ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~ 作:モフノリ
キリトとアスナは叫びながら敏捷パラメーターで出せる限りのスピードで走っていた。
なぜ二人がパーティーを組んで最前線の迷宮区で走っているのかといわれると、それは前日にさかのぼる。
ことの始まりはどこかといわれると、キリトがラグーラビットの肉をドロップさせたところだろう。
料理スキルを持っているわけでもないので、装備品を新調したかったし、と自分に言い訳してエギルの店に売りに言ったのだが、そこにアスナがやってきた。
アスナは最強ギルド《血盟騎士団》の副団長で、閃光という二つ名を持つほどの実力ある女性プレイヤーなのだが、料理スキルといういわば趣味スキルを上げている奇特な人物だ。
そんな彼女にラグーラビットの肉を半分あげる代わりに料理してうことになり、アスナの部屋に招待され緊張したのだが、なんやかんやで理由をつけられてパーティーを組むことになった。
最前線の主街区でクラディールとのひと悶着があった以外は特に無く、実力のある二人だったので順調に攻略が進み、ボス部屋を見つけることができた。
少し様子を見ようということになり、転移結晶も準備して扉を開けると、グリームアイズという悪魔型のモンスターが出現した瞬間、二人は叫びながら走り出して現在にいたる、というわけだ。
結局、安全地帯まで走ってきた二人は壁にもたれて座りこんでいた。
あれやこれやと会話をし、盾を持っていないことを突っ込まれたひやりとしたが、どうにかごまかせたようでアスナお手製のお昼ご飯を食べる。
「うまい!」
あまりのおいしさにキリトは大きく口をあけて頬張る。
すぐに食べ終わってしまってもったいないことをしてしまったかもしれないと思ってしまう。
「しかし、この味どうやって?」
キリトがそういうと、アスナは自慢げに胸を張った。
「長年の研究と研鑽の成果よ。アインクラッドで手に入る約百種類の調味料が味覚エンジンに与えるパラメータを解析して、これを作ったの」
あっさりとそんなことを言うアスナに思わず言葉を失う。
「これ、なめてみて」
小さなビンを差し出されたので手を出すと、そこになにやら緑色の液体が落とされる。
見た目は調味料というより健康飲料感があるが、意を決してそれをなめてみる。
「?! しょうゆだ!!」
のんびりと過ごしていると、キリトの索敵スキルに反応がでて安全地帯に集団がやってくる。
あわてて身構えると、そこには見知った顔があった。
「おお!キリト!しばらくだな」
どこか嬉しそうにこちらを見つけたクラインがやってくる。
「よお、クライン。久しぶり」
「お前が誰かと一緒なんて――」
そこでクラインの言葉が止まる。
キリトはとくに気にすることなく、二人の紹介をする。
「攻略で、なんどか顔を合わせてると思うけど紹介しておくよ。こいつはギルド、風林火山のクライン。それでこっちが血盟騎士団副団長のアスナで・・・クライン?」
ようやくクラインが固まってしまっていることに気がついたキリトはクラインの顔を覗き込む。
「おい、クライン?ラグってんのか?」
声をかけても反応がないので今度は何度か顔の前で手を降ってみると、突然クラインは手を差し出して、緊張したように喋りだした。
「クライン、二十四歳、独身、仕事は――ぐはっ」
とんでもないことを口走り始めたので思わずキリトはクラインの腹に拳をめり込ませた。
といっても、アンチクリミナルコードが反応しない程度にではあるが。
「「「「リーダー!!」」」」
仲間思いな風林火山のメンバーがキリトに近づき、乱闘が始まるかと思ったが、全員がアスナに声をかけ始めた。
それをあわててキリトが抑える。
「根は悪い奴らじゃないからさ」
なんだがごちゃごちゃし始めてしまったものの、あわててフォローをいれたのにもかかわらず、キリトの足をクラインが踏みつけた。
「いでっ!クライン?!」
「へへ、お返しだ」
その様子にアスナがくすくすと笑う。
そんなときに、風林火山のメンバーたちをどうにか抑え込んでいたキリトの視界に黒いものがちらついた。
堂々と歩いているくせに、物音を立てず歩き、誰にも気付かれずにキリトたちのいる安全地帯を横切っていくそれが何か気付いたキリトは風林火山のメンバーを押しのけてその黒い何かに向かって駆け出した。
何度目になるか分からないデジャヴを感じながらも黒いなにかにすばやく近づいて腕をつかもうと手を伸ばした。
