…2回表…
この回は4番、尚之の打席から始まる。
流星(…この間に拓海さんの攻略を考えないと…)
と、俺がじっと拓海さんの投球を見ようとしたその時だ。
香澄「流星くんっ!」
流星「のあっ!」
…香澄が後ろから抱きついてきた。
流星「ばっ!香澄!お前今試合中だっての!」
香澄「えへへ…こうしていたいんだ〜」
流星「こうしていたいんじゃねぇよ!」
有咲「ばっ!香澄!流星の邪魔すんな!」
ちょうどトイレから帰ってきたであろう有咲が俺に抱きついている香澄を見るなり、すぐに引き剥がしにかかった。
流星「ちょっ…香澄!離れろ!首もげる!」
香澄「えぇー、離れたくないもん」
有咲「そうじゃねぇっつうの!とにかく離れろ!」
そんな茶番をたまたま見ていた1塁の望月さんは…
夜空(…うちがああいうのじゃなくて良かった…)
と安堵していたが、後に夜空さんも今の俺みたいになってしまうというのはまた別の話…
その後、りみと沙綾のおかげで香澄から離れた俺は、2回の大槻さんの投球を見た。
拓海さんはコントロールが良く、丁寧に投げ分けているため、1回の俺らみたいにうまく手の中に回されてる感じになってたが、スタミナがそこまでないため打ち続ければ攻略できないことはない。
ただ、そのスタミナが消耗する前に攻略するというのが一番思うところではあるんだけどね。
康介「…どうだ?流星」
流星「やっぱり、縦のスライダーが厄介ですね…持ち球のカットボールやカーブも少々手こずると思いますが、今のチームで攻略はできますね」
康介「そうか?」
流星「少なくとも、インコース低めに縦スライダーを決められたらおしまいです。逆に球が少々浮いた時に打てば大丈夫ですよ」
雄介「いつになく真剣じゃね?流星」
流星「まぁ…外野がうるさいから」
俺がふとベンチの奥を見ると…香澄がキラキラと目を輝かせて座っているのが見えた。
隣にはため息をついている有咲とそれをみて笑っている沙綾とりみとおたえの3人がいた。
雄介「なるほどな…」
雄介もそれを見てどこか納得していた。
試合の方は三者凡退と、拓海さんにペースを作られていた。
こちらとしても、やはりペースを掴むために一彦の本来の打たせて取るピッチングにしないといけない…そんな思いで、ポジションに入ったのだった…
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一方、静真高校のベンチ…
夜空「…守、ちょっといいか?」
守「ん?なんだ?」
夜空さんは守さんに今回の対戦相手である江戸川橋高校と戦ってどう感じたかを聞いた。
夜空「今回の江戸川橋高校…お前の目からしてどう?」
守「俺は…想像以上にいいチームだって思うぜ?特にあの秋山流星っていうキャッチャー。正直言って、捉えるの難しい拓海の縦スライダーに対応してきている。あの1打席の中で。対応力の高さに加えて、どうにか食らいついた球はボールを取られてもおかしくないくらいギリギリだったから、ミートの力もあるね。想像以上だよ」
夜空「たしかに、あいつの食らいつき方が半端ないし…」
守「それに、守備の場面でのあの守備陣への呼びかけ、それに応える内野陣。あいつは守備の要といっても過言ではないな」
夜空「なるほどなぁ…」
拓海「でも、うちにはうちの守備の要がいるからね〜」
夜空「うおっ!?拓海いつのまに!?」
夜空さんと守さんの会話の間に、拓海さんが入ってきた。
拓海「僕らのキャプテンだもん。1年生に負けるわけないよ」
守「ありがとな、拓海」
拓海「いいってもんよ〜。それじゃ、次もがんばろ〜」
拓海さんはそう言ってベンチの奥へと戻っていった。
夜空「…信頼されてますね。やっぱキャプテンですよ」
守「おいおい、こんなとこでそんなしょっぱいこと言うなって。俺らは練習試合でも勝つ。その気持ちで頑張らないと」
夜空「だな」
夜空さんは改めて、この試合で勝つことを心に決めたのだった…
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…この回は6番からの攻撃。
バッターは聡さん…この人に打たれるとはっきり言って怖い…
この人はムードメーカーであるため、一度打たれると打線の勢いが止まらなくなるのだ。そうなると、最悪の場合、一彦をたった1回で降板せざるを得なくなるのだ。
流星(この人は気をつけよう…まずは…強気でインコース)
俺はそうサインを出したが、これがまさかの展開になるとは思ってもみなかった…
一彦が投げた1球目…聡さんの腹に直撃してしまったのだ。
聡さんは脇腹を抱えながらも笑いながら出塁し、ノーアウト1塁になった。
流星(やべぇな…静真のメンバーに火が点いちまったぞ…どうすんよ…)
俺がそう言ったのは、次の7番、日向くん。
目から炎が出てるほど、今のデッドボールに怒りを表しているように見えた。
流星(…カズ…落ち着け…ちゃんとお前の投球見せろ)
俺はそう言ってミットを構えたが…
次も強気で攻めたインコースのスプリットが…捕らえられた。
カキーン!
