ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~ 作:モフノリ
キリトは頭を抱えた。
何とかしろとはなんだ、と言ってやりたい。
リーファのことはよく知らないということもあるのでなんとも言えないが、レインの事はよく知っているのでなんとでも言える。
こいつだって考えればすぐにでも打開策を考えつくだろう。
それだけの戦闘センスも技術もあるのだ。
「お前も考えろよ」
思わず言ってしまう。
相変わらず謎の多い彼ではあるがアインクラッドでの付き合いもあるので遠慮などはない。
キリトの問に、レインはとくに顔を変えることはなく、レインの肩に乗っていたユイを優しく手で包んでキリトの肩に乗せた。
「じゃあ、行ってくるから待ってろ」
「まてまてまてまて!!」
「いやいやいやいや!!」
躊躇うこともなく出ていこうとしたレインの腕をキリトとリーファは掴んであわてて止めた。
同時に掴まれたレインは見慣れた不機嫌顔で振り返る。
「なんだ。俺にはHPがないんだぞ?例えどれだけ相手が強かろうが俺が死ぬ事は無い」
「ま、まあ、確かにそっか」
そう言ってあっさり腕を離したリーファを見て、レインがリーファにあれを言っていないのだろう事を察した。
レインがNPCではない事をリーファも知ってしまっているのであれば、今さらその事について隠す必要性はないし、むしろレインの無茶を止めることが出来るのであればリーファに教えるという選択肢を取るしかないだろう。
「リーファ、こいつがNPCじゃなくて、俺たちと同じプレイヤーだって聞いたんだよな?」
「え?うん。詳しいことは聞いてないけど」
「おい、キリト」
頭のいいレインの事だ。キリトが何を言うのかすぐに分かったようで、キリトの口を塞ぐために手を伸ばした。
その伸ばされた手を空いていた手で掴んで止める。
アインクラッドから変わらず、筋力値はキリトに軍配が上がるようで、ぎりぎりと押し合う形にはなっているが、レインの手がキリトの口に届くことはなかった。
「リーファ、よく聞いてくれ。こいつはちょっと話せないタイプの裏社会的事件に巻き込まれてるせいでチートみたいにはなっているが、その代わりに現実と変わらない痛みを感じてる。最初に会ったときにこいつの様子がおかしかったのも、仮想世界のせいで全然わからなかったけど、全身傷だらけだったからなんだ」
そう伝えてから少し固まったリーファだったが、キリトの真剣な表情とレインの不機嫌というよりは困った顔を見て本当の事だと分かってくれたらしく、離した手を再び掴んだ。
まあ、最初のレインの苦しそうな顔を思い出せば分かってくれるだろうとキリトも分かったから言ったのだ。
キリトの筋力値に勝てないということもあるが、女の子であるリーファの手を振り払える質ではないレインはため息をついて力を抜いた。
「お前が俺も考えろと言ったんだろう」
「もっと安全面を考慮しろ」
「十分安全だと思うんだがな」
その安全の中にレインの安全が含まれていないのをキリトは知っている。
確かにレインは強い。
しかし、彼の戦い方はほとんど防御せずに基本的には攻撃メインだ。
実際、彼に攻撃はほとんど当たることはないのでできる戦法なのだろうが、それはまるで死に急ぐように見えなくもない。
「何にしても、君が一人で邪神モンスターに挑むのはダメ!」
リーファが必死な様子でレインを止める。
少し前まではどこかぎくしゃくしていた二人はキリトが外の探索に行っている間に完全に打ち解けていた。
それはいい事であるのは間違いないだろう。
問題が全て終わった時にはアインクラッドでのシリカとの関係のようなものになればいいと思える。
しかしである。
キリトの目からはそのようなものに見えないというのが素直な意見だ。
どちらかといえば、もっとこう男女の間に芽生えそうなそれに近い気がしなくもない。
自分のことに関してはてんで朴念仁であるキリトだが、自分が関係していない色恋についてはそれなりに察することが出来るあたりタチが悪い。
結局のところ、リーファの気持ちにすら気がついていない。
一抹の不安を感じながらもキリトは頭を邪神に切り替える。
「とりあえず、俺が考えるから少し待ってくれ」