が、キリトがいることをわかっているその人物を簡単につかめるわけもなく、伸ばした手がつかんだのは空気だった。
「ちっ」
その黒い人物はキリトがつかむもうと伸ばした手を見事にかわしているくせに舌打ちをする。
舌打ちをしたいのはこっちだとおもうキリトの後ろではクラインがあきれたようにまたかとため息をついていた。
そして、その黒い人物であるレインはまるで何事も無かったかのように声をかけてきた。
「お前がこの時間帯にいるのは珍しな。キリト」
「もしかして、俺が迷宮区にいる時間まで考えて攻略してるわけじゃないだろうな」
私不機嫌なんです、といわんばかりの表情の全身黒ずくめの男――レインをつかみ損ねたキリトは空気をつかんだ手をごまかすように頭をかいた。
当のレインはというとそっぽを向いて返事をしない。
どうやらその”もしかして”だったらしい。
その反応に思わず無言になってしまう。
「そんなことより、お前はもうボス部屋見つけたのか?」
思い出したように聞いてきたレインはなんでもないようなことを言うように聞いてくる。
その問いにキリトはどや顔で答える。
「さっき見つけたところだ。残念だったな」
「くそ、ここの敵がいい練習台になるからと一日先延ばしにしたのが裏目にでたか」
「おい、まさか――」
「えっと、キリト君?」
すっかり忘れていたアスナの存在を思い出したキリトはしまったとおもう。
いつの間にか後ろに来ていたアスナをみると、彼を紹介してくれないかという顔をしている。
「レインはアスナと会うのは初めてだよな。たまに話に上げてた閃光のアスナだ」
肩書きを気にしないレインに対しては血盟騎士団の副団長だという説明は省いた。
「で、この無愛想なやつは・・・・・」
すでにいろいろ聞いてしまっているキリトがどう説明しようかとあたふたしていると、レイン自身が答えてくれた。
「レインだ」
「えっと・・・・・・」
あまりにもなにも説明をしないレインに思わずため息がでるキリトだったが、クラインたち風林火山も同じ気持ちだったようで全員がため息をついていたのをみて、自分がおかしくないということを再確認する。
全ての状況に取り残されたアスナは戸惑うことしかできないが、仕方ないだろう。
「あぁ・・・・・・こいつ、極度の人見知りでさ。あまり目立ちたくないからボス戦には参加してないんだけど、迷宮区は攻略してるんだ」
仕方なく適当な説明したキリトだったが、レインからは軽く睨まれる。
おそらくではあるが、極度の人見知りということに反応しているのだろうと、すでにレインに振り回されまくっているキリトにはなんとなく察することができた。
そして、レインが黙っているわけもなく
「適当なことを言うな。目立った行動をするなって言ったのはお前だろう」
「おまえそこは話あわせとけよ」
「なぜ俺があわせないといけないんだ」
「じゃあお前はなんて説明する気だったんだよ」
「別に説明する必要も大して無いだろ」
「あるに決まってるからな?!」
「俺の事情とかを話すなって言ったのはお前だろうが」
「話せるような事情を一切持ち合わせてないお前が悪いんだよ」
「俺は別に隠そうとはおもってない」
「隠せ馬鹿」
いつものようにレインとキリトの言い合いが始まる。
それはレインがいつものように無茶をして、それをキリトがいつものように止めているからだけなのだが、クラインからすればこれはお約束のようなものになっている。
それに、こういう状況でなければ二人は非常に会話が弾む。主に剣についてというあたり、やはり似たもの同士なのだろう。
いつも飄々としているキリトが騒ぎまくっているという状況についていけないアスナは爆弾を投下する。
「えっと・・・・・・キリト君のお兄さん?」
「違う!」
「違う」
見た目が黒ずくめで身長以外は似ている二人が同時にそう叫ぶ様は、兄弟にしか見えなかった。
まことに遺憾であるといわんばかりにキリトがむすっとした顔で続ける。
「言っておくけど、下手したらレインのほうが俺より年下だからな」
「嘘だろ?!」
「まさか?!」
全員に疑いの目を向けられたキリトはさらにしかめっ面になった。
確かにレインのほうが身長が高いし、自分も最初は二十歳前後だとおもったしと、もやもやとおもい始めてしまう。
「俺からも言わせてもらうが、こいつと出会ったのはこの仮想世界に来てからだからな」
レインもぶすりと否定する。
レインの言っている十五歳というのも結局のところ、この世界に来た時の年齢なので日数的には十六歳といってもいいのだが、考えるのも面倒でレインは十五歳で通しているに過ぎない。
