ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~ 作:モフノリ
再びキリトはレインを抱えて飛んでいた。
SAOから引き継がれている筋力値のおかげで人一人を抱えて飛ぶのはキリトにとって造作もないことで、多少スピードが遅くなる程度だった。
しかし、レインはこの状況がよほど嫌らしく、サクヤとアリシャにキリトの所持金を渡した後に移動するとなったときに、自分は地上を走っていくとうるさかったが、ユイとリーファの説得でどうにか納得してもらった。
抱きかかえていることもあって、レインの後頭部しか見えないが、あのときのかなり不機嫌な顔も今も継続中なんだろうなということを考えると思わずげんなりとしてしまう。
「パパ、レイン、敵反応多数です」
ユイはのんびりとした様子で警告する。
それからすぐに六体の飛行型モンスターが進行方向にいるのが見えた。
本来であれば、キリトはレインを抱えているせいで両手がふさがっており、レインも抱きかかえられてる状態ではまともに戦えないだろう。
とてもリーファだけで相手できる数には見えない。
しかし、四人には焦っている様子は全くない。
「レイン」
早くも剣を抜いたレインにキリトが声をかける。
「いいぞ」
二人が交わす言葉は最小限だったが、アインクラッドからの付き合いである二人は言葉がなくても特に問題はない。
相手が何をどうするのか、大体わかるのだ。
それに、四人が飛行しているときに敵と遭遇するのはこれがはじめてというわけでもない。
現にリーファは今から行われようとしているもはやチートにしか見えないそれをじっとりとした目でぼんやりと見る。
そんなリーファの視線に気付くことなく、キリトとレインは行動をおこす。
抱えていたレインをキリトは何のためらいもなく離し、落下するレインは剣を握っていないほうの手をキリトに伸ばした。
その手を両手でしっかりと握ったキリトは力任せにレインを上に向かってぶん投げる。
キリト達よりも上に投げ出されたレインは空を飛べないにも関わらず、器用に空中で体をひねって体勢を整え、剣を構えて遠隔攻撃のモーションを起こす。
静まり返っているその場にレインが剣を振る音が鳴り、しばらくすると斬撃の直線状にいた飛行型モンスターの二体がパーティクルになって四散した。
もちろん、レインがそこで終わるはずもなく、剣を振る勢いも使って空中で体を回転させながら器用に残りの敵を殲滅するために剣を振るう。
その姿は本当に空を飛べないのかと疑うほど、鮮やかなものだった。
レインが鞘に剣を収めると同時に進行方向にいた敵モンスターは何をしたわけでもないのに全てパーティクルになってしまう。
落下を始めたレインをみて、背中についている羽に飛ぶ機能はないということを思い出してキリトがレインを受け止める。
「お疲れ」
「ずっとお前に運んでもらっているだけなのも申し訳ないしな。これぐらいはする」
さらっとそんなことを言うレインは自身がとんでもないことをしている自覚はないようだった。
まあ、どスキル性のMMOということもあり、技術はこの世界の誰よりもあるであろうレインなのだからむしろできて当たり前ということなのかもしれない。
「でも、そろそろ休憩、っていうか落ちないといけないかな。リアルは夜中になるし」
グランドクエストに関わるNPCだから、という理由でレインの規格外な強さに疑問を抱いていないリーファが二人に向かって告げる。
タイミングよく、近くに村のようなものも見えてきた。
「あそこに見える村に行こう」
リーファの言葉にレインとキリトはこくりとうなずいた。
ユイもリーファの頭の上でうなずく。
そうして四人は特に警戒することなく、地面に降り立とう体勢を整えたあたりで、レインが声を荒げた。
「まてっ!」
突然のことにキリトとリーファは止まったが、すでに遅く、村だとおもっていたそれは四人を飲み込むためにこちらに口を開けていた。
四人を村に擬態していたモンスターが吸い込む風を襲う。
「きゃっ!」
レインを抱えてはいたが、かろうじて抜け出せそうだったキリトの耳に小さな叫び声が聞こえた。
その声がユイだとわかると同時にキリトは思い切りレインに突き飛ばされる。
「ユイ!」
普段、冷静なレインからは想像もできないほど慌てた様子でモンスターに吸い込まれるユイに向かって飛び込んだ彼にキリトは戸惑い、一瞬動きを止めたが、すぐに我に返った。
「くそっ!リーファ!飛び込むぞ!」
「わかった!」
この中に飛び込んで生きて帰って来れる保証はない。
それでも二人は迷うことなく、開かれる口に向かって飛び込んだ。
◆
目の前の小さな少女が、将来を誓い合った人と重なる。