コースは完璧にインコース低めの角に入っていた。
それを見事に運び…ホームランになった。
その瞬間、静真高校側の応援団がワーッと大歓声に包まれたのだ。
流星(マジかよ…これはヤバい…マジで…)
日向くんが戻ってきたと同時に、俺は審判にタイムを要求し、一彦の元へと向かった。
一彦「すまん、流星…動揺しちまった…」
流星「しゃあねぇこと…と言いてえけど、この様子じゃあっち側のペースになるのも時間の問題だしなぁ…」
一彦「…5イニングか?」
流星「お前のこの後の投球によりけり。場合によっちゃ、この回で降ろすことも考えておけ」
一彦「そうか…」
流星「…そこまで落ち込むな。たしかにこの回で降ろすとは言ったけど、それはお前があまりにも酷すぎた場合だ。そんなことないと思って俺も受けるつもりだから…俺のミットか須藤先輩たちのグローブに収まるような投球を見せろ。それがお前だろ」
一彦「…あぁ、そうだな。」
流星「まだまだ頑張れるんだ。やるぞ」
一彦「了解」
といいつつ、一彦は若干気を落としていた。不安で仕方ない…
続く8番、拓海さんにはピッチャーフライで1アウトを取ったが、9番、平林くんにはヒットを打たれ1アウト1塁。
そこから盗塁を決められ1アウト2塁。
1番、和希さんにセンター前に運ばれて静真高校、1点追加。
2番、涼真さんはレフトフライに打ち取った…と思ったら、まさかの島川先輩が落球。静真高校、1点追加。
3番、純さんにホームランを打たれ、静真高校、2点追加。
4番の守さん、5番の夜空さんはなんとか凡退にさせてここで攻守交替となった。
スコアは…5-0。江戸川橋高校、未だヒットなし。
流星(これは…不甲斐なさすぎる…)
俺は思わず頭を落とした。
ムードメーカーの1人、島川先輩が落球というエラーを起こしてしまったため、チームの空気は必然的に落ち込んでいた。
いつのまにか吹奏楽部の人達にも重い空気が充満していた。
流星(…どうすりゃいい…今回ばかりはきついぞ…)
俺はベンチを見ながらどうしようかと悩んだ。
試合はそのまま4回まで進み、静真高校はさらに6点も取って俺らを突き放した。一方の俺らは鳴かず飛ばず…拓海さんの完璧な投球術に完全に翻弄されていた。
いつのまにか、江戸川橋高校のベンチの上が静かで、静真高校のベンチの上がかなり騒がしい雰囲気になっていた。
流星(…このままじゃ…)
俺は手を顔に当て、本気で打開策を考えた時だった。
香澄「…みなさん!」
今ちょうど帰ってきた香澄がやってきた。その手には…ランダムスターが…
香澄「あの!…キラキラドキドキしてますか!?」
流星「…は?」
また来た…香澄語録…
有咲「ばっ!香澄、お前何ギター持って来てんの!?」
りみ「香澄ちゃん、ダメだよ!」
沙綾「香澄、今回ばかりは…」
と、有咲たちの制止があっても、香澄はいつになく真剣な表情で俺らを見ていた。
香澄「私は…野球なんてわからない!でも…キラキラドキドキしてない気がするんです…流星くんも…尚之くんも…みなさん全員が!私は…みんながキラキラドキドキしている姿が見たいんです!例え手が届かなくても…一歩ずつ前進していけば…キラキラドキドキするはずです!」
そんな香澄の言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
香澄「…流星くん?」
流星「…お前にしては…珍しいなって思っただけ。俺らに説教するなんてな」
香澄「え!?説教!?説教なんてしてないよ!?」
流星「俺にはそう感じたんだ。でも…ありがとう」
香澄「っ!…えへへ…」
流星「…俺らは必ず勝つ!今は大差つけられてるけど…1点、また1点取り返せば、俺らは必ず勝つ!だから…応援してくれ」
香澄「うん!約束だよ!」
そんなやりとりを見た尚之や雄介たちは、微笑みながら決意を固めていた。
康介「…やることは決まったな…お前ら!このまま言われっぱなしで黙っちゃいられねぇだろ!この5回、気を引き締めていくぞ!」
江戸川橋ナイン「はい!」
その様子を見ていた千歌さん達は…
千歌「…あの子、すごいなぁ…」
曜「…千歌ちゃん、また目つけた?」
千歌「そ、そうじゃないよ!」
梨子「それじゃ何?」
千歌「…ああやって、大切な人のそばで、励ませるなんていいなって…」
ダイヤ「大切な人のそばで励ませる…ですか」
果南「たしかに、私もいいなって思うな〜」
善子「くっくっくっ…堕天使ヨハネも魔術結界を再構成して真の姿に...」
花丸「善子ちゃん、素直にそういう人になりたいと言えばいいずら」
善子「善子じゃなくてヨハネ!」
ルビィ「でも、善子ちゃんの言ってること、わかるよ」
善子「だからヨハネ!」
花丸「わかったずら」
鞠莉「私達は、今ここで応援することしか出来ないけれど、それだけでも夜達の力になるんだから。元気よく応援しよ?」
千歌「うん!頑張れー!夜くーん!」
千歌さん達は、再度応援で力になろうと意を決した。
そして、5回表…4番、尚之の攻撃…
尚之(…香澄ちゃんにあんなこと言われたら…火がつかないわけねぇ!)
尚之はそう思いながら初球のカーブを…引っ張った。
カキーン!
これが、俺らの反撃の口火となったのだった…
後書きは4話目にて書きます
『デートチケット』編、見たい?
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見たい!
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別にいい