもどうにかなると考えたレインは、キリトがうなずいたのを確認すると、傾国の剣を下段に構えて目をつぶり、全力で魔力を手繰り寄せる。
強く求めたときに来てくれたのだ。
自分の中のものを爆発させた時に来てくれたのだ。
レインはふわりとどこか懐かしく、力強いそれを感じ取った瞬間、目を開いた。
「来いっ!!」
叫んだ途端、溢れかえる魔力を自分の中に感じる。
それを懐かしむこともせず、すぐさま青いオーラを纏い、ブウゥゥゥウンと羽虫が飛ぶような音を立て始めた傾国の剣に自身の魔力を注ぎ込む。
「キリト!俺の隣まで来い!」
レインの様子に一瞬戸惑ったキリトだったが、さすがアインクラッドの最前線で戦ってきただけの事はあって切り替えは早く、すぐにレインの隣に着いた。
「どうしたらいい」
「今からありったけの力を飛ばして半数以上削る。ただ、これをした後はさすがの俺も動きが鈍る。できるだけ俺もスピードを出して飛ぶが、遅かったときは引っ張ってくれ」
「わかった」
理解の早いキリトに感謝しながらレインは上を見据える。
「はぁあっ!!!」
彼には珍しく、声を上げながら剣を力強く振った。
ゴォオ、という音を立てて振られた剣に、何事かとその場にいた全員が気をとられ、静寂に包まれた。
その静寂は嫌に長く続いたが、何かが頭上の騎士の群れにあたり轟音を立てて騎士を紙切れのように吹き飛ばし、そこに風穴を開けた。
システムによって斬撃が飛んでいる瞬間が見えるものではなく、何も見えずただ突然に襲い掛かる斬撃。
これこそが傾国の剣による遠隔攻撃の本来の姿だ。
それは、システムによる攻撃ではないためか、データそのものに直接ダメージを与えているようで、遠隔攻撃の余波を受けただけの騎士達も動きをとめ、四散していく。
先ほど身体に溢れさせた魔力の大半を今の攻撃に費やしたレインはぐっと倦怠感に襲われるが、先ほどの現象にぼけっとしているキリトに声をかけて気合を入れなおす。
「いくぞ!」
「あ、ああ!」
いまだ何が起こったのか理解できずに固まってしまっている人たちを残し、二人はありったけのスピードでレインが空けた風穴に突っ込んだ。
雲のようになっていた騎士の群れを抜けた先の扉に着地した二人は、たどり着いても一向に開かない扉に剣を突きたてた。
「何で開かない!」
「パパ!これはクエストフラグで閉じられていません!管理者権限によってロックされています!」
ユイの言葉にキリトの表情が苦々しいものになったのをみて、待っていれば開かないということがわかったレインが再び剣を構えた。
「俺のこれならこじ開けられるかもしれん」
ましになったとはいえ、いまだに身体には倦怠感が残っているが、気にしている暇はない。
いまでも騎士達は出現し、レインとキリトを阻むべく飛んできているのだ。
「いや、待て、まだ手はある」
何かひらめいた様子のキリトはポケットから小さな板を取り出して、ユイに差し出した。
「ユイ、これ使えるか?」
「やってみます!」
そっとその板に触れたユイの腕に何かが流れるように光る。
「パパ!レイン!アクセスコードを転写するので私に触れてください!」
言われるとおり、レインはこちらに伸ばされたユイの手に手を伸ばす。
そして、二人がユイに触れた瞬間、三人の姿はそこから消えた。
◆
転移が終わったのを感じ、目を開けると、ある意味では見慣れた白い壁に覆われた廊下に立っていた。
隣にはキリトとなぜかピクシーサイズではなく、白いワンピースを着た人間サイズのユイもいるので無事に世界樹の上にこれたということだろう。
「・・・・・・なんだここは」
「ここがもともと俺が捕まってたところだ。実験のために戦わされてた場所と同じ壁だから間違いないだろう」
ここから逃げることのできなかった自分の不甲斐なさにレインは顔をしかめた。
「ユイ、アスナの場所はわかるか?」
隣でキリトがどこに行くべきなのかユイに聞いているが、レインは違う声に耳を傾けていた。
アルンに着いたときにも聞こえたシェルファの呼ぶ声だ。
自分の中にあるシェルファの魔力も彼女の本体に反応しているのか、ざわざわとしているのを感じる。
これなら迷わずにシェルファの元にたどり着けるだろう。
