ソードアート・オンライン~知られざる天才剣士~ 作:モフノリ
※あとがきに挿絵あります
クラインは風林火山のメンバーと共に最前線の迷宮区の奥深くまで来ていた。
おそらくもうすぐボス部屋が見つかるであろうところまで来ているので、風林火山のメンバーはどことなく緊張している。
そんな彼らの目の前にボス部屋の扉が姿を現したとき、さらに緊張が走った。
ギルドマスターであるクラインもその例外ではなかったが、扉の目の前に立つ黒ずくめの男が視界に入った途端、どこかほっとしたような感覚を襲う。
最前線で見る黒ずくめといえばキリトしかいない。
声をかけようと口をあけたクラインは、少しの違和感にあけた口を閉じた。
ボス部屋の扉を見上げている黒ずくめがキリトにしては身長が高いということに気がついたのだ。
「おい、あいつ誰だ?」
「え?キリトさんじゃないんすか?」
「ばかやろう。キリトはもっとちっさいだろう」
「たしかに」
「じゃあ別人っすかね?」
「シークレットブーツみたいなアイテムでも使ってるとか」
キリトに対してかなり失礼な会話を繰り広げる風林火山のメンバーだったが、その謎の男がボス部屋の扉に手をかけて、開けようとしているの見て、全員がぎょっとする。
クラインが止めるために駆け出そうとした瞬間、その横を黒い何かが猛スピードで駆け抜けた。
「な、なんだ?」
その黒い何かが近づいていることに気がついた様子の謎の男は急いで中に入ろうとしたが、黒い何かがぎりぎりのところで腕をつかんで止めることに成功していた。
無謀な行為が止められたことにクラインはほっと息をつく。
が、謎の黒ずくめと黒い何かが何やら言い合いを始めたようで、げんなりとしてしまう。
「邪魔をするな」
「邪魔をするな、じゃないから!なに無謀なことしようとしてんだよ!」
「無謀じゃないぞ。すでに一回は様子見をした」
「すでに一回はって何してんだよ!」
「無茶はするなといったのはお前だろう」
「ボスに一人で挑もうとしてる時点で無茶だから!」
「無茶じゃない。装備だって見直してきたし、武器だってちゃんと調整もしてきた」
「そういう問題じゃないから!」
「ならどういう問題だ」
終わる気配のない言い合いに思わずため息が出る。
クラインだけではなく、他のギルドメンバーもげんなりとしていた。
「まてまて、お二人さん。ちょっと落ち着け」
「落ち着いていられえるか!」
「落ち着いている」
そんな二人の反応に思わずクラインは笑ってしまう。
「お前ら兄弟なのか?キリト」
後からやってきた黒い何か――キリトにそういうと、当の本人は心底嫌そうな顔をした。
最初からいた黒ずくめは邪魔をされて不機嫌なのがひしひしと伝わってくるほどむすっとした顔をしている。
「で、一体どういう状況なんだ?」
「この馬鹿が一人でボス攻略しようとしてんだよ」
「馬鹿とは何だ」
「それは馬鹿だな」
「お前まで」
「むしろ大馬鹿野郎だ」
クラインとキリトの言い草に言い返せなくなった黒ずくめは盛大に顔をしかめて何も言わなくなってしまった。
「で、キリト、こいつは誰なんだ?」
「あ?ああ。すまなかった。こいつは・・・・・・」
なぜか口ごもったキリトに変わって本人が答えた。
「俺はレインだ。少し前にキリトに世話になってな。ボス攻略には参加することはないんだが、迷宮の攻略はさせてもらっている」
「単身でボス戦しようとしてたくせに」
ぼそりとつぶやくキリトをみるに、レインに苦労させられるのは今回だけではないらしいのはなんとなく察することができた。
「クラインだ。キリトとは最初の頃からの知り合いだったんだが、はじめてみる顔だな」
「こっちにもいろいろ事情があるんだよ。っていうか忘れたのかクライン。一度こいつのこと見たことあるだろ」
キリトの言葉をきいて首をかしげながらレインの顔をじっくりと見てみる。
嫌がらせかと思うほどのイケメンなど見たら忘れることはないと思うのだが、と思いながらもクラインはしばらく記憶を探ったが思い出せなかった。
しばらく考えても思い出せそうにないクラインはキリトを見て催促する。
あきれたキリトはげんなりとしながら教えた。
「ほら、ラフコフ討伐のときにいたやつだよ」
それをきいたぐらいはぎょっとした様子でもう一度レインを見た。
レインはかなり迷惑そうな表情だったが、気にすることなくクラインはレインを見る。
むすっとしたレインをクラインはぼけっとそのまま見ていた。
