ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~   作:モフノリ

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雪の世界

 リーファは小さな洞窟の中でレインと二人きりになっていた。

 キリトとユイは、周りの様子を見に行ってくれている。

 学生だからログアウトするべきだと言われて、自分の意思で彼らとともにアルンに向かっているといまだに思われていなかったと思った瞬間に、涙が流れてしまった。

 それをみかねたキリトが早くここから出るために危険を承知で一人で取り合えず周りの様子を見に行ってくれてるのだ。

 そんな四人が落ちたのは最近実装されたばかりのヨツンヘイムという場所。

 ここでは空を飛ぶこともできない上、邪神級モンスターがうじゃうじゃといるため、下手に動き回ることはできない。

 運がよければヨツンヘイムに来ている人たちと遭遇できるだろうが、ただでさえ最近実装されたばかりで人が少ないのでかなりの運が必要になるだろう。

 ぼんやりと、リーファはここに来て何度目になるか分からないため息をついた。

 ため息をつく回数を増やしているのは先ほどのキリトはとの会話とヨツンヘイムに来てしまったこと以外に、隣で目を閉じて微動だにしないレインの影響も少なからずある。

 グランドクエストの鍵と呼ばれるNPC。

 しかし、言動も行動もNPCとは思えない。

 唯一それらしいのは特に変化しない表情だろう。

 詳しいことは知らないが、脳から直接信号を受け取っているアミュスフィアは些細なものすら拾ってくる。

 なので、涙をこらえるのだって一苦労な仮想世界にもかかわらず、これほどにも感情を出さないのはそれこそアミュスフィアを改造して、その信号だけ遮断させるぐらいしないと無理だろう。

 それでもやっぱりどこかNPCとは思えない自分がいる。

 ユイを助けるために飛び込んだときのレインの表情を――必死で、慌てていて、今にも泣きそうだったあの表情をNPCができるだろうか。

 強いていえば、リーファはALOでみたことがない。

 

「どうかしたか?」

 

 いつの間にかレインのことを見ていたらしく、突然目を開けてこちらを見たレインとばっちりと目が合った。

 デザインされたのでたろう精悍な顔立ちのレインに思わずドキッとしてしまう。

 

「いや、そのっ」

 

 正直、いままでは慌ただしかったこともありレインとちゃんと話すのは初めてだ。

 そんなこともあってきょどってしまう。

 何をどう言えばいいのか悩んでいると、先にレインが口を開いた。

 

「君は、俺のような奴といていいのか?」

 

 明らかに自分を蔑んだ言い方をするレインに、むかっとしてしまう。

 それと同時に、自分を見下すように設定されているのだろうかと思う。

 堕ちた妖精ということもあり、それはそれで設定通りではあるのだが、それでもどこかレインの物言いに癪に障る自分がいるのだ。

 

「私が誰と居ようと私の勝手よ。私は君とキリト君と一緒に行動するって決めたの」

 

「しかし、キリトはともかくリーファは普通のプレイヤーだろう?」

 

「なんでキリト君は良くてわたしはダメなの?」

 

 リーファは反射的に聞いてしまっていた。

 

「キリト君が男で私が女だから?それともレインさんに関係するクエストを受けてないから?私は邪魔?」

 

 先ほどの事もあって言いすぎてしまった、と思った時には遅く、彼には珍しく戸惑っている様子だった。

 そして申し訳なさそうに、目を伏せる。

 

「そんなつもりは無かった。すまない。キリトが隠したがっているから俺から詳しく説明することはできないが、俺達には色々と複雑な事情がある。その一端を語るなら俺がNPCじゃないということだろう」

 

「っ!!」

 

 冷静に淡々とレインはいったが、リーファはやっぱり、という言葉と、なぜ、という言葉しか出てこない。

 何も言えずにパクパクと口を開けたり閉じたりをしていると、一瞬ではあったが珍しくレインが優しく微笑んだ。

 おかげで出てきそうだった言葉が霧散してしまう。

 

「事実は小説より奇なりという言葉がこの世界にはあるだろう?」

 

 にやりと不敵に笑うレインに一瞬でも見惚れたなんて言ったら彼はなんというだろうか。

 

「ただ、君はやっぱり一般プレイヤーだから深く巻き込みたくないんだ」

 

 先ほどとは違って優しい表情で言うレインが本当にリーファの事を思って言ってくれているのが伝わってくる。

 普段はほとんど表情を変えず、無愛想なのにも関わらずこんな時だけ優しい顔をするのは反則ではないだろうか。

 

「私は巻き込まれてる気分なんだけどなぁ。まあ、いいわ。レインさんとキリト君が私に話してもいいって思えたらでいいからいつかはちゃんと話してね?」

 

 レインに負けじと不敵な笑みを作ってみる。

 いままでそんな顔をしたことが無いので出来ている自信はないが、それでもレインは優しく微笑んだまま承諾してくれた。

 そこから二人の間にあった壁はほとんどなくなり、リーファが一方的に話すという形ではあったが、会話が弾んだ。

 二人の会話が剣術などの女の子らしい会話じゃないあたり、彼女もこの仮想世界で戦士としてそだっているからなのだろう。

 先ほど、レインがNPCではないということを知ったからか、実の兄である和人は違うが、兄のような存在に変わった彼の本質はきっとこの仮想世界でも現実世界とは同じなのだろうことが特に深く考えるでもなくわかってしまった。

 他のプレイヤーのようにロールプレイをしているわけではない、というそれだけでリーファは彼といると安心することができる。

 これが、なぞに満ちているレインに対して和人と同じような感情に変わっていってしまうのかは誰にもわからない。

 それからどれぐらいたったのかは会話が弾んでいたので二人にはわからなかったが、体感時間的にはそんなにたたずに、キリトが帰ってきた。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー。どうだった?」