「レインはどうするんだ?」
不意に声をかけられたが、レインはシェルファがいるであろう方向から目を逸らすことをしなかった。
「俺は彼女を助けに行く。俺のGM権限に比べれば楽に助けられる相手だから――」
「俺達も一緒に行く」
てっきりアスナのところに直進すると思っていたキリトの発言に、レインは目を開いてキリトを見た。
悪戯な笑みを浮かべてこちらを見ているキリトにアスナとのころに行けと言っても無駄なのはすぐにわかったので、レインは小さく息を吐いた。
「わかった。できるだけ急ぐぞ」
そういいながらも、ユイのスピードにあわせてゆっくりと走るレインをキリトが微笑ましく見ているのを、レインが気付くことはなかった。
壁をぶち破って進む気だったレインは、ユイが次々に壁に隠されていたらしい扉を開けていく様子をみて、目の前の少女がいてくれて本当に良かったと心から思った。
世界樹の中で己の中に入れた魔力は現在も存在し、傾国の剣も見た目でだけではなくなっている。
これであれば、遠隔攻撃でシステムに守られているはずの壁を壊すことができるのは、はじめてオベイロンと出会ったときに透明な壁を壊したこともあるので知っている。
しかし、そんなことをすれば轟音をたて、自分の場所を知らせているようなものなので必ず何か警備的なものがやってくるというのは不可避だった。
ユイのおかげでそんなこともなく進めているのだから、感謝しないわけない。
ぼんやりとそんなことを考えながら進んでいると、何個目かになる扉をくぐった瞬間、急にシェルファの魔力を強く感じ始めた。
「ここだ」
扉のすぐ横の壁を見て、レインはつぶやく。
レインの真剣な様子に、ユイは何も言わずに壁に触れて移動する。
そんなユイにレインもキリトもついていくと、何も無いようなところでユイは歩みをとめた。
「あけます」
先ほどまで、壁に触れては何も言わずに開けてきたユイが、意を決したようにレインに告げた。
システムについて詳しい彼女だ。中から感じるものに対して彼女なりに何か思うところがあるのだろう。
「たのむ」
優しくユイの肩に触れてお願いすると、ユイはこくりとうなずいて重そうに扉を開けた。
「レイン!!」
扉が開いた瞬間、シェルファの声がレインに届いた。
反応の速さにレインは苦笑いをして木の中のような部屋の中心に鎮座する透明な箱に閉じ込められているシェルファの元に駆け寄った。
「遅くなってすまない」
「いいえ、レインが助けに来てくれただけで私は幸せだから」
満面の笑みでそういうシェルファに、どう返していいのか変わらないレインはとりあえず微笑みだけを返す。
「じゃあ、壁を壊すからちょっと離れてくれ」
そういいながらレインが剣を構えると、シェルファは満面の笑みのままおとなしく離れてくれる。
大丈夫そうな場所まで彼女が移動したのを確認したレインは、大上段から剣を振り下ろし、まもなくして透明な壁はあっけなくはじけとんだ。
「レイン!」
我慢できなかったといわんばかりに飛び込んできたシェルファをレインは抱きとめ、空いた左手で頭をなでる。
「すまん。現実世界に戻ったらこの続きをするから、とりあえずあんたは現実世界に戻ってくれ」
助かったという安堵感に浸りたいという彼女の気持ちを察しつつも、レインはどうにかシェルファを自分から引きはがした。
ふとシェルファの顔を見ると、心配そうな表情をしていたのであわてて言葉を付け足す。
「俺もすぐに戻るから」
「・・・・・・わかったわ。現実世界で待っているわ」
実に嫌そうにシェルファはレインから離れた。
徐々に消え行く彼女の姿から現実世界に戻り始めたのを理解したレインはほっと一息をつく。
「そこの少年。レインのことお願いね?」
そう最後に残したシェルファは完全に姿を消し、現実世界に戻っていった。
ここで感傷に浸っている暇はないとわかっているレインがキリトのほうを振り返ると、ぽかんと口を開けて突っ立っていたので、小さくため息をついた。
その横でユイもぼけっとした顔で並んでいる様子が、親子にしか見えない。
「キリト」
レインが声をかけると、びくりと肩を跳ねさせて、キリトは我に返った。