自分の死が近づいているはずなのに逃げてと叫んだ少女と、自分のことよりもレインのことを助けようとした少女の姿と重なる。
これで何度目になるだろうかと、思うこともなくレインはキリトの手から無理矢理抜け出してユイに向かって手を伸ばしていた。
ユイはフィーネと違うと分かりきっているくせに、反応してしまう自分に対して呆れつつも小さなユイを両手で包んだままレインはモンスターの体内に抵抗することもなく吸い込まれる。
モンスターの体内に入り、おそらく食道と言われる器官をずるずると移動させられながら、元の世界も含めて今まで魔獣などに食べられたことはなかったので、新鮮な体験をしているな、とすでに冷静に戻ったレインはどこか他人事のように思う。
剣で切り裂いて抜け出すことも考えたが、両手はユイは抱えているので塞がっている。
体内でも広い場所に出ればなにかしらできるのだが、と思いながらも、レインは窮屈な体内をずるずると移動させられ続ける。
レインはユイを抱えたままただ、ぬるぬると気持ち悪い感触が続き、突然広い空間に放り出された。
突然開けた視界に動揺することなく、そこが体内ではなく外だと気がついたレインはすぐに体勢を整える。
それなりの高さからの落下ではあるが、アインクラッドで一番最初に落下した時と、少し前にキリトから降りた時と比べると低く、地面も雪が積もっているので問題はないだろう。
レインは吸い込まれるように積もっている雪に突っ込んだ。
ぼふっという音と共にレインは頭の先まで雪に沈んだ。雪に穴が空いただけで上から雪が覆い被さら無かったのは不幸中の幸いだろう。
仮想世界ということで、水の表現が難しいと教えられたことがあったが、雪も同じらしくどこか違和感のある感触に包まれる。
「ユイ、大丈夫か?」
さすがに両手が塞がっていては上に這い上がることができない。
「レインが守ってくれたので大丈夫です」
手の中からひょこっと頭を出したユイにほっと胸をなで下ろす。
自分が無事なのだからユイも無事なのは当たり前なのだが。
手を上に伸ばしてユイに先に雪の中から抜け出してもらい、レインも難なく雪の中から這い出た。
大して雪が身体につもっているわけでもないが、思わずはらってしまっていると、短い叫び声が二つと何かが落ちる音が二つ背後で聞こえる。
それがなんなのか予想せずともわかったレインは顔に不機嫌を貼り付けて振り向いた。
「ぷはっ!」
可愛らしい声で雪に埋まってしまっていたらしい頭を引き抜いたリーファとおそらくそれはキリトが作ったので あろう見事な人形の雪穴がレインの背後にあった。
小さくため息をついて、声をかけるでもなくレインは二人を静かに見据える。
ようやくその様子のレインに気がついたらしいリーファがほっとため息をついた。
「無事でよかった~」
そんなリーファ自身のことを考えていないセリフにレインは思わず反応してしまう。
「無事でよかったじゃない。俺は死なないから問題はないが、お前たちはHPがなくなればセーブとかいうので記録したところに戻るんだろう。俺のことなんか放っておいてお前たちは先に――」
「放っておけるわけないじゃない!」
レインが全てを言い終わる前にリーファは力いっぱい叫んでいた。
元々強気な少女だとは思っていたが、もう我慢できないといわんばかりにこちらを睨んできているリーファに眉をひそめた。
その様子から怒っているのはわかるが、何に対して怒っているのかさっぱりわからない。
「リーファの言うとおりだ」
いつの間にか雪の中から這い出たらしいキリトがリーファの隣に並んだ。
いまだに何に怒られているのかわからないレインは罰が悪そうに頭をかき、何もいえないでいるとキリトは小さくため息をついた。
「まあ、レインが変わるとも思ってないけど。リーファが怒ってる理由も分かってないと思う」
あきれながらそういうキリトは苦笑してリーファを見た。
リーファはしばらく膨れっ面のままだったが、レインの様子がまったく変わらないのを見てあきらめたのか、小さくため息をついて全身から力を抜いた。
「本当にわかってないみたいだし、とりあえずここから出ることを考えましょ」
「え?あ、わかった」
急速に変化する二人の様子にレインはついていけず、柄にもなく戸惑ってしまう。
そんなレインの頬にユイが手を触れてレインに向かって微笑む。
自分だけが置いていかれている感覚にレインは不思議と嫌なものはなく、困ったように苦笑いをしてしまう自分がいた。
今回は短めです
そして、
次までしばらく空きます!!!
申し訳ないです!!!
怠惰の極みで許容範囲内までのんびり仕事しながら
こちらをがんばって仕上げていきたいとおもいます><