「まあ、たしかに二人のやり取り見てたらレインのが弟だわな。俺としちゃあ双子だが」
「クラインさんもこの人と知り合いなんですか?」
一人だけ仲間はずれにされている感覚に思わずアスナはむすっとした。
それにいち早く反応したのは意外にもレインだった。
「雑な説明になってすまなかった。俺が最前線にやって来たのは少し前のことでな。ずっとソロでやってきたというのもあってまともに連携が取れるのはキリトぐらいなんだ。そんな状態でいきなりボス戦に混ざるのもと思ってな。迷宮区のマッピングの手伝いだけさせて貰ってるんだ」
一見まともそうに聞こえる説明にキリトがまともじゃないことを付けくわえる。
「ボス部屋の情報もってても絶対に公開しないけどな」
「え、なんで?」
「ソロでボスに挑むつもりだからだよ。こいつの事情知ってる人たちとの約束で、レインがボス部屋を見つけた二日後の朝までに他の人が見つけられなかったらこいつは一人でボス戦することになってる」
呆れながらそう言ったキリトの胸ぐらをアスナが掴んだ。
「どういうこと?!なんでそんなこと許してるのよ!!」
まあ、当たり前の反応だろう。
などと、揺さぶられながら何も考えずに言ってしまったキリトはぼんやりと思っただけだった。
どう説明したらいいのかと思ってしまう。
この約束は、キリトとアルゴ、それからクラインの三人がレインに対して出した条件だった。
レインは傷を負えば痛みを感じる現実世界で命をかけてきた戦士だということを知った三人はレインの数値では表すことの出来ない強さを認めざるを得なかった。
この話が持ち上がった頃にはすでにレインのレベルは本来の安全マージンの状態になっていたこともあり、本当はやめて欲しいところを三人が妥協して出している。
が、そんなことをしらないアスナに説明するのは難しい。
ぐるぐるとキリトが揺さぶられながら悩んでいると、レインが口を開いた。
「俺がこの世界でたくさんの人を殺しているからだ」
そう言った瞬間、アスナの動きが止まった。
その殺してきているのはレッドプレイヤーだけだということも、戦う気力を無くしたものは牢獄送りにしている事も知っているキリト達からすれば、その行為は決して咎められるものでは無い。
むしろ、キリト達が出来ないことを彼は代わりにしてくれているのだ。
そして、本来の理由とは全く違う。
しかし、なにもしらないアスナはレイピアに手をかけようとした。
慌ててキリトがそれを止める。
「まてアスナ。レインも説明が足らなさすぎる」
先程までふざけた空気が漂っていたにも関わらず、今は緊張で張り詰めている。
レインはその中でも更に空気を冷たくしていった。
「説明もなにも事実だろう」
「レイン!」
たまにレインはこのようにわざと自分が悪人になるようなことをする。
最初に出会った時もそうだ。
自分が邪魔だと思った瞬間、躊躇うことなく自分を捨てていけと言った。
自分が心配されているとわかった瞬間、人が離れる様なことを言った。
今はなぜ、自分が悪人になるような事を言っているのかキリトには分からなかったが、レインと一番長い付き合いの自分がどうにかするしかないと、どうにか誤解をとこうと頭をフル回転させる。
しかし、そんな必要もなく、アスナはあっさりと緊張をといてため息をついた。
「キリト君やクラインさんたちが仲良くしてる人ってことはなにか事情があるんでしょ?」
アスナの意外な反応に全員が固まった。
「な、何よその反応」
「い、いやなんで簡単に許してくれるのかな、と」
恐る恐るという様子でキリトが聞くと、アスナはまたむすっとした。
「言っときますけど許したわけじゃないからね。ただ、なにか事情があるのはわかったから。それに」
言葉を止めてアスナはちらりとレインを見る。
レインは何故だという表情をしている。
それを見たアスナはくすりと笑う。
「なんとなくね」
全く理由になっていない理由をアスナが言ったのだが、笑顔で言われてしまったせいで誰も何も言えなくなってしまった。
しばらく呆けたキリトだったが、せめてレインが人を殺したことに関しての説明はしようと口を開いた。
「えっと、さっきレインが人を殺したって話なんだが、アスナも知らないわけじゃないんだ」
「おい、キリト」
レインが止めようとしてくるが気にすることなく話を進める。
「ラフコフ討伐の時にアスナもこいつを見てるはずだ」
キリトがそう言った瞬間に、アスナは勢いよくレインの顔を見た。
目をこれでもかという程にレインを見る。
レインは居心地悪そうに目をそらした。
「たしかにあの時の人も真っ黒の服だったけど」
言葉を詰まらせたアスナが言いたいのは、あの時の人物と空気が違いすぎると言いたいのだろう。
「俺がレインって呼んで呼び止めてただろ」
「た、確かに」
アスナはまじまじとレインをみる。
耐えかねたらしいレインは小さくため息をついて、ちゃんと説明し始めた。
「俺はこの世界のレッドプレイヤーみたいなクズが嫌いなんだ。最近、謎のPKKって言われてるのも俺らしい。現実世界で色々あってっていうのもあるんだが、この仮想世界でも知人が狙われた事があってな。人を殺すことに対して俺は躊躇うという気持ちはないんだ」
どこか悲しそうな響きに、レインの本当の本性がちらりと顔を覗く。
どこか気まずい空気になってしまったのをアスナが気を使って話題を戻す。
「とりあえず、レインさんがまだボス戦を一人でしてないってことは、その約束の日数までに私たちがボス部屋見つけれたってことよね?」
「呼び捨てでいい。残念だが俺がボス部屋を見つけたのは一昨日の朝だ。本当だったら今朝にボス戦ができたんだが、ここの迷宮区のモンスターはいい練習相手になるし、剣の強化をしてからにしたくてな。昨日素材集めをして、今は剣と素材を知り合いの鍛冶屋に預けて強化してもらっているところだ」
そういえばと、キリトはレインを見た。
腰には片手剣はなく、ドロップ品である木製の槍を担いでいた。
「強化を待てばよかったのに」
メインアーム以外で戦場に出るのは死にに行くようなものなので、普通は強化を目の前でしてもらうものだ。
にもかかわらず、目の前のレインはキリトが知らないところで得た知識をつかってどこかで手に入れてきたルインソーサリーというごつい剣を持っていないという。
普通であれば怒るところなのかもしれないが、レインだからという理由で細かいことはもうどうでも良くなってしまっている。
「かなりの数の強化をやってもらうから、空き時間に使ってみたかった槍の練習とおもってな。それに、無茶言ってるのもわかってるから、今晩はなにか奢ってやるために金も稼ぎに来た」
槍の練習を最前線でやるのか。
おそらくここにいる全員が思ったことだろう。
初めてレインとまともに会ったアスナも、目の前にいる男は違う次元にいるというのをラフコフの件もあり、瞬時に理解してしまったため、口を挟むことはなかった。
「ボスの動きを見るために今朝一度だけ入ったんだかな、強化することにして正解だったよ」
「あのボスを見たのか?!」
さらりととんでもないことをいうレインにキリトは反応した。
メインアームでもないそのへんのドロップ品の槍を持って偵察をするという根性はどこから来るんだろうかと思ってしまう。
「見たぞ。少しの時間だが観察したんだが、あれば攻撃力がかなり高いな。スピードはどうにかなりそうだが、俺の筋力値のことを考えると体術スキルで弾くか剣でいなすのが精一杯って感じだったな。うまくよけれればいなす必要性はないんだが」
すでにレインの頭の中ではあのボスとの戦い方がシミュレーションされているようだった。
「レインはその、あのボス見ても怖くないの?」
恐る恐るという感じでアスナが聞く。
アスナとキリトも、二人だったということもあってちらりとボスを見ることにしたが、二人して叫んで逃げるほどの威圧感だった。
レイドを組んで対峙すればそんなことは無いだろうが、トッププレイヤーの中でも強いと言われている二人が一緒でも怖かったのだ。
たった一人で立ち向かう根性は二人共持ち合わせていない。
レインはいつもの調子で余裕だと返してくるのかと思いきや一瞬瞳を揺らした後、目を細めた。
「俺はある出来事のせいで恐怖という感情が焼き切れててな。怖さは何も感じないんだ」
そう言ったレインの瞳には何か違うものがうつっているようにキリトにはみえた。
それが何なのかレインに聞こうとしたが、全員の耳にガシャガシャという音が聞こえてきた。
安全地帯言うのに全員が身構えてそちらをみる。
「軍だわ」
二十人が同じ装備で隊列を組んだ軍といわれる大一層を支配しているギルドのメンバーがぞろぞろとやってきた。
「全員休め!」
軍は二十五層で被害を受けてから前線には来ていなかった。
そんな彼らが久しぶりにやってきたせいで、軍の人たちはかなり疲れているように見える。
全員がリーダーが休憩の合図をした瞬間にその場にへたり込む。
リーダーがこちらに向かってきたので、キリトが代表して前に出た。
「アインクラット解放軍、中佐のコーバッツだ」
「キリト、ソロだ」
キリトの後ろではレインとクラインがこそこそとしゃべっているのが聞こえる。
レインが軍という存在をクラインに聞いているようだった。
軍を知らないということに目の前のコーバッツが何か言ってこないかと不安になったが、意外にもそんなことはないようだった。
もしかしたら睨み付けていたりしたのかもしれないが、ヘルメットをかぶっているせいで全く見えないのでキリトからすれば関係ない。
「君たちはどこまでマッピングが終わってるんだね?」
「一応ボス部屋まですんでるけど・・・・・・」
「ならばこちらに提供してもらおう」
あまりにも自分中心的な意見に癪に障る。
それはキリトだけだったわけではないようで、それまでレインに軍について教えていたクラインが声を上げた。
「お前、マッピングがどれだけ大変な作業かわかっていってるのか?」
「俺たちには!アインクラッドに囚われた人々を救う義務がある!それに一般人も協力して当たり前のことだ」
「ふっ」
レインが鼻で笑う声が聞こえてキリトは頭を抱えたくなった。
今まで前線に来ていなかったやつらが何を言っているんだと、キリトもおもわなかったわけではない。
しかし、そんなことを言ってもただのトラブルになってさらに面倒になることは目に見えているので、耐えたのだ。
それをレインはあっさりとしてしまう。
「貴様!何を笑う!」
まあそうなるだろう。
怒り出すコーバッツをみてそう思うことしかできなかった。
むしろ、他のことを何も考えたくないというのが正しい。
「何を笑うって、びびって今まで表に出なかったやつが急に出てきたくせに威張っているのが面白くてな」
今まで軍のことを知らなかっただろ!
と、突っ込みたくなるがここはぐっとこらえる。
「我々は怖気づいて前線に来なかったのではない!人々の治安を――」
「人に物を頼む態度もまともじゃないやつが一体何を言っている。それに、自分の兵の状況すらまともに判断できないやつが隊長の時点でお前たちは人の上に立つべき存在じゃない。お前のようなプライドだけが高い馬鹿は一度最初から人生をやり直してこい」
ふてぶてしさ極まりない態度で言うレインに誰も何も言えなくなる。
コーバッツはあまりの怒りでなのか、小さく震えている。
嫌な空気が流れるなかで、どうにかキリトが口を開いた。
「まあ、俺はマップで稼ぐつもりもないし、街に戻ったら公開する予定だったから渡すよ」
「協力感謝する」
明らかに怒りをはらんだ声だったが、そこは抑えることができたようでそれ以上は何もいわなかった。
先ほどの態度をみて、レインのようにいきなりボスに行ってしまわないだろうかと不安になってくる。
「さっきボスの様子を見たけど、ちょっかいは出さないほうがいいと思うぜ。あんたの仲間たちも疲れてるみたいだし」
「私の部下たちは疲れてなどいない!」
キリトがしまったと思ったときにはすでにおそかった。
「お前たち!先に進むぞ!立て!」
キリトたちが無言で見守るなか、コーバッツ達は先に進んでいった。
「・・・・・・追いかけるか」
特に考えるわけでもなくキリトの口から言葉が出ていた。
はっとしてクラインたちをみるとニヤニヤとしていたので、むすっとしてしまう。
「レインはどうする?」
視線を自分から逸らすためにレインに声をかけると、レインは相変わらず特に表情に変化は見えなかったが、小さくため息をついた。
「あそこまで単細胞だとは思わなかった」
そういってレインはコーバッツたちが向かったほうに歩き出した。
どうやらレインも軍の人たちを一緒に追いかけてくれるらしい。
結局のところ、彼もお人よしなのだ。
「よし、なら久しぶりに連携しようぜ」
「今の俺がつかってるのは槍だぞ?」
「ならなおさらだ」
「・・・・・・足を引っ張るなよ」
「お前こそ」
久しぶりにレインと連携を組めることにすこし喜んでいるキリトは、そのときにクラインとアスナが自分についてなにやら話していることを知ることはなかった。
アインクラッド編の最終話を書きながら投稿し始めました。
最終話まで平日で連続投稿できればいいなと思っていますが
最終話だけ遅れるかもしれません。
最後になりましたが、いつも読んでいただきありがとうございます。
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