「えっと・・・・・・」
「話はアスナのところに向かいながらするから先を急ぐぞ。ユイ、アスナまでの道案内をよろしく頼む」
「は、はい!」
ようやく我に返ったユイは、キリトの手を引っ張りながら入ってきた扉の向かいにあった扉のない出口に向かって走っていった。
ちらりと、部屋の隅に押しやられた宙に浮いている水を見たレインは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐにキリトたちを追いかけた。
開け放たれていた出入り口から外に出ると、そこはやはり木の幹の上だった。
眼前には見知った空が広がっている。
レインはそれを一瞥してすぐにキリトたちに追いついた。
「さっきの子だが、俺のいた世界の人だ。俺の周りで姿を現したり消したりする人でな。魔人と呼ばれる種族らしいんだが、実体を持っていないようなんだ。俺も詳しいことを知らんが、無理やりこの世界にはない力でここまでやってきたらしい」
レイン自身も彼女のことを詳しく知っているわけではないのでざっくりと説明する。
「じゃあ、さっきからお前がシステムガン無視でぶっ放してるやつもその、この世界にない力ってやつか?」
「そうだ。俺もさっきまで使えなかったし、今もそれなりに意識しないとすぐになくなる」
「よくわからないけど・・・・・・それがあればある程度システムを無視できるって事か?」
なんとなく話が通じたような、通じていないような微妙な顔をしたキリトは、眉間にしわを寄せながら聞いてくる。
まあ、気になるのは当たり前だろう。
今喧嘩を売っているのはこの世界を支配している王で、都合のいいシステムがあるのはレインは体験済みだ。
「物を壊すことに関してはシステムを無視できる。だが、あいつは一度俺の意識を強制的に止めてきた。この剣にあいつからの干渉を阻むシステムがあるから今は大丈夫だろうが、これを手放したらどうなるかはわからん。あの鎖が飛び出してくるかもしれんし、意識を無理やりとめてくるかもしれん。だから、基本的に俺には何も期待するな。ここじゃ枷が多すぎる」
もし、オベイロン本人が出てきたとすると、自分は足手まといになる確立のほうが高い。
真剣な面持ちでキリトに伝えると、彼も真剣にうなずいた。
しばらく木の枝でできた道を走り続けると、鳥かごが見え始めた。
それが視界に入った瞬間、ユイの走るスピードが上がったので、そこにアスナがいるのはすぐにわかった。
三人が家族であることを知っているレインは少し走るスピードを下げる。
家族の感動の再会に自分は邪魔だと思ってからの行動だった。
キリトもアスナに気を取られているからか、レインが徐々に離れていることに気がついていない。
十メートルほど離れて、レインは走るのをやめてのんびりと歩き始めた。
急いでいるとはいえ、三人の再会を少しでものばすためだった。
しかし、それが悪手だと分かったのは、少し離れたところで再会を果たす家族を微笑んでいるレインの耳に、嫌に響く指を鳴らした音が聞こえたときだった。
その音を聴いた瞬間、レインは駆け出そうとしたが、それはすでに遅く、レインの首に何かが巻きついてぎりぎりと締め付け始めた。
「ぐっ・・・・・かはっ!」
久しぶりに感じる、容赦のない痛みにレインは膝をついた。
ぎりぎりと締め付けるなにかを破壊するために剣に手を伸ばす。
「させるわけないだろぉ?」
嫌にねっとりとした声が聞こえた瞬間、身体に衝撃を感じたレインは受身を取ることもできずその場に倒れこむ。
「苦労させるだけならまだしも、貴重なサンプルを逃がしてくれるし、へんな虫もつれてくるし」
朦朧とし始める意識をどうにかつなぎ止めながら突如現れた男――オベイロンを一瞥した後、キリトたちを確認すると、それなりに距離が離れていたせいでこちらの異変には気がついていないようだった。
ここは自分がどうにかしなくてはいけないと、無理やり身体を起こす。
首が絞まっているだけだ。この世界で呼吸いらない。
キリトたちに声をかけられないのはいたいが、異変を伝えられないわけではない。
「ん?お前一体何を――」
「はぁ!」