だから最初からお前に考えろといったのに、というレインの呟きを無視して、とキリトは邪神モンスター二体を見た。
リーファの言う可愛いについてはわからならないが、レインが足の多い白いヤツと言っていたので、象とクラゲが混ざったような邪神モンスターを助ければいいのだろう。
なぜあの邪神モンスターが圧されているのか、それは個体値の差だろうか。
いや、象クラゲの邪神モンスターはどちらかといえば動きにくそうで。
そこまで考えたキリトはもしかしたらいじめられている可愛い方を助ける術を思い付く。
「ユイ、近くに水辺はあるか?」
「・・・・・・はい、ここから少し離れたところに池のようなところがあります」
「ありがとう」
予想以上に早いユイの返答に驚きつつも、頭をなでながらお礼を言うと、嬉しそうに微笑んでくれた。
キリトは腰ポーチに入れていたアインクラッドでもよく使っていたピックを一つ取り出して三つも顔が突いている人型の邪神モンスターに照準を合わせる。
「走るから着いてこいよ」
一言告げるだけ告げて、詳しく説明することもなくキリトはなれた動作でピックを投擲した。
アインクラッドで鍛え上げられ、ラグーラビットさえ仕留めたそれが外れるなんて事はなく、キリトの投げたピックは吸い込まれるように三つ顔邪神の中心の顔にクリーンヒットしる。
そんなことをしてタゲがこちらに向かないわけもなく、すぐさまに三つ顔はこちらを向いた。
「走れ!」
「えっ?!ちょっと?!キリト君?!」
タゲられているキリトは残された二人よりも危険性があるのですぐに走り出した。
「まってよ!うわっ!れ、レインさん?!」
リーファの声を聞く限り、レインが担ぐか何かでリーファを運んでくれているのだろう。
レインのスピードがあれば何の心配もない。
安心したキリトはユイが案内するとおりに走った。
「パパ!今は凍っていますがそこの平らな部分の下が池になっています!」
ユイの言葉でキリトは急ブレーキをかける。
キリトがようやく止まったあたりで、レインもすぐに隣に並ぶ。
そんなレインにリーファが抱きかかえられているのを確認すると、キリトはこちらに向かってくる三つ顔に向き直る。
隣のレインはリーファを抱きかかえたまま成り行きを見守っているだけだった。
三つ顔が池の範囲に入り、すぐにミシッと氷にヒビが入る音が聞こえてきてキリトは狙い通りのことがおきて内心ほっとする。
氷が予想以上に分厚くて思ったとおりにならなければ全員ここであいつにやられるしかなかった。
そんなことを思っている間にも三つ顔の重さに耐えれなかった氷が盛大な音を響かせながら割れて、三つ顔は池にはまる。
その様子にほっと一息をつこうとしたが、沈むのを途中でやめた三つ顔が氷を強引に割りながらこちらに向かって進み始めた。
「いざというときはこいつを抱えて逃げろ」
不意にリーファを渡されたキリトは突然のことにレインに変わってリーファを抱きかかえる形になっていた。
レインはというと、三つ顔とキリトたちの間に入っている。
「レイン!」
「ぴゅるるるるる」
キリトがレインの名前を呼ぶのと、像クラゲが叫びながら三つ顔に襲い掛かるのが同時だった。
巨大な邪神モンスターが水辺で暴れ周り、近くにいたキリトたちが何にも被害を受けないわけもなく、砕ける氷や冷たい水が三人に降り注いでくる。
「うわっ!」
足元の氷も二体が暴れる影響でぐらぐらと揺れ、キリトはリーファを守るようにぎゅっと強く抱きしめる。
あわててレインをみると、彼は剣を片手に三人に振り注ぐ氷の塊を切っていた。
氷の上ということもあってただてさえすべるというのに揺れている不安定な足場だというのに、そんなことを感じさせないほどレインは三人に当たるであろう全ての氷を見事に剣で時にははじき、時には切る。
その様子をキリトはリーファを抱きかかえながらみることしかできなかった。
全てが収まったときにはレインはずぶ濡れで二体の邪神も水の中に沈んでいった。
小さく息を吐きながらレインが剣を鞘に収めたところで、ようやくキリトも全身から力を抜いた。
しかし、次の瞬間、巨大なバケツから水を流したときに出るような音を出しながら水が急に持ち上がり、中から像クラゲの邪神が出てきたせいで再びキリトは全身に力をこめた。
レインはというと警戒などせずにぼんやりと像クラゲを見ていた。
そんなレインに向かって像クラゲの鼻がのびる。