「鬱陶しい」
男にはとことん優しくないレインは遠慮なくクラインに蹴りを入れた。
もちろん、圏外なのでそんなに強くはない。
圏内だったら吹き飛ばしていただろう。
「いでっ」
「あーもう。とりあえずここにいたらいつレインがボス部屋に入っていかないかって心配だからすぐそこの安地行こうぜ」
すでにどこか疲れているキリトがレインの腕を掴んて引っ張りながら安全地帯に向かう。
「おい、引っ張るな」
「じゃないとお前行くだろ」
「そのために今日は迷宮区に来たんだから当たり前だろ」
「当たり前だろって当然のことのように言うな!このバトルジャンキーが!」
「お前も人のことを言えないだろう」
「レインよりはマシだ!」
筋力パラメータはキリトのほうが上のようで、嫌がるレインをズルズルと引っ張っていく。
それは周りから見れば兄弟にしか見えなかった。
◆
結局、風林火山のメンバーと二人は迷宮区にいてはレインがボス部屋に行ってしまわないかとキリトが落ち着かなかったので、迷宮区から主街区まで返ってきていた。
風林火山のメンバーのクライン以外は大勢いても話が進まないということで帰ってもらっている。
残されたクラインはというと、ぎゃーぎゃーと言い合うキリトとレインから事情を聞くために、二人に付き添ってアルゲードまで来ていた。
「で、どこで話すんだ?」
「そーだな。行きつけの酒場があるからそこでいいか?」
アルゲードを住処にしているキリトがそう言うと、レインは怪訝な顔をした。
「もしかして、あの酒場か?」
その質問にキリトはにやりと笑うだけだったが、その時点でクラインは嫌な予感しかしていない。
しかし、クラインはアルゲードに詳しいわけでもないので従うしかなかった。
鼻歌でも歌いだしそうなキリトとどこがげんなりとしているレインの後ろをクラインはぼけっとしながらついて行く。
しばらくして三人はいかにも怪しげな店の前についた。
「まさかここじゃねぇだろうな・・・・・・」
「そのまさかだ」
にやりと笑いながらキリトは中に入っていく。
レインもげんなりとしながらではあるが、キリトの後に続いて入っていったのでクラインも戸惑いながらも中に入った。
内装は、外装のごちゃごちゃとしたどこかの民族を彷彿とさせたものよりかはすっきりとしていた。
それでも、今までクラインが見てきた酒場の中でも一番奇抜だった。
アルゲードの入り組んだ小道を通ってきたうえに、こんなにも怪しげな店に入る人などいないようで、他に客は見当たらなかった。
キリトは特に気にした様子でもなく、そこが自分の特等席といわんばかりに慣れたように隅のほうの四人席に座った。
特に気にすることなくレインはキリトの前に座る。
やっぱり兄弟にしか見えないなとおもいながらキリトの隣にクラインが座ったのは、ラフコフのときにみたレインを思い出したからだろう。
今のレインからは全くあのときの威圧感を感じることはないが、それでもやはり近寄りがたいところがあるのだ。
時刻はすでに夕方で晩御飯を食べるのには丁度いい時間になっている。
「エール一つとピリ辛シチュー一つで」
キリトが慣れた調子で注文をする。
そのときに盛大にレインは顔をしかめていたのだが、メニューを見ていたクラインは気付くことができなかった。
「じゃあ俺もエール一つとピリ辛シチュー一つ」
「おっ」
「えっ」
「ん?」
へんな空気が流れたが、レインが咳払いをして注文をしだす。
その量は晩御飯にしてはかなりの量で、クラインは呆けて口をあけたままレインをみることしかできなかった。
「あと、ミルク」
その締めがミルク。
キリトはまたか、いわんばかりの表情だったが、はじめてのクラインが変な顔になってしまうのは仕方がないだろう。
レインは特に気にすることなかった。
その後、持ってこられたピリ辛シチューという名前の癖に激辛カレーでクラインが涙を浮かべながら食べきる間に、辛い料理がほとんどのこの店でも数少ないまともな料理を頼んでいたレインががつがつと食べていたのはちょっとした小話だ。
「さて、やっと食い終わったし、説明してくれよ」
やっとしゃべれるようになったクラインが待ってましたといわんばかりに口を開く。
「ぶっちゃけ、俺もこいつに関しては戦闘狂ってことぐらいしかしらないからな」
キリトは両手をあげて自分から説明できることはないことを伝える。
実際、レインが異邦人だというのは口止めのためにアルゴに教えた以外に教えたことはない。