レインは今までになく全身に集中してオベイロンでは絶対にとらえられないスピードで剣を抜いて斬撃を飛ばした。
その斬撃はキリトたちのいた鳥かごに直撃して騒音を立てた。
おかげで、キリトたちはこちらの様子に気がついき、キリトが慌てて剣を抜いた。
「レイン!」
「くそっ、無駄な足掻きを」
オベイロンは再び指を鳴らす。
次は一体何を、と思っている間に、妙な感覚が身体に走り、世界が暗転した。
一瞬、気を失ったのかと思ったが、首に締め付けられている感覚がいまだにあるので、ただ自分達がいた場所が一面が黒に塗りつぶされた場所に移動させられただけだということを理解した。
「さて、異邦人の彼には罰を与えないとね?」
「そんなことさせるか!!」
離れたところからキリトがこちらに向かって駆け出したのが視界の端で見える。
「邪魔しないでくれるかなぁ?」
明らかに苛立っている様子のオベイロンが指を鳴らした瞬間、キリトは何かに押しつぶされるようにその場に倒れこんだ。
「これはね、今度のメンテナンスで追加する予定の重力操作の魔法だ。なかなかだろ?」
べらべらとしゃべりながらオベイロンはキリトに近づいていく。
キリトから少しはなれたところではアスナも苦しそうに身体を地面にべったりとついているので、彼女もその重力操作の魔法を受けているのだろう。
今動けるのは自分しかいないと判断したレインは、地面を蹴って剣を持ち上げた。
「君がそうするのは分かってるんだよ」
そういいながらオベイロンが指を鳴らすと、剣を離したときに出てきた鎖が出てくる魔法陣があらわれた。
すぐにその中から鎖は出現し、動きの鈍っているレインを簡単に絡め取る。
一度経験したレインは全身に力を入れて衝撃に供えた。
「うぐっ!」
予想したとおり、電撃による衝撃が全身に走る。
意地でも意識を手放すものかと思っていたレインだが、いつまでたっても終わらない痛みに絶えれず、気を失うまでそんなに時間はかからなかった。
◆
がっくりと首を落としたレインに視線を奪われていると、突然不快感を背中に感じる。
「あがっ!」
それが、自分が持っていたはずの剣をいつの間にかオベイロンが取っていたようでそれを背中に刺されたと気がついたのは少し時間がたってからだった。
「システムコマンド、IDキリトのペインアブソーバーをレベル六に」
「・・・・・・うぁっ!?」
「キリト君!」
冷たい須郷の声が耳に聞こえた瞬間、今まで感じたことのない傷みをキリトを襲った。
あまりの痛みに声は出ず、心臓を鷲掴みにされているような感覚に全身が固まる。
「安心したまえ。まだ六だ。あのサンプルに比べたら痛くないさ。まあ、徐々に下げていくがね」
そういわれた瞬間、不思議と急激に痛みは薄まっていった。
彼は全身を斬られても、雷にうたれても、片腕を失っても、何があっても全力で抵抗していた。
ならここで自分が折れるわけにはいかない。
立ち上がるためにキリトは両腕に力をこめる。
「まだ抵抗できるのか。システムコマンド、IDキリトのペインアブソーバーをレベル四に」
嫌に冷静な須郷の声が耳に届いた瞬間、さらに痛みが増した。
今まで感じてこなかった本当の痛み。しかしそれは本当よりもまだマシなもの。
そう思っても、キリトの腕の力は弱まり、どれだけ力を入れても持ち上がらない。
「実はね、そこのサンプル君の身体の場所が分かったんだよ。だからね、君達がここに来たからって別に怒るつもりはないのさ。むしろ、彼をつれてきてくれてありがとう、と言いたいところだよ。でも、アスナ君を連れて行こうとするのはいけないことだから罰は与えないとね」
にやりといやらしく笑う須郷がキリトの視界に入る。
そんな彼が、アスナの元に向かった瞬間に、嫌な予感しかしなかった。
必死に声を上げながら、腕にも足にも力を込めるがびくりともしない身体に、自分の弱さに、あきれる。
アインクラッドではアスナと共にヒースクリフを倒し、アルヴヘイムではレインと共に世界樹を攻略した。
そのとき、自分は何ができた?
アスナはシステムで動けなかったはずの身体を動かしてかばってくれた。
レインはシステムを無視してこの世界にはない力を使って道を切り開いた。
自分は、一体何をした?