 

 一瞬、なにやらきょとんとした表情でレインとリーファを見比べたキリトだったが、ぼりぼりと頭をかいてすぐに普通に戻った。

 急に二人の壁が無くなったのでどこかキリトにも感じるところがあったのだろう。

 

「いやぁ、出口までは遠そうだ。ぱっと見プレイヤーも見当たらないし」

 

 疲れた様子でそういうキリトはレインの横にどっしりと座った。

 仮想世界でもなんとなくは歩き疲れるという感覚はあり、ヨツンヘイムは雪に覆われているので普通よりも疲れたのだろう。

 ふうっと一息ついたキリトの胸ポケットからユイがするりと出てきてレインの膝の上が定位置と言わんばかりに座った。

 なにやら複雑そうな表情でそれをみてるキリトをレインはしれっと見返す。

 

「あぁ、そうだ。俺がNPCじゃない事、リーファに教えたから」

 

「はぁ?!」

 

 そんなに叫んだら邪神モンスターが、とリーファが言う前にレインはなんてことは無いように話を続ける。

 

「言ったのはそれだけで、深くは話してない」

 

「騙してるみたいで罪悪感があったからだろうけど、俺の方はともかく、お前の問題は巻き込んだらややこしすぎるだろ」

 

 そんなキリトの言葉にリーファは首を傾げる。

 先ほどのレインの話ではキリトがメインで問題を抱えていて、それにレインも関係している感じではなかっただろうか。

 しかし、今の話だとキリトの問題とレインの問題は別物みたいな言い方だ。

 もやもやと頭を働かせはじめたリーファは、レインがすっと目を細めて、それ以上喋るな、というオーラをキリトには対して出したことに気がつくことは無かった。

 そんなとき、あたり一帯がずしんっと揺れた。それと同時に、なにかのモンスターの咆哮も聞こえる。

 一番早く反応したレインが小さな洞窟の入り口に駆け寄って外の様子を伺う。

 

「邪神か?」

 

 レインに続いてキリトも入り口に駆け寄った。

 先ほどまでのふざけた様子の二人の黒衣の剣士の姿は幻だったのかと思うほど、突然真剣なまなざしになった二人にそんな場合ではないのにきょとんとしてしまう。

 

「そうみたいだな。お前が馬鹿みたいに騒いだからだろうな」

 

「いや、それはお前がとんでもないこと言うからだろ」

 

 真剣な表情のくせに先ほどまでと変わらない調子で話す二人をみて、なぜか安心してしまい、邪神に倒されてスイルベーンに戻るなんて事はないだろうなと、不思議と思えてきてしまう。

 しかし、邪神モンスターがどこかにいってしまったわけではないので危ないことには違いない。

 外をのぞいたままのレインがぼそりとつぶやくようにキリトに声をかける。

 

「なあ、おかしくないか?」

 

「確かに」

 

「どうかしたの?」

 

 本当であればすぐにでも崩れそうな小さな洞窟から出て逃げるべきだろうが、一向に動かない二人が眉をひそめて外の様子を伺っているだけだったのでリーファも二人のそばにいって外の様子をのぞいた。

 のぞいた先には邪神モンスターが二体いた。

 本来であれば、その時点で逃げるか誰かが囮になるかと話し合いになるのだろうが、レインが先ほどいったように様子がおかしい。

 モンスター同士で戦っているのだ。

 今までのプレイでそんなものは見たことがない。

 しかし、目の前では人形で怖い邪神級モンスターにくらげのような象のような可愛い邪神級モンスターが実際に戦っている。

 見た目の影響もあるのか、可愛い方がいじめられているようにみえる。

 実際、可愛い邪神が不利なようで防戦一方だ。

 

「どうする?」

 

「この隙に逃げるのが得策」

 

「助けてあげて!!」

 

 レインが言い終わる前にリーファはレインの腕を掴んで叫ぶように言っていた。

 条件反射でしかなかったが、それでも助けたいと思ってしまったのだ。

 キリトはどちらかといえば効率厨で聞いてくれそうにはなく、レインに言ったあたり、自分に対してずる賢いやつだなぁ、と思うがやってしまったものは仕方が無い。

少し前にキリトと言い合いになって気まずいというのもあるのだが。

 じっとレインを見続けると、困った様子のレインは小さくため息をついた。

 

「どっちを?」

 

「可愛い方!」

 

 リーファの指定にぎょっとしたレインは確認するように邪神モンスターを見比べ始める。

 

「えっと、足の多い白いヤツでいいか?」

 

「うん」

 

「で、キリト。何かいい方法はないか?」

 

 完全に蚊帳の外になっていたキリトにレインが話を降ると、キリトはげんなりとした様子でレインを見返す。

 

「レインって、わりと俺に任せるよな」

 

「ゲームの世界はややこしいからな。現実世界なら自分でどうにかするんだが、仮想世界はお前に任せた方がいい」

 

 さらっと流したレインに対してなのか、勝手に可愛い方の邪神モンスターを助けることになったからなのかわからないが、キリトは小さくため息をついた。




お待たせいたしました!

SAOの話はところどころざっくりと省かせていただいています。(いまさら)



活動報告のほうでも言わせていただきましたが、フェアリーダンス編は今月中完結を
目標にしています。

アスナサイドやシェルファサイドは全くと言っていいほど書いていませんが
彼女たちも奮闘しているでしょう。

オーディナルスケールについても考えたのですが

レインは現実世界だとマジでチートになってしまううえに
結局実体はないARなのでむずかしいな、なんて思っていたり。


もう少し、少年レインの旅路にお付き合いいただければと思います。

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