「レイン!」
再びキリトがレインの名前を呼ぶ。
しかし、レインは振り向くどころか近づいてくる像クラゲの鼻に自ら手を伸ばした。
「助けてくれてありがとう」
レインがそういいながら鼻に触れると、像クラゲは嬉しそうにぴゅるっと小さく鳴いた。
「パパ、安心してください。あの子は怒っていません」
キリトの身体がまだ緊張していたのを察したのか、ユイが優しく教えてくれた。
象クラゲはというと、レインに甘えるように鼻を擦り寄せていた。
「レインさんって本当にNPCじゃないんだよね?」
腕の中のリーファがぼけっとレインと象クラゲを眺めながらつぶやく。
「あ、あぁ。俺たちと同じプレイヤー・・・・・・のはず」
彼が本当にプレイヤーなのか少し不安になる光景であるのは間違いない。
アインクラッドからの知り合いであるキリトも不安になっている。
異世界の話も全部どこかのデザイナーが作り上げたAIで、彼の肉体が本当はどこにもないのではないのかと、そんな気がし始める。
それほどに、ただのMobと戯れるレインは常識から外れていた。
そんなことをぼんやりとおもっていると、象クラゲの鼻がレインに巻きついて持ち上げる。
「え?!」
抵抗することもなくレインは持ち上げられて象クラゲの頭の上なのか背中なのかは分からないが頭上まで持ち上げられ、キリトとリーファの視界からは見えなくなった。
次に象クラゲの鼻先が見えた時には、レインの姿はなかった。
「レイン??」
「ここだ。どうやらどこかに乗せていってくれるらしい」
象クラゲの頭の上から顔を覗かせたレインが声をかけてくる。
それを証明するかのように象クラゲが今度はキリトとリーファに鼻を巻き付かせて持ち上げた。
思わず、リーファを抱きしめていた腕に力がこもる。
そんなに長くなかっただろうが、気が張り詰めていたせいで浮いていた時間は長く感じる。
やっとの思いで象クラゲの背中に足がつき、ほっと一息をついた。
「なにかのクエストか?いや、でもクエストフラグの表示はないし」
「たぶん、イベントじゃないかな。ところでキリトくん。その、そろそろ離してほしいんだけど・・・・・・」
腕の中で聞こえるリーファの声に我に返ったキリトは慌てて手を離した。
「ご、ごめん!」
「いや、まあ守ってくれててありがとう」
何となくぎくしゃくしてしまう。
「ところで、キリト。どうしてさっきの作戦を思いついたんだ?」
相変わらずどうでもいいところでは他人のことを気にすることないレインが話を切り出した。
この時はそれに有難味を感じつつ、キリトは答える。
「こいつの見た目だよ。象とクラゲが混ざったようなこいつはもしかしたら水辺のほうが戦いやすいんじゃないかなって思ったのさ」
「あぁ、なるほど。キリト君って実は頭いいんだね」
「実はってなんだ、実はって」
リーファの言い分に思わずむっとして言い返してしまう。
アインクラッドからのキリトを知っているレインに弁解してもらおうとそちらを向くとレインは顔を顰めていた。
「どうかしたか?」
「いや、やはり知識不足だな、と」
「どこが?」
たしかに、システムに関して疎いところがあったが、アインクラッドの中盤では既にほとんどシステムのことを理解していたはずだ。
戦いに関しても自分よりも機転がきき、とんでもないことをしてきたレインがこれで知識不足だと言ったので思わず聞き返してしまう。
しかし、レインがさらりと言ってしまう言葉にキリトは酷く後悔をすることになった。
「俺はゾウとクラゲとやらを知らない」
「はぁ?」
「ん゛ん゛っ!!」
誰でも知っているような生き物について知らないというレインにリーファが眉間にシワを寄せてあんぐりと口を開けている隣で、キリトは口を開けることも出来ずに声が出たせいでよく分からないものが出た。
異邦人であるレインが象とクラゲを知らないのは当然だということをすぐに気づけなかった自分を殴りたいとキリトが思ったのは言うまでもない。
あれやこれやがガチャガチャしてしまってる気がしなくもない・・・・・
さらっと読んで
大体をうろ覚えで思い出しながら書いているので多少の意味不明部分は多めに見ていただけると幸いです。
今日はレイン漫画の最新話ですね!!!!
カラーですよカラー!!
仕事帰りに雑誌を買わなければなりませぬ