何もできていないではないか。
なら――
『君も彼らを救うためにシステムを超えてはどうかね?』
そんな言葉が頭に響いた瞬間、キリトは不思議と全身に力が入り、立ち上がることができた。
痛みが消えたわけでもない。自分を押しつぶそうとする重力が消えたわけでもない。
それでもキリトは立ち上がった。
「なっ?!」
先ほどまでシステムを無視するレインを捕らえたことにより、システムに抗えないはずのキリトたちしか残っていないと余裕だった須郷は、突然起きたイレギュラーに硬直してしまう。
もし、彼がレインを知らなければ、システムに抗えるものなどないと一蹴して何かできたかもしれない。
もし、彼が冷静さを持っていなければ、すぐに何か行動を起こすことができたかもしれない。
しかし、無駄に冷静だった須郷は固まったまま頭を回転させ始めてしまう。
もちろん、頭を働かせたところですぐにイレギュラーに対応できるわけなどなかった。
「システムログイン、IDヒースクリフ」
知らないはずのパスワードを口に出しながら、これも結局のところ誰かの力を借りているのではないか、と思う。
『いや、私が貸すのはIDだけだよ、キリト君。今、立っているのは君自身の強さによるものだ』
嫌に冴える頭に静かに低音の効いた響く心地よい声を聞き流しながら、未だに固まっている須郷を見据えた。
二人の視線が混じりあったことで、ようやく須郷は動き始める。
「な、なんだそのIDは!!」
「システムコマンド、IDオベイロンのペインアブソーバーをレベルゼロに」
完全に余裕を失った須郷は喚き始めるが、キリトはただ冷たく見据えるだけだった。
ヒースクリフのIDが使えるということを知り、この世界が茅場が作り上げた異世界から色々の盗んでできた世界ということがわかってしまったからかもしれない。
どこかぼんやりとした視界にこちらを心配する様子のアスナが入って、ようやくキリトは自分の中の色を取り戻し始めた。
「キリト君」
「すぐに終わらせるから待っていてくれ」
優しく微笑んだキリトは先程までは冷たく見ていた須郷を今度は怒りを込めた目で見た。
大切な人を苦しめていたことからの、本当にあそこにあった異世界を汚されたことからの、誰よりも強く優しい相棒を傷付けたことからの怒りだ。
知らぬ間にコマンドを使って出現させたらしい剣を片手に立つ須郷は怯えた様子でこちらをみている。
現実世界に戻ればただのガキに戻る自分になぜそこまで恐れているのかと、思わず笑えてしまう。
キリトは足元に落ちていた剣を拾い須郷にむけた。
「さあ、決着を付けよう」
キリトから出た声が思いの外低く、重みのあるものだったことに気が付いたのは、彼のことよく知るアスナだけだった。
◆
誰かに呼ばれた気がした。
急に浮上し始めた意識についていけず、レインにしては珍しく、ぼんやりと目を覚ます。
「レイン!」
呼ばれるとともに抱きつかれ、まだはっきりとしない意識のせいで何が起きているかわからないレインはとりあえず、抱きついてきている人物の頭を優しく撫でた。
「レイン、大丈夫か?」
ようやくまともに視界に入ってきたのはキリトの顔だった。
おかげでぼんやりとした頭が働き始める。
「・・・・・・アスナは?」
「無事だ」
「一番最初に出る言葉が人を気にする言葉ってところがレインさんらしいわね」
キリトの横からひょっこりと笑顔のアスナが顔を出したのでほっと一息をついた。
ということは、横になっている自分の上に乗る形で抱きついているのはユイなのだろう。
「助けに来たと言っても俺は何も出来ていないがな」
実際、ただ心配をかけただけだ。
ようやく、頭がしっかりと動き始めたので自分に抱きついているユイを器用に支えながら身体を起こした。
「身体はどうだ?」
キリトに言われて身体に痛みが一切ないことに気がついた。
気を失う前にかなりの苦痛を感じていたはずなので、何事かとレインは静かに眉間にしわを寄せた。
「一応、お前の痛覚の部分を正常に戻したんだけど、痛むか?」
レインが眉間にしわを寄せたのを、痛みによるものだと勘違いしたらしいキリトが心配そうにレインの顔を覗き込んでくる。
「いや、大丈夫だ。不思議なぐらい痛くない」
「よかった」
辺りを見回すと、鳥かごの場所まで戻ってきているようで、オベイロンの姿はどこにもなかった。
「全部終わったよ」
完全に安心しているキリトを見るに、彼がどうにかしてオベイロンを倒したのだろうことはわかった。
これ以上は異邦人である自分が立ち入る部分ではないだろうと判断したレインは、意識をいまだ抱きついて離れないユイにかえた。
「ユイ」
優しく声をかけると、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたユイがこちらを見上げてきた。
そんなユイの様子に微笑み、優しく涙をぬぐってあげた。
自分のためにこんなにも泣いてくれて、本当に優しい子だと思う。
「レイン、本当に心配しました」
「悪かった」
「無茶し続ける限り許しません」
「・・・・・・善処する」
戦いで無茶をしないという選択肢はレインの中ではないのでそう言うしかない。
納得していないようすのユイには悪いが、レインは話を進めた。
「キリト、俺はログアウトできそうか?」
「問題ない。俺が今GM権限を持ってるからいつでもログアウトできるぞ」
自慢げに言ってくるキリトに、いつの間にそんなものを、という視線を送るが、やはりシステムについて理解しきれないレインはすぐに考えるのをやめた。
「じゃあ、頼む。さっさと帰らんとうるさいやつもいるからな」
「ああ、あの美人さんね」
シェルファがキリトの中でどんな立ち位置になっているのかはわからないが、どこかじっとりとした目をしたので、どこかぶっ飛んでいる少女、とでも思っているのだろう。
キリトが右手でウィンドウを操作していると、徐々に自分の周りが光り始める。
キリトとリーファがログアウトするときに見たものだ。
「あ、そうだ」
こんなぎりぎりに思い出すなんて、と思いながらレインは慌ててキリトに声をかけた。
「すまんキリト。もし、アインクラッドで俺のことを知ってる奴や、この世界であった人たちが俺のことを聞いてきたら適当に答えておいてくれ。べつに異邦人だということを言ってくれてもかまわん。特にリーファにはお前の判断で教えてやってくれ」
「それぐらい自分で言えよ」
「悪いが、現実世界に戻ったらできるだけ早く元の世界に帰ろうと思っている」
レインがそう告げると、三人とも寂しそうな表情をする。
当たり前だろう。
住んでいる世界が違うのだ。再び会える可能性はないに等しい。
「なに、俺が帰ったところで今までのことは消えない」
ほとんど視界が白色に埋め尽くされ始めて、ログアウトの時間が近づいてきているのがわかる。
「それじゃあな」
それだけ最後に告げたレインはユイの頭をふわりと撫で――
完全にレインの視界が白に埋め尽くされた。
◆
ぼんやりとすることなく目を開けたレインの視界に移ったのは、透明な何かとその先のある天井だった。
透明な何かが、アインクラッドに行くときにかぶったナーブギアの一部だと気がついたのは、久しぶりにエクシードや己の魔力を感じてからだった。
ナーブギアを雑に脱ぎ捨てながら身体を起こして、自分の身体がどれほど変化したのか確認すると、思っていた以上に退化している自分の身体にレインは顔をしかめた。
しばらく、自分がどれほど動けるのかをベッドから降りて歩いたりし、一通り確認してから、ようやく異変に気がついた。
特に自分が注目されていると思っているわけではないのだが、自分が目を覚ましたのにも関わらず、誰も来ないのはおかしい。
レインが帰ってくるのを待っているといったシェルファさえも周りにはいない。
何か問題が起きているのだろうかとおもったレインは、久しぶりにエクシードを探る。
仮想世界に来るときに比べると、どこかやりやすくなったそれのおかげで、少しはなれたところで戦闘が起きているのがすぐにわかった。
どうやらシェルファもそこにいるようで、彼女にしては珍しいな、と特にあせった様子もなくレインはぼんやりと思った。
別に歩けないほどでもないし、魔力やエクシードを使えないわけでもない。
それを確認したレインは、ベッドの横にあった自分の服を着て、仮想世界で何度も助けてくれた傾国の剣を腰につける。
その重みで徐々に現実世界に返ってきた実感を感じ、落ちた筋力をエクシードで補いながら、レインは戦闘が起こっているところに向かって足を踏み出した。
つ、詰め込みすぎましたかね?!
詰め込みすぎだね!!
今月中に終わらせる発言を有言実行しようとするとこんなことになってしまいました!!!
読みにくかったりしたら本当にすみません!!!
そのうちきれいにしようと思います(たぶん)
ここまで読んでくださった方、
お気に入り登録をしてくださった方、
感想をくださった方、
評価をくださった方
本当に、本当にありがとうございます!!
気がつけば、こんな誤字だらけのぐだぐだの癖に突然話をすっ飛ばす趣味全開のSSが
10000UAを超えました!!
本当にありがとうございます!
次でラストになりますが、
最後までお付き合いいただければと思います。