あの時、きちんと契約を守ってくれたことには感謝しているが、あの後にアルゴにこれでもかというほど怒られ、やたらと高いケーキを奢らされたのは不服だった。
さらにいえば、ラフコフのときの事情をキリトに聞かれたときにアルゴにそんな話をしていたことを伝えると、さらに怒られた。
そのときにはなんと言って口止めしてもらっていたかは伝えていない。
アルゴもどれだけ聞いても言わないようにしてくれているらしい。
少し悩む。
キリトは無茶だといってよくレインの行動をよく止めてくることが多い。
ステ振りを途中で止めているレインでは日々強くなっていくキリトの筋力値には勝つことができず、引きずられて迷宮から連れ帰らされたのは今回が初めてではない。
邪魔をされないためにも話すべきか。
しばらくレインは考えた。
その間にここ最近、レッドプレイヤーやオレンジプレイヤーを次々に牢獄送りにしていた謎のPKKがレインだったという話をしたりしていたが、レインにとっては些細なことでしかない。
「お前たちは、口が堅いか?」
突然口を開いたレインに驚きつつも、キリトとクラインはしばらく固まった。
「誰にも言わないことと、これからは俺の邪魔をしないっていうならアルゴの口止めに使った俺のことを言ってもいい」
こんな簡単に言ってもいいのか、ともおもうがそれほどにレインはキリトに邪魔をされるのが嫌になっていた。
クラインというおまけがついてしまっているが、彼からもお節介焼きだというのはキリトとの会話を聞いていればなんとなく察しはつく。
たとえ、広まったとしても戯言だと流されて終わるだろう。
そんなわりと軽い感じにおもっているレインとは裏腹に、あのアルゴがどれだけ大金を払ったとしても教えないといっていた情報を本人から聞けるのかと、キリトは思わず息を呑んでいた。
「い、いいのか?」
「邪魔をしないならだ」
今度はキリトが考える番だった。
クラインはよく分かっていないので、呆けることしかできていない。
「お前の無茶を止めなくてもいい内容なら・・・・・」
話しても邪魔されるという可能性もあるのかとおもいつつも、邪魔されなくなるだろうと高をくくっているレインはまるで、今日はスーパーでみかんが安売りだというようにさらっと言ってしまった。
「俺は地球とは違う世界からきた異邦人だ」
「は?」
「は?」
二人の反応は当たり前の反応だろう。
とくに気にすることなくレインは話を続ける。
「俺はもともとミュールゲニア大陸というところから地球の日本に来てな。めんどくさいことはざっくり省くが強くなるために一時期は異邦人たちを集めている組織にいたんだ。現実世界では魔法も使えるから特に問題なくその組織を壊滅させることができたんだが、元の世界への帰り方がまだ見つけられてなくてな。うろうろしてたら知り合いに会って、流されるように仮想世界に放り込まれた」
沈黙が流れる。
まあ、嘘だとおもわれても構わないとおもっているレインはいつもの無表情でミルクを飲む。
「・・・・・・えっと、本名とか聞いても?」
ようやく口を開いたキリトが顔を引きつらせながら聞いてくる。
「レインだ。お前たちのように別に偽名を使ってこの世界に来てるわけじゃないしな。俺の世界じゃ平民は苗字みたいなものはないんだ。貴族にはあるがな」
「じゃ、じゃあレインはその世界でどんなことを?」
「どんな、と言われてもな。今と大して変わらない」
またしばらく沈黙が流れる。
今の説明じゃわかりにくかったのかと、また微妙に変なことをおもったレインは丁寧に話し始めた。
「旅をしてたんだ。俗に言う傭兵なんだが。そこでは魔獣とかもすんでいてな。もちろんそこにはシステムなんてものは無いからな」
「そういう問題じゃないから!」
「そういう問題じゃねぇから!」
ぴったりと息が合っている二人を見て、仲良しなんだなと、レインはまたずれたことを考えていた。
キリトにはレインは絶対死なないという安心感があり
レインにはキリトは強いという信頼があり
なんとなく、互いに気を許しちゃってるという勝手な解釈です。
【挿絵表示】
二人がおしゃべりしているところを描いてみました!
わりと兄弟に見えてもおかしくないんですよね・・・・
次の話はいざ最前線です!
まだ書いてる途中なので投稿まではかなり時間が空いてしまうとおもわれますが(汗)
戦闘シーンの描写難しすぎます・・・・・
早く朝露の少女